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ざまぁシリーズ

勇者は王様からとんでもない者を奪っていきました

作者: 大小判

ここ一年で最も萌えたキャラの1人は、近々アニメ化するウザ可愛い系後輩とのギャグラブコメに出てくるヒロインのお母さん(40代)です。

ちなみに高校時代、ブランド名が鍵の英訳で有名なギャルゲーに出てくる青髪ヒロインの母親を全力で攻略しようとしたことがあります。

そろそろ……ハイファンタジーもので未亡人やシングルマザーをメインヒロインにした作品が欲しくなってきましたね。小難しい現実問題はファンタジー要素でサクッと解決してくれます。

まぁ何が言いたいかって言うと……下手なヒロインよりも、ヒロインの母親の方が可愛いということです。


 魔王が率いる軍勢が人類を侵略する世界。ある国の愚かな王様はこんな事を全国民に対して誓約した。


「このままじゃ私の国が制圧されちゃうっ!! 誰でもいいから魔王を倒してくれ!! 魔王を倒した暁には勇者の称号を与え、欲しいものは何でもあげるから!!」


 そんな話に飛びついた17歳の若者が、1年の時をかけて見事魔王を討伐。祖国に王都を凱旋し、勇者と呼ばれるようになってから求める褒賞を口にした瞬間から物語は始まる。

 若い男の求める者といえば立身出世が常のこの時代。王様は勇者の2つ年下の第一王女を妻として嫁がせ出世させてほしいと頼んでくるだろうと思い、その準備を進めていたのだが、事態はとんでもない方向へと進んでいくことになる。


   =====


 魔王討伐から帰ってきた勇者である俺は今、何故か謁見の間で王国騎士団長と戦っていた。


「横勇者斬り!!」

「何だそのバカみたいな技名はぐっはああああああああああっ!?」


 俺の故郷の町にある道具屋で2980円(にぃきゅっぱ)で購入した鉄の斧が、騎士団長の家に代々伝わる家宝の宝剣を圧し折ると、返す刀ならぬ、返す斧で……えぇっと、なんて名前なんだろう? この斧の平らな部分。

 とにかく刃がついて無いところで騎士団長の頭を引っ叩くと、騎士団長は吹き飛んで柱に叩きつけられた。


「流石は騎士団長ってところか……地元で買ってから魔王討伐まで数々の戦いを共にした相棒を手にした俺と2秒渡り合うとはな」

「そ、そんな安物の斧なんかに……先祖代々に伝わる宝剣が……きょ、極端に無念。がくりっ」

「騎士団長ーっ!?」


 王国兵の中では最強の存在が2秒で気絶させられ、玉座に座っている王様は悲鳴を上げる。その隣では、超美人で、オッパイが超デカいエロい体をした王妃様が口を両手で覆って愕然としていた。


『……あんな安物の武器で倒された我って一体……』


 ついでに幽霊となって俺を呪ってやろうと付いてきた魔王も(別に害はないから放っておいた)、草葉の陰で泣きながら、失意のあまり昇天した。なんて豆腐メンタルだよ。


「くっ……!? 一体どういうことだ、勇者よ! これは立派な謀反であるぞ! せっかく後世に名を刻むほどの英雄になったというのに、その名誉を自ら泥を塗るか!」

「どういうつもりか? それはこっちのセリフですよ、王様」


 俺は鉄の斧の先っぽを王様に向ける。


「俺は魔王討伐の褒賞を受け取るために城に来ただけですよ。何が欲しいか聞かれたから正直に答えた途端に、騎士団長に俺を襲わせたのはそっちでしょう? これは正当防衛、俺は被害者です」

「やかましい! だったら貴様、欲しいものをもう1回言ってみろ!!」


 同じことを何度も言わせるなんて、痴呆なのかな? それとも耳クソでも詰まってる? 仕方ない、今度は大きな声で、ハッキリと言ってやるとするか。



「王妃様を俺に下さい!!」

「そこは姫を俺に下さいじゃないのかなぁ!?」



 何を言っているのだろう? 確かに姫様は王妃様によく似て可憐な方だけど、俺が欲しいのは王妃様だというのに。なぜそこで姫様が出てくるのか理解できない。


「純粋な疑問の目で見つめ返してくるな!! 貴様、聞いたことはないのか!? 普通、魔王を倒した勇者が王家に求めるものっていたら、姫との結婚許可だろう!?」

「そんな普通は知りませんねぇ」


 確かに御伽噺とかじゃ、魔王を倒した勇者は姫と結婚して王様になるって話はよく聞くけど、それが普通だなんて聞いたこともないし、興味もない。俺が興味があるのは王妃様だけだ。


「……あ、不倫とかそういう事を気にしてるんでしたら大丈夫ですよ。王妃様と離婚してもらうだけでいいんで。フリーになった王妃様に猛アタックして結婚して幸せにするところまでは自分でやります」

「そういう事を言ってるんじゃないんだけど!?」


 じゃあどういう事なんだろうか? 他に何か問題があるとは思えない。


「別に難しいことなんて何も言ってないでしょ。俺は王妃様に惚れてぞっこんだから、王妃様を自分のモノにするために魔王をぶちのめしたんです。王様が魔王倒せば何でもしてくれるって言うから」

「そんなアホみたいな動機で世界救われちゃったのか!?」


 アホみたいとは失礼過ぎる。俺からすれば、人生の大一番だというのに。


「勇者よ、お前なら美しい娘などより取り見取りだろう!? なぜ自分とさして歳の変わらない娘がいる人妻に手を出そうとしているのだ!?」

「外見も中身も俺のストライクゾーンど真ん中だからですけど何か?」

「こんなところで人妻好きの性癖を暴露するの止めてくれる!?」

「別に人妻だから好きってわけじゃないですよ。たまたま好きになった人が、王妃やってただけで」

「うっさいボケ!! 魔王討伐の褒賞に求めるのが人妻……それも王妃とか聞いたことが無いわ!!」


 予め言っておくけど、俺は断じて他人の女を寝取るのが大好きな歪んだ性癖のクソ野郎とは断じて違う。俺はただ、王妃様のように美人でオッパイもデカくて、お淑やかで清楚な、性格的にも肉体的にも母性溢れる年上が超絶大好きってだけである。


 ただまぁ……俺のストライクゾーンにいる女は大抵、子持ちの人妻であるということが多いというのは認めざるを得ない。


 思い返してみれば、子供の頃に初めて好きになったのは母ちゃんの姉(既婚者子持ち)で、次に好きのなったのは友達の母親。その次は近所に引っ越してきた子持ちの人妻。その次も子持ちの既婚者ばかり好きになってたなぁ。

 そして1番最後に好きになって、1番夢中になったのが王妃様という訳だ。本来なら結ばれるわけがなく、泣く泣く諦めるしかないんだけど――――


「王様、俺は死ぬほど頑張って魔王倒して世界を救いました。その褒賞として、王様は王妃様と離婚し、俺と王妃様がゴールインすれば祝福する……何か問題でも?」

「完全に墓穴掘ったぁあああああ……!」


 両手で顔を覆って天を仰ぐ王様。まぁ王の身分でも破棄できない誓約を書面にしちゃったりしてたから、もうどうしようもないよね。


「そもそも王妃! お前は私という夫がありながら勇者と不貞行為を行っていたのか!? だとすればこれは立派な罪だぞ!」

「そ、そんな……誤解です陛下! 私は……」

「おっと、王妃様を責めるのはお門違いも良いところです」


 愛する王妃様に不穏な怒りの矛先が向けられそうになったのですぐさま制する。


「王妃様の名誉の為に言っておきますけど、俺は魔王討伐に出向く前に王妃様と知り合い、しばらくしてから告白したんですけどフラれましたし。自分には夫が居るからって」


 まぁ、当たり前の事なんだよね。俺もこれまで好きになった人妻にはそう言ってフラれた。


「今回も泣く泣く諦めるしかないかと思ってたんですけど、そこに来て今回の褒賞の話でしょ? これはチャンスだと思いましたよ。本来なら違法なところを、合法的に王妃様を寝取れると。魔王討伐の旅に出た後も、転移魔法で毎日欠かさず王妃様の元に通ってましたからね」

「そうだったの!?」

「ちなみに旅の期間1年の間に告白してフラれること802回です」

「1日に何回告白してるんだお前は!? 諦め悪すぎだろう!?」

「それだけ王妃様が魅力的だったんです」

「だからってお前!! 倫理観はどうなっているんだ!? いくら何でも貰えるからって、普通人妻に手を出そうとは思わんだろう!?」


 確かにその通りだ。俺だって無暗に介入して夫婦の仲をぶち壊すことはしたくない。愛する人には、本人が愛する人と幸せになってほしいからな。


「でも王様と王妃様、普通の夫婦じゃないですよね? だって王様は婚約していた時から王妃様にモラハラとDVと浮気三昧ですし」

「は……はぁ!? な、ななななな何の事だ!? ななななな何かのまままま違いだろう!?」

「そこまで動揺しておいて語るに落ちてますよ。ていうか王様のモラハラとDVと浮気は城内じゃ超有名ですよ」

「……え? そう、なの?」


 王様が周囲に居た臣下連中に聞くと、皆おずおずと頷く。


「婚約してた時から王家の威光でマウント取って、王妃様相手にやりたい放題してたみたいですけど、結婚して王妃様の実家のお義父さんやお義母さん、お義兄さんたちが魔王軍の襲撃で皆亡くなってからは、優しくするどころか余計に酷くなりましたよね? 少しでも気に入らないことがあるとすぐに手を上げる物理的DVは当たり前。王妃様は頻繁に医者に痣を診てもらっているから診断書もあるし、この間なんて王様が王妃様に投げたティーカップが割れて、頭を少し切ったんですよ」

「え……いや、でもあれは王妃が夫である私に口答えしたからであって……」


 湧き上がる殺気を全力で押さえながら王様を睨むと、何かゴニョゴニョと下らん言い訳を繰り返し始めた。このオッサン、本気で殺してほしいのかな?


「その上、顔を合わせる度に精神DVというモラハラもしてきましたよね。ここに証拠音声を記録するための魔道具があるんですけど……」


 俺が懐から取り出した録音魔道具を起動させると、魔道具から王様の厭味ったらしい声が響きだした。


【お前のようなつまらん女を正妃にしてやっているんだぞ!? 口答えせずに黙って私の言う通りにしろ!】

【産まれてきた子供が後継者にもならない女とは、お前は王妃として……いや、女として欠陥品だな! そんなお前だから、私が愛妾を増やさねばらなないんだ! つまり私の不倫はお前が悪い!!】

【頼る実家もなくなったお前に離婚などできるのか? 出来ないだろう? お前は結局、私の元で奴隷同然に過ごすしかないんだよ!!】


 他にもまだまだあるけど、これ以上は胸糞が悪くなるのでここで音声を止める。


「ここ1年、王妃様にお願いして録音してもらいました。しかも実際にはこれだけじゃなくて、婚約期間中からの分もあるんでしょ? 別に俺が王妃様を求めなくても、これだけで離婚理由としては十分すぎると思うんですよね。しかもこれに加えて浮気って」

「う、浮気などではない! 王妃が女として欠陥品だから、後継ぎとなる男を産めなかったから、仕方なく愛妾を増やしてだな……!」

「お言葉ですが陛下」


 そこで話に割り込んできたのは宰相を務めている王弟殿下だ。


「これまで妃殿下が訴えを起こさなかったから問題が表面化しませんでしたが、国王だからと言って不倫は認められておりません。犯罪とまで言いませんが、損害賠償請求が発生する立派な違法行為です」

「え……お、王なんだから愛妾いっぱい作ってもいいんじゃないの……?」

「良くありません。この国は王を含めて一夫一妻制ですし、そもそも王女にも王位継承権はあります」

「な、何だそれは!? 普通王位は男が継ぐものだろう!? 女なんかに務まるものか!!」

 

 おっと。ここで時代錯誤な男尊女卑発言が飛び出したぞ。周囲の臣下たちの視線の温度が下がる下がる。

 この王様、見た目だけはすこぶる良いんだけど、頭の方がすこぶるバカすぎるんだよなぁ。神輿としても流石にどうかと思えるくらいに。


「王座は女性にも務まりますよ。現に先代国王であった父上が病で早くに亡くなり即位してからというもの、女遊びに夢中でロクに務めを果たさなかった貴方の代わりに全ての政務をこなしてきたのは他でもない妃殿下ではありませんか」

「そ、それは……!」

「しかも王様。貴方は本来王妃様の後宮生活に充てられる筈だった費用を無理矢理自分のモノにした挙句、大勢の愛人に貢いでましたよね? 仕事だけ押し付けて国庫の鍵だけは独占するとか、それは悪質な経済DVなんじゃないですか?」


 王弟殿下に色々と聞いたから内情は俺も知っている。こんな仕事しないどころか金食い虫なアホでも最高権力者。誰も下手に逆らえず、十数年間野放しにされてきた。

 まぁ、王様が仕事を放りだしたから、俺は王妃様と会えたんだけどな。王妃様は王様の代わりに方々の町に視察に行って、その時偶然知り合ったんだから、その点は感謝してる。


「ていうか、王妃様に離婚されたら1番困るのは自分なのに、よくそこまで好き勝手出来ましたよね」

「ど、どういうことだ!?」

「だって王妃様が居なくなったら、貴方まともに仕事なんてできるんですか?」


 ただでさえ全く仕事してない王様だったんだ。平民の中には王妃様の事を女王だと思っている奴も少なくない。その王妃様が居なくなり、遊び惚けていた王様に難しい激務が務まるとは到底思えないし、人が付いてくるとも思えない。唯一王妃様の代わりが利くとすれば、血筋的にも人望的にも能力的にも問題が無い王弟殿下だろう。


「自分でいうのもなんですけど、毎日欠かさず妻に言い寄ってくる間男の存在に気付かなかった時点で、王様がどれだけ王妃様自身に興味が無いのかが分かるってもんですよ。DVの事と言い、不倫の事と言い、もう婚姻関係なんて破綻してるんですから、離婚で良くないですか?」


 流石にそこまで言われれば理解できるのか、王様は青ざめた表情を浮かべながら、縋るような情けない表情で王妃様を見つめる。またそうやって王妃様のお慈悲に縋ろうとしているのだろうが、そんな事はさせない。


「さぁ王妃様。魔王を倒したし、こんなDVモラハラ浮気夫と離婚できるチャンスです。俺は王妃様の意思を尊重しますけど、誰でも離婚を薦める状況ですよ。とっとと離婚して、是非とも俺と結婚してください」

「ちょっと待って!? 私は王だよ!? そこまで言うことなくない!?」


 花屋で包んでもらったプロポーズ用の花束を転移魔法で手元に呼び寄せ、王妃様の視線をこちらに固定する。隣でギャーギャー騒いでいる王様の声は、風魔法の応用で音を散らして王妃様にだけは届けないようにしている。今は大事なところなんだから後にしてほしい。


「い、いけません勇者様。たとえ今の夫と離婚したとしても、私は30代後半……まだまだお若い勇者様と添い遂げることなどできるはずが……!」

「俺は年齢なんて気にしません。ていうかエルフのクォーターの王妃様にとって、年齢なんて大した問題でもないじゃないですか。一生老けないんですし」


 30代後半の子持ちにして二十歳そこそこの若々しさを保っている王妃様には不老種族であるエルフの血が流れている。純血のエルフほどではないけど普通の人間よりもちょっと長生きだし、平均寿命から考えれば、俺が寿命でポックリ逝く時期と王妃様の寿命は5年も離れていないだろう。

 よって年齢的問題は一切なし。もっとも、俺は王妃様にエルフの血が流れてなくても、同じ選択を選んだけどな。


「で、ですが実年齢の差はやはり大事だと思いますし、私には貴方と2つしか年の離れていない娘だっています。貴方だってこんな大きな子を持つ女が妻など嫌でしょう?」

「全く問題ありませんね。姫様も俺と王妃様の仲を応援してくれると言っています」

「姫がそんなことを!? 何で実の娘が自分とほぼ年の変わらない男と母親の仲を応援してんの!?」

「そりゃそうですよ王様。だって貴方、可愛がるのは愛妾との間に出来た、継承権を持つことが認められていない子供たちばかりで、王妃様との間に唯一出来た姫様の事も蔑ろにしてきたじゃないですか」


 王族としてはある意味正しいのかもしれないけど、政略結婚の駒としてしか見ないのもどうかと思う。そんなんだから姫様は父親限定の反抗期から抜け出せないんだ。

 そんな王様と違い、未来の種違いの父(になる予定)の俺は姫様との親交を深める努力を怠らなかった。勿論最初は母親に言い寄る若い男としていい眼で見られなかったけど、俺が王妃様を幸せにするために世界を救うと言い切って、その実現の為に邁進する内に打ち解けたわけだ。

 やっぱりモラハラDV浮気夫に縛られる自分の母親を見て想うところがあったんだろう。自分と年が変わらなくても、敬愛する母親を幸せにしてくれるならと祝福してくれた。

 そんな姫様は今となっては魔王討伐の旅を共にしたパーティで僧侶を務めた、苦楽を共にした仲間である。奇しくも子供の頃に叶わなかった、友達の母親と結ばれるという夢を、形を変えて叶えることになった。


「ていうか、どうも俺と姫様を結婚させて、俺を他国への脅しの材料に使おうと企んでいたようですけど、それも無駄ですよ」

「どういうことだ!?」

「だって姫様、密かに恋人だった護衛騎士とつい昨日駆け落ちしましたし」

「姫ぇえええ!? お父様そんなの認めませんよ!?」

「今更父親面ですか。城内では公然の秘密と化していたのに……奥さんだけじゃなく、娘にまで興味が無かったんですね」


 ちなみにこの護衛騎士も俺と魔王討伐の旅を共にしたパーティメンバーの剣士だ。旅の道中で開放的な気分になり、夜な夜な木陰で姫様と18禁的な意味でイチャイチャしてたから、翌日の俺は2人に対して何とも気まずかったけど、今では笑い話となる思い出だ。

 付け加えて言えば、王妃様も2人の関係を知っている。自分の結婚生活が苦しいことばかりだったこともあり、愛する娘には精一杯幸せになってほしかったのだろう。姫様が政略結婚する必要がなくなるよう、あちこちに働きかけて尽力していた。王妃様がこれまで政務を頑張れたのも、姫様の存在があったからだ。

 そんな姫様は今、王妃様の働きかけによって、隣国の辺境伯として迎え入れられた護衛騎士の妻になるように迎えられているはず。…………幸せになれよ、2人とも。


「さて王妃様。年に関しては問題無し。姫様に関する問題も解決し、もう無理して王様の妻で居続ける理由は無くなったんじゃないですか?」

「で、ですが私には民の暮らしを支えるという責任が残っています。その責務を放り出すわけには……」

「後のことは、王家に生まれた私が何とでもします。貴方はもう十数年もその身を愚かな兄王に捧げ続けた……離縁の条件も揃っている以上、もう自分の幸せの為に生きても良いのですよ」


 王弟殿下の言葉に押し黙る王妃様。


「……どうして私なのですか、勇者様。勇者様ならもっと若く、美しい娘を妻に出来るのに、こんなくたびれた中年女など……」

「俺は王妃様が良いんです。王妃様じゃなきゃダメなんですよ」


 王妃様に出会い、初めに外見とオッパイで一目惚れして、交流を深めていく内に愛に目覚めた。もう王妃様とも駄目だって言うんなら、俺はもう誰とも結婚したりしない。そのくらい王妃様が好きだ。


「俺からすれば世界を救うなんてオマケです。王妃様と一生幸せになるために、魔王を倒してきたんですから。そのくらい俺は王妃様に本気ってことです」

「………………」

「王妃? なんか急に顔を真っ赤にして俯きだしたけど、大丈夫だよね? 十数年連れ添った夫である私を見捨てたりしないよね?」



「そんなに私が良いのですか……?」

「王妃ぃいいいいいいいいいいいっ!?」



 顔を上げた王妃様は、きっと恐らく、王様が一度も見たことが無いであろう〝女〟の顔をしていた。


「だ、駄目だ駄目だ!! 私の妻だぞ!! 私は王様なんだぞ!? その私がダメと言ったらダメだぁああアアッ!!」


 今になって超美人で超オッパイが大きくてエロい体をした、超有能な王妃様を手放すのが惜しくなったのか、みっともなく喚き散らす王様。


「いい加減観念してくださいよ王様。これ以上喚き散らすなら、弁護士雇って民事裁判起こしますよ? 国王が民事裁判で訴えられるとか嫌でしょう? とんでもない醜聞になりますし」

「弁護士!? そんな事までするのか!?」


 弁護士とは初代国王が生み出した、ある意味この国最強の集団であり、違法を犯したのならそれが王家であろうと問答無用で罰則を与えることができる法の守護者だ。そんな弁護士を有する裁判所の実績は、過去に何人もの国王に法的罰則を与えたことで証明されている。有罪判決が下った今までの王は皆、信頼関係の問題でその座を追われているくらいだ。

 

「魔王を討伐した俺に対する誓約書を違えることでも訴えを起こせます。あとは王妃様自身が訴えれば、今までの浮気やモラハラ、DVでも訴えられますね。経済DVは帳簿が、暴力行為は診断書が、モラハラは録音魔道具が、浮気に関しては離宮を占拠している愛人やその子供がそのまま証拠になるって、知り合いの弁護士が言ってました。これらの慰謝料が発生すれば、貴方のポケットマネーじゃ支払いきれないんじゃないですか? 大方、貯金もしてないんでしょ? 王妃様用の金に手を出すくらいですし」

「それは……!」

「まぁ、誓約書の件を除けば、全て王妃様が訴えればの話。どうします? 王妃様」 


 しばらく沈黙していていた王妃様だったが、やがてゆっくりとした歩調で俺の前まで来て、潤んだ視線で俺の顔を見上げる。


「勇者様…………こんな子持ちの年増でも、本当に幸せにしてくれますか……?」

 

 その言葉は、王妃様の答えの全てを物語っていた。俺は当然、即答でイエスと言った。


   =====


 それから6年後、俺は王国の辺境伯となって押し寄せる蛮族や侵略国、魔物の撃退を務める日々を送っていた。

 王様は結局王妃様と離婚し、王妃様が保っていた各方面での信用を失ったことで王位から引き摺り下ろされ、今は王弟殿下が即位している。

 そして元が付いた王妃様はというと――――


「「お父様ー!」」

「おかえりなさい、あなた」


 俺と結婚し、辺境の領地で5人の子供たちに囲まれながら毎日幸せそうに過ごしており、今は大きく膨らんだお腹の中に6人目の子供がいる。

 離婚が決まってすぐに入籍、毎日寝室で熱い夜を過ごして毎年のように子供を産んでいるが、その美しさは磨きがかかっていくばかりだ。

 その事をどこからか聞きつけたのか、退位後は王都にある王族の別荘に幽閉されている元王様からお・れ・の! 妻に「私の元に戻ってきてくれ」とか、「本当に愛しているのはお前だけなんだ」とか、要約するとそういう事が書かれたポエム調のロミオメールが頻繁に送られてくるが、妊娠期間の多い妻の目に入ってストレスを与える前に俺が検分し、破棄している。

 なんか今更感満載な台詞で取り繕っているけど、妻と復縁すればもう一度王位に返り咲けるという意図が透けて見えるしな。

 なので妻は手紙の存在自体知らない。代わりと言ってはなんだけど、俺と妻と子供たちのラブラブで幸せな写真を送付して返信している。俺たちの幸せの邪魔をするなって話だ。


「ねぇあなた、娘からまた手紙が届きましたよ。もう5人目の孫が生まれたから、今度両家で顔合わせをしましょうですって」

「おぉ、産まれたのか。それは目出度いな」


 護衛騎士は俺もドン引きするくらいむっつりスケベだったし、このハイペースな出産も納得だ。

 そんなことを感慨深く思っていると、妻が俺にしなだれかかってきて、幾度の出産でさらにボリュームを増したオッパイと子供の心音が響く腹の感触が伝わってくる。

 まさに至福の一時。何度も何度も失恋を繰り返してようやく手に入れた幸せを噛みしめていると、結婚から数年たっても恥じらいを忘れない妻は、顔を赤く染めながら呟いた。


「あの……あなた。今お腹の中に居る子が生まれたら、また新しい子を授けてくれますか……? 娘が子を産んだと聞いたら、私も欲張っちゃって……」


 妻が6人目を出産した後、すぐに7人目を懐妊したのは言うまでもない。

 

人物紹介


・勇者

主人公。決して人妻好きではなく、ストライクゾーンにいる相手が人妻にカテゴライズされているケースが多いというだけ。2980円(にいきゅっぱ)の斧で何でも切り裂く。

オークも顔面蒼白ものの性欲魔人であると自他ともに認められている、知られざる変態。



・王妃

メインヒロイン。王家に生まれてさえいれば名君と名高い女王になれた逸材だが、立場の弱くなった公爵家出身だったのでモラハラ夫に逆らおうにも逆らえず、娘の今後の事もあってモラハラ夫とは共依存状態に。

巨乳の他にも泣き黒子や、後ろ髪を一つに束ねて前に垂らすヘアスタイルなど、美人だけど薄幸な人妻を地で行く外見。

長年のモラハラによって洗脳状態に近い状態だったが、勇者のアプローチによって正気を取り戻し、今では勇者の妻となる。

娘を妊娠してからは前の夫からは夫婦関係はなかったに等しいので、長年溜まりに堪った性欲が爆発して極度のむっつりスケベになった。


・王様

有体に言えばモラハラ、DV、不倫の三拍子揃った屑。奥さん寝取られても仕方ないと言われても当然の男を目指して執筆してみました。


・姫様

ヒロインの娘。ちょっとお茶目な小悪魔系という無駄な設定。信頼できる仲間の勇者になら自分の母親を任せられると、2人の仲を祝福する。隔世遺伝の影響でエルフの血が濃く現れ、生涯老けない。


・護衛騎士

真面目に見せかけてオークも顔面蒼白の性欲を隠し持つむっつりスケベ。勇者と言い、彼と言い、何故そんな変態になったのか……それは旅の道中、オークの神様を魔王の呪いから解き放ったからで、お礼は何が良いかと聞いてくるオークの神様に、二人揃って「生涯妻が寝取られないようにしてくれ」と頼んだらこうなった。どうしてこうなった



大小判書籍化作品もどうかよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 某ゲームのお母さんは、それだけは了承してくれなかったんですよね。 王妃様は完璧な女性なので、それを望んで何が悪いと言いたい。 自分が勇者でもそうする。
[良い点] 最後のオークの神の件で笑いましたw
[良い点] オークの神ナイス
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