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オアキッパとして選ばれた日

あの日から、イロバが封の贄として光の柱に捧げられてからどの位の時間が経ったのであろうか。

ケユウには判らなかったが、そんな事は最早どうでも良いとすら思えた。




あの日以来、ケユウは悲しみと絶望に泣き続け屋敷の自室に引きこもる様になった。

差し出される食事にも録に手を付けていない。

窓から差し込む日と光の柱の輝きで時が流れているのをぼんやりと判断する毎日で常に部屋で蹲り、完全に外部から心を閉ざした。

その様子を心配した屋敷の者が時より声をかけてくるが、それにケユウは禄に返事もせずに反応もしなかった。

母、オアキッパはそんな娘を心配する事も無く一切ケユウに気に掛けずにこの島の、クアン・ロビンの長として日々の業務をこなしている。ケユウとしてもイロバを殺した…柱に捧げた母の顔など二度と見たくないと思ってはいた。だが…あんなに優しかった母がいきなり豹変したのは引っかかる所であった。



何故、優しかった母様が変わったのか。

何故、イロバ様が封の柱に選ばれたのか。

代々のオアキッパが操ると言われる遠の瞳、自分ですら実物を始めて見た。

あれはまるで噂に聞く島外の外で研究が進んでいる魔法の様であった。

オアキッパの一族が代々引き継ぐという秘術の数々、私も使える様になるのだろうか?

どうやって?

私がどうやってあの様な術を?

時がくれば母から教えて貰い、引き継ぐのか?

島には他に魔法使いや魔女なんて存在しない

この島における「オアキッパ・インズナ」とは魔女の称号なのか?

イロバ様は、本当に死んでしまったのだろうか…。

もう二度と帰ってはこれないのだろうか…?

どうしてイロバ様が人柱として捧げられなければいけなかったのか…?

母は、自身の島改造論「二千三百萬計画」で古き伝統の撤廃、封の贄を廃止した立場にも関わらずどうして。


何故?何故…?



自室の中で蹲り塞ぎ込む毎日を送るケユウの心に日々様々な疑問が浮かんで来る様になる。

昼も夜も判らず葛藤する日々の中で、自室の窓から差し込む黄金の霧が夜を知らせてくる。

ある日、まさに日が落ちて島が黄金の夜に輝き始める境目の時。

ケユウはその昼と夜の境目を窓から眺めていると…散々な気尽くして枯れかけた涙がうっすらと再び浮かんできた。


あんな事が起きなければ

母が人柱としてイロバ様を選ばなければ

夜になればまたイロバ様が私を訪ねてきてくれたかもしれないのに。

いつも通り屋敷の外からこっそりと何かを投げ入れ、ミヒョワ様を散らして私に合図してくれていた筈であると。いつも通りならば、私は浮足立って外に駆け出して彼に逢えていたのに。それが私の、この時期首領として生まれた私の、他の人と違う生を歩む私の、たった一つの生きがいであったのにと。


だが、それを他の誰でも無い。

尊敬していた母に奪われた。

私の、たった一つの人間として、普通の女として生きる道を…。



ケユウの中で母・オアキッパを許さないという憎しみと怨念の思いが日増しに強くなる。

やがてその思いは彼女の顔つきを豹変させるかの如くその瞳を吊り上げ、嘆きは怒りに変わっていく。

自室の中でひたすらイロバをこの世から亡き者した母を恨み、ギリギリと音がしそうな程に歯を食いしばらせてその負の想いを高まらせている中でケユウに変化が起きていく。


恨みは怒りに代わり、憎しみがそのまま力になるかの如くケユウの感情は自分でも制御出来ない程の高まりを見せた時にケユウは吠えた。喉元から12歳の少女とは思えない程の「ああああああああああああ!!」という声にもならぬ低い音上げ、高まった怒りの発散先として床を握りこぶしで思い切り叩きつけたのだ。

その怒りの拳を食らった床はその勢いを受け止めるが出来ずに拳より一回り大きな穴を開けた。

目の前に空いた暗闇の穴から床下を通っていた冷たい空気が流れ込んで来たのが、ケユウの頬に触れて彼女は我を取り戻すと自分の床を貫いた右手が赤い色の光に包まれているのが判る。


「何…?これは……。」


ゆっくりと拳を緩めるとその赤い光も消えていった。

まるで感情の力が外側に現れたかの様なこの光にケユウは驚きを隠せなかった。

再び拳を握り力を入れて見たが今度はその赤い光は拳を包まない。夢か幻でも見ていたのだろうかと思ったが自室の床に空いた穴は先程の光景が事実であると物証として物語っている。とても女子供の腕力ではこの様な芸当は到底無理であるからだ。


「これは…代々の首領家の力…?オアキッパとしての力?」


島を収める為の勉学に伝統の儀式を引き継ぐ為の母からの教えを今まで受けて来たケユウではあったが、遠の瞳と言いオアキッパ一族が使う秘術に関しては全く教えて貰えなかった。ケユウ自信もあの日、母が生み出した遠の瞳の実物を見たのが初めてであった。


「フフ…フフフハ…!フフフフフフハッハハハハハハハ!!!ううっ…ああっ……ハッハハハハハアハハハハハ!!!!」


ケユウは涙を流しながら、そして声を上げて大きく笑った。

自分にもオアキッパとしての力を引き継ぐ血を流れている事が可笑しくてたまらなかった。


「こんな力っ!!いるものか!!!イロバ様の命を奪ったあの女と同じ血が流れているなどっ…!!!こんなものおおおおおおお!!!!!!」


再び抑えきれない負から来る怒りの感情が高まり抑えきれなくなったケユウは両手に力をいれて握りこぶしを作る。ぶるぶると震える程に力を込めたその両手は再び赤く発光し始めた。そして吠えた。こんな力を引き継ぐこと等どうでも良い、それよりイロバの命を奪った母を許せない!こんな力は必要無い!!こんなものいらない!!引き換えられるならイロバを返してくれ!!!その思いが再び彼女の拳に赤い光を纏わせた。


そして、ケユウはこの赤い光を纏った拳を見つめる。

自分の感情の高まりがこの自分の腕に赤い光を纏わせた事実をはっきりと認識した。


(母は…もしやあの女はこれを判っていたのか…)


ケユウの脳裏に一瞬、最悪とも言える考えが浮かぶ。

母・オアキッパは自分の想い人であった男、イロバを始末する事により私の感情の高まりを狙っていたのかと。そして次期オアキッパとしての力を…人の力では無いオアキッパ一族の血に眠る魔の力の才を目覚めさせ、覚醒させるべく封の贄を実行したのでは無いかと。

そう考えると憎しみの力が再び無限とも言える程に湧いてくる。ケユウは下唇を出血するまで強く噛み締めた。怒りでわなわなと震える彼女の口からうっすらと血の雫が垂れていた。


「たったそれだけの為に…イロバ様を始末したと……。私にイロバ様の最後の光景まで見せつけて!!!あの「女」はっ!!!!」


だが、現時点ではそれはケユウの怒りと憎しみから湧き出た妄想にしか過ぎなかった。それはケユウ自身にも良く判っていた。少しだけ冷静になった彼女の両手からオーラが引いて消えていく。

だから彼女は自室から、あの封の贄以来頑なに引きこもっていた自室から初めて外に出た。

母の顔も見たくなければ言葉を交わす事もしたくない。彼女は豹変し悪鬼の様な面構えのままゆっくりと屋敷を歩いていきその奥に向かった。

途中ですれ違った若い女中がケユウの姿を見かけた

「ヒィ…!」とその姿を見て小さな声ではあるが悲鳴を上げた。

今のケユウは怒りと妄執に囚われ依然とは別人の様な顔つきになっており、ろくに風呂にも入らず引きこもっていた彼女の髪はボサボサ。着ている首領家の血筋の証、白き衣もくすんだ色になって薄暗い日の沈みかけた場所で見るとそれはまるで悪霊の様な姿であったからだ。


女中は恐る恐る「ケユウ様…お体は…!?」と声をかけたが一切無視した。

しつこく追いかけて来ていたがやがて年老いた女中に止められ、ゆらゆらと怒りに取り憑かれて屋敷の奥へ進む彼女を心配そうに見送るしか無かった。


「でも…あのままでほっといて宜しいのでしょうか!?」


若い女中が静止した老婆の女中に話しかけるもただ老婆は悲しそうに横に首を振るだけであった。

家に長く仕えた老婆は何かを知っている様ではあった。





首領屋敷の奥に普段は滅多に使われない歴代オアキッパ、そしてア・メサア島とクアン・ロビン一族の伝統を記述した書が多数眠る書庫がある。ケユウはこの屋敷に暮らしながら…今までの生涯ではあまりここには立ち入った事が無い。難しい島の歴史とびっしりと文字が書き込まれた本等に子供の身であった自分に興味が湧く筈も無く、ただ偶に母がこの書庫に入り調べものをしていたのだけはうっすらと覚えている。


すこし昔、まだ島で紙が貴重だった時代。

大陸と交流が薄かった時代には島では紙が貴重品であった。

そんな貴重な紙を贅沢に本として残していたこの書庫は島の歴史、民俗学的にも大変貴重な場所となっている。幾度となく首都の学者がこの書庫の立ち入り許可を求めてきたが歴代オアキッパは全て断ってきた。ケユウ自体もそんな学者が許可を求めて、そして母に断られる現場を幾度か見て来ていた。きっとここには…先程の「悪い考え」の裏付けが取れるような物があるのでは無いか?彼女はそう考えて初めて自分の意思でこの書庫に足を運んだ。そして中に入るなり内側から鍵をかけた。


書庫は紙を劣化させる日の光を避ける為に窓は一切ない。

暗闇で包まれたがケユウはしばらくの中で目を慣らすと、入り口近くに置いてあったエーテル式のランプを確認してそれに火をともした。以前は蝋燭の灯りを用いていたのだろうが書庫の火事を避ける為にまだ島でも屋敷でもそこまで普及していない魔機式の照明を、今のオアキッパはいち早く導入していた様であった。それを持ち上げたケユウは書庫の中心辺りにの床に降ろした。そして周りにある本棚を睨みつけると次々と半狂乱の如く奇声をあげながら本を引きずり出しては投げ、引き摺りだしては床や壁に叩きつける様に投げつける。宙を飛ぶ本が床や壁や、書庫の扉にぶつかり音を立てて落ちていく。


「封の贄の後に!!光の柱が沸き上がる穴底から生還した島の人間の話など一聞いた事があるかっ!!!!」


足元に落ちた本を何度も踏みつけながらケユウは吠えた。

息を切らせながら、本がボロボロになり装丁がほどけそうな程に何度も何度もア・メサアの歴史と一族の秘伝が書かれているあろう歴史ある本の数々を踏みにじり続けた。


「こんなっ…!!!こんなくだらぬ!!!!いたずらに無実な人の命を奪い続ける島の歴史なぞ…!!!!!うううっ…イロバ様…イロバ様……!!!!」


呪いだ。

この島は呪われている。

自分の一族がその呪いを率いている。



この書庫に眠るクアン・ロビン一族の歴史と秘密が記述された本の数々ですら憎らしくてしょうがなかった。自分の大切な人の命を奪い、優しかった母を豹変させたこの島の、オアキッパという一族が。憎らしくて憎らしくてしょうがなかった。

顔を両手で押さえて嘆くケユウのその手に赤い光が宿り、その光はやがてケユウ本人顔を燃え上がらせるかの如く包み込んだ。怒りと悲しみが心の中から抑えきれない程に溢れ暗闇の書庫の中を不気味に照らした。


「許さない…絶対に…!!」


ケユウは自分が踏みつけてボロボロにした本を拾い上げ、それを食い入るように読み始めた。

クアン・ロビン一族の、自分の血に流れるオアキッパ首領家の秘密を少しでも拾い上げる事に全神経を集中させた。眠っていた能力が一部開花したせいであろうか、難しい書物の内容がスラスラと頭に入って来るのがケユウ自身にも判った。でも、それはあまり彼女にとっては気持ちの良い物では無い。

その日、ケユウは一晩も眠らずに書庫に眠っていた一族の記録を書き記してた書物を読み漁った。何度か先程の若い女中が心配してか外から声をかけてきたが一切無視した。あまりにもしつこいのでこの赤い拳で殴り殺してやろうかとすら思った彼女は全身の力を込めて腕に赤いオーラを拳に纏わせて内側から扉を殴りつけてやった。

「バキィィィィイイイ!!」という大きな音を立てて殴りつけた部分が吹き飛び風穴が空いた。


「黙れ。これ以上喚くならお前を殺すぞ…!」


若い女中は自分の体のすぐ横を吹き飛んで行った扉の破片に腰を抜かし、その後は何も言わずにただうなだれて立ち去って行った。ケユウは再び書物に没頭していく。

一族の記録を残した書物の数々はケユウに今まで知らなかった事実を次々と教えてくれた。

この書物の数々は「オアキッパ」として覚醒した者にしか読み取れない特殊な術法によって文字が描かれた魔術書とも言える物である。ただこの時のケユウはそれには全く気付いてはいなかった。ただ歴代のオアキッパが記述した内容から明らかになる事実に驚きと、そして怒りしか湧いてこなかったのだから。

湧いてくる絶望と怒りを押さえつけながら、時より暴走しそうになる自分の感情とこの赤いオーラを何とか抑えながら…彼女は読書を続ける。


その日の夜が明け、この島の光の柱から湧きたつ金色の霧が太陽の強い光に塗り潰され淡い色になり、やがて透明になり目視が出来なる頃…。ケユウはこの書庫の本を全て読み終わった。

最後に読んでいた一族の記録書を閉じ、そのまま本を赤いオーラを纏った両腕で力任せに何度も何度も引きちぎり一つの紙屑の山にした所で彼女は立ち上がった。

そのまま書庫の扉を片腕で力任せに殴りつけて扉を半壊させて乱暴に外に出る。もうケユウの眼には怒りの感情しか宿っていなかった。赤いオーラを全身から漂わせて彼女は母のいる部屋まで真っすぐに歩み始めた。


彼女は知ったのだ。

首領家に伝わる、最も酷く醜く、陰惨な因習の事を。

知ってしまったのだ。




屋敷の右奥にある母の部屋。

今よりもっと幼き頃はよく一緒に寝て、毎日を過ごした部屋。

あの部屋からは一際この島の柱がよく見える。

夜になって金色の光を纏い飛び立つミヒョワ様…地這蝶の群れも。


母・オアキッパとよく一緒に見た。


あの時、何故ミヒョワ様は金色になって飛んでいくのと無邪気に母にケユウは質問をしていた。


「ミヒョワ様は…島の記憶を覚えているのよ、人間はね。辛い事も嬉しい事もいずれ忘れてしまいますから…。代わりにミヒョワ様が覚えていてくれるのよ。きっとケユウが大人になってオアキッパとなる日までの事を覚えていてくれますよ。そう、今、この瞬間も…。」


そう、二人で飛び立つ地這蝶を見ながらケユウに優しく教えてくれていた。


この日の事もきっとミヒョワ様は覚えているであろう。


そしてそれがケユウを長きに渡って苦しめるであろう。





母の居るであろう部屋の襖を開けて、赤いオーラを纏ったケユウが足を踏み入れた。

オアキッパはいつも通り白い衣を着てそれを待ち構えていたかの様に目を閉じて、何処か悟ったかのように待ち構え、座っていた。母は娘を待っていたのだ。


「逃げもしないとなると…これも受け入れるか。」

銀色の長い髪を全身から放たれる赤いオーラで舞い上がらせながらケユウが呟く。


「…ケユウ、立派になりましたね。」

母・オアキッパは両目を開けてしっかりとケユウを見つめた。

その顔は今から行われる事を受け入れる覚悟と、そして何処か憂いを帯びていた。


「二千三百萬計画、古き考えを捨て島を新しい価値観の元に改革を行う…。それを発案して実行して来たのは貴様だろうが…!?この今から行われる因習も受け入れるか!?」

大きく目を開いたケユウが母を睨みつける。


「元より代替りは変える事は無く……。私はもう…。」

寂しそうに母が言う。

その観念したかの様な姿は更にケユウの感情を逆撫でした。


「黙れっ!!!封の贄は撤廃したのでは無かったか!?よくもよくもよくもやってくれたなぁ!!!!!何が二千三百萬計画だっ!!何が新しい島の在り方だ!!!イロバ様をよくもぉぉおおおお!!!!」

激昂したケユウが右腕に一層力を入れる。

赤いオーラが伸びて一振りの歪な形の剣状に形を変えた。

紅の刃が出来上がる。

オーラを揺らめかせながらも先は鋭く伸びたその剣はケユウの怒りの感情の表現その物であった。


ケユウはオアキッパに向かって赤い剣を構えて腰を低くし一直線に走り出す。

その瞳は完全に朱に染まり血管が血走り・・・そして涙を浮かべていた。

そのケユウを母は抱きしめる様に受け入れた。

受け入れるしか無かった。

それで娘にした事、許して貰えるとも思わない。

ただ彼女が、ケユウがこの先も強く生きてくれる様に。

それが最後の母の願いであったのだから。


ケユウの生み出した刃は母の腹部を鋭く貫いた。

「ドジィイイイュゥ…」という音を立てて刃から放たれるオーラが肉を焼き尽くしながらオアキッパの腹部を怒りの炎で焼いていく。


「お…ああっ・・・・!」


母は血を吐き、呻きながらも突撃して自分を貫いたケユウを震えた両腕でしっかり抱きしめた。


「死ね!死ね!!死ねええええええええええええええええ!!!!!!!」


怒り狂ったケユウがそのまま腕に力を入れてオーラを滾らせ、母の腹部を焼いていく。


「お、ああ……ケ、ケユウ……強く、強く生きて…ね…私の分も‥‥貴女は今日から…この島の首領、クアン・ロビ…ンの…。」


「黙れっ!!!貴様の声なぞ聞きとう無いわ!!!二度と喋るな!!!!死ね!!!死んでしまえ!!!」

泣きながらケユウが顔を上げて母を睨みつけたが…その目の前で見る母の顔にケユウはハッとする。


優しかった。


子供の頃から見覚えのある、慈愛の自分をいつも優しく包み込んでくれた母の顔のそれだったのだ。


「何故そんな顔をするっ!!悔しがれ!!絶望しろ!!抵抗しろ!!!怒れ!!喚けよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!歴代のオアキッパは母子で殺しあったと言うでは無いか!!!何故抵抗しないいいいいい!!!!!!!!!!!!!」

ケユウが泣きながら更に力をいれて母を朱色のオーラで焼き続ける。


「あおおお!!ああ…!!ケ、ケユウ……。辛い事も…ある…け…ど…頑張って…頑張って・・・!!貴女はもう……首領になるのだから!!ああああああっ!!」


「死ねよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


「ケユウ…元気でね…母は…貴女を…… ッ!!」

言い終わる前に母・オアキッパは力尽きてぐったりと娘の方へその身を倒した。

ケユウは朱色に染め上がった剣を消し、己のオーラも収めてその気を失った母を受け止めて、そして大声で泣いた。母の腹部から出血した血で白き衣を真紅に染め上げながら。


覚醒した自分の力を持って先代の命を奪う事…。それがオアキッパ一族の継承の儀であったのだから。


全てを悟った。

母は自分を焚きつける為に業とイロバを封の贄の儀式に利用したのだという事を。

自分が男の人に恋をした事…初恋の心の高鳴りと喜び、それこそがオアキッパとして覚醒する為の一つの重要な、血に眠られた首領としての魔の才を解き放つ為の重要なキーであったという事を。


そして、もう一つは母の命を奪う事。


赤いオーラは恋の高鳴りとその後の絶望から目覚め、そして代替りの最後の仕上げは…母の命を朱色の剣で貫きその体と命から直接、魔の力を奪い自分の力とするという因習を。

彼女は、この日からケユウでは無く132代クアン・ロビン一族首領オアキッパとなった。

若干12歳、歴代の記録で見ても最年少と言っても良い程に早く、そして記録に残る中で最も残酷な継承であった。



「あああああああああああ!!!!母様ぁああああああああああああああああああああ!!!!!あああああああああああああああああああああああああああああ!!!うあああああああああああ!!うああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」



ケユウの叫び声が屋敷中に響き渡った。

それを聞いた屋敷内の年配の女中達は頭を下げてその叫びを受け入れた。

彼女達は長くこの屋敷で働いていた中で、この継承の儀を過去にも味わっていた。

先代の死と一族の長の誕生の叫びを、ら新らたな132代を涙を流しながら祝うしか無かったのである。



「…これは、私の代で終わらせる!絶対に!」


ケユウは力尽きた母を両腕で抱えてそのまま屋敷を出ていく。

屋敷の人間はただその光景を頭を下げて門まで見送るしか無かった。


「母様…私はオアキッパを継ぎます…。ただ、母様のやった事も許せない…!!絶対に!!!だけど!!母様が私に託そうとした事も!!ううううう‥‥…!!」


母を抱えながら彼女はア・メサア島の中央部を目指した。

この島の中央部に沸く光の柱、封の柱…。普段は一族の聖地として例え首領オアキッパですらも立ち入りが禁止されている場所。彼女は無心で母を抱えながらその柱が湧く穴に向かって歩み続けた。途中で力尽きた母を抱えたケユウを見た若い島民の男が驚きの表情を上げて叫び上がりそうになった。ケユウは母の帰り血を全身に浴びて真紅に染まっていたのだから。

だが同行していた年配の男が慌てる若者を制止させ、彼の頭を押さえつけて共に頭を下げた。

年配の男は「代替り」の儀が行われた事を過去の経験から悟っていた。



「ケユウ様…!!こっ、これは!!オアキッパ様が…!?」


島の中心部、封印の光の柱が湧く大穴へ続く崖への道。

大きな門があり普段は人の立ち入りを制限しているこの道にケユウが母を抱えて真っ赤な姿でやってきたのを目撃した見張りの男が驚きの声を上げた。


「継承の儀だ…お前は知らんのか?それが行われた、たったそれだけ…。さっさと門を開けてここを通せ!!」


「継承が!?は、はいっ!!」

男はオアキッパとなったケユウに圧倒されて言われた通りに慌てて門を開けた。


若干12歳とは思えぬ程の威厳に満ちたその姿に見張りの男はただただ圧倒されていた。

大きな門が男によって押し開けられ、ケユウはその道を母と二人で歩んでいった。

門を開けた先はつり橋になって崖に囲まれた島の中心部、光の柱を巻き上げる大穴に続いていく。

ケユウはそのまま母を抱え、休むことなく橋を歩み大穴へ向かう。

穴に近づくにつれて、二人の周りに黄金色の蝶がただよい始めた。日のある時間は屋敷で羽を休めている筈のミヒョワ様が二人の親子の周りを群れとなって飛び回っている。まるでこの日を忘れずよく覚えていようとするかの如く彼女らの周りを。

昼間であると言うのに、強い黄金の輝きをその翼に纏わせながら…ゆらゆらと。



「地這蝶…母様と幾度となく飛び立つ時を眺めていた…。イロバ様がいらっしゃる合図でもあった…母様?この日もこの蝶は覚えているのでしょうか?私は…あまり思い出したくないかもしれません。でも、母様との最期の別れですから…きっと覚えているでしょうね…。」



両腕に抱えた母にケユウは語り掛けた。

涙は止まり、皮膚や髪に浴びた返り血も乾き始めた。

彼女の視界の目の前には大きな大きな光の柱がそびえ立っていたのだ。


「母様…。全てを知った今、貴女の気持ちも判る。でも、やっぱり許せない……。私の恋に気付いて監視していた事、何よりイロバ様をこの世から亡き者にした事…。何より…一族の掟に反して抵抗せずに殺された事…。母様?知っていますのよ……親に歯向かい一族の長としての魔を得る為に、先代に力及ばないのならまだそれは後継ぎが長になる時期でも器でも無いと……。でも、母様は私の刃を受け入れた…。元より母と子で争う気は無く、私に抵抗する気は無かったのですね……。母様は私を困らせたいのだか、そうで無いのだか……。」


132代目オアキッパの眼に再び涙が溢れた。

これが、今自分が無傷で代を継承できた事実が。

これこそが最後の母の優しさだったとしたら、余りにも悲しいと。

そして首領の家に生まれた母子の残酷すぎる現実と最後なのであるから、その宿命と定めにオアキッパとなったケユウは涙した。


「さようなら母様…!うううっ!!!でも、私は!!!それでも!!!貴女を許せないっ!!!ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


オアキッパは母を光の柱が湧く穴底に叩き落とす様に投げつけた。

血で真っ赤に染まった衣を着た母が光の柱に包まれて消えていく、彼女は母を愛したイロバと同じ方法で始末する道を選んだのであった。こうする事でこの因習に終わりを告げる道を…この時のオアキッパは選んだのであった。






「母様ぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!母様ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!イロバ様ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





柱の光に照らされながらオアキッパは叫んだ。

この日、ケユウは島を収める首領・オアキッパとなったのである。


そして、この世で最も愛する二人の人間を失った。




ケユウの叫びを多くの地這蝶・ミヒョワ様が群れを成して空の上から見つめていたのであった。















15年後-







第132代目

クアン・ロビン一族首領、ア・メサア代表者オアキッパ・インズナは27歳となっていた。






年齢を重ねた彼女に、

次なる後継ぎの誕生を周りの人間が心配する中、






まだ、彼女に子供はいない。













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