後日
「シルヴェスタのこと、聞いたか?」
深妙な表情でオーランドがウェスに訊ねた。
「ああ、あれほど言ったのに……」
二人は顔を見合わせて溜息を吐いた。アンジーとシルヴェスタが国外追放になったと知らされたのは、二人が国を出てから三日ほど経ってからだった。
「しばらくしたら会いに行ってみよう、居場所の見当はついてるから」
ウェスは心配顔のオーランドを励ますように言った。きっと落ち込んでいるに違いない。
二人には、シルヴェスタがアンジーの巻き添いを食ったことは分かっている。状況が良くなかったと聞いているが、きっと優しいシルヴェスタが上手く丸め込まれたに違いない。
外は相変わらずお祭り騒ぎで、ウェスは顔を顰めた。
「……まったく、グレンジャー公爵の結婚が決まったからなんだっていうんだよ」
そうは言っても、ウェスはなんだか穏やかな表情をしていた。彼も傷が癒えてきているのだろう。
グレンジャー公爵の夢のようなラブ・ストーリーは連日のように記事になっていた。正式に結婚の話が決まると、町の至るところがピンク色の花やリボンで飾られるようになった。
「町がお祝いムードになるのも楽しいじゃないか」
オーランドが呟くと、ウェスはハッとしたような表情で顔を上げた。
「お前がそういうことを言う時は、まさか……」
「ああ、実は恋人が出来たんだ」
オーランドは照れたように俯いた。どうやら新しい恋人は、同じ旅好きの年下のご令嬢らしい。
あれほど長続きしないと嘆いていたオーランドが、来月には二人で旅をするという約束をしている。
ウェスは興奮しながらオーランドの肩をバシバシと叩くと、店で一番高級な葡萄酒を出すように頼んだ。
まだ昼間だぞ、とオーランドが声を掛けると、めでたいことに昼も夜も関係ねぇ、と笑った。
驚くことに、いつもなら同じように酒を止める店主がご機嫌で葡萄酒を出してきた。これもグレンジャー公爵のお祝いムードの効果なのだろうか。
「……とうとう二人になっちゃうな、独り身同盟」
ウェスは窓の外を眺めながら、そう呟いた。行き交う人々はみな、幸せそうな顔をしている。それを見ていると、なんだか楽しいことが待っているような、そんな気持ちになってくる。
遠くで響いている鐘の音が、今日はやけに美しいと感じた。




