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『心の声』

作者: 香霖

読みに来ていただき有難うございます。


婚約破棄を突き付けられた悪役令嬢が断罪中に泣きだしたらどうなるか?


そう考えて書き出したのに、なぜか思っていたのとちょっと違う話になりました。




 マスケット王国貴族学院を卒業し、社交会に初お披露目の、まだ初々しい子息、令嬢達が招待された大舞踏会が、城の大広間にて華々しく開催されていた。





 貴族院を()()()()()()()()で卒業した私も、正式に社交界に仲間入りし、王太子様の婚約者として公式にお披露目される予定で、家族で会場入りしていました。


 デビュタントを連れた貴族が国王と王妃、両陛下に挨拶を済ませ、これから王太子殿下と婚約者(わたし)がファーストダンスを披露する、という時のことです。


傍らに居ない婚約者……公表される前の私の名を、王太子様が怒鳴る様に大きな声で呼ばれました。


「レジーナ・ウィンチェスター!!何処にいる?さっさと出てこい!!」


「は、はい王太子様……お待たせしてしま──」


「ごちゃごちゃと煩い!これから言う事を黙って聞くがいい。レジーナ、お前との婚約は無かったことにする……」


「えぇ?で、でもでも、これからファーストダン、スを──」


「婚約破棄するお前と踊る必要など無い。私がファーストダンスを踊るのは、伯爵令嬢のダイアン嬢だ」



 見ればウィンストン王太子殿下の横には、黒髪に真っ赤なドレスで、殿下の腕に縋りつく様に両腕を絡め、身体を小刻みに震わせている令嬢がいました。


「その御令嬢は……」


見た事が無く、名前も知らないその令嬢は、私の言葉に、小さく悲鳴を上げると、王太子様に抱き着く様に身を摺り寄せました。


「可哀そうに……こんなに怯えて……」


「大丈夫、貴方の事は私達が守りますよ……」


 王太子殿下とダイアン嬢の右側には宰相閣下の御子息が、左側には近衛騎士団団長の嫡男が、二人を守る様に立っていました。


「レジーナ、お前がダイアン嬢に嫌がらせや虐めをしていた事はわかっているんだ。王太子の婚約者という立場を笠に、弱者を虐げる様なお前は王太子妃……ましてや王妃になれる器ではない」



 見た事も、名前を聞いた事も無いジャイアン?ダイコン?だったかしら……そんな人に私が?

「わ、私は何もしておりませ──」


「と、とぼけないで下さい!!私の持ち物をズタボロにしたり、桶の水を掛けたり、学園中の女の子に無視させたり……」


「学園で……私が?私がやったと……?」


「そうやって、とぼけるんだ?」


 魔導士長の御子息、コルト様が背後から魔法の杖を私の喉元に突き付けてきました。


「わた、私は何もやってな、ど──」


「いい加減にして下さい!わ、わた、私、怖かったんですから……い、いつか、私自身も刻まれるんじゃないかって……」


そう言って大粒の涙を溢し始めたダイアン嬢を、王太子様は抱きしめ、背中をさすり、宥めていました。


「非を認めようとしない貴方に、私がとっておきの魔法をかけてあげましょう……心に秘めた真実を暴露させる『心の声』!!」


 背後から私を拘束していたコルト様が、『心の声』という……罪人に、罪の全てを告白させる時に使われるという魔法を私に掛けました。


 私の口は意志に反して、私がずっと……心に秘めていた想いを言葉にし始めました。



「婚約を無かったことに……?それって、婚約破棄?婚約破棄されるのよね?や、やったぁああああああ!!なんって、嬉しいの!!やっと…やっと、解放されるんだわぁああ~。長かった……長かったよぉ~~。王太子様の婚約者なんて、なりたくなかった……国王陛下と、王妃様からの申し出だからって、断れないからって諦めて……私に王太子妃、まして王妃なんて出来ないって言ったって、出来るようになるまで教育、サポートしますからって拘束されて……出来の悪い私だから未だに妃教育終了もらえないし、学園なんて必修科目しか通えてないし……学園で嫌がらせとか虐めなんて……されてもいいから、もっと自由に通ってみたかったわ」


「な、なんだ、と……」


 王太子の婚約者という地位に固執し、ダイアン嬢を虐めていた事について告白すると思っていた王太子、宰相子息、は唖然としていた。


「や、やだぁ~止められないのぉおお?心の声が駄々洩れじゃないのぉお~」


 恥ずかしさで頬は赤く染まり、涙が出てきました。それでもまだ『心の声』の魔法は止まってはくれませんでした。


「虐められるほど学園生活を楽しめたジャイアン?さんが羨ましいぃ~。あぁ~でも、私だって婚約破棄されたんだもの妃教育は中止よね?自由な時間が増えるわ。お茶会だって参加してみたい……ああでも、成り上がりの子爵令嬢なんて招待してもらえるかしら……それに、王太子様に婚約破棄された私なんて、今更他に、嫁ぎ先なんて無いわよね……?婚約破棄はうれしいけど、修道院にでも行くしかないのかな……嫌がらせも虐めもしてないけど、認めないといけないの?やってもいない事をやった、って言うのは簡単だけど、家族は?子爵家の皆は……?あ~~やっぱり縁を切って修道院に身を寄せるしか……」



「レジーナ!……っつまで、妹に触れてるんだこの野郎!!」


 私を背後から拘束して、杖を突きつけていたコルト様は、私の義兄に引き剥がされ、傍観していた宮廷雀の群れの中に吹き飛ばされていました。


「お義兄様(にいさま)ぁあ……」


 子爵家の跡取りとして分家から養子になったウェブリー義兄様が私からコルト様を引き剥がし、抱きしめてくれました。


「レジーナ……君を修道院になんて……君が修道院に行く必要なんて何もない。君は何も悪い事なんてしていないのだから……」


そう言ってウェブリーお義兄様は、私の背中と頭を撫でて下さいました。


「レジーナ、こんな国見限って、俺と他の国へ行こう……行商人から始めたっていいじゃないか、君さえいれば俺は……」


「お義兄様、私も……私だって、ウェブリー様が初めて家に来た時から──」


 マズイです。コルト様が離れたのに、『心の声』が溢れて止まりません。焦った私は、目の前にあった腕を噛んで、声が漏れるのを防ぎました。


「イタタタ……俺は食べられるより、レジーナを食べたいよ」


ウェブリー義兄様に耳元で囁かれ、ついでとばかりに耳朶を甘噛みされ、私の腰は砕けそうになりました。



「ちょっと待て……私達は一体、何を見せつけられているんだ……?」


すっかり外野となってしまった王太子様が、低く呻いていました。


 扇子で優雅に口元を隠したお母様が、顳顬(こめかみ)に青筋を立てながら私達を連れて退出しようと声を掛けてきました。


「今退出したら、魔法がまだ……」


コルト様に掛けられた厄介な魔法を解除してもらわなければ、と私は焦りました。『心の声』が駄々洩れのままでは、困ります。退出はしたいですが、コルト様を捜さないと……



「ウェ~ッホン、ゴホン……あ~、愚息が君に掛けた『心の声』の魔法は解除したよ。迷惑をかけて申し訳ない……」


 何時の間にかコルト様のお父様……魔導士長様が、私に掛けられていた『心の声』が駄々洩れになる厄介な魔法を解いて下さっていました。


「それと、私は公平(フェア)じゃないのは嫌いでね……」


 そう言って魔導士長様は、私に掛けられた魔法と同じ『心の声』の魔法を、王太子様の横でアワアワしているダイアン嬢に掛けました。


 ダイアン嬢の『心の声』による告白の数々……それによって彼女の言う、私がやっていたという嫌がらせや虐めは、狂言だったという事が判明しました。


しがない子爵令嬢の私が、伯爵令嬢を虐めるなんて、普通に考えたら、実行できるわけないでしょう……

そもそも、何故子爵家の一人娘だった私に王太子の婚約者という()がまわってきたのか……


 それは元々の家業である商会の、売り物の何かを有利に独占売買する為だったのかもしれません。夢に見る世界の便利な道具を提案して、祖父の代に子爵に取り立てられ貴族の仲間入りをしたウィンチェスター家……


夢の世界では均一百イェーンの便利グッズが、此方では面白い様に高い値段で売れ続けています。



 大舞踏会の夜の事は、王太子様と王太子様を唆したダイアン嬢、二人の責となり、私も家族も、何のお咎めも無く、婚約は解消……

始めから無かった事になりました。


 王妃様から妃教育終了の記念として諸外国への入国許可証と身分証明書、それから結婚祝いとして箱馬車を贈られました。それから、貴方はもう娘の様な者だから、遊びに来るように……と、有り難いような、怖いようなお言葉が……

 私の目が死んだ魚の様になっていたのは、言うまでもないでしょう……




「慰謝料ぐらい、ぶんどってやればよかったのに……」


 真面目な顔で呟くウェブリー義兄様に、手作りのクッキーをア~ンしながら、私は顔を左右に振って答えます。


「婚約は無かった事になったし……それにもう、関わりたくないわ、ウェブリー義兄様」


「それもそうだな……ところで、そろそろ()()()()は卒業したいんだけど……」


そう言って正面から私をまっすぐ見つめるウェブリー様の顔が、近付いて来て……お互いの唇が触れるか触れないかの距離にまで近くなった時……


「い、いか~ん……!!結婚式を終えるまでは、許さんぞー」


 庭のガゼボでお茶を飲んでいた私達の前で、顔を赤くしたお父様が仁王立ちして叫んでいました。


「逃げるよ、俺のお姫様……」


「きゃっ……」


 私を抱えてウェブリー様が走り出しました。

結婚式は明後日……お父様はお母様に慰められるどころか、扇子でピシャリと後頭部を叩かれていました。


私の中ではとっくに()()()()()を卒業しているウェブリー様だけど、癖でつい、()()()()って呼んでしまうの……明日までは、許してね……


そう思った私の心の声に、ウェブリー様はイイ笑顔で、間違えたらお仕置きだね、と囁いたのでした……



誤字脱字報告助かっております。


面白いと思われましたら、評価等、よろしくお願いいたします。


投降後に誤字脱字等、文章的に修正が入る場合がございます。

内容には影響は無いと思いますが、ご了承下さいませ……

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[良い点]  面白かった!  魔法で証拠はいろいろあるけど、これは今まで読んだことがないアイデアでした!
[良い点] スパッと白黒着ける展開。爽快感がありました。 [気になる点] とはいえ、こんな魔法がある世界で、偽証だの自演だのやるとは思えないところ。 [一言] なんだけど、だからこそ王太子らも伯爵令嬢…
[一言] こんばんは 魔導士長様のご活躍がナイス! おかげでスッキリ感バッチリでした。 諸々はもうどうでもいいくらいな働き! 面白かったです。〈(•ˇ‿ˇ•)-→
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