表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/38

二十二話

◇◆◇


 ──場所は変わって、王都の王城にあるとある一室。

 その一室で、ディオンとこの国の国王陛下は顔を突き合せていた。


 ディオンがハウィンツと別れた後、銀狼の精霊を呼び出して向かった先はこの王城で、銀狼に乗って駆けて来るディオンの形相に、城の門番達は何事だ、と騒ぎつつディオンを中に入れる為門を開いた。

 そうしてディオンは物凄い速度で国王陛下が居る場所にまでやって来ると、言葉の通り国王陛下の仕事部屋である執務室の扉を破壊して転がり込んだ。


 物凄い爆発音が鳴り響き、執務室の中は一瞬緊張が走ったが、扉を破壊して転がり込んで来たのがディオンだと言う事を知り、中の人物達は今度は違う意味で緊張に包まれた。


 あの、いつも冷静沈着で感情を顕にせず、礼儀正しいディオンがこのような暴挙に出るとは、と国王を含むその部屋に居た人間達は大慌てで緊急会議の準備を始めようとした。


 だが、飛び込んで来たディオンが発した言葉により、執務室に居た政務官や政務官補佐達は退出を命じられ、執務室に残ったのは国王陛下と、この国の宰相、近衛騎士団の団長だけが残された。




 他の者達が皆退出したのを見届けると、国王であるウィリアムは緊張を孕んだ重たい声音でディオンに向かって話し掛けた。


「──ディオン……血相を変えてやってきたと言う事は……北方の砦が破られた、と言う事か……?」

「何と……!」

「やはり、そうでしょう……」


 国王ウィリアムの険しい表情に、宰相と近衛騎士団長は同意するように難しい顔をする。


 ディオンが何かを話す前に、ウィリアムは執務机から立ち上がると、近衛騎士団長に「北方の地図を……!」と声を掛けて大テーブルの前へと移動して来る。


「北方に行ってもらっていたディオンの精霊──白麗から報せが入ったのだな? 破られたのはどの砦だ……? 一番外側か、それとも複数……? まさか、街への侵入を防ぐ防衛の要である砦では無かろうな……!?」


 くわっ、と瞳を見開きどう対応をしようか、とウィリアムを始め眉を寄せて考え始める宰相と近衛騎士団長にディオンは躊躇いがちに声を掛けた。


「……陛下、申し訳ございません……白麗からは何も連絡が入っておりません……」

「──はぁ!?」


 ディオンの言葉に驚きに目を見開いたウィリアムが語気を荒くして叫ぶ。


 ディオンは若干たじろぎながら、突然扉をぶち破って姿を表した事を今更ながら謝罪する。


「も、申し訳ございません。急がねば、と思い先触れも出さずにこちらに参った事はお詫び致します」

「──いや、そうか……謝罪は大丈夫だ。ディオンには緊急時の訪問を許しておる……。白麗では無いと言う事は……その他の件で何か良く無い事が起きたのだな……?」


 ウィリアムは一旦落ち着くように深呼吸をすると、前髪をかき上げてディオンに視線を向けた。

 北方の砦は破られてはいないが、ディオンが緊急の訪問をする程の何かが起きたと言う事は分かる。

 むしろ、戦争以外の不測の事態が起きたと言う事の方が国としては問題だ。


 ディオンはウィリアムの言葉に重々しく頷くと、ゆっくりと唇を開いた。


「──はい。人間と、精霊の契約について……。このままでは精霊との契約が消滅する恐れがございますので、急ぎ国王陛下にお伝えしたく参りました……」

「──っ!」


 ディオンの言葉に、ウィリアムとその側に居るこの国の宰相は青い顔をして、近衛騎士団長は驚愕に瞳を見開いた。


 その三者三様の様子を見て、ディオンはやはりこの国の王族と重鎮は精霊と人間の契約について深く知識を得ている事を確信する。


(近衛騎士団長は、……知らなかったようだな……。俺も知らなかった事実だ……。公爵家の当主ならば知っている可能性もあるが、俺は公爵家の嫡男では無い……精霊と人間の契約については国の重要機密だろう……次男以降には知らされていなくても当然か)


 ディオンの言葉にウィリアムと宰相は真っ青な表情のまま、「仔細を説明してくれ」とディオンに説明を求めた。






 ディオンが精霊から聞いた話、精霊からその話しを聞く事になった切っ掛け、ロードチェンス子爵家の令嬢の説明を全て終えると、ウィリアムを始め宰相と近衛騎士団長が額に手をやり項垂れる。


 ウィリアムは、俯きながら弱々しい声音で呟いた。


「──何と、愚かな事を……」

「はい。陛下の仰る通りです。精霊の力を悪用してリズリット・マーブヒル嬢を襲うなど、あってはいけない事です」

「マーブヒル……、マーブヒル……。──ああ! あの出涸ら……っ」


 ディオンの説明の中に出てきた名前の令嬢の顔が浮かんで来なかったのだろう、近衛騎士団長は考え込むように呟くと、思い出したかのようにリズリットに付けられた悪意ある渾名を口に出そうとして、ディオンから殺気の籠った視線を向けられ、ヒュッと息を飲んだ。


 あまりにも愚かな行いに、宰相は溜息を吐き出すと近衛騎士団長に苦言を呈すように声を掛ける。


「──女性に対して、そのような悪しき渾名を付けるなど、この国の品位が損なわれますね。そして、騎士団長ともあろう方が陛下の御前でそのような下品な言葉で女性を貶めるような言葉を吐かぬように……」

「たっ、大変失礼致しました……っ」


 部屋の全員から冷たい目を向けられて、近衛騎士団長は自分の発言をいたく反省し、縮こまった。


 近衛騎士団長が縮こまり口を噤んでいる間に、ディオンとウィリアム、宰相はさくさくとこの一件について話を進めて行く。


「──リズリット・マーブヒル嬢を狙い、精霊の力を悪用して攻撃魔法を放ったのは間違い無くロードチェンス子爵家の令嬢なのだな?」

「はい。鶺鴒に追わせて確認済ですので間違いございません」

「ふむ……。鶺鴒の精霊は今は何処に? 当人からも確認を取っても良いか?」


 ウィリアムの言葉に、ディオンは気まずそうに視線を泳がすと言葉に詰まる。

 ウィリアムとディオンの会話を記録する為に下を向いていた宰相が不思議そうに顔を上げてディオンを見詰めると、ディオンは観念したようにそっぽを向きながら唇を開いた。


「その……、鶺鴒は今……リズリット嬢の護衛に付けています……。鶺鴒や銀狼は単体でも戦闘能力がありますから……」


 ディオンが話した内容に、宰相はぎょっと瞳を見開き、ウィリアムはどこか面白い物を見た、と言うように瞳を輝かせた。

 ウィリアムが向かいのソファからぐいっ、と身を乗り出してディオンに近付くと弾む声音でディオンに話し掛ける。


「鶺鴒の精霊を、護衛に……!? 最上級精霊の戦闘力は一体だけで国の軍事力の四分の一程を有するんだぞ……!? それを、リズリット・マーブヒル嬢の護衛の為だけに置いて来たのか!? ディオンが!? 白麗ですら北の砦に配置するのを渋ったディオンが!?」


 ウィリアムは興奮したようにバンバン、と目の前のローテーブルを叩くと面白い玩具を得た、とばかりに表情を輝かせる。


「ちょ、ちょっと、陛下……! お気持ちは分かりますが今は落ち着かれて下さい……! フィアーレン卿で遊ぶのは後ほどに……!」


 宰相の言葉に、ディオンは人で遊ぶとは何事か、と些かむっとした表情を浮かべるが、ディオンがそのような表情を浮かべる事すら珍しく、ウィリアムは楽しそうに、厭らしく瞳を細めるとにんまりと口元を歪めて唇を開いた。


「──そうだな、うん……。その内、リズリット・マーブヒル嬢には会うとして……問題はロードチェンスの令嬢だな……。令嬢だけが悪事に手を染めているのか、それとも子爵家そのものが悪事に手を染めているのか、だな……」

「それを調べるには些か証拠が弱いですからね……。今の所はディオン・フィアーレン卿が契約を結んだ精霊の証言のみ。精霊に関する重大事件なので、精霊の証言のみで裁く事は可能ですが、これでは令嬢のみしか裁く事は出来ません。令嬢が違法薬物を使用しているか、否か……そこを確認するしか無いでしょう」


 宰相の言葉に一同は頷く。


 リリーナ・ロードチェンスを裁くのは至極簡単だ。

 鶺鴒がしっかりと後を追い、リズリットに攻撃した後に逃げ出した所を確認し、リリーナが契約している精霊の力を利用してリズリットに攻撃をした、と言う証拠がある。

 精霊同士にしか分かりえない感覚らしいが、鶺鴒の精霊は最上級精霊で、人を謀る事などしはしない。

 そして、最上級精霊の言葉を疑う者など、この国に住まう人間には殆ど居ないだろう。


「──どうにか、ロードチェンス子爵邸を探れればいいのだが……」


 ウィリアムがうーん、と難しい表情で悩んでいるとディオンはふ、とある事を思い出して顔を上げた。


「──そう言えば……」

「ん? 何だ、良い方法が浮かんだか?」

「それとも何か思い出しましたかね」


 ディオンの言葉に反応して、ウィリアムと宰相が声を掛けると、ディオンはリズリットにロードチェンス子爵家で開催するお茶会の招待状が以前送られていた事を思い出した。


「そう言えば、以前リズリット嬢がロードチェンスの令嬢にお茶会へ参加しないか、と招待状を渡されておりました。その時はリズリット嬢も参加を断っておりましたが……」

「なる程……! 子爵家主催で行われるお茶会なら邸内を探る事も出来そうだな……?」

「ええ。……ですが、鶺鴒を探らせに行くとすると、リズリット嬢を護衛する精霊がいなくなってしまいますので……。銀狼は体が大きいのでこっそり守らせるには向きません……白麗でしたら姿を消せる魔法を使用出来るのですが……」


 ディオンはそこまで言葉を紡ぐと、ちらり、とウィリアムに視線を向ける。

 ディオンが言いたい事がヒシヒシと伝わって来てしまい、ウィリアムは引き攣った笑みを浮かべる。


 ディオンは、「北の砦から白麗を呼び戻してリズリットの護衛にやってもいいか」と言いたいのだろう。


「待て待て待て……待てよ、落ち着け……。白麗、北の砦から白麗が姿を消したら……相手は好機と考えないか……? あの存在感が砦で目を光らせているだけで相手には相当なプレッシャーを与えているんだ……その存在が一時でも姿を消してしまえば……」


 ウィリアムはぶつぶつと言葉を発し、冷戦状態の国との防衛拠点である北の砦での白麗の重要性を考える。


「ですが、陛下……。白麗も先日"たまには休みが欲しい"とぼやいておりました。……契約主である私とゆっくりする時間が欲しい、と言っていたので一度白麗を戻しても良いのでは……?」

「──ぐぅっ」


 精霊からぼやきが出ているのであれば、それを無視する事は出来ない。

 白麗は、比較的戦闘を好む種ではあるが、それでも長い事ディオンと共に過ごす時間が無い事に不貞腐れているのだろう。


 最上級精霊のご機嫌を損なわしては大変な事になる、と言う事をウィリアムは自分の精霊でもって重々承知だ。


「──分かった、分かった……。白麗には十日、十日だけではあるが休んで貰おう……! その間は私の妃の精霊を北の砦に向かわせるので、必ず十日後には戻ってくれるように説得してくれよ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ