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四話


「リズリット、本当にごめんね。大丈夫? 何処が一番痛いの?」

「ローズマリーお姉様、大丈夫ですよ。私が支え切れず倒れてしまったのですし。お姉様こそ本当にお怪我はしていませんか……?」


 馬車に乗り込み、馬車が邸まで戻る為に動き出した後、ローズマリーはリズリットの隣に腰掛け必死にリズリットの怪我の具合や、濡れて汚れてしまっている髪の毛を自身のハンカチで一生懸命拭っている。


「それにしても、どうしてこんなに果実水が髪の毛にたっぷりと吸い込まれているのよ……っリズリットが風邪をひいてしまうわ!」

「ローズマリーの言う通りだな。リズ、秋口だから夜は寒いだろう。これでも羽織っていなさい」

「あっ、申し訳ございませんハウィンツお兄様……」


 リズリットが断るより早く、ハウィンツは自分のが着ていた上着を素早く脱ぐとそのままリズリットの肩に掛けて全面をボタンを止めてすっぽりと自分の服で覆ってやる。


「──ハウィンツお兄様っ、お兄様のお召し物が汚れてしまいますっ!」

「そんな事くらいで、リズリットに風邪を引かせてしまう方が俺は嫌だよ……。気にしなくていいから、そのまま温まっていなさい」


 ハウィンツの上着が汚れてしまう、と気にしたリズリットだったが、その心配もハウィンツに大丈夫だ、と言われてしまいリズリットは申し訳無い気持ちを抱え、俯く。


「リズリット……? リズ? 本当に気にしなくていいんだからな?」

「う……、はい……。ありがとうございます、お兄様」

「うんうん。俺はリズリットにお礼を言って貰える方が嬉しいからね」


 ハウィンツは微笑むと、リズリットの頭を優しく撫でる。

 リズリットの美しい濃いグレーの髪の毛がべたり、と果実水に汚されており、ハウィンツは悲しそうに瞳を細める。


(リズリットにこんな事をした人間を探し出さなきゃな……)


 ハウィンツは心にそう誓い、邸に到着するまでリズリットの頭を撫で続けた。






 リズリット達三人がマーブヒル伯爵邸に到着すると、三人を出迎えに来た邸の使用人達がリズリットの姿を見るなり驚きに瞳を見開き、ハウィンツに何があったのか、と視線を向けて来る。


「あー……。一先ず湯の準備を。リズリットを入れてくれ」

「か、畏まりました! さあ、参りましょうリズリットお嬢様!」


 悲鳴を上げ、リズリットになんて事を! と嘆きながらリズリットを連れて行く使用人達にハウィンツは軽く手を上げると、先程から物言いたげなローズマリーの視線を受けていたハウィンツはローズマリーに向き直り、「サロンに行こう」と声を掛けた。




 サロンに到着したハウィンツとローズマリーは使用人にお茶を用意して貰い、使用人が退室するのを待ってからハウィンツは唇を開いた。


「何があったか、だろう?」

「ええ、ええ! そうです……! 何故リズリットがあんな状態になっていたのですか? それに、何故"あの"ディオン・フィアーレン卿がリズリットを!?」


 顔色を悪くしたローズマリーがハウィンツへと詰め寄る。

 だが、ハウィンツも何故目立つのを嫌う男があの場に来たのかは分からない。

 わざわざ大勢の人間の目がある場所に姿を表し、リズリットを助けた。人に興味など持った事が無い、と言うような性格の男が何故、よりにもよって自分の妹を、とハウィンツは嫌な予感に頭を抱えたくなってしまう。


「俺にも、それは分からない……。リズリットが廊下の先にある休憩室に駆け込んだ姿を見たようで、気にしてはいたみたいだ。……俺の妹、だと知ったからあの時助けに来てくれたのか、それとも……」

「でも、ハウィンツお兄様の妹である私にはフィアーレン卿、一切目もくれませんでしたよ? リズリットしか見えていないようでしたわ」

「そう、だよなぁ……? 必要以上に令嬢の名前等覚える事が無かったディオンが、リズリットの名前を呼んだんだよ、末恐ろしい……」

「あの、氷の騎士と呼ばれている他人に興味を持たない方がですか……!?」


 ハウィンツの言葉に、ローズマリーは「嘘でしょう!?」と悲鳴を上げるようにソファの上で器用にも後ずさった。

 それ程に、他人に興味が無く、女性に見向きもしなかった男が寄りにもよって自分達の妹に興味を示し、手助けをした。


「──リズリットは周囲の悪意ある視線や感情に晒され続けていたのです……あの方の関心を引いてしまったら更に状況は悪化してしまいますよ、ハウィンツお兄様……」

「ああ。俺もリズリットには穏やかな生活が送れるような男性が居れば、と思っていたんだが……」

「そうはいきそうにありませんね……」


 ローズマリーはどうしましょう、と自分の顎に指先を添えるとうーん、と考え込む。

 リズリットには、穏やかな結婚生活を送って欲しい、とハウィンツとローズマリーは考えていた。

 今まで長年、悪意ある視線や感情に晒され続けていたのだ。信頼出来る男性と結婚し、幸せに暮らして欲しい、と考えていたのだが、その相手がディオン・フィアーレン程の人間になってしまうとリズリットへの視線は更に増えてしまう。

 心休まる時が無く、常に注目を浴び続けてしまうだろう。


 ディオン・フィアーレンの容姿や家柄が目立つ事は勿論、彼が契約を結んだ、祝福を受けた精霊がこの国で唯一の最上級精霊である事が一番目立つ所以となっている。

 最上級精霊一体であればまだしも、彼は何故か三体の最上級精霊から祝福を得てしまっており、彼一人で一つの国の軍事力を備えている程だ。

 その気になれば、彼一人で国を滅ぼす事が出来てしまう。

 そんな目立つ男に、リズリットは興味を持たれてしまったのか、とハウィンツとローズマリーはどうしたらいいのか、と頭を抱えたのであった。




 夜会があった数日後。


 リズリットの元には、怪我を心配する手紙と、お見舞いがディオンから贈られて来た。


「ハウィンツお兄様……」

「あー……。お礼の手紙を送ればいいんじゃないか?」


 困ったように眉を下げて見上げてくるリズリットに、ハウィンツは苦笑しながら何とかそれだけを言葉にして返す。


 手紙と、見舞い。

 それ、はいい。あの日、リズリットが怪我をした事をディオンは知っているし、リズリットを抱えて馬車まで運んだのはディオン本人だ。

 だから、気遣うような連絡が来るのは分かるのだが、見舞いの対応が少々行き過ぎている。


 幸い、リズリットの怪我は骨に異常は無く、重い捻挫程度だったので良かったのだが、見舞いの品では一般的な花束等では無く、公爵家お抱えの医師が派遣され、完治するまでしっかりとその医師に診てもらってくれ、と医師が派遣されてしまった。

 診察料も勿論ディオンの公爵家持ちで、リズリットは既に伯爵家がいつも世話になっている医師に診てもらった後だった為、始めはその医師に事情を話して帰ってもらおうとしたのだが、医師から診察を懇願されて応接室へと通したのだ。


 普通、医師に診察をしてくれ、と懇願するのは患者では無いのだろうか、とリズリットは混乱しながらその医師に診てもらっている間、先日自分を助け、馬車まで運んでくれたディオンの事を思い出す。

 先程、何やらディオンと面識があったようであるハウィンツに、ディオンの事を「お仕事を真面目にされるとても素晴らしい方なのですね」と感心しながら聞いてみたら即座にハウィンツから「そんな訳がない」と否定の声が返って来てしまい、リズリットは首を傾げた。


 あの日、恥ずかしい姿でディオンの横を通り過ぎ、挨拶さえままならず失礼な態度をしてしまったと言うのに、怪我をして蹲っている所をわざわざ手助けに来てくれた。

 酷い格好をして、迷惑を掛けたと言うのにその事を何一つ気にした風でも無く、逆にこうして気遣ってくれる。

 今まで、身内以外にそのように自分を気にしてくれる人が居なかったリズリットはディオンの事を凄く出来た人だ、と感じたのだが兄であるハウィンツはそうは思っていないらしい。


(お兄様とは、仲が宜しいからもっと対等な関係なのかしら……?)


 ハウィンツが助言をしてくれた通り、お見舞のお礼に手紙を書こう、とリズリットは決めたのだった。






 数日後。

 足の怪我も大分良くなり、邸内を一人で歩けるようになった頃。

 リズリットは、ディオンのお見舞に対してお礼の手紙に何か贈り物を添えよう、と考え付く。


「男性への贈り物には、何がいいかしら……?」


 騎士団の団長だ、と聞いている。

 それならば貴族男性が身に付ける煌びやかな装飾品では無く、何か実用的な物の方が喜ばれるだろうか、とリズリットは考える。


「──そうだわ、街に出て男性用の装飾品を扱っている場所に行ってみようかしら」


 いい事を思い付いた、とばかりにリズリットは表情を明るくすると早速明日にでも街へ行く為に出掛ける準備に取り掛かった。


「移動は馬車だし、皆にも止められないわよね」




 翌日。

 リズリットは、昨日考えた通り、街に買い物に行く事にした。

 「出涸らし令嬢」と蔑まれる事になってしまう目立つグレーの髪色はつば広の帽子で隠し、表情が分かりにくいように顔の上部を帽子に縫い付けられたレースで隠す。

 日傘もプラスすれば、じっくりとリズリットを観察されない限り「マーブヒルの出涸らし令嬢」だとは分からない筈だ、とリズリットは自信満々に考える。


 用意してもらった馬車も家紋は付いていない馬車であり、「普通の貴族令嬢が買い物に来た」と言う風を装える。


「……だって、ひそひそと自分の噂話をされていたら集中してお礼の品を選べないものね……」

「お嬢様……、本当にお兄様とご一緒には行かれないのですか?」


 リズリットの日傘を持って、後を着いてくるリズリットに幼少から仕えてくれている侍女のメアリーが心配そうにそう話し掛けて来る。


「ええ、大丈夫よ。街中でお店を何件か巡って品物を買うだけだもの。直ぐ邸に戻って来るし、問題ないわ」


 にっこり、と笑顔を浮かべて答えるリズリットに、メアリーは未だに不安そうな表情を浮かべているが、リズリットが大丈夫だ、と言うのであれば強く止める事も出来ない。

 先を歩くリズリットを、メアリーは慌てて追った。



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