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サイアム臨時署

作者: コボリ マユ

 臨時に設けられた警察署に各署からはじか

れた警察官が集まってきた。

 バンコクを舞台とした荒唐無稽な女性刑事

物語


 敬愛するタイ王国の皆様のご多幸を祈りつ

つ。



主な登場人物 紹介

1.サイアム臨時署

 ・アイリス   女性刑事 巡査

         得意技ニーキック

          悪を許さない事に一途

 ・ハナ     女性刑事 巡査長

 得意技小手、脛、

延髄を責める

 ・プレム    生活安全課課長代理

 警察少佐

 亡き夫は殉職

 ・プラーバ   係長 巡査部長

 ・モンク    刑事 巡査

 ・ミアウ    巡査 女性警官

 ・ザラワン   署長代理


2.マッカサンにある総合病院

 ・ジュディ   耳鼻咽喉科医師 女医

 ・オムシン   内科医師 

 ・ロン     理事長兼院長

 ・ベル     ロン理事長兼院長の娘

 ・ミーナ    看護師

   海の生き物が好き

 ・ジャーディン 病院用務員(雑用係)

 ・ショウ    病院事務長


3.生活安全課女性刑事のたまり場、

  ”パラソーロータス Respect

  Kannon is(法華経を敬う

  観音様)”という長い名前の甘味喫茶

  通称ロータス

 ・カノムキキ  マダム


4.バンコク首都圏警察組織犯罪対策課

 ・バック    組織犯罪対策課長

 警察少佐

 ・ケー     班長 巡査部長

 ・プレーベーン 女性刑事 巡査長

わけあって組織犯罪対策

         課刑事になる


5.アンナメッド小学校と関係者

 ・ファイ    教員

 ・ジェイ    銀行員 ファイの友人



   サイアム臨時署


 バンコク都にて行政区割りの変更に伴い、

警察署の管轄区域の変更が実施される事とな

ったが、警察官僚の一部に安易に行政区画と

合わせる事に反対意見が強く、妥協の産物と

してバンコク都の中心部の一部区域にサイア

ム臨時署が設けられた。

 サイアム臨時署には各署からはじかれた者

が異動してきた。


   女医ジュディの憂鬱


 マッカサンにある総合病院の耳鼻咽喉科の

女医であるジュディは鬱屈を抱えていた。自

身も住む病院の寮に不審者が侵入し下着など

が盗まれる事があるようだ。今朝も一人看護

師が下着が盗まれていると騒いでいた。アイ

リス刑事(巡査)は風邪から急性副鼻腔炎を

患ったので、鼻を診てもらうために、ジュデ

ィの診察台に座った。

 ジュディ医師が言う。

「経過はいい方向ね。」

 アイリスが言う。

「はい。だいぶ良くなりました。」

 ジュディ医師が言う。

「あなた警察官よね。うちの病院の寮で下着

泥棒が出るんだけど。」

 アイリス刑事は鼻に薬剤を入れられながら。

話を聞いた。今朝被害にあった看護師の名前

を聞き、被害届を出してもらった。


 甘味喫茶ロータスにてサイアム臨時署生活

安全課プレム課長代理が言う。

「今割と暇だから、アイリスはそれに専念し

ていい。女子寮だから、ミアウも。」

 ミアウ巡査が言う。

「あたしもいよいよ刑事ですか。」

 マスターのカノムキキが言う。

「お手伝いよ。」

 アイリスとミアウは看護師に扮装して病院

と女子寮に潜入した。


 女医ジュディには婚約者がいた。同じ病院

の内科医のオムシンである。同じ医大を卒業

し医師免許を取るために努力した日々を共に

したという感覚がジュディにはあったし、オ

ムシンもそのように思っていると考えている

のだが、ジュディの憂鬱のもとはオムシンで

あった。婚約しているにも関わらず、結婚の

日取りを決められぬまま半年になる。あたし

に何か問題があるのだろうか、とか、もしか

したらオムシンは・・・ではないかとか考え

てしまう。ジュディの憂鬱は深かった。


 ミアウが言う。

「防犯カメラには、確かに不審者が映ってい

る。ただ、画質が悪くて。」

 カノムキキが言う。

「何か特徴的なものはない。動き方とか。持

ち物とか。体格とか。」

 アイリスが言う。

「左利き。かな。ドアを左手で。ただ、右手

にバッグのようなものをもっていた。」

 プレムが言う。

「ハナなら、それだ。と言うところだけれど

確定ではないなー。もう少し捜査しよう。」

 アイリスが言う。

「ハナは。最近見ないけど。」

 プレムが言う。

「ハナはいま別件で潜入捜査をしている。」


 総合病院でちょっとした騒動があった。女

子トイレでカメラが見つかった。盗撮のよう

だ。病院事務長からサイアム臨時署に通報が

入った。


 モンク刑事(巡査)とプラーバ係長(巡査

部長)が病院に来た。病院事務長やカメラの

発見者から事情を聞いて帰った。カメラには

映像が残っており、オムシンがカメラを設置

しているところが映っていた。生活安全課捜

査会議では。モンク刑事、プラーバ係長より、

オムシンに軽犯罪法違反(盗撮行為)により

逮捕状請求が提案された。平行して捜査して

いる下着窃盗事案、不法侵入、わいせつ事案

もオムシンではないかという見方が示された。

映像を全員で確認したときアイリス刑事が壁

の色の違いを指摘し、窃盗事案の方は左利き

の可能性がある旨主張した。プレム課長代理

は逮捕状請求はもう少し裏を取ってからと指

示があった。


 ロータスにてミアウが言う。

「あそこの女子トイレは一面淡いピンク色よ。

現場を見ていないのよ。」

 アイリスが言う。

「防犯カメラより、よほど画質がいい。」

 プレムが言う。

「ここが本当の捜査会議よ。なぜ、壁の色違

いのカラー映像の残っているカメラがそこに

あったの。なぜそこにオムシン医師が映って

いるの。盗撮騒ぎと下着泥棒とわいせつ事件

が同じ病院の敷地内で起きているのはなぜか

しら。」

 カノムキキが言う。

「病院内部の人ね。犯人は。」


 その頃、サイアム臨時署にジュディ医師が

来ていた。ハナ刑事(巡査長)が事情を聞い

た。トイレにカメラを忘れたのは自分である。

決して盗撮目的で置いたわけではない。カメ

ラを返してほしいという要求である。あのカ

メラは宅配便で送られてきた。トイレであの

オムシンが映っている映像を見た。なぜトイ

レで見たか説明のしようがない。オムシンが

映っているのを見て仰天してカメラを落とし

てトイレを出てしまった。冷静になってから

トイレに戻ったがすでにカメラはなかった。

 ハナ刑事が聞く。

「なぜそれほど驚いたのですか。」

 ジュディ医師が言う。

「オムシンは婚約者だから。」

 ハナ刑事が聞く。

「オムシン医師にはカメラの事、映像に映っ

ている事を話しましたか。」

 ジュディ医師が言う。

「まだ。お互いに忙しいから。」

 ハナ刑事は一通りの事情聴取をした。ジュ

ディ医師はカメラを受け取れずに引き上げた。

ハナ刑事からプレム課長代理にジュディ医師

の事情聴取の状況が報告された。


 ロータスにてプレムが言う。

「ジュディ医師とオムシン医師は婚約中。病

院の人間関係を徹底的に洗って。モンク君と

プラーバ係長にも病院に張り付いてもらう。」


 総合病院の理事長であり院長でもあるロン

医師は自分の娘とオムシン医師を結婚させ、

いずれ病院を任せようと考えていた。オムシ

ン医師にとっても悪い話ではないのだが、ジ

ュディ医師と学生時代から付き合いがあり、

すでに婚約していたので一度は断りをいれた。


 ロータスにてハナが言う。

「ロン院長の娘はトラブルメーカーで、これ

までも病院で様々問題を起こしたようだ。」

 プレムが言う。

「娘も医師なの。」

 ハナが言う。

「無職。ハワイの大学を出てから就職せずに

家にいるようだ。」



   看護師ミーナのお好み


 マッカサンにある総合病院のロビー兼会計

待合に割と大きな水槽があり、熱帯魚やエビ、

貝などが飼育され来院者の目を楽しませてい

た。看護師ミーナは海の生き物が好きで毎日

エサをやる当番を買って出ていた。看護師に

扮して病院に潜入しているアイリス刑事はあ

ることを見逃さなっかった。看護師ミーナは

ある魚に異様に愛着を持っているようなのだ。

輝くような青い体に一筋のイエロー。小さく

ても水槽の中を縦横無尽に泳いでいる。看護

師ミーナの目がその動きを追っている。

 アイリス刑事が言う。

「その魚は何ていうの。」

 看護師ミーナが言う。

「オムシン。」

 アイリス刑事は内心ぎょっとしたが、平静

を装い聞いた。

「ニックネーム?」

 看護師ミーナが言う。

「あなた、誰。」

 アイリス刑事は言う。

「最近、耳鼻科に入った。アイリス。よろし

くね。何か楽しそうなので。」

 会話はそれ以上続かず、看護師ミーナはエ

サやりに集中というかのめりこんでいた。


 内科待合でちょっとした騒動があった。看

護師ミーナが内科医オムシンともめた。

 看護師ミーナが言う。

「医者だからって、なによ!いい人ぶって、

■○×△Σ■○×△Σー!!。」

 オムシン医師は仰天するばかりで、対応の

しようもないようであった。それとなく、看

護師ミーナに張り付いていた、看護師に扮し

たアイリス刑事はミーナを別室に連れて行っ

た。アイリス刑事が言う。

「どうしたの。」

 看護師ミーナは泣いた。

「悔しいー。」

 その一言で、アイリス刑事はなんとなく察

したが、プレム課長代理に会わせる事にした。


 ロータスにて、プレムが言う。

「オムシンと何があったの。」

 ミーナが言う。

「その気にさせておいて、何もしてくれない。」

 プレムが言う。

「オムシンが誘ったの。」

 ミーナは首を振った。

「あの人が、オムシン医師があたしを誘いた

がっていると・・・。」

 プレムが言う。

「それは誰。」

 ミーナが言う。

「院長の娘さんのベルさん。」

 プレムが言う。

「あたしの持っている情報によれば、そのベ

ルさんは今まで、たびたび、誰々が、誰々を

好きだとか、付き合っているとか、病院の看

護師にささやいてトラブルを起こしている。」

 ミーナが言う。

「あたしが騙されてるって言うの。」

 プレムが言う。

「お茶でも飲みなさい。あたしも今、はっき

りと分かったわ、ベルにとっては病院の医者

や看護師、スタッフは皆、自分のシモベなの

よ、操り人形のように操って楽しみたいのよ。」

 ロータスのマスター、カノムキキが言う。

「世の中にはそういう人もいるのよ。」


 ジュディ医師は切れた。

「あんた、こんなところで何やってんのよ。

警察官ならちゃんと仕事しなさいよ。ナース

のカッコしてコスプレごっこやってんじゃな

いわよ。」

 病院中に響きそうな声であった。

 アイリス刑事が言う。

「ジュディ先生、ちょっとこっちへ。」

 アイリス刑事は、ジュディ医師を別室へ連

れて行った。そこには、オムシン医師がいた。

 ジュディ医師は言う。

「どういう事。」

 オムシン医師が言う。

「話し合いが、必要だ。」

 アイリス刑事は部屋を出た。


 翌朝のサイアム臨時署生活安全課捜査会議。

プレム課長代理が言う。

「盗撮、窃盗(下着泥棒)、わいせつ事案、

いずれにも院長の娘、ベルが絡んでいる。

実際の犯行は行っていないが、犯罪の指示、

教唆の線でいく。何でもいいから、とっかか

りとなるウラを取ってもらいたい。窃盗につ

いてはミアウ巡査により、実行犯は、ほぼ、

めどがついているようだが、泳がしておく、

ホシはベルだ。」

 プラーバ係長が言う。

「今一つ自分は飲み込めないのですが。院長

の娘のベルが病院の評判を落とすような事を

して何か得をするでしょうか。」

 プレム課長代理が言う。

「大事な意見だ。ベルという人間を知れば分

かる。」


 ロータスにてプレムが言う。

「犯罪を起こす心理の一つに愉快犯がある。

損得ではなく自分の愉快のために犯罪を犯す。」

 カノムキキが言う。

「被害者からすれば、たまったものではない

わね。」

 ミアウが言う。

「被害者だけじゃなく犯罪実行犯も、囁かれ

て、そそのかされて、操られてしまう。」

 ハナが言う。

「病院は操り人形劇の舞台で、思いどおりに

人形を操って、悦にいっている。自分の父親

である、理事長兼院長も操り人形の一つ。」

 アイリスが言う。

「恐ろしい世界だ。」


 病院用務員(雑用係)のジャーディンは、

病院内の地下に部屋を与えられ、寝起きして

いた。路上生活をしていた、学歴のないジャ

ーディンは病院事務長のショウに拾われて病

院の用務員(雑用係)となった。病院事務長

のショウはジャーディンを自分の使用人のよ

うに扱った。気分次第で怒鳴り、罵声を浴び

せ、医者から受けるストレスのはけ口、八つ

当たりの対象であり、踏みつけにしても構わ

ない”物”であった。そのような状況を知っ

た上で、ベルはジャーディンに優しく囁いた。

「あなたの事知ってるわ。お仕事頑張ってい

るのね。感謝してるわ。」

 ジャーディンはベルの操り人形となった。

誰々と誰々ができていて、噂になると困るの

で誰々には病院を辞めてもらいたい、早くや

めるようにならないか、下着がなくなったり

したら辞めるだろうか、などと、そそのかさ

れていた。ミアウ巡査はその辺の情報を掴ん

だが、プレム課長代理の判断はベルが囁いた

というジャーディンの証言を取ったとしても

ウラ取りとして弱い、お金をつかまされたら

証言を翻してしまう可能性があるというもの

だった。


 ベルは病院を経営する法人の理事となって

いた。一般の入口から社長出勤の時間帯に込

み合う会計待合を脇にみて事務長、その他を

従者のように従えて入口正面のエレベーター

に乗り、お気に入りの最上階12階にある院

長室とは別の理事長室に入るのが、日課では

なく、気が向いたらそのようにしていたが、

毎週木曜日は必ず病院に来ていた。オムシン

医師を見るためと思われた。理事長室には病

院施設の警備防災センターのようにすべての

防犯カメラの生映像が見られるようになって

いる。オムシン医師は木曜日は一日外来診療

担当であった。

 今日は木曜日である。ベルは一般の入口か

ら社長出勤の時間帯に込み合う会計待合を脇

にみて事務長、看護師長など数名の従者を従

えていた。ハナ刑事はベルに歩みより、逮捕

令状を示した。

「ベル。操り人形劇場は終わりよ。」


 ベルのオムシン医師に対する恋愛感情は本

物であったらしく、婚約者ジュディ医師への

感情も激しいものがあった。オムシンのカメ

ラをジャーディンを使って手に入れると、ジ

ュディ医師との仲睦まじい写真の数々に悪感

情を抱き一つひとつ消去する中で、トイレに

映っているオムシン医師をみつけた。見よう

によっては、盗撮のためカメラを設置してい

るようにも見える。ベルは嫌がらせのためジ

ュディ医師に宅配便でカメラを送りつけた。

発送されたコンビニの防犯カメラにベルの姿

が残っていた。操り人形を使えば済むものを

自分で発送してしまった。操り人形の人形使

いが姿を現してしまった。


 ロータスにて、ジュディが言う。

「ベルがそういう人で、あの病院がそのよう

な状態だったとは知らなかった。」

 あの病院にわいせつ事案で最初に捜査に入

ったハナが言う。

「オムシンとはどうするの。」

 ジュディが言う。

「どうもしない。大人だから。」

 カノムキキが言う。

「輝くようなコバルトブルーにイエローの筋

が入った王子様・・・。オムシンはベルに心

が揺れたの、あるいは、病院の後継者ってい

う地位に心が揺れたの。」

 ジュディが言う。

「地位の方には・・・、揺れたと思う。」

 プレムが言う。

「すっきりと心が晴れない話ね。」

 ハナが言う。

「あたしたち、オムシンも含めて、ベルにい

まだに心を操られていると思う。」

 アイリスが言う。

「操り人形。」



   アイリス刑事


 少女の叫び声が聞こえた。MBKセンター

(ショッピングモール)のトイレ方向からだ。

アイリス刑事は突撃した。外国人らしき男が

タイ人とみられる少女の手をつかみ連れ去ろ

うとしている。ショッピングモールの出口で

アイリス刑事はニーキック(膝蹴り)を食ら

わせた。ヒットした。男は体勢を崩したもの

の、少女の手を放さず、ポケットから小型ナ

イフを出して威嚇した。

「その子を放しなさい。悪に正義はない!」

 男がアイリス刑事を攻撃しようとした、そ

の瞬間。警棒でナイフがたたき落とされた。

クールな女性刑事ハナ巡査長だ。男の片足を

払い。後頭部を一撃した。倒れたところに先

輩のモンク刑事(巡査)、プラーバ係長(巡

査部長)が制圧した。アイリス刑事は少女を

保護した。

「アイリス。一人で突撃して、捜査はチーム

だ。とプレム課長にまた言われるよ。」

 ハナ刑事が突っ込みをいれた。

 悪を憎み、正義を愛するアイリスはサイア

ム臨時署生活安全課巡査だ。プレム課長代理

(警察少佐)のもと結束して管轄内の犯罪抑

止に努めている。アイリス刑事が言う《悪に

正義はない!》という言葉は最初、違和感が

あるが悪党の犯罪者ほど自分を正当化するこ

とへの警告である。ハナ刑事は小手・脛・延

髄を打って相手を制圧するのが得意技だ。

 この日は少女を狙う連続わいせつ犯の警戒

のためMBKセンター(ショッピングモール)

に展開していた。

 翌日の係内の捜査会議で、逮捕した男は観

光ビザで入国し期限が切れた不法滞在の中東

アスル出身のトーキ人でタイにも独特のコミ

ュニティがあり、コミュニティの中には犯罪

にかかわっている者がいる旨、情報連携され

た。プラーバ係長は。

「どうやら、わいせつ事件では収まらない気

配だ。周辺の聞き込みを続けてくれ。」


 ナムアオイ会計課副課長とパティ署長付庶

務担当は本日も時間を持て余しおしゃべりに

明け暮れていた。

 ナムアオイが言う。

「・・・はダイナマイト。」

 パティが言う。

「スッポンじゃないの。モンク刑事はどうな

の。」

 ナムアオイが言う。

「あれは、ボディーガードのアルバイト先の

奥さんとできているという話よ。」

 一方、サイアム臨時署講堂ではプレーオ警

察中尉が逮捕術の訓練を行っていた。

 

 サイアムスクエアからチュラローンコン大

薬学部へ向かう途中に”パラソーロータス 

Respect Kannon is(法華

経を敬う観音様)”という長い名前の甘味喫

茶があり、仲間うちではロータスと言われて

いる。その日のアフタヌーン。マダムのカノ

ムキキがティーを運んできた。プレムはイン

グリッシュブレックファーストをミルクで、

ハナはアールグレイのブラック、アイリスは

こだわりがなくその日の気分で、今日はコー

ヒーのアメリカン。カノムキキが言う。

「いつもの捜査会議なの。あたしも加えて。」

 ハナが言う。

「捜査会議じゃないよ。お茶会。」

 プレムが言う。

「ここが本当の捜査会議よ。」

 アイリスが言う。

「何か進展があったの。」

 ここでは、タメグチが許される。プレムが

本音を聞くために。プレムが髪をかき上げな

がら言う。プレムもここに来るときは制服で

はなく私服のスーツだ。

「本店の組対(バンコク首都圏警察本庁組織

犯罪対策課)が動いている。連れ去り、人身

売買など悪質な案件のようだ。」

 アイリスが言う。

「あの子も売られるところだったの。」

 カノムキキが言う。

「ひどい話。許せないわ。」

 ハナが言う。

「組対か、かなり大きなヤマだね。」

 プレムが言う。

「アイリス。行動は慎重に。」

 ここでアイリスが水晶玉がない事に気が付

いた。確か昨日までテーブルの飾りとして小

さい水晶玉が置いてあった。

「水晶玉は。」

カノムキキが言う。

「騙されたのよ。日本人の占い師に。偽物の

水晶だったの。二枚目なのに。」

 カノムキキはプレムの勧めで、詐欺事件と

して被害届を出す事になった。


 アンナメッド小学校職員室前の廊下でファ

イ先生とアイリス刑事が話している。相棒の

モンク刑事は職員室で校長と話をしている。

ファイ先生は先日連れ去り未遂被害にあった

児童の担任だ。アイリス刑事は気になってい

た。ファイ先生の対応があまりに事務的でこ

の事件にかかわることが心理的に負担になっ

ている事を感じた。アイリス刑事はあえて言

った。

「ファイ。あたしに何でも相談して。一人で

抱え込んではだめ。」

「あなたに何がわかるの。」

 ファイは行ってしまった。アイリス刑事は

通常の捜査以外の時間にファイに張り付く事

にした。

 数日後の夜、BTS(高架鉄道)スクンビ

ット線のモーチット駅からファイの後を追尾

した。チャトチャック公園を抜けたところで

ファイ先生が突然走りだした。アイリス刑事

は突撃した。とある曲がり角で突然前を塞が

れた。車が止まり女が立ちふさがった。アイ

リス刑事は身構えた。女が言う。

「邪魔をするな。お前の仕事ではない。」

 アイリス刑事が言う。

「あんた、誰。なぜ邪魔をする。」

 女が言う。

「所轄がでしゃばるな。組対の山だ。二度と

ファイに近ずくな。」

 女はプレーベーンと名のりを上げた。自信

に満ちて毅然としていた。アイリス刑事は思

わず敬礼していた。しかし、車に残っている

男の刑事はニヤついているのが気に入らなか

った。


 数日後、警戒中にも関わらずタイ人児童連

れ去り事件が発生した。バンコク首都圏警察

組織犯罪対策課とサイアム臨時署の合同捜査

隊が組織された。アンナメッド小学校教員フ

ァイは犯罪組織と何らかの接点があり組織犯

罪対策課が捜査中であったことが情報連携さ

れた。警察を批判する声もネットなどでは出

ていてプレム課長代理はじめ警察は苦しい立

場に立たされていた。

 ロータスにて。プレムが言う。

「ファイよ。この女が突破口になる。」

 カノムキキが言う。

「虫も殺さないような顔をして、何を知って

いるんだろう。」

 アイリスが言う。

「虫は殺す。ハナは虎も殺すでしょ。」

 ハナが言う。

「昔の話だ。」

 アイリスが言う。 

「ファイをどうすればいいの。組対のプレー

ベーン巡査長が張り付いている。」

 プレムが言う。

「あたしの手持ちの情報では、ファイは定期

的にある占い師のところに通っている。」

 ハナが言う。

「決まりだ。アイリスは占い師の正面から。

あたしは、斜め後から行く。」

 カノムキキが言う。

「あたしは。」


「あまり占いを受けたくない。」

とカノムキキが言う。

 アイリス刑事が言う。

「こないだ日本人の占い師に騙されたからで

しょ。」

 二人でワットポーから古い市街地に向かう

あたりの占い師のところに行くことにした。

そこは古い雑居ビルで6階建てなのだが、5

階以上は工事が途中で中止になってそのまま

古くなり廃墟のようになっているのだ。カノ

ムキキはビルを見上げたとたん用事を思い出

したと言って。帰ってしまった。相棒のモン

ク刑事は連絡を入れたのになぜか来ないのだ。

アイリス刑事は意を決して突撃することにし

たが、プレム課長代理にだけは連絡を入れた。

指示は、30分待て。ビル周辺を観察せよ。

アイリス刑事は直感も鋭いが、観察力がある

ことをプレム課長代理は知っている。アイリ

ス刑事が見たものは、廃墟になっている5階

に人影がある事だ。ますます怪しい。ここが

犯罪組織のアジトなのではと思ったその時、

バイクタクシーで、ファイ先生が現れた。3

階の占い師のところへ行くのだろうか、ファ

イはためらうこともなく。エントランスから

階段を上がって行った。すると、車が2台静

かにビル付近に停まり。プレーベーン巡査長

はじめ組対の刑事たちがエントランスで銃を

構えて静かに突入して行った。5階の人影は

それを見ていた。アイリス刑事の頭にある絵

が描かれた。組対に内通者がいる。今日の捜

索は見世物で、もぬけの殻かネズミが一匹出

てくれば良いところだ。合同捜査隊ができて

いるのに組対が単独で動くのも怪しい。プレ

ム課長代理にその旨を報告した。ハナ刑事か

らも同様の報告が来ているとの事。いつの間

にか5階の人影も消えていた。

 翌朝の合同捜査隊の捜査会議で、昨日緊急

通報があり、マークしていたファイ教員が接

触していた占い師を届け出のない銃を違法に

所持している容疑で逮捕した旨が情報連携さ

れた。発表した、組対側の班長の巡査部長は

誇らしげであった。アイリス刑事がファイ先

生の後を追うのを妨害された時に車の中でニ

ヤけていた男だった。


 ロータスにて。プレムが言う。

「このままでは、連れ去り事件は迷宮入りに

されてしまう。」

 カノムキキが言う。

「あたし、行かなくて良かった。あたしが連

れ去られてしまうところだった。」

 アイリスが言う。

「妄想よ。そんな危険な目に合わせていない。

あなたが行きたがったんだから。」

 ハナが言う。

「あのビルの裏側にもう一つビルがある。同

じように建築途中で工事が止まり、6階建て

のはずが3階までしかない。完全に廃墟にな

っている。あそこはつまり6階建てのツイン

ビルの計画だ。地下もある。捜索が入った正

面のビルは地下入口は埋めてしまったようだ

が、裏側のビルは長年放置されたままだ。工

事用の仮囲いはあるけれど。」

 プレムが言う。

「そこだ。モンク君とプラーバ係長に活躍し

てもらう。」

 モンク刑事とプラーバ係長はホームレスに

扮して廃墟ビルに潜入した。


 アイリス刑事たちは数日、工事用の仮囲い

に囲まれた裏側の廃墟ビルを監視した。早朝

と深夜に人の出入りがあることを確認した。

「イズマー姐さん。お願いがあるの。」

 アイリス刑事はイズマーに電話した。イズ

マーはタイ王国陸軍広報担当少佐。

「あそこはワットポー寺院が近いでしょ。観

光客や住民を巻き込みたくないの。あの廃墟

ビルだけを封鎖したいの。」

 イズマー少佐は了解した。広報担当は第1

歩兵師団配下のバンコク連隊長のオフィスに

行き、連隊長のデスクに腰を乗せ足を組み連

隊長の目をのぞき込み言った。

「将軍、1個小隊貸してほしいの。あくまで

も陸軍の広報活動として。」

 連隊長は咳払いをしてから言う。

「広報担当少佐。我が王国陸軍の広報活動だ

な。」

 イズマー少佐は言う。

「もちろん。」

 連隊長は言う。

「許可する。指揮は広報担当少佐が取れ。」

 イズマー少佐は敬礼した。

 

 その日、未明、タイ王国陸軍1個小隊(

2分隊)が廃墟ビル周囲を封鎖した。

 プレム課長以下、サイアム臨時署生活安全

課及び、その他部署の応援も得て、廃墟ビル

に突入する作戦だ。第一の目的は監禁されて

いると思われる連れ去られた児童の保護。第

二の目的は犯罪集団解明のため容疑者確保。

防弾ヘルメットに防弾チョッキ、拳銃グロッ

ク19のほかプレムとアイリスはショットガ

ン、ハナは短機関銃を装備した。プレム課長

代理は一瞬、胸に握りこぶしを作った。ある

人への思いのこもった握りこぶしを。ほんの

つかの間。

 プレム課長代理が言う。

「執行!」

 作戦は実行された。


 5人の児童が保護され、病院に搬送された。

容疑者数名が重軽傷を負った。発砲して抵抗

したので、応戦したからだ。7人の中東アス

ル系外国人を容疑者として確保した。

 サイアム臨時署にて。プレム課長代理が一

人つぶやく。

「悪は処理された。」


 アイリス刑事が言う。

「まだ、ファイ先生がどう関わったのか分か

っていない。犯罪集団も解明されていない。

組対の内通者も分からない。何も終わってい

ない。始まったばかりだ。」




   合同捜査隊は続く


 「合同捜査隊の事務方として着任しました。

ミアウです。よろしくお願いいたします。」

 ミアウ巡査は敬礼した。組織犯罪対策課長

はミアウを無視した。

 組対班長ケーはミアウに当たった。

「お前は何をしている。全員直ちに集めろ。

直ちにだ。捜査会議だ。」

 ミアウ巡査は訳が分からずにいた。

 プレーベーン巡査長が庇うように言う。

「まだ、合同捜査隊全隊員に連絡する手順が

できていません。」

 組対班長ケーは言う。

「口答えするな。」

 ミアウは部屋を出ていき、人がいない給湯

室できれた。


 合同捜査隊捜査会議は紛糾した。組対班長

ケーはサイアム臨時署生活安全課が単独で連

れ去り犯アジトを捜索した事を口汚く非難し

た。サイアム臨時署生活安全課プレム課長代

理は言う。

「これは、異なことを言われる。近隣住民か

らの通報で薬物中毒の疑いのある不審者が数

名あの廃墟ビルに居着いているのを内定しい

てある程度の確証を得たので令状を取って踏

み込んだまでの事。結果的に、連れ去られた

児童を保護でき、そこにいた容疑者を逮捕す

るにいたった・・・」

 組対側班長のケー巡査部長は言う。

「臨時の所轄が!!」

 プレム課長代理は言う。

「私は、警察少佐だぞ。巡査部長。」

 ザラワン署長代理が言う。

「お互いに、継続案件を片付けた。というこ

とで。(組対が先に単独で占い師の捜索に入

ったことを暗示し牽制した。)組織犯罪対策

課長。」

 組対課長バック警察少佐はイギリス紳士然

としたエリートである。バック組対課長が言

う。

「児童を保護したこと。容疑者を確保した点

は評価する。取り調べは組対が行う。」


 ロータスにて、アイリスが言う。

「トンビにあぶらげ、・・・」

 ハナが言う。

「さらわれた。」

 ミアウが言う。

「何なの、あのケーは。それに比べてバック

はいい男。」

 カノムキキが言う。

「あなた、敵に惚れたの。トンビにあぶらげ

でしょ、こっちの手柄を横取りされたんでし

ょ。」

 ミアウが言う。

「だってー。」

 ハナが言う。

「俺たちが取り調べをやるから、お前ら所轄

は外を回ってろ。」

 プレムが言う。

「これがチャンスよ、向うは取り調べに集中

する。こちらは容疑者の周辺から犯罪組織の

解明をしていくのよ。ミアウは給仕係の振り

をして組対側の情報を集めて。特に、プレー

ベーン、ケー、バックの人間関係。これがポ

イント。」

 アイリスが言う。

「この3人の誰かが内通者。」

 カノムキキが言う。

「ミアウ、ここに来るときは制服で来ないで。

あたしはこの制服がどうも鬱陶しい。」

 ミアウが言う。

「皆さんは刑事で外回り。あたしは内勤だも

のー。」


 ジェイはある銀行の女性行員で、ある男に

金を貢いでいた。自分の給料では賄えなくな

り、いつか、夜の街に出ていた。銀行の金に

手を出す寸前だった。ファイが弁護士を介し

てジェイの男と交渉していた。ファイはジェ

イの高校の級友だった。ジェイは病気と偽り、

仕事を長期に休み、ファイの紹介で、ある慈

善団体にかくまわれていた。その相談にのっ

ていたのが、例の占い師で、ファイの任意に

よる事情聴取で判明した。この占い師は表の

顔と裏の顔があり、ファイがこのまま通って

いると、いつか裏の顔にはめられて痛い目に

合うところだった。この占い師は裏の顔で今

回の連れ去り事件の容疑者と関りがあった。


 ロータスにて。ジェイが言う。

「ワルが好きなの。ダメな男が好きなの。」

 プレムが言う。

「女はみんな悪い男が好きよ。」

 アイリスが言う。

「オー、問題発言。」

 ハナが言う。

「ジェイは犯罪を犯したわけではない。あな

たの恋愛を誰も非難できない。」

 プレムが言う。

「銀行のお金に手を出していたら・・・、刑

務所に入ることが恋愛の成就なの。それって

恋なの、愛なの。」

 ジェイは泣いた。ジェイは初めて男と別れ

る決心をした。かくまわれていても心が揺れ

ていたのだ。結婚詐欺で捜査するための手続

きを進める事となった。ジェイは警察側で保

護する事となった。


 後日、ロータスにて。ファイが言う。

「人間の裏の顔まではわからない。」

 カノムキキが言う。

「人間の裏の顔まではわからない。」

 ハナが言う。

「人間の裏の顔まではわからない。」

 アイリスが言う。

「人間の裏の顔まではわからない。」

 プレムが言う。

「人間の裏の顔まではわからない。お茶でも

飲みましょう。」

 ミアウが言う。

「バックが。あのエリートで二枚目のあのバ

ックが怪しい。警察の本庁の課長ってそんな

にいい生活ができるの。奥さんはイギリスに

いて子供を名門の小学校に通わせている。高

級スーツに高級時計、高級車。絵に描いたよ

うなリッチな生活。」

 カノムキキが言う。

「奥さんの実家が金持ちとか。」

 アイリスが言う。

「自分の実家が金持ちとか。」

 プレムが言う。

「その辺を調べよう。」

 ロータスを見張っている車があった。組対

のプレーベーン巡査長が乗っていた。




   プレーベーン、肩の荷を下ろしていい



 捜査は新しい局面を迎えていた。逮捕した

中東アスル出身のトーキ人の何人かが口を割

った。彼らは子供、特に少女を連れ去り仲介

人に引き渡し金銭を得ていた。その仲介人が

誰なのか、彼らは答えられなっかった。組織

犯罪対策課の対応方針は明確で、連れ去り事

件として処理する。その先の人身売買の闇は

追わないというものだった。


 ロータスにて、プレムが言う。

「逮捕した7人を検事に送付して、事件捜査

は終わる。合同捜査隊も解散になる。」

 アイリスが言う。

「人身売買は。仲介人は。組対の内通者は。

何も終わっていない。」

 プレムが言う。

「署長にも、これ以上追うなという圧力がか

かっている。」

 ハナが言う。

「腐っている。頭から腐っている。」

 その時、ロータスに誰かが入ってきた。組

対のプレーベーン巡査長だ。

「洗面を貸してもらえないかしら。」

 カノムキキが言う。

「いらっしゃいませ。どうぞ。」

 プレーベーンがトイレに行っている間にカ

ノムキキが言う。

「潜入捜査かしら。」

 プレーベーンがプレム達のテーブルに来て

言う。

「お茶をごちそうになってもいいかしら。」

 プレムが言う。

「ここは、皆がお茶とおしゃべりを楽しむと

ころよ。」

 プレーベーンはお茶を待つ間、警察官とな

り組対の刑事になりたかった。今は言えない

が、そうしなければならない理由があると言

った。運ばれたお茶を一口飲み、そして。

「闇が深くて手に負えない。」

 皆、プレーベーンはそうだったのかと思っ

た。しかし、同時に、人身売買組織の捜査を

打ち切りにする、組対のプレーベーンの言葉

を真に受けていいものかと思った。

 アイリスは賭けに出た。

「一人で戦っていたの。プレーベーン・・・。

肩の荷を下ろしていい。ここでは皆、タメグ

チで本音を言う。」


プレーベーンは言う。

「占い師を逮捕して、時間稼ぎして、児童連

れ去りの実行犯に逃走を促すシナリオを描い

たのは、紛れもなく、バック(組対課長)だ。

現場の捜査状況を逐一把握していなければで

きない事だ。だが、推測でしかない。ケー(

組対班長)はバックの駒に過ぎない。今回、

人身売買組織への捜査を止めているのはもっ

と上のほうだ。」

「私はこれ以上話す事はできない。お茶をあ

りがとう。」

 プレーベーンは出て行った。


 児童連れ去り事件の合同捜査隊は解散した。

プレーベーン巡査長は海外研修の希望を出し

イギリスへ行った。


 事件は意外なところから展開をはじめた。

高級コンドミニアや高級ホテルが立ち並ぶラ

ンスアンでもめ事が発生し警察官が駆け付け

る事態となった。ある高級コンドミニアムの

一戸にある女が強引に押し入り、そこにいた

通いの家政婦に暴力を振るい怪我をさせた。

暴力を振るった女が組対巡査部長ケーの妻。

押し入った家が組対課長バックの家だった。

警官が家の中に入ると、一人の少女が出てき

た。

「Help Me.Help Me!!」


 サイアム臨時署で巡査部長ケーの妻の取り

調べと家政婦と少女の事情聴取が行われた。

ザラワン署長の指示で生活安全課プレム課長

代理が捜査指揮を取る事となった。

 組対巡査部長ケーの妻は夫であるケーとバ

ックの妻ができていると思い込み、バックの

家に乗り込み、通いの家政婦をバックの妻と

勘違いし、つかみかかった。家政婦は応戦し

たが、殴られ蹴られて打撲を負

った。

 常駐しているコンドミニアムの管理員が、

住人の後ろに付いてオートロックドアをすり

抜けていく女を不審に思いエレベーターの階

数を確認し後を追ったところ、バックの家か

ら異様な声が聞こえたので警察へ通報した。

警官の到着は遅く物事が収まったかのように

静かになっていたが。警官と共にバックの家

に乗り込んだところ負傷した家政婦が出てき

た。間違いに気がついておとなしくなったケ

ーの妻がいた。そして、金髪で青い目をした

少女が現れた。家政婦は少女を知らなかった。


 少女の事情聴取はハナ刑事とアイリス刑事

が担当した。少女はタイ語は話せず。片言の

英語とロシア語を話している。ロシア語の通

訳が必要だった。おそらくひと月ほど前にロ

シア国内で連れ去りに会い、いつの間にかタ

イにいた。詳細は省く。

 

 組織犯罪対策課課長バック警察少佐はバン

コク首都圏警察監察官聴取対象となった。つ

まりバックは警察の内部調査で身辺を調べ上

げられる事になった。


 ロータスにて。カノムキキが言う。

「ケーの奥さんに仕掛けたのは誰なの。これ

は、女のやり方だ。」

 プレムが遠くロンドンの景色を思い描いて

言う。

「誰かしらね。私は知らない。」

 アイリスが言う。

「結局、人身売買組織の捜査はできないの。」

 プレムが言う。

「私たちができるのはここまで。」

 アイリスはふくれっ面をした。

 ハナが言う。

「ふくれっ面・・・で終わるのさ、現実は。」



 サイアム臨時署廊下では、ハナ刑事が後ろ

手に手錠をかけた男を連行している。男が言

う。

「俺は、日本人だ。俺は正義だ。」

「うるさい!」

 ハナ刑事が一喝した。アイリス刑事を見る

と。

「カオサンで釣ったよ。オーバーステイだ。

カノムキキを騙した日本人の詐欺師だ。」

 アイリス刑事が言う。

「二枚目といえば二枚目かな。」

 アイリス刑事は何か閃くものがあり、アン

ナメッド小学校に向かった。

 アンナメッド小学校では、ファイ先生が算

数の授業が終わり、次の体育の授業の準備の

ため体育館に向かった。その男は体育館入口

の物陰に潜んでいる。男は、ファイ先生の首

を抑えこんで、ナイフをチラつかせた。

「ジェイはどこだ。お前が、ジェイを匿って

いるのは知っている。お前だ。ジェイの居場

所を言え。」

 その時、アイリス刑事が到着した。銃を構

えた。

「撃つぞ。その人を放せ。」

 男が自分の前にファイ先生を立たせようと

腕をいなした瞬間、ファイ先生は右肘で男の

アゴをヒットした。次は大きくジャンプして

脳天をヒット、そのままニーキックを食らわ

せた。

「この〇××〇ー。」

 ファイ先生はムエタイの使い手だった。ア

イリス刑事はファイ先生を引き離した。男は

体勢を立て直しナイフで威嚇した。ファイ先

生はアイリス刑事の銃を奪い、アイリス刑事

は故意に渡し、銃に左手を添えた。男はナイ

フを投げた。ファイ先生が撃った。ナイフは

アイリス刑事の耳をかすめた。首筋に一筋の

血が流れた。銃弾はそれた。アイリス刑事は

両手を添えて撃った。ファイ先生は叫んだ。

「ジェイの痛みを知れ。」

 男は右肩を撃ち抜かれた。

アイリス刑事は決めつけた。

「悪に正義はない。」

 アイリス刑事の行動を察したハナ刑事、サ

イアム臨時署生活安全課の刑事達が駆けつけ

た。


 この後、児童連れ去り事件捜査に関わった

サイアム臨時署の刑事は皆、異動となった。



別紙


著者紹介


・住所:静岡県在住

・氏名:コボリ マユ

・年齢:不詳

・職業:システムエンジニア

・Eメールアドレス:スマホ,kokokom0092@gmail.com

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