13.国外追放
シルヴェスタは誰かに話を聞いてもらいたかった。だが、こんなことウェスやオーランドには話せない。
向かった先はエミリアの所だった。ドアを叩いても返事が無い。また仕事だろうか。
もう一度、今度は強く叩くと、隣の部屋から目付きの悪い女性が覗いた。オレンジ色の髪を頭のてっぺんで一つに纏めている。彼女が一瞬目を細めたのを見て、文句を言われるかと身構えたが、彼女はすぐににっこりと笑顔を見せた。
「その子になんか用だったの?」
「ああ、そうなんだ。でも留守みたいだね」
出直すよ、とシルヴェスタが歩き出すと慌てて彼女は引き止めた。
「留守っていうかさ、もう出て行ったみたいだよ?」
「なんだって?」
「なんか……実家に帰れるようになったからって。丁寧に挨拶してくれたよ。やっぱりあの子、いいとこのお嬢さんだったんだね」
彼女は一人納得してように頷いていたが、シルヴェスタの耳には一切届いていなかった。
今すぐエミリアと話がしたかった。許して貰えるまで何度でも謝る。仲直りがしたい。大丈夫だよ、と励ましてほしい。
シルヴェスタは力なくその場を後にした。一歩一歩が鉛のように重い。
一体どこで間違えてしまったのだろうか。エミリアとの
楽しい日々が今は恋しくて仕方がない。彼女はいつだって、自分の力で努力して道を開こうとしていた。そんな彼女に惹かれていたのに、寂しいからと身勝手な理由で突き放してしまった。
彼女は確かに自分がいなくても平気だったのだ。でも、シルヴェスタには今度こそ彼女が必要だった。
ーー全てが今更だ。
目先の楽しさに心を奪われて、本当に大切なことを見失っていた。
屋敷に戻ると、大勢の人間が押し掛けていた。
ああ、早かったな。弁解の余地などない。父と母が真っ青な表情で立ち尽くしている。きっと、父は弁護士など雇ってはくれない。爵位は剥奪、万が一にでも国外追放を免れても、二度とこの屋敷に足を踏み入れることは許されない。
ーー国外追放を免れることはないだろう。
「シルヴェスタ・バーチ、お前を国外追放にする」
やっぱりな、とシルヴェスタは諦めたように笑った。目の前で王族の紋章をあしらったマントがさっと翻る。
「……今すぐに、か?」
ウェスやオーランドに別れの挨拶がしたかった。だが、衛兵たちはシルヴェスタの方を見向きもせずに歩き出す。
アンジーに裏切られ、ウェスやオーランドとも会えず、エミリアとの再会も果たせなかった。
シルヴェスタは一人取り残されたような、なんともいえない孤独感に押しつぶされそうになっていた。
月明かりもない夜、シルヴェスタ・バーチ、アンジー・フラメルは、それぞれ別の国へ追放されることになった。




