竜の時を我が手に、我が一族に
ケユウが132代目のオアキッパ・インズナとしてこの島の長を母から引き継いだ時。
もうその時には…彼女は彼女の心の中にはっきりとした自分とは違う「意識」がある事を自覚していた。
オアキッパは思い出したくも無いあの時を心の中で偶に反芻する。それは先程述べた自分の中にある別の「意識」の声を聞く度に嫌でも思い返してしまうからである。
(声は…怒りに我を忘れて母を貫いた時。そう、確かに私の中で響いていた。)
彼女が先代131代目オアキッパ、実の母をその目覚めし力から発せられたオーラの剣で貫いた時。
その剣を伝って母の中から「流れて」きた感触を今でも思い出す。その時に、彼女は初めてオアキッパとなりあの意識の声を聞いた。いや脳に直接流れて来たのだ。
沢山の、声が。
脳に。
直接。
心の底から。
(今代も滞り無く…滞り無く…)
(よきかな…よきかな……)
(新しい体、新しい我ら、永遠の為の…)
(悲しむ事は無い…そなたの母も我らと共になる…)
(我らは、永遠の時を渡る為に…)
(そなたは、選ばれた…血の元に…)
(いずれ母とも、あの男とも逢える…共に歩めよう…)
(そなたの役目が終われば……オアキッパ殿……)
(それを繰り返して我ら…全ては………)
(そなたの母は、役目を終えようとしている……見事也……)
(メルバーシ……)
(メルバーシ…金色の竜…神代からの…最後の…)
(永遠の時を生きる為に…………)
(金色竜の光を……)
(まだ、まだ終わらぬ……更に長い時をかけて……)
(竜の力は本来…人の手には余る物故に、な………)
彼女はオアキッパとして覚醒した時に初めてその声を聞いた。
始めは興奮状態故にはっきりと意識できなかったその言葉は、心が落ち着くにつれて明確に輪郭を持って頭に、脳に響くようになりはっきりと自覚出来た。幻聴の類では無い事はその体に流れる血がハッキリと実を持って教えてくれていた。
不思議な事に自分の中に「意識」が突然発生したというのに彼女はそれを嫌悪する事は無かった。
自然に受け入れてしまっていた。
それがこの首領一族にかけられた呪いか伝統か遺伝か、オアキッパ自身もよくは判らないそれは。でも不愉快という物では無く。それがまるで生まれた時から当たり前の様な、そんな自覚が彼女の中に自然と芽生えていた。
既に日が暮れており、辺りは暗闇に包まれている。
「ミヒョワの営みを頂く度に…あの時の事は嫌でも思いだす者だ。」
屋敷の外に従者2名を連れて出た132代目オアキッパは夜の暗闇の中で両手を掲げた。
庭の溜め池に集っていたミヒョワ様の群れは一斉に飛びだってその金色の羽根を激しく動かして光の鱗粉を空に舞いあげた。屋敷の庭は、そしてオアキッパと従者の周りの頭上には飛びだった地這蝶が放った金の霧が集まり大きく塊となって浮かんでいる。
「嫌でもな……。フフッ。」
オアキッパは自虐的な笑みを浮かべるとその両手の平を広げて頭上の金色の霧を吸収し始めた。
地這蝶ミヒョワがこの庭に集い、この島の中央から湧きたつ封の柱の光を集める理由。かつてクアン・ロビンの一族がこの島に降り立った時にこの蝶は造られる。元来この島に生息していた蝶を古の術で改良という名の呪いの様な宿命をこの種族全体に宿らせていたのである。
地這蝶ミヒョワ、その正体は封の柱から放出される「竜の気」をその羽根で吸収して集め凝縮して当代オアキッパに注ぎ込む為の、いわば生きる竜の光の器である。まるで飲み水が貴重な過酷な場所で人間が生きる為に滅多に振らぬ雨を少しでも受け止めてため込む為の瓶の様な、その瓶の役割をこの蝶は持っていたのである。
やがて頭上の金の霧をその両手で吸収し尽くしたオアキッパは静かに腕を降ろす。
それを見届けた従者は黙って頭を下げ、主である132代目首領を労う。
蝶が集めた竜の光を吸収し尽くしたオアキッパは、今度は両手を胸の位置辺りに上げて手の平を空に掲げる。するとその手の平から激しく発光を始める。
「はーーーーっ‥‥…」
とオアキッパが大きく息を上げる。すると彼女の手からは夥しい光が溢れて激しく暴れ、そして折角吸収した筈の光は天にまた昇っていくのであった。
「ふん…2300年こんな事を続けても、所詮は竜と人は相容れぬ。ましてや生き物としての格が違いすぎるのだ。我らの祖先も、そして私の一族も長い間…ご苦労な事だ。」
まるで他人事の様にその当人オアキッパは言い放つ。
「オアキッパ様、一族代々伝わる伝統故…。」
従者の一人、歳を重ねた老婆が顔を伏せたまま彼女に告げる。
「判っておる。ただ、2300年続けた所でまだ竜の力は我が一族の魂には染み渡らなんだ。少しずつ蓄積しているとは言えるがな…僅かな物、長い長い時をかけてようやくその一欠片、といった所かな。フフッ。」
「それが首領一族の定めなればな……。あの女もよくやってた者だ。」
儀式を終えたオアキッパは己のやっていた行為を自ら嘲笑うかの様に吐き捨てて屋敷に戻る為に足を進める。今日はとある本土からの客人がこの屋敷を訪れる事になっている為に儀式の痕跡は残してはならない。
あの女とは、131代目オアキッパ。
彼女の母の事である。
27歳にもなった今でも彼女は母を許す事は出来なかった。
「意識」の声は聴いた。
あの声は、あれらの声は未来の私だというのを彼女ははっきりと自覚していた。
歴代のオアキッパはその声を受け入れた時点で母をそれ以上恨む事は無かったのだが…彼女は132人目にして初めてである。大人になって、首領の地位を受け継いでもまだ、母を恨んでいる。
彼女はまだ、母を許していない。
最愛の人を奪った母を許してはいない。
それが一族の決まりだとはあの日、あの書庫の一族が残した書物から知り得ていた事だが。
それでもまだ、許してはいない。
決して許す事は無い。
皮肉かな、その心こそが彼女の母である131代目オアキッパが望んでいた事でもあるというのを現在のオアキッパ、幼名はケユウと言われていた女はまだまだ知らない。
…
……
………
「弱っちい生き物の人間が永遠に生きられる訳が無いジャーーーーン!!!!バッカじゃなーーい!?アヒャハヤハヤナヤハヤハヤハ!!!!!普通に生きてたら50年位で終わるっしょー!!!!アヒャハヤハヤヒャビャハヒャハヤァァアア!!!!」
ロンロの借りているホテルの2Fにある隅の部屋。ベッドに座ったメルバーシが大声でお腹を押さえて笑い始めた。あまりに大笑いする物だからとうとう横になって倒れ込み苦しそうにゲラゲラ笑いながら涙を浮かべて足をバタバタさせてもだえ苦しんでいる。ロンロと同じ姿、金髪の長い髪を持つ少女となっている彼女はその長い髪を振り回してゲラゲラとベッドの上で転げまわる始末であった。
「そ、そこまで笑わなくて良いでしょ!!!ただの仮説です!!カーセーーーツーーー!!!それに今は栄養事情も良くなりましたし医療技術も上がりました!!医学も魔学も進歩著しいの!!平均寿命は男女共に70歳を超えていまーす!!!50歳程度じゃ早々に死にませーーーん!!!!いやその位で不幸にも亡くなられる人も結構いるけど!!絶対じゃ無いけど!!!!」
同じくベッドに腰かけていたロンロが顔を真っ赤にしながら反論をする。
この永遠の命説を唱えたのは他でも無いロンロ・フロンコであった。
「仮説って!!?突拍子も無い!!!ヒャーアアアアアハハハハハハ!!!!!!それにたかが20年ちょっと増えた程度!?アーーーーーーーハハハハハハ!!!!!しょうもなーーーーい!!!!」
メルバーシは未だに苦しいと言わんばかりに足を寝っ転がりながらドタバタさせてロンロの横で大笑いをしている。
「そりゃ竜の!永遠とも言える時を生きて来た貴女には20年位はちっぽけでしょうけども!!」
明らかにムカついた表情を浮かべるロンロ。
「はーーーーーっ!!面白い!!…そうねーロンロ。人間から見た虫みたいな者かしら。竜と人間の差っっていうのはね。ロンロだってその辺にいるトンボやセミが永遠に生きるとかそれを目指して活動しているとか言われたらどうする?笑うでしょ?笑うしか無いでしょ?ハハハハハッ!!」
一通り笑い終わったメルバーシが体制を整えて体を起き上がらせて再びロンロの横に座る。
「まぁ…そう言われるとね…。」
自信無さげにロンロが小声で呟く。
「ロンロって想像力豊かよねー、やっぱ学者さんだから?一杯仮説を考えたりするから?面白いね!」
無邪気に笑ってメルバーシが答える。
「職業柄ってのはあるけどね…。この仮説を思いついた一番の理由は結界の網目と、貴女に見せて貰ったあの封の柱の底の光景かな…。」
竜であるメルバーシに大声で笑われた反動か、少し自信無さげにロンロは言う。
「封の柱の底の?私の体があったあの辺りの?」
「そう、何人もの人々がまるで…ううん、あれはハッキリと判る!まだ生きている!今は仮死状態に近いのかもしれないけど!うっすら見ただけ…でも判るの。あの人達はまだ生きてると、そしてその理由はメルバーシ。貴女の体から発せられるあの金色の光が原因だとね。」
「竜の気。その、私の体から出る竜の力。それを浴びた人間がまだ生きている?…そのー、自分の事で申し訳無いんだけど全く原因が判らないわそれ!!なんで生きているのかしら?彼ら彼女らは!?」
不思議そうな顔を浮かべて人差し指を顎に当てながら可愛らしくメルバーシは首を傾げた。
ロンロはこの仕草に見覚えがあった。これは自分が持っているタブレットの中に保存されているあの少女漫画で主人公の女の子がやっていた仕草である。女の子らしいしぐさとしてメルバーシはいつの間にか学習してしまっている様だ。
「そのポーズ…まぁいいや。そしてあの結界の網目模様ね。あえて蓋をせず外に漏らすかの様な。…クアン・ロビンの一族は、この島の人達、少なくとも首領一族は貴女の体から発せられる光を利用としているのよ。これは間違いないと思う。」
腕を組みながらロンロはメルバーシの疑問に答えた。
「ははーん?網目の結界とあの穴底で仮死状態になっている人々。その二つを結びつけたのねーなるほどーーー!!!……あのさ、言っちゃ悪いけど安直じゃないソレ?」
生意気な、人を食ったかのような笑みでメルバーシをロンロを見つめて返答をする。
「よく聞きなさい、もう一つ理由があるの。あの石碑も理由の一つ。」
「ホホホー!聞いて差し上げましょう!!」
威張った様に胸を反らせて得意げなメルバーシ。
「まだ日が高い内に貴女と出会って、そして調査した二つの石碑…島中にあと二つで合計四つある様だけどもうそこまで熱心に調べるモノじゃないわ。あれはただの穴の結界が無事に作動しているかどうかの確認用のお知らせ掲示板みたいなものね。確かに魔力の流れは封の柱とその穴に繋がっていたけど、ただそれだけ。二つとも穴から石碑への一方通行。スイッチを押したら動きましたよ!と教えてくれるランプそのものね。…一応他の二つも今度調べようとは思うけどあまり注視しなくても良いかな。」
「タブレットの電源をいれたらスイッチの横にあるさ、あの小さい穴が黄色く輝くでしょ?あれと同じ?」
メルバーシがタブレットを片手に持ってスイッチを入れてロンロに見せつける。
「そうそう、流石に人間の上位的存在様ですから物覚えも理解も早いです事ね!」
その様子をロンロが嫌味たっぷりに答える。
「へっへへへ!まぁね~~!でもそれならば確かにあの石碑、そこまで重要な存在じゃ無いのね。」
「この島の結界システム全体を見れば重要な物かもしれないけど…ピンポイントで見れば確かにその通り。別にパワーランプが壊れても機械は問題無く動くわ、結界もね。」
「なるほどね~、でもそれがこの島の人間が、クアン・ロビンの一族が永遠の命を手に入れようとしている証拠になる訳?ちょっと理解できない。」
メルバーシがやはり怪訝そうな顔で言う。
「竜の常識と人間の常識は違うわ、貴女がさっき大笑いしたみたいにね!2300年は人にとってはとても長い年月だけれど…。これが生物の、進化の時間と考えるとあまりにも短すぎるのよ。今まで私達本土の人間は2300年のクアン・。ロビン一族の、この島の歴史をただの伝承の一部、よくあるその地域の昔話だと思ってまともに扱ってはいなかった。それこそ貴女!竜なんて伝承だけのおとぎ話の世界!!だけど今、目の前に貴女という金色の竜の魂たる生き証人がいる!そうなるとどうなると思う!?」
ロンロが顔をメルバーシに思いっきり近づけて睨みつける様に答える。
メルバーシはロンロの勢いに圧倒されてちょっと引き気味…。
二人のオデコは接触してしまう程の距離になった。今、同じ顔と同じ顔が超至近距離で見つめ合っている。
「な、な、なによ!全く判らないわよ!」
メルバーシは少し顔を引き攣らせながらロンロから距離を取る。
二人の顔はまともな距離感となった。
「地を這う蝶ミヒョワ様!貴女は言ったわよね!『ナニソレ』って!知らないって!!私は昼間も同じ事を言ったわ!2300年!!いくら昆虫の世代サイクルが早くて環境に馴染むのが早いといっても!!!2300年程度じゃあんな独特の進化は出来る物じゃ無い!!2300年前にクアン・ロビン一族か!?それとも貴女の体から発せられる光に影響されてかどうかは知らないけど!!!この島には竜の気に適応した生物が生まれて生息しているの!!!」
「それがとうしたって言うのよ…それが人に永遠の命を手に入れる事になるの……。」
完全に竜の魂たるメルバーシがちっぽけな人間の少女ロンロ・フロンコに圧倒された。
「だから!ただのかーせーーーつ!仮説!学者としてのね!貴女に地這蝶を生み出した自覚が無いってのも気にかかったの!自然に竜の気から発せられる光を受けて進化、環境適応するには2300年は余りにも短すぎる!!例えそれが竜の気であったとしてもよ!!少なくとも地這蝶誕生には人為的な何かがあった筈よ!・・・・つまり!!」
ロンロはベッドから立ち上がって部屋の窓を開けてカーテンを思いっきり開き、夜の暗闇を貫く島の中央の大穴から湧きたつ光の柱をメルバーシに見せつけた。ロンロの部屋の中にうっすらと外から金色の霧が舞い込んで、それが部屋の照明と反応してキラキラと部屋中を輝かせた。
「あの石碑はただのパワーランプ的な役割として、網目状の結界、それに地這蝶、生贄の伝統がある事実、そしてあの穴の中で漂う仮死状態の生存者…きっとそれが島の歴史の被害者である生贄さん達でしょうけど。…貴方よメルバーシ!あの金色の竜の力を何かに利用としているシステムがこの島で動いてい…ふごごごっごごごお!!!!ちょ!もがががが!!!なにするのもごごごっごご!!!!!!」
突然大声で仮説を唱えるロンロの後ろに回り込んだメルバーシが片腕でロンロの口を塞ぎ、もう片方の腕で彼女の体を抑え込む。その視線は窓の外を激しく睨みつけている。
「ロンロそこまで…言いたい事は大体判ったよ…。でも、今は大人しくした方が良い…。」
外を睨みつけたままメルバーシが小声でロンロの耳元で囁いた。
その声は先程までと打って変わって低く、落ち着いた声色であった。
「え…?どうしたの?」
ロンロも状況を察して声を潜めて答えた。
その彼女のいち早く察して落ち着いた様子を確認したメルバーシは両手の拘束を緩めた。
「見られている…。外に何かがいる…!」
「私達が見られて…? あっ…!」
彼女は今日出会ったお婆さんから聞いた「遠の瞳術」の事を思い出した。
「クアン・ロビンめ…!小賢しいマネを…!!」
メルバーシの目にはハッキリと見えるのか、窓の外からはっきりと何かを睨みつけている。普通の人間であるロンロには暗闇の夜空の中では何も確認できない。ただ昼間の内に聞いた「遠の瞳術」の事が脳裏に浮かぶ。
「メルバーシ?見えるの…?」
夜空を睨みつけるメルバーシに向かってロンロが横で外を見つめながら、ただの人間の彼女には見えない何かを探しながら質問をする。
「ええ…。クアン・ロビンの者ども!ハッキリと私達を監視している…!」
「大丈夫よ、あれは音までは聴きとれない。ヒルッター理論によって魔力に乗せられた音ですら拾えない古い術なんですもの。私とハルバレラの電話は傍受された様な形跡は無かった。まぁ…今現在は私と貴女の姿は見られているでしょうけど!あはは…。」
しょうがないと言わんばかりにロンロが苦笑いを浮かべる。
「声は聞こえていないだと?どうしてそれがハッキリと言える?」
荒い口調のままメルバーシが返答した。
「そうね、音は拾えない術なんでしょうね。古の魔術にはヒルッター理論ははっきりと提唱されていなかったでしょう。ハハハ、そこは断然私達が有利な所よ。魔法は魔学となり日々進歩してきたの。2300年の間にずっとね、ずっと。人間は進化したわ、知恵を世代と共に積み重ねたのよメルバーシ。ここの島の人達は、いや…、島の一部の人達はそれを理解出来ていないのかもしれないけどね。」
「古の魔術?は?人間の使う魔法に古いも新しいもあるの!?は?は!?大した力は無いでしょうに。」
張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
竜たるメルバーシにとって人間の扱う魔力等は本当にちっぽけな力でしか無かったのだ。それが古いだの新しいだの、日々進歩してきただの言われてもいまいち理解出来なかったのである。どうも竜として生きた本能か、根本的にメルバーシは人間という種族そのものを侮っている節がある。
「ヒルッターりーろーん!私の友人、ハルバレラ・ロル・ハレラリアっていう変人のでも頭のめちゃくちゃキレる魔女が11年前に提唱したの。とある魔力、エーテルの性質に対する理論よ。魔力には情報を蓄える力がある事が判ったの。今現在私達を監視している存在は映像だけしか伝えられ無いのみたい。本来は音だって、匂いだって情報として伝わるわ。情報量としては最も映像が一番容量を食う媒体なんだけども…昔の技術って歪な所があるからなぁ、その映像分野だけ当時の魔術師は独学で発見してそこだけ発達させちゃった訳ね。ヒルッター理論なんて2300年前には勿論存在しなかったもの。今の魔学の視点から見ると抜けているんだか、凄いんだか…。」
「はぁ!?言ってる事が良く判んないよ!!ヒルッターりろん!?もーナニソレ頭痛い!!人間ってやっぱ小賢しいいいい!!発想が小手先ぃいいい!!!」
メルバーシはロンロと同じ豊かな金髪のロングヘアーをわしわしとかき毟りながら苦悩の表情を浮かべる。
「まー早い話。音は、私達の声までは傍受されて無いって事ね。そうじゃないと島の電話なんか盗聴され放題だわ。きっとこの今、私達を監視している存在にとって不都合な事も一杯話されているでしょうしね。現に私と本土にいるハルバレラの電話も盗聴された痕跡全くゼロで無事だったし。」
「バカみたい…未熟な術ね…いや、ほんと…バカじゃないの…!?見るだけ!?」
メルバーシが呆れた表情で夜空に浮かぶ、ロンロには見えない彼女だけが見える「遠の瞳術」を見つめたる。
「バカには出来ないわよ~!?誰と誰が密会していたとか、何かを隠したとかそういうのはバッチリ判っちゃうんだから。映像の情報量は凄いんだから、古い術だと言っても侮ってはダ~メ。」
ロンロが少し偉そうにメルバーシに注意をする。
「確かにそうだけども…それにしたって…人間ってほんとか弱い頭の悪い生き物だね…。ロンロの事をバカにしている訳じゃないけどさ…。」
「でも、これではっきりしたかな。遠の瞳術はこの島を監視する為の術。昼間に出会ったあのお婆さんはこの術の事を知っていたの。正確にはその噂だけね、島の人間はこの島は首領様に遠の瞳術で監視されているって。お婆さんの反応を見る限り、噂は恐怖となって島民を縛り付けている様ね。」
「は!?くだらない!!クアン・ロビンの長はそんな事で同じ一族の弱い者をを脅かしているのか!!?」
メルバーシが再び鋭い口調で喋り始めた。
やはり体を封印されたクアン・ロビン一族には激しい恨みがある様子である。
「そう、これが私の仮説の全て。」
ロンロは光の柱を見つめながら窓の淵によりかかって答えた。
「え・・・?ロンロの?」
予想していなかったロンロの答えにあっけに取られてメルバーシの鋭さは何処かへ消えた。
「何かを隠す様に、本当の目的を隠す様に…この島は首領によって縛られている。オアキッパ・インズナという首領によってこの島の秘密は何かが隠されている。それは貴女よメルバーシ。伝承の昔話という理屈で神話に生きた竜を島の奥底に深く深く、網の結界を張って、光の柱をわざと島の中央から突き立ててカモフラージュして隠している。そして金色竜メルバーシの力を用いてある真の目的を成そうとしている。」
「それが不老不死を求めているって事…?クアン・ロビンの、いやクアン・ロビン首領オアキッパが2300年かけて私の体を封印して、その力を利用して求めているって事なの?」
「あくまで予想よ、予想。私個人のね。」
だけどちっぽけな魂の
だけどちっぽけな生き物である
だけどちっぽけな少女のロンロにも何となく判るのである。
永遠の命という魅力と、永遠に生きたい存在したいという願望が。
まだ10代の少女である彼女にすらその願望はあるのだ。
悠久の命を得たらこの魔学の進歩と発展を永遠に体験して追いかけて、そして自分自身もその発展に無限に時間をつぎ込めそうだというその恐ろしいまでの魅力。
人にとって、長く、果てしなく、そして自由な時間の存在こそが真の願望であるというのを。
それは僅か16年のちっぽけな短い短い時間しか体験していない少女ロンロ・フロンコの魂すら求める絶大な願望であった。
あのロンロとメルバーシがこの島の光の柱湧く穴底で見た仮死状態で浮かぶ無数の人々。
仮死状態となって永遠の時間を眠りつつ、死なずに存在してきたあの力は。
そう
竜の力は
永遠の時を生きる事が出来る
という、他らなぬ証拠であったのだ。