5.約束
「それじゃあ、お兄さん。少し場所を移しましょうか、人が集まり過ぎちゃった、これじゃあ話辛いわよね……あら」
彼女がすっと視線をこちらに向けた。
「シルヴェスタ……!」
「やぁ、エミリア。覚えてくれてたんだ」
「もちろんよ、あの時は本当にありがとう……お友達?」
「オーランド・ブランシェ。君の話はシルヴェスタから聞いたよ。よく当たるし、美人だって」
「あら、がっかりさせちゃったかしら」
「とんでもない、話に聞いた通りだ。会えて嬉しいよ。良かったら、俺のことも占ってくれないかな、彼も一緒にいていい?」
「ええ、いいわよ。何か悩んでいることはある?」
「そうだな……恋人は出来る?」
「貴方、恋人いないの? こんなに素敵な男性なのにね」
「二回目のデートの前に振られるんだ、どうしたらいいかな?」
「そうね……」
エミリアは素早くオーランドの身なりを確認した。センスは満点だ。靴もしっかり磨かれている。デートプランを考えるのは得意そうだ。
さっきの会話を聞いていても、彼が気遣いの出来る人間だということが分かる。優しさが足りない訳でもないし、女性の話を大人しく聞いていられないようなタイプでもなさそうだ。
ーー原因は恐らく……。
「貴方、女性にもう少し自分の話をしているかしら」
シルヴェスタとオーランドがハッとしたように顔を見合わせた。恐らく当たりだった。
「聞き上手の男性は魅力的だけど、少しは貴方の話もしないと。どんな人間か分かってもらえないでしょう。お互いのことをもう少し話したらデートもきっと楽しいわ」
「……すごい、いつもウェスとシルヴェスタに言われていることと同じだ」
「貴方は優しくて穏やかな人だから、きっと素敵な方と出会うはずよ」
オーランドは頷きながら小さくくしゃみをした。
「……まだ少し肌寒いから、風邪を引きやすいわ。二人とも暖かくしてね」
そう言ってこの場を締めようとすると、またオーランドとシルヴェスタは顔を見合わせた。
「……ちょうど今風邪を引いているんだ」
オーランドは真剣な眼差しでエミリアを見つめている。
ーー今のは占いでもなんでもないんだけど……。
エミリアは居た堪れなくなり、オーランドの出したコイン二枚をそっと返した。
「お代はいいわ。今のは、その……占いとは言えないし、シルヴェスタのお友達でしょう?」
「それじゃあ君の仕事の邪魔をしただけだ……そうだ、良かったら三人で食事でもどうかな? ご馳走させてよ」
オーランドはそう言って、シルヴェスタに目配せをした。自分のことでないとなると、こんなにスマートに事を進められるのだから驚いてしまう。
「ええ、それは嬉しいわ」
エミリアは素直に嬉しそうに、パッと顔を輝かせた。
これが二人の運命的な恋の始まりだ、シルヴェスタはそう思っていた。友人に応援され、励まされ、明るくて朗らかな彼女はいつだって癒してくれる。
そう信じていた。