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無彩色の狩人 外伝  作者: 塩辛
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中華料理

ノースマン歴160年頃 クリの町一角

 今年も冬を超えて暖かな季節になった頃、ウィートの兼ねてからの望みを叶えるべく、とある食材の一群と、とある料理を得意とするシェフがノースマンに招待された。NMGの一人が知り合いだっということと、そのシェフ自身が移住を望んでいたのがようやく都合がついたとのことだ。


シェフ「チューカリョーリ??」


 彼は日本語のことなど一つも知るわけないので、そんな名称を言われても何一つピンと来ないが、どうやら自分の故郷の料理と似通ったものがあると聞いて面白くなった。というより、ウィートの口からたどたどしく伝えられるわりに膨大な種類の料理のことが話され始めると、目を丸くして聞き入っていた。

 そして、彼が提供してくれた料理に舌鼓みを打つと同時に、「こんな発想があるのか!」と心底驚いた。


シェフ「ラビオリやピエロギとやってることは似通っているが、厚手でもちもちの皮にして蒸し焼きにしてスープに入れるなんて、キミは天才か!?」


 ウィートが、彼の記憶力と想像力だけでもなんとか形にできたのは餃子だった。今回提供したのは水餃子。彼の妻がたいへんに喜んだという自慢の一品だ。

 ただ、彼が望むのはラーメンとチャーハンと餃子のセット。しかし、完成したのはどれもこれも見た目が似ているだけの偽物。ラーメンの麺はパスタだし、ラーメンスープは味噌汁にしかなってない。チャーハンは鶏油(チーユ)鶏卵(けいらん)を使っていないのと、調味料が足らず風味がない。餃子はクリの村で定番料理にまでなったので様々な種類の餃子がいまも研究され続けているものの、ウィートが目指しているものとは方向性がどこか違ってしまうらしい。

 ともかく、彼は料理はド素人。しかし、彼が前世で食べたことのある料理の数々は現世では考えられないほど種類があり、この世界にいる誰よりも料理を食べているのは間違いない。味覚のイメージを伝えるのはとても難しいわけだが、相手が料理のプロとなれば話は変わってくる。というわけで、ウィート専属のシェフとして彼が呼ばれたのだ。


シェフ「ほんとに、キミがこれを?」


 ウィートの得意分野は街作り。中華料理が完成したら、この世界に『中華街』を作ってやろうと思っていたのだ。中国の独特な色使いを目指し、まっ赤を基調にしつつ、派手な黄金色、原色の水色や黄色などを散りばめる。街の中もこちゃごちゃととにかく装飾まみれにされている。そんな街を目指したミニチュアの模型だ。料理人はその街をとくに気に入った。


シェフ「信じられない。独特の料理を目指すばかりか、それを専門にしただけの街まで作るだって?」


 そんな発想は聞いたことがなかった。食と住居を一緒くたにして考えられる人物自体が稀有だ。だが、目の前のこの少年とも思える彼は「食事は環境も一緒に食べる。そうあって当然」と、あっけらかんとして答えた。そのとき、シェフの心の奥底、いや、魂そのものに大きな衝撃音が聴こえてきた。


ウィート「渋墨塗にした黒塀にしようかとも思ったんだけど、それは日本料理屋で使おうとね。こっちのほうが安く早く仕上がりそうかな」


 中華も日本食も自分の故郷ではよく楽しまれたものだと言う。日本食バージョンのほうは不気味にも黒だけを使った家々を並べているのだが、これはこれで趣があると感じた。

 そして、寿司もチャレンジしてはいるのだが、酢飯がうまく作れていないのと、当然握り方も知らないのでなんとなく米をまとめて具を乗せただけだ。米の種類もてんで違うし、ウィートでは八方塞がりだった。

 ついでに彼は絵を見せた。様々な色の寿司がたった一枚の横長の皿に並んでいる。


シェフ「寿司とは、こんなに贅沢なものなのか?」


ウィート「そもそもの発祥はファストフードらしい。近代化するにつれて高級なものになって、その頃に一つのジャンルとして確立した感じ。回転寿司なら、ベルトコンベアは手動でもどうにか再現できるね。そもそも一つ作ったし」


 食べ物の乗った皿をベルトコンベアで運ぶというクレイジーな発想は、このときは目の前にある機械の意図がまったく読めずにいたので後々驚くことになった。

 また、ノースマンに面する北側の海では魚の種類が少ない。一般的な料理人であれば「米の上になにかしら乗せれば寿司だろう」と発想するわけだが、重ね重ねいうがウィートは素人。そのバリエーションを増やす手伝いも欲しいと言った。


シェフ「海鮮料理は得意分野ではないが、魚の捌き方ならわかるつもりだ。何よりキミの目指す中華料理というのは片栗粉もとい馬鈴薯(ばれいしょ)が要、それに魔界では“餡掛け(あんかけ)”はよく用いられていた調理法だ。さっそく一品作ってみせよう!」


 調理用の服装に変身する彼の肌色は濃い黄色、目玉は緑色に近く、肌にはところどころ肌より暗い色の水玉模様が浮かんでいる。髪の毛は深い黒で、ウィートが「ラーメンマンみたいだ」と言った髪型は頭上から三つ編みで束ねられている。見た目の異様からわかる通り、彼は魔界出身だ。

 幼少期は魔界で過ごし、青年になってからはシェフを目指して各国を渡り歩いて修行してまわる旅に出ていた。魔界を出て、亜人共和国、ミッドガルド南方面全般を体験してから西のマルセル領に到達し、そこからさらに海を渡って西の国へも訪問、ゴーレム温泉にも行ったことがあるという。そして、最近になってノースマンNMGの商人と出会い、今に至るというわけだ。旅を続けてきたその年数なんと96年。長寿の魔人ならではの旅模様だった。ちなみに、彼の見た目年齢は20代後半〜30代前半程度である。


シェフ「パスタを茹でるときに重曹を入れる。それでならキミの言う麺が出来る。あとはこの麺を油で煮焼きにして水気を切り、味付けと材料を混ぜた餡掛けを乗せれば、、、あんかけビーフンの完成だ!!」


 きのこ、にんじん、ほうれん草、牛バラ肉なども混じって入ったあんかけが、パリッとした麺と絡んで一枚の皿に乗っている。ウィートはそれを食べて「うおっ!焼きビーフンだ!」と普段の彼とは思えない反応を見せた。

 現代において、重曹は、基本的には食塩水を電気分解して二酸化炭素と混ぜて精製される。モンゴルでは重炭酸ソーダ石の層があり、天然の岩にも存在している。今回使われた重曹は、このように天然に存在する物体を利用していることは留意しておく。


NMG商人「食感が複雑で、楽しいものですな」


ソフィア「いい味出してるね。イイ料理人じゃあないか」


オット「このあんかけのあん、美味ぇなぁ!」


 試食には何故か二人増えていたが、新しい町民を迎えに行くのは当然だとソフィアは言う。そして、彼が本格的な料理人だと聞いて喜んで歓迎した。


シェフ「料理を研究する施設だって?! それを、オレに??」


 条件は色々とある。まずはウィートの言う中華料理をいくつかこさえること。日本食も何点か。そして、それらの調理法を本にまとめること。また、弟子を育ててノースマンの料理人を増やすこと。さらに、軍隊でも利用できる調理法の確立。もちろん、これを全て一人でやるのではなく、ほかの料理人や弟子や協力者たちと行う。あとは、年に一回くらいはクリの町で腕前を披露すること。

 食材は自由に使っていい。保管場所の冷蔵・冷凍施設なども揃えている。輸入物も可能な限り取り寄せ、未来科学研究所で精製された物質も利用していい。

 待遇は、衣食住の提供、モンスターを含む災害からの防衛、長期休暇、国内であれば旅行もできるように図らう、ほんのわずかだが給料も渡す。

 つまり軟禁はするが、料理を研究するのに必要なことは全てフォローする。といったところだ。


シェフ「フフフフフフ、きっとオレはこうなるために産まれてきたのだ!!」


 彼の心の奥底にあった野心がメラメラと燃え始めた。


ウィート「そうそう、ハンバーガーも食べたいんだよね」


 本格的に“中華街”と“日本料亭”と“ジャンクフード”が動き出すのはさらに数十年後の話ではあるが、ノースマンに多種多様な食の文化が芽生えたのはこのときだった。

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