その意識達の邪眼
「グミン、アリマ、イホムゥ、シャクド、ホニンユウ、カンミニワ、それにワンイにジツケ、他の皆も…。」
竜との戦場となり、荒れ果てた姿となったとある島に一人佇む男が呟く。
この島には竜が寝床にする為にその強大な力で広げた大きな空洞が中心部にあった。
激しい戦いで乱れた魔力と竜の力が島の上空で入交り悲鳴を上げて雷を呼び、付近はドス黒い雲に覆われて嵐を巻き起こしていた。
鋭い唸り上げる風に叩きつける激しい雨、鳴り響く雷雨。
抉れた大地にボロボロに切り刻まれた島の海岸。
壮大な神の如き力を持つ金色竜と戦い、敗れた人々の長とも呼べる人物がその嵐の中で立っていた。
「皆…、意識はあるか?記憶はあるか?私が私だと判るかい…?」
男が胸元に抱えた金色に光る球体に向かって話しかける。
そこには男一人しかいないのに、である。
(問題ない…)
(無事だ…)
(君がそれを形に出来た事は僥倖だ…)
(我ら、決して滅びぬ…)
(ああ、決して。)
その金色に光る球はその男に向かって次々と語り掛けた。
それは音の空気を震わす言葉では無く、心の波動に触れて震わす言葉。
耳では聞こえず、心の震えで伝わる声。
「竜は我らの多くを滅して眠りについた…。となれば我らの道は一つ。」
(そうか、君はまだ諦めていないのだな)
(いや我々も諦めていない、そうだろう?)
(神代の力を我らは捉えたのだ)
(うむ。何十年何百年何千年の時が流れようとも)
(さぁ…君も)
「ふふっ…」
地獄の様な嵐に包まれる島に佇む男が一人、笑う。
「皆、早まるな。私はまだやる事があるではないか。」
(その役目を終えた時…君は?)
(待っているよ、我々は一つだ。いや、そうではない)
(長い時を心と心、魂と魂、魔力と魔力重ねても)
(我々は個を維持していこう)
(こうなって判る、それはとても辛い事だね…)
(ああ、判りあえているのにね。何もかも。)
「心配するな皆、必ずこの役目は果たす。そしてその時は皆の所へ行こうじゃないか。私だって君らと離れるとは寂しいのだ、辛いのだ、涙が溢れてしまう。だがこれも皆の、一族悲願の為に。」
(待っているよ…)
(支えてあげるわ…)
(理解しているさ…)
(必ず、必ずな。君…そう、オアキッパ。)
「ああ、私がこの島を第二のア・メサアとしよう。皆が肉体を取り戻して神代の姿で再び顕現したその時に。皆や…もちろんこの私だって寂しく無い様にね、フフハハハ!!この島に我らの故郷の光景を再現して見ようじゃ無いか…。草木も、生き物も全て、な…。」
(うん…)
(ああ…)
(ええ…)
(うん…)
(良かった…)
男が胸に抱えていた金色の球がバラバラに黄金の粒子となって消滅し、その光の粒の一つ一つが男の体の中に吸収されていく。
「今日からこの島はア・メサアである!!!!フフフフハハハハッハ!!!!!!!!!!!グミン、アリマ、イホムゥ、シャクド、ホニンユウ、カンミニワ、ワンイ、ジツケ!!!他の者も!!!必ずや金色竜の力を我らは手に入れ!!この星の頂点となり永劫の時を個の意識を保つ肉体と共に!!!!フウフフフフハハッハハハハハハ!!!!ヒイイイイアアアハハッハハハッハハハハア!!!!!」
降り注ぐ豪雨と豪風の中、心の声でオアキッパと呼ばれた男は狂ったように叫ぶ。
島の中心部からは金色の光が溢れんばかりに噴き出して光の柱となった。
ズタズタに崩壊した島の大地、嵐の上空、光の柱。
まるでこの世の物とは思えぬ凄まじい姿をそこに現していた。
やがてその島の吹き上げる光の柱に吸い寄せられる様に周辺の島々で暮らしていた人間が集ってきた。
オアキッパと呼ばれる男は絶大な魔力を持ってそれらの人々を従え、一つの国とも呼ばれる集団を形成する。オアキッパはその生涯を魔の力を持って島の復興故郷の再現をする為の生態系や自然の調整、そして自らの一族に課せられた研究に没頭しつつも島を統治していたが、晩年になって若い女を一人娶り、子供を作った。
そしてその子供に自分の力を授けた。
この島を統治する一族の跡目としてその子供に力を託したのであった。
その子は、女の子であった。
この娘は、父親を自らが作り出した赤い光の刃で貫いて殺害している。
2300年前
ア・メサア島の誕生であった。
同時に最後の竜が眠りについたその時は、一先ずの神代の終わりの時でもあったのだった。
そう、一先ずの。
…
……
………
「あだだだ!!!」
この島の調査の為に滞在しているホテルの自室にて一人の女の子、ロンロ・フロンコがベッドの上で汚い低い声で悲鳴を上げる。
「なーにその声?人間の女の子ってそんな声が出るの!?」
その悲鳴を上げた女の子とそっくりの容姿をした者がふわふわと部屋の天井付近をくつろいだ姿で浮かびつつ呆れながら返事をした。
「あんたが昨日私を投げ飛ばしたんでしょ!全身痛いんだから!!」
「そのさー、受け止めて上げたじゃん。血だって流れて無いのにおーげさなおーげさ!」
「うっさい!!その時の衝撃でも相当なもんよ!ったくこれだから人外やら超越者は…。」
「はいはーいゴメンナサイゴメンナサーーイ、ロンロさんはもう投げつけませーん。こういう時は謝れば良いんでしょ?漫画で読みましたー。」
ふわふわ浮かぶ女の子、竜の化身。今は投げつけた女の子の容姿を借りているメルバーシは空中で寝そべりながらタブレットを動かしてロンロの趣味で閲覧している少女漫画を勝手読んでいるのである。
「まったく…。その「彼」に嫌われても知らないんだからそういう所。」
「え…どういう所!?」
ぐいーっとロンロの前にメルバーシが宙を漂いながら顔を近づけてきた。
自分と同じ顔が急接近してくるのはなんだか気持ち悪いとロンロは思う。
「ガサツ!乱暴!人の話を聞かない!直に頭に血が昇る!」
メルバーシの頭を掴んでぐわんぐわん揺らしながらロンロが答える。
「あいぇえうえええええぇえ…判った判ったぁぁぁ…気を付けるぅぅううう。」
「気をつけなさいよ!それと本当に人間なんて脆いんだから!コロっとあっという間に死んじゃうんだから!!」
「うん…まぁ……それは知っている。私が殺したクアン・ロビンの連中も。「彼」だって…。あっという間に死んじゃって…」
メルバーシの中で嫌な記憶がフラッシュバックしていく。
そう、あの時の「彼」は本当にあっけなく死んでしまった。
この程度で人は死ぬのか、その魂の存在が消滅してしまうのか、あまりにも呆気なかった彼の最後。
膝を抱えて顔を伏せて彼女は空中に力無く漂う。
「…あーね。判ってるなら良し。それに何千年も前に終わった事をクヨクヨしない!」
「だって寝てたし…私にとってはつい最近…。」
「その彼、現世に蘇っているんでしょ?いや実際は同じ魂の形をした「彼」なのかな?」
「うん……でもね確かにね。私その「彼」と再び出逢えても上手く一緒に暮らしていけるのかなって…。なんか心配になってきちゃった……。」
「んっふっふ…心配無用ね!美少女たる私の姿を借りたのならもう彼もイチコロよイチコロ!そこは心配するだけ損ってもんね!!!」
妙に自信あり気にロンロは胸を張って答えた。
「ええ…。なにその自信。え?何?ロンロってそんなに自分の顔や体に自信あるの?あの、その…彼と肉体年齢近そうな女の子を偶々見つけたからコピーしただけなんだけど。色々人間社会の美醜も判ってきたから変えるのもアリかなって思ってきてたんだけど…。」
「あーーー!?何か文句あるの!?」
「えとその、おっぱいとか背とか小さいかなって。鼻筋ももうちょっとスラっとしたのとか。髪の色は元の私と同じ様な金色で気に入ってるんだけど。あーそうだ、色々な美人のパーツ集めて良い所取りしたらいいかも?」
「シャラップ!!オリジナルを活かしなさい!!自信を持て!!著作権元に敬意を払いなさい!!あとおっぱいが小さいとか背が低いとか何よ!!アンタが自分で私の姿を選んだんでしょ!!自分の選択に誇りを持ちなさい!大丈夫!きっと大丈夫!問題無し!!彼も一発でメロメロ!!!」
「…。」
メルバーシは冷たい目線をロンロに送る。
「やめて、あまり言うと私が傷つくから!やめて!その目も止めて!!ほ、ほらさっさと朝食済ませて調査に行くわよ!もう日にちも無い!!」
「まぁ投げ飛ばした借りもあるからさ、一先ずはこの姿にしておくね。…おっぱいぐらい大きくしようかな…。」
メルバーシは床に着地するとそのまま部屋のドアを開けて先に出ていった。
「こらー!改造禁止!元々私の姿モデルは配布しているフリー素材じゃありませええええん!!」
怒りの声を上げながらロンロはメルバーシの姿を追いかけて慌てて鞄を持ち上げて追いかけて行った。
ロンロと竜の化身メルバーシがそんな同年代の友達の様な会話を繰り広げていた頃。
崩壊した屋敷のその敷地内にある、本来は使用人が仮住まいする小さな小屋で当代の首領は目覚めた。
132代目オアキッパ・インズナ。
彼女の魂の中には当初の島に降り立ち竜と戦ったクアン・ロビン一族や歴代の首領の魂と声が常に響き渡る。それは、個の無い地獄だ。
オアキッパの心の中では今も尚その魍魎達が動揺して彼女の魂とその心を不快に搔き乱している。
昨夜の竜の名を知られた衝撃は今も尚収まっていない。それは2300年の間により一層凝り固まった執念故に、である。
(あのおなごを殺せ…!)
(心の臓を貫け…!)
(息を止めるのです…!)
(子供一人、首を捻り殺すのは容易い…!!)
(そなたは当代の首領!我らの繋ぎ手ぞ!!)
「やかましいわ…死にぞこない共が……。」
使用人が掛けてくれたくれたであろう布団を払いのけてオアキッパは小屋から這い出る様にして外の日の光を浴びた。本来夜に活動するクアン・ロビン一族の、この島の民としての感覚ではこの日の光は安眠を齎す為の存在ではあるのだが。大陸の人間からしてみれば「夜中に目が覚めた」という感覚であろうか?小屋の外で寝ずの番をしていた女中が3人程、直にオアキッパの元に駆け寄ってきて跪いてオアキッパを気遣う。
「オアキッパ様…お体の方は?」
「オアキッパ様。」
「一先ずは無事で何よりで…。」
女中たちを見下ろしながらオアキッパは思う。
「歪よのぉ…。其方らも、我も、この島の何もかも…。」
「…オアキッパ様?」
年配の老婆の女中がオアキッパの発した言葉に対して良く解らないといった反応を取った。
「まぁ良い…それも終わりにしようかの。婆、皿を一枚持ってまいれ。あとは清潔な布切れと大量の水を入れた桶じゃ。」
「何をなさるおつもりで…?」
「終わらせるのよ。ほら急げ。……屋敷も潰えたろう?今までご苦労であったな。永き事様々苦労はかけたであろうがこれが我の本当の我儘よ。聞いてくれんか?」
オアキッパは静かに微笑みながらその婆と読んだ女中に話した。
「判りました…。何かしら魔の儀式を行うのであれば。」
婆は立ち上がり崩壊した屋敷に向かい、片付けを行っていた他の男の使用人に命じてそれらを準備させる。
オアキッパは自らが倒壊させた屋敷を見つめた。
己の力によって切り刻まれた柱が無残に倒れ、倒壊した屋根からは瓦が崩れ落ちて辺りを無残に散らかし、灯りの火から燃え移り延焼した床や壁は辺りにコゲ臭さを振りまいている。ここは、オアキッパがケユウ・ウンとして幼少期を過ごした家でもある。大好きな優しい母様と日々安らかな日々を暮らしていた場所でもある。そして、その母を殺め、当代の首領に君臨した場所でもあったのだった。
「母様…貴女は私の中には居ない…。だから遠慮なく。…何処にいるのやら。フフフフ。それに………この狼藉お許しください。一族の流れを、私が潰してしまう事を、ね。母様?何処かで見ていらっしゃるのか…。空の上か地の底か、それともあのミヒョワの中にでもいらっしゃるのか。フフフフフ。」
やがてオアキッパに命じられた品々を抱えて使用人が集まってきた。
婆が何かを察して屋敷の片付けや復旧作業を行っていた使用人全てを当代首領の前に集めさせる。
その数は老若男女合わせて30人程にもなった。
「…やれやれ。ぞろぞろと集まっての。まぁ良いわ。」
それらの使用人の人々が跪いて彼女を囲む。
島の絶対的な立場である首領オアキッパに対しては服従しなければならないのだ。
監視の魔の目が、裏切り者に制裁を与える。
因習となってそれは現代にも続く。
破った物は無残な最期を遂げてきた…封の贄の風習もその一つである。
初代オアキッパは島の人間を、その絶大な魔力を持って恐怖として表現して統治していたのである。
皆の前でオアキッパは目を瞑り精神を集中させた。
まだ心の中で魍魎達が唸り声を上げて竜の秘密を暴いたおなごを殺せ!と喚き散らしているのだがオアキッパは知っていた。その中に母の声が無い事を。
優しき母は、その様な醜き声を上げない事も知っていた。
何かを喋ろうとするオアキッパを30人余りの使用人知多も固唾を飲んで見守る。
オアキッパ・インズナがゆっくりと目を開けた。
「皆の者、我らクアン・ロビン一族とは、ア・メサア島とは何か?」
オアキッパの問いかけに使用人たちは訳も判らず動揺した目線を送る。
余りにも抽象的な問に誰もが答えられずにいた。
その中で一人が声を振り絞って答える。
「それは!オアキッパ様とその統治の姿その物でございます!オアキッパ様がこの島を代々納めて伝承の元!この光柱の元に2300年以上も我ら存続したその歴史と統治その物であります!!」
従者の答えもまた要領を得ない抽象的な答えであった。
しかしまたそれはオアキッパに従う島の民として模範的な答えでもあった。
それを聞いたオアキッパの口角が少しあがった。
「その通りよ…2300年の島の歴史が証明しよう。だがその真は違う。」
オアキッパは返答しながら従者から渡された皿を片手に持って胸元で構えた。
首領オアキッパは続ける。
「その真は、歴代の祖先達の妄執よ。あの魑魅魍魎達は求めたのだ…。この光の柱の力をな。」
目線を光の柱に送ると30人程の従者も柱に顔を向けた。
昼間の柱は太陽の光でぼやけてはいるものの、その力強い輝きは夜の暗闇程では無いにしてもはっきりと確認出来る。
「我の首領一族はその為にこの島の歴史と命と形を塗り替えた。お前達の不自然な生活も、風習も、理不尽な教えもその魑魅魍魎が作り出したのよ。まっこと自分勝手な奴らよの。我の心に住み着いて…歴代の首領も、先代の首領、母様もきっとな。……母様。何故貴女は私にこの様な呪いを継がせたのか…。だからこれでお終いとしようではないか。…もう良いだろう。」
「オ、オアキッパ様?」
「一体何を…」
「まだ体調が芳しくないのでは…?」
次々と従者が疑問の声を呟き始めた。
何を喋っているのか理解出来ない従者の数人が立ち上がりゆっくりと彼女に近寄ったその時であった。
ブシャアッ!!と何かの液体がオアキッパの顔から噴き出した。
その中で先頭にいた若い女の従者の着物と顔に、その赤い鮮血が真っ赤に染めてしまう程に降り注いだのである。
「え…?これ…あ、え?あれ?ああっ!!!オアキッパさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああっ!!!オアキッパ様!!!何を!!止めて下され!!!どうか!どうかあああああ!!!!」
「と、止めろ!首領様を止めろ!!!このままでは死んでしまうぞ!!!」
従者たちはオアキッパの様子を見て次々と悲鳴を上げた。
血を浴びた若い女の従者は動転してしまいその場に倒れ込みつつも悲鳴をあげている。
婆はその狂気の光景に普段閉じがちな目をくっきりと広げてしまった。
若い男の従者数人が首領の凶行を止めようと必死の形相で駆け寄っていく。
「はぁっ!!!!!」
オアキッパは右手から赤い光のオーラの剣を生み出しそれを振るって衝撃波を発生させて駆け寄る従者たちを薙ぎ払った。殺してはいない、近寄せさせない為だ。
「黙って見ておれっ!!!これで魑魅魍魎共もこれまでよ!!!!!お前達を縛り付ける風習も伝統もここで潰えるのだぞ!!!!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!ぐううあああっ!!ああああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オアキッパの左手は人差し指と中指を突き立てて己の左目の眼球に突き刺していたのである。
夥しい血が辺りに飛び散り、奇声と悲鳴と鮮血と、崩れ落ちた屋敷の光景は正に狂気そのものである。
赤い血が、赤い血が、彼女の白い着物を染めていく。
赤い血が、赤い血が、彼女の銀色の髪を真っ赤に真っ赤に染めていく。
第132代クアン・ロビン首領オアキッパ・インズナは悲鳴を上げながら血をその穴から噴き出しながら己の人差し指と中指を更に深く深く突き刺していく。
「はあっ!はあっ!はぁぁぁああ!!!こいつらは!!魑魅魍魎共は我の心に!!!まして魂などに居を構えておらんかったのよ!!!!!あの監視の左「眼」アツ・キィ!あの魔の法そのものがあのカス共の真なる居場所よ!!それを!!ぐああああああっ!!あああああっ!!!!それをなぁぁ!!!!今ぁぁぁああああああああああああ!!!我自らの手で引き抜いてやるまでよ!!!!!!あの煩いゴミカス共ををなぁあああ!!!!!そうよそうよ!!!我は理解っておったわ!!!この我の目こそが!!!歴代首領の左目こそが監視の目!この島を縛り付けるアツ・キィの依り代でありっ!ぐぐぐうああああああっ…うううっ・・・・ああああっ!!お前らがここに居た事もなぁああああああああああああああ!!!あああっ!!くぐああああっあがおうがあ!!!!」
オアキッパの魂の中で蠢く意識達が次々と異変を察知して悲鳴を上げ始めた。
(何を、何を…!!)
(我らを!!!!2300年に渡りこの島を作り上げた我らを!!)
(なんて事を!!!其方も永遠になれるというのに!!!)
(我ら個を維持している!!お前もいずれ永遠になれるのだ!!!)
(やめろ!)
(やめろ!!!)
(オアキッパが!!初代オアキッパの成した未来への希望が!!!!)
(それこそ黄金竜の力の一旦なのであるぞ!!!)
(我らを消すつもりか!!我らを!!!!!)
(やめろ!!)
(やめてくれぇえ!!!)
(やめるんだ!!)
(やめて、やめて…!!!!!)
(やめてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!
(お前も死ぬぞ!!!!!)
(止めろ!!いま直にその手を止めろ!!!!!!)
(2300年以上も私たちはここに居たのに!!居たのにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃっぃぃぃいいい!!!!!!!!!!!!!!!)
(消える!!消える!!!!!!!!!!!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて私が消えちゃうやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて何をするのやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて消えっ…消える!!!!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめ消えてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて何千年と待ったのにやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて私がやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!!!!!!!!!!!!!!!!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてや私が消えめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「がっはぁ!!!!喧しいわ屑共が!!!死にぞこないの魑魅魍魎共が!!!!!!!!!!!歴代の首領の左目こそが貴様らの巣なのよなぁああああ!!!!!!!!!!!!!がはっ!!!ぐあああああっ!!!!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
オアキッパは噴き出す鮮血を掻き分ける様にして左目に突っ込んだ人差し指と中指を広げる。
そしてその2本の指は己の眼球そのものをつまみ上げた。
彼女は己で夥しい血と共にその眼を引きずり出したのである。
視神経や血管が繋がったその眼球をオアキッパは力を込めて引きちぎった。
やがて足元に落ちていた皿に向かってそれを叩きつけたのである。
ぐしゃぁっ!という気味の悪い音を立ててその眼球は皿の上に叩きつけられた。
真っ赤に染まった髪と着物に血だらけの顔
痛みと失血で意識が朦朧になりながらもオアキッパは首領になってから、初めての心からの解放感を得た。
あの、煩わしい声の数々が一切聞こえてこないのである。
「はぁっ…はぁぁぁぁっ…はぁああああああっ…。ははははは、フフフフフ!!ハハハハハッ!!!」
ぽっかり空いた片目を抑えるまでも無く、オアキッパは空を見上げた。
空の青さが美しい。
蒼く、深く、壮大で。
ああ眩しい。空はこんなに綺麗だったのか。
夜の暗闇では判らぬ日の光の美しさ、そこから心の中で湧き上がる神々しさすら感じる心の光も。
フラフラとよろめきながらオアキッパは皿を持ち上げて残った左目でそれを捉えた。
彼女の景色は血で所々真っ赤に染まっている。だか、所々の隙間からこの日の光が優しくそれはまるで新しい未来を照らし出すかのような希望に満ち溢れた物でもあった。
「はぁっ…はぁっ…2300年のお前らの悪態もここで…はぁっ、はぁっ…終わりよ!!!」
オアキッパは皿の上にあった眼球を左腕で掴んだ。
そして赤いオーラを出して渾身の力を込めて握りつぶしたのである。
グシャアッ!!!という音が辺りに響き渡る。
ある者は余りの衝撃に動けずにいて
ある者は気を失い鮮血を纏いながら倒れている
婆はがっくりと項垂れて涙を流していた。
オアキッパの周りには彼女が展開した衝撃波によって展開した赤い色のまるで血の様な障壁が出来上がり、従者は誰もそれを突破できずにいた。誰もオアキッパを止められなかった。
彼女は己の左目を己自身でくり抜いて潰してしまったのである。
「ふふっ…フフフフフフ。考えてみれば当然よな、「監視」は自分らでやっておきたいものよなぁ。その監視の魔術としてのアツ・キィ!己の眼でな…。だが、それもこれまで。貴様らとの縁も終わりよ……。」
出血と激しく燃え上がる様な左目の痛みに耐えきれずオアキッパはその場に倒れて意識を失った。
同時に彼女の周りに展開していた魔術の障壁も消え去り、まだ正気を保っていた従者が血相を変えたまま急いで駆け寄ってきた。傷は洗い流され布をあてがわれ必死の救命活動が始まる。
意識を失った静寂の中。
オアキッパは久しぶりの心の静寂に酔いしれていた。
あの魑魅魍魎の声が聞こえない静かな静かな一人の時を。
ようやく本当の私に戻れた気がする。
昨日からあの竜の名前をロンロ・フロンコという本土の調査員に知られて喚き散らしていたあいつらの声が全く聞こえない。
オアキッパは子供の頃のまだ首領で無かった自分「ケユウ・ウン」戻れた気がしたのだ。
でもここには母様はいない。それだけは寂しかった。
今となっては判る。
母親もあの魍魎共に唆され操られああしていたという事も。
でも母様はきっと抵抗したのだ、あの死にぞこない達に。
だから母様は私の中に居なかった。
母様は一人の島の人間として、母親として私からイロバ様を奪った償いの為に私の刃を受け入れたのだと。
母様は母様だった。
それが悲しくも嬉しかった。
嬉しくも悲しかった。
イロバ様を奪い、私を縛りつけた母様が。
でも母様は一人の人間として死ぬことを選び、あいつらから反逆し、あの魍魎達に吞まれなかったのだ。
母様が憎い
母様が愛しい
母様がイラつく
母様が悲しい
母様が誇らしい
母様が、母様だった。
本当の一人の人間としての涙が残った右目に浮かんできた。