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無彩色の狩人 外伝  作者: 塩辛
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魔導エンジン

 今や先進国の生活には欠かせない存在となった魔導エンジン。今回の書籍はそれらが生まれてきた経緯や歴史を振り返るものである。


 魔導エンジンの利用方法は、小型であれば車や航空機などの乗り物、中型で船舶や飛空艇、大型であれば発電機や工業用となる。

 理論上(そもそも魔素の無い世界の技術なため)、発動機(エンジン)は魔素と切り離して利用できる。にも関わらず魔導機関、魔導原動機、魔導エンジンなどと呼称されることになったのは、魔素、魔法要素、魔術要素が多少なり内臓されているからである。

※もちろん、魔導を一切切り離したエンジンも存在する。これは魔素が無い環境下(主に宇宙空間)で利用をするためである。


 魔導エンジンの誕生をキッカケとして、人類史は新たな文明時代(産業革命時代)へと突入していく。

 以下、各種魔導エンジンの誕生と経緯。




蒸気機関スチームエンジン


 人類の歴史において、初めて実用化を伴って完成したエンジンは蒸気機関だった。steam locomotive(蒸気、機関)の名前の通り水蒸気をエネルギーとして利用したもので、ボイラーや安全弁やピストンやシリンダーなど、必要なものは我々の知る蒸気機関車と似ているが、熱源は炎魔法で石炭は使わないため黒煙が出ない。代わりに、炎属性の宝石、魔石、金と銀を使った魔導回路を大量に利用するため、機関部は宝の山と呼ばれるほど高価なものとなった。

 運用が開始された当初でも最高速度40kmをマークしたと記録されている。始動から加速も申し分なく、約90km離れた王都からタルヴェラを片道2時間45分で繋いだ。当時は馬車で平均11時間。モンスターの襲撃が日常だったことや、陽が沈むのが早い時期は3日かかって当たり前と言われた道のりである。モンスター遭遇率が減っていたのも相まっていたが、運搬量の大々増量、運搬量に対してかかる護衛費用や移動費用の削減、なによりも大幅な時間短縮は食料の鮮度を十分に保ってくれた。

 もちろん蒸気機関車には問題点も多数あったが、ノースマン王国の誰しもが「高速大量輸送の時代が到来した」と感じた瞬間だった。




▼蒸気タービン


 エンジンの活躍は移動手段や輸送だけではない。次点で作られたのは、数世紀時代を先取りしたと言われる蒸気タービンエンジンである。

 衝動タービンにはノズルにより風速を高める工夫までこらされた。さらに管路をラッパ状に開いたところに反動タービンも取り付けられる。反動タービンは回転羽根と固定羽根を交互にしてあり、これらを組み合わせることで水蒸気から高出力のエネルギーを取り出すことを成功させた。

 検索参考:1-1.蒸気タービンの原理(電力機器の原理)

 残念なことに当時の技術力では工作精度や密封性が低く、理論上の効率から大分離れていたものの、船舶と工業を発達させるには十分であった。これがなければ、大量生産の歴史はさらに遅れていたのは間違いない。

 また、水とそれを沸騰させるだけの熱源さえあれば動かせたことや、その後も実用に耐えうる試作品が大量に生み出されたこと、際立っていたのは構造の単純さとメンテナンス頻度の低さだった。各町村で試験利用され、汲み上げ用ポンプの発明も同時期にあったため、農作が主流のノースマンでは灌漑(かんがい)や水利に利用しやすかったこと等が重なり、蒸気タービンエンジンとそれに関連する機械はさらに研究開発が進んだ。

 蒸気タービンエンジンを乗せた機関車には、トランスミッション、トルクコンバータ、クラッチ、低速時・発進時の弱点を補う特殊な機構も研究開発されていたが、当時は実用には至っていない。

 最終的には超大型化させた発電機が活躍し、国中に電力を供給し続けている。




▼電動機

 初期の蒸気タービンの完成する頃、モーターの開発も始まっていた。ただ残念なことに銅の不足と磁石の研究が進んでいなかったことも相まって開発は遅れてしまった。

 のちにボルタ電池やダニエル電池も誕生するが相変わらず銅が不足しており、電気の利用をするための家庭用モーターや、(光魔法や炎魔法のある世界では)電気そのものの利用先が少なかったため、これが普及するのはさらに先のこととなった。

 にも関わらず、蒸気タービンから電気エネルギーに変換するための大型発電装置やモーターの理論研究は続けられていた。




▼化石燃料探しの旅


 蒸気タービンエンジンに関しては、その後も改良や精度向上のための研究開発が進められた。

 しかし、蒸気機関車に対してはノースマン王国は積極的ではなかった。蒸気タービンエンジンの効率やパワーは軒並み上がっていくにも関わらずである。なのに鉄道路線は増設を続け、道路整備も拡げられていた。

 その理由は、彼らは更に次の世代の内燃機関・インフラ設計を見ていたからだ。ただし次世代エンジンを動かすには化石燃料が必要で、石油を探すための探索チームがいくつも世界の海へと旅立ったのだった。




▼スターリングエンジン


 蒸気タービンが順調に進化を続ける中、森の民ウィートが考えていたものとは全く異なるエンジンが登場した。これがなんと外燃機関だったことにも驚かされる。(彼の前世に存在していたのだが、未来を知っているウィートも完璧ではない。)その誕生には彼は大いに喜び、同時に性能を見てガッカリした。

 名前はスターリングエンジン。シリンダー内のガスを外部から加熱・冷却し、体積の変化により仕事を得るもの。カルノーサイクル理論を実現した熱効率の高いものと言われるが実際には大した出力が得られず、なにより出力応答性(コントロール)が著しく悪いうえに重量も工作精度も必要なため、移動機関には向かないものであった。

 とはいえ、魔法を使えばシリンダー内を直接温められることや冷却魔道具(氷竜の鱗、氷属性の宝石)を利用すれば高い温度差=高い出力を生じさせやすい(根本的な出力値はそれでも低かった。)など、利便性を上げることは比較的容易だった。

 小型化してからは自転車に取り付けられるようになり、魔力を送ればそれなりのエネルギーが得られた。漕ぎ始めは自分の足を使い、スピードに乗ったら魔石を利用して巡航させるのには役立っていた。自らの魔力・魔術でも動力を得ることができたため、最初に一般普及した魔導エンジンはこれである。

 最終的に、カルノーサイクルを反対回りに利用することで超冷却できることが発見されると、スターリングエンジンを使った超冷凍研究は盛んになった。




▼魔導モーター


 ガソリンエンジンが登場するより一歩早く、実用レベルで稼働できるモーターが完成した。裏で続けられていた電動機の理論研究が花開いた瞬間でもある。

 トルクも出力も優れており、コントロールも自在、そのうえ構造も単純で小型化も容易、ついでに静かだった。高重量のバッテリーを積む必要がなく、魔石の魔素量が減るほど軽くなるそれは、はじめにレース界を震撼させた。バイク、自動車、飛行機、船舶、全ての分野で圧倒的勝利を果たし、今までの最高速度やコース記録なども大幅に塗り替えた。

 しかしながら魔石と雷系宝石の供給量が間に合わず価格が高騰する事態になる寸前で、レース界隈では魔導モーターを魔石と雷系宝石を使用しての運用が永らく禁じられた。とはいえ、魔導モーターを積んだ超高速マシンを見てしまった民衆の興奮を抑えることは難しかった。その対策として国が保有する試作マシンのみでのタイムアタック演習が年に数度披露されることとなった。

 そんな経緯をよそに、魔導モーターは生活に欠かせない存在となっていく。蒸気タービンから得た電気エネルギーをバッテリーに貯め、それを都市部の移動手段(電車、エレベーター、エスカレーターなど)や上水道のポンプなどに利用することが計画されていった。起動中の静かさと相まってインフラはさらに整った。




●●●


 これだけの魔導エンジンが誕生、進化してきたにも関わらず、ノースマンはいまだにミッドガルド中央都市の攻略をしてはいなかった。

 工業化も進み、備蓄食料や対物兵器などの大量生産も可能となっていたが、それでもまだ最終戦争を仕掛けるには大きな問題があった。それは魔導エンジンの進化スピードがあまりにも早すぎたことも含まれていたが、いままでの魔導エンジンでは十分な航続距離がなかったためだ。

 ミッドガルド大陸北部地域の制圧は全て済んでいたが、ここからでも魔導モーターを積んだ飛行機を飛ばして帰って来るのは難しい。さらに、ミッドガルド地域での最新技術の試験運用は最終戦争開始までは極力避けられていた。

 ノースマン地域から出発して、ミッドガルド中央都市を空襲し、その後も帰って来れるだけの長距離輸送機が開発者たちの課題となった。それを解決するには、化石燃料を利用する内燃機関の登場を待つしかなかった。


●●●




▼ガソリンエンジン


 南の国で石油が見つかり、ガソリンに精製する術が見つかってから1年も立たずガソリンエンジンは始動していた。むしろガソリン精製のほうが時間を要していた。

 液冷V型12気筒、4ストロークDOHC、ターボチャージャー、スーパーチャージャー搭載という高出力・高効率のエンジンは、なんと蒸気タービンが出来るよりも前に構想されており、このときには実物も形だけなら70%は出来上がっていた。

 ガソリンエンジンはこれの他にジーゼルエンジンも構想がされており、産業の効率化・規模拡大にさらに一歩踏み出した。

 この時から、人が主に利用する内燃機関はガソリンエンジンとなった。小型化・効率化・メンテナンス間隔の長期化・必要十分な出力も確保され、さらに環境にも配慮するよう設計された自動車が普及する。

 人々の暮らしにドライブという娯楽が生まれる頃には、人の住む地域にはモンスターがほとんどいなくなっていた。




▼ガスタービンエンジン


 プロペラ機が時速900km/h超えという亜音速で航続距離6000kmを超えて飛べるようになっても、航空機の進化は留まろうとしない。元々ある蒸気タービンのノウハウを駆使して、高高度・超高速度の飛行を可能とするガスタービンエンジンが誕生した。このとき、人はついに音を超えた。

 しかしながら世界はすでにノースマンに支配されており、この航空機が戦争を体験することはなかった。




▼ジェットエンジン


 ジェットエンジンの開発は長い時間を要していた。そもそもの目的が月へ行くことと、そこへ兵器と人員を届けることを目標としていたことが計画を困難にしていた。それを実行するには高い計算能力を持つコンピュータが必要不可欠である。このコンピュータの登場はさらに未来のこととなった。

 はじめて人が月に降り立ったときにはテレビも登場していた。インタビューに応えた月の民を全世界の人間が確認すると、人々の心には宇宙での暮らしが思い浮かばれた。




▼さいごに


 エンジン、銃火器、航空機、工業、高速輸送。これらが神がかり的に現れた時から、生物界のヒエラルキーは形を変え、勢力図も大きく書き換えられ、全世界の人口数は爆発的に増えていった。

 ただし、ここは我々の知る地球ではない。当然、そこで暮らす人類の目的も歴史も、全く異なるものになっていくのだ。


 人が宇宙に行けるようになった先はどうなったのか? については、まだ空想の物語でしかない。

 蒸気機関に関していくらか調べていましたが、古いものは実物に触れることや十分な情報がなく、自分が納得いく技術が確立されていないと感じました。

 そこで、蒸気タービン機関車には自分が妄想した機構を取り付けて動かすことにしました。歴史上では船舶以外では軒並み失敗している蒸気タービン機関車ですが、空想の世界であれば許されます。


 それにしても、想像力・妄想力というのを実現化する力の凄さを改めて思い知らされました。


 科学こそ魔法です。

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