奇妙な放送事故
こちらは百物語七十六話&夏のホラー2022の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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とある地方局でラジオDJをやっている者です。
うちでは昔ちょっと奇妙な放送事故がありましてねぇ…
うちのラジオは結構人気があって、有名なアーティストや役者さんが宣伝に来てくれる時もあったんですよ。
その日、うちのラジオには映画の宣伝をするために監督と役者さんがゲスト出演していました。ジャンルはホラー映画で「実在」する猟奇殺人事件をモデルにした映画でした。
「私も試写会で見させてもらいましたよ。怖い映画でしたねぇ~」
番組内では私なりに色々感想を言ったりしていたのですが、このゲストに来ていた監督がなかなかの変人でしてねぇ。
「惨殺された女は人間の屑だ。死んで当然だった」
「殺した男は〇〇をすれば逮捕されなかった。俺ならもっとちゃんとするね」
…なんてことを放送中に言う奴で、とんでもない監督でした。今の時代だと炎上レベルでは済まされないかもしれません。
「今日はゲストのFさんが映画の名シーンを生で演技してくれるそうです!Fさんは殺人犯に殺されるA子として出演しているんですよね?」
今回の放送の目玉企画は、ゲストの役者さんが放送中に生演技を披露してくれるというものでした。
「はい、殺人鬼に追われているシーンをここでやってみたいと思います」
まだまだ若手の役者さんでしたが、これがなかなか良い演技をするんですよ。
「はぁはぁ…ひ、ひぃ!来ないで…お願いだから…どうして私を…お、お願いよっ!お願いだから助け…きゃあああああああああっ!?」
披露してくれた演技は、映画の冒頭で殺人鬼に殺されてしまうA子のシーン。生で見ていましたけど、すごい演技でした。
「ありがとうございました!それでは、今回の放送はこのへんで…」
放送が終わると、2人はそそくさとスタジオを後にしました。次の予定が入っていたのでしょう。私も疲れていたので、その日は収録を終えるとすぐに家へ帰りました。
問題が起きたのは、次の日のことです。
「えっ?昨日の放送で…苦情が来てる…?」
いつものようにスタジオ入りをした私の元へスタッフたちが慌てた様子で報告に来ました。
話を聞いてみたところ、昨日の放送が終了した後、ラジオ局へ苦情の電話が殺到したという。その内容が…
(演技が怖すぎる)
(ホラー映画でもやりすぎだ)
(トラウマになった)
そんな感じの苦情が200近く。どうやら昨日の放送でやった生演技が凄すぎて怖がる人が続出したらしい。
「へぇ。でも役者さんにとっては良い評価じゃないの?ここまで反響があったのなら、教えてあげた方が喜ぶかも…」
苦情が来るくらい演技が怖かったのでしょう。役者としてはすごい評価です。すぐに伝えてあげなさいとスタッフへ言ったのですが、スタッフたちの顔は真っ青になっていました。
「あの…その…とにかく昨日の放送を聴いてみてくれませんか?」
スタッフたちに誘われてスタジオの椅子へ座ると、昨日のラジオを収録したテープをスタッフたちがスタジオ内で流し始めました。
(今日はゲストのFさんが映画の名シーンを生で演技してくれるそうです!Fさんは殺人犯に殺されるA子として出演しているんですよね?)
生演技が始まる前のところだ。特に変わったところはない。
(はい、殺人鬼に追われているシーンをここでやってみたいと思います)
ここも特に変わったところはない。しかし…
「ここからです。ここからが『問題』なんです」
スタッフの1人がそう言った。そして、その「問題」を理解した瞬間、私は愕然とした。
(ぎぃやぁあああああああああああああああっ!!痛い痛い熱い苦しぃいいいいいいいいっ!!殺さないで殺さない…がぁああああああああああああああああああああああっっ!!!)
それは「断末魔」でした。
「ええっ?こんな演技だったっけ?確かもっと普通に…な、なんだこれぇ!?」
番組内で披露してくれた生演技とは別物でした。
「これが昨日放送されたものです…」
スタッフたちは暗い顔でそう言いました。
これは後で聞かされたことですが、映画のモデルになった猟奇殺人事件の被害者は生きたまま全身に火をつけられて「焼死」したそうです。
映画では胸にナイフを刺されたことで死んだということに変更されていましたが…
結局、この時の放送テープはスタジオの倉庫へ封印。
放送記録も消されて完全にお蔵入りになってしまいました。
ちなみに映画は大成功。
生演技を見せてくれた役者さんはしばらく売れっ子になっていましたが、去年役者を引退されたそうです。
監督は次もヒット作を出しましたが、その後は映画を作ることなく引退。現在は消息不明。
一部では「本物の事故や事件をモデルにした映画を作りすぎた結果、被害者の霊たちに呪われてしまったのではないか」という噂があったそうです。
皆さんも「本物」の事件を扱う作品を作る時は、くれぐれも注意してくださいね…