08 ギミック 特殊変異
「――フレイムランス!」
AP節約のために通常攻撃と《フレイムランス》を織り交ぜてオーガに攻撃を加える。
現状ではAP回復薬はないし、そもそもAPは通常攻撃が当たれば1ヒット1%の割合で回復するので、ポーションの類は必要ない。
そもそもAPはHPに次いで多いから、減る心配をしなくてもいいのだが。
「……そろそろ5%か」
オーガのHPゲージを見ながら呟く。
奴を変異させないためには、5%寸前の状態から一気に削り、殺し切る必要がある。
当たり前だが、《インテンスバレット》を始点にした魔法連打では間に合わない。《インテンスバレット》のクールタイムが割とあるので、《ダーク・レイ》から再び《インテンスバレット》に繋げられないのだ。
では《クイックドロウ》連射ではどうか。
悲しいかな、通常攻撃よりも1発あたりのダメージが低い《クイックドロウ》では、《インテンスバレット》開始ルート同様に間に合わない。
装備がルーキー装備でなければ間に合ったのだが、無い物ねだりは出来ない。
そもそも、現状で銃カテゴリの武器を作れるプレイヤーがどれほどいるのか。少なくともアシュアはまだ無理だろう。根拠はないが。
いやまあ、プレイヤーメイドじゃなきゃいけないってわけじゃないんだけども、NPCショップの武器って性能的にイマイチだからなぁ……。
どうせ後からプレイヤーメイドでガチガチに固めるなら、最初からそうしたらいいじゃんって話だよ。
さておき、オーガの倒し方だ。
うーん……折衷案って事で、《クイックドロウ》連射からの魔法連打ならどうだろうか。
魔法発動の直前で《インテンスバレット》に繋いで、そこから更に魔法……という風にすればイケるのではなかろうか。
「……ん? なんか忘れてないか?」
えーと……なんだっけな……アーツに関しての事だったと思ったんだけど……。
「アーツ……アーツ…………あっ」
思い出した。
こういう時に使えるシステムがあったじゃないか。
異なるアーツを使用して、それが繋がった場合に発動し、2つ目以降のアーツの威力が少しだけ上昇する……その名も、《アーツチェイン》。
……というか、アーツチェインは魔法でも発動するから知らず知らずにやってたわ。
例えばオレなら、メインのスキルは《銃撃術》なので、《クイックドロウ》から《ダブルバレット》(銃撃術Lv5)、そこから《トリプルバレット》(銃撃術Lv10)に繋いで、最後に《インテンスバレット》を持ってくる。
そこからは魔法の出番。《フレイムランス》から《ウィンドランス》に繋いで、《ロックランス》を繋ぎ《アクエリアランス》に。《ライト・レイ》を撃って、《ダーク・レイ》でフィニッシュ。
これで、上手くいけば変異させる前に殺せるはずだ。
……ぶっちゃけ不安が強いけど、やるしかない。
「……よし、やろう。まずはクイックドロウ、からのダブルバレット、そしてトリプルバレット!」
右手で1発。そこから左、右。さらに左、右、左とトリガーを引く。
「からの――インテンスバレット!」
右左の連射を5回。
「フレイムランス、ウィンドランス、ロックランス、アクエリアランス、ライト・レイ、ダーク・レイ!!」
魔法6連発。
闇色の光線がオーガを貫き――
「グラアアアアアアアアッ!!」
……残った。
残ってしまった。
致命傷システムを利用してもこれか。
残り1%。たったそれだけ、それだけなのに。
たったそれだけを、削り切れなかった。
「ガアアアアアアアアアアアッ!!」
両腕を広げ、天を仰いで雄叫びを上げるオーガ。
その大型の体躯はボコボコと沸騰するように泡立ち始め、明らかに『変異』を始めていた。
やがて、オーガの泡立ちは新たな身体を創っていく。
体長は5メートルから8メートルに。
それに応じて四肢や身体も太く、筋肉質になり。
肌の色は【激昂状態】のそれよりもなお紅く染まり。
全身を這うように、人間なら胸骨の中心から白いトライバル模様が広がっている。
持っていた棍棒はその体躯に見合った大振りの大剣へと、いつの間にか変わっていた。
「……こいつは……」
変異してしまったオーガを《鑑定》スキルで確認する。
《大森林の守護者 フォレストオーガ・ルフス》
レベル25
《森の番人オーガ》が激昂状態を経て、死に際になお収まらぬ怒りに心身を任せた結果変異した特殊変異種。
物理攻撃力が《森の番人オーガ》の比ではないほど上昇しており、大剣の一撃には注意が必要。
己を追い詰めた人間に執着し、その大剣で斬り殺すまで止まる事はない。
微弱なものだが自動HP回復能力を有している。
……マジかよ。
βテスト時代に、とあるパーティが《森の番人オーガ》を変異させてしまった時にたまたま出会ったって事で話題になってたが……まさか自分が出会す事になるとはな……。
レベルと物理攻撃力以外のステータスが据え置きなのを喜ぶべきか、はたまた、物理攻撃力の尋常じゃない上昇に嘆けばいいのか。
「……とにかく、さっさと殺さないとな――ッ!!」
棍棒から大剣になったのと、単純に身体が大きくなったせいでリーチが伸びたオーガの一撃を、エンチャントでブーストしたAGIの力でどうにか回避する。
オーガというモンスターがそもそも知恵がない設定なのでまだ救いがあるが、これが《棍術》や《大剣術》なんて覚えた日には、即死待ったなしだ。
「クイックドロウ、ダブルバレット、トリプルバレット、インテンスバレット!!」
残り2%くらいまで回復してしまったが、アーツチェインなら削り切れるだろうと拳銃を連射する。
だが、オーガは変異した事で『単なるバカ』ではなくなってしまったらしく、撃ち出された弾丸のいくらかを大剣を振って弾いてしまった。
「クソ……ッ!」
MPは枯渇寸前だが、MPポーションを飲んでいる暇はない。
APも、オーガが弾丸を弾く事を思えば、考えて運用しなければならない。
通常攻撃でAP回復?
……いや、それだとまたオーガに回復されてしまう。
ならば、いっそ。
「――クイックドロウ! クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ!!」
通常攻撃よりダメージは多少低いものの、低燃費でコスパの良い《クイックドロウ》を連射する事に決めた。
通常攻撃は多少のディレイが発生してしまうが、《クイックドロウ》ならAGI70超えのおかげでほとんどロスなく連射出来るので、後を詰めるにはこれしかない。
「クイックドロウ、クイックドロウ」
――死ね。
「クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ……!」
死ね。
「クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ!!」
死ねえええええええッ!!!
「インテンスバレットォォォッ!!!」
正真正銘、最後のアーツ。
この《インテンスバレット》でAPは打ち止め。
ラストオーダーだ。
「グォ……ゴ、ァ……ガ……」
度重なる《クイックドロウ》のせいか弾丸を弾く事をしなくなった……いや、出来なくなったオーガは《インテンスバレット》を全弾まともに喰らい、前のめりに倒れ――
「グァ…………ァ…………」
ズズン……と鳴る地響きと共に、光の粒子になって消えていった。
〈ウォレス大森林のレアフィールドボス《大森林の守護者 フォレストオーガ・ルフス》が《匿名》によって討伐されました〉
そして鳴り響くワールドアナウンス。
フィールドボスを誰かが討伐した時は、このように討伐対象と討伐者がアナウンスされる。
βテスト時代にはなかったが、フィールドボスの討伐は機能解放というか、そういうものも兼ねているようだ。
――ウォレス大森林レアフィールドボス《大森林の守護者 フォレストオーガ・ルフス》のソロ討伐に成功しました。
――レアフィールドボス初回討伐報酬《ルフスの大剣》を入手しました。
――ウォレス大森林フィールドボス初回討伐報酬《大紅牙》を入手しました。
――ウォレス大森林フィールドボス初回討伐者称号《緋き守護者》を入手しました。
――ワールド初のフィールドボス討伐称号《始まりの者》を入手しました。
――オーガの紅皮×6を入手しました。
――オーガの大穿牙×4を入手しました。
――オーガの大骨×5を入手しました。
――フォレストオーガ・ルフスの魔石を入手しました。
――尊き力の指輪+5を入手しました。
――黒い力のグローブを入手しました。
――《ゼロ》のレベルが23に上昇しました。
――《換装士》のレベルが22に上昇しました。
――《隠密》のレベルが21に上昇しました。
――スキル《銃撃術》のレベルが23に上昇しました。
――スキル《武技の心得》のレベルが21に上昇しました。
――スキル《火魔法》のレベルが16に上昇しました。
┗魔法《ファイアカーテン》を習得。
――スキル《水魔法》のレベルが15に上昇しました。
┗魔法《アシッドレイン》を習得。
――スキル《地魔法》のレベルが15に上昇しました。
┗魔法《ロックフォール》を習得。
――スキル《風魔法》のレベルが15に上昇しました。
┗魔法《エアステップ》を習得。
――スキル《光魔法》のレベルが16に上昇しました。
┗魔法《ミラージュ》を習得。
――スキル《闇魔法》のレベルが16に上昇しました。
┗魔法《グラッジレイ》を習得。
――スキル《詠唱短縮》のレベルが17に上昇しました。
――スキル《魔導の心得》のレベルが17に上昇しました。
――スキル《早撃ち》のレベルが20に上昇しました。
――スキル《精密動作》のレベルが21に上昇しました。
――スキル《回避》のレベルが24に上昇しました。
そして流れてくる個人宛のシステムメッセージ。
レアフィールドボス初回討伐報酬とフィールドボス初回討伐報酬をそれぞれ貰えるのは美味しいな。
経験値も美味いし報酬も良いし、特殊変異した時はどうしたもんかと思ったけど、これならまた狩りたいなぁ。
……まあ、それはともかく、だ。
「ふー……っ。さて、そこの傍観者諸君。ちょっとこっち来なさい」
緊張の糸を緩めるために大きく息を吐いてから、すっかり傍観者……いや、もはや背景と化してすらいた4人を手招きしながら呼ぶ。
ちなみに、息を吐いたのは彼らに対する少しばかりの苛立ちを散らすためでもあるのは、お察しいただきたい。
「……ほら、早く」
それぞれ顔を見合わせてこっちに来ようとしない4人を再び呼ぶ。
と、ようやく観念したのか、渋々といった足取りではあったがこちらにやってきた。
さて、《鑑定》するか。
《アキラ》 レベル4
メインジョブ:剣士
サブジョブ:戦士
《コウスケ》 レベル4
メインジョブ:騎士
サブジョブ:剣士
《ユウナ》 レベル4
メインジョブ:魔法使い
サブジョブ:テイマー
《レイカ》 レベル4
メインジョブ:弓使い
サブジョブ:ハンター
やっぱりか……。
レインズ森林の推奨レベルにも足りてないが、パーティプレイだしそれはまあ良い。
だが、このウォレス大森林との境目に来たのは、多分このメンバーの誰かがウォレス大森林の事を聞き齧るかして、そっちに行こうって押し切ったんだろうな。
……まあ、それもリアルでも仲良しなプレイヤーパーティにはよくある話だが。
「な、なんでしょうか?」
目の前までやってきた4人のうち、魔法使いのユウナが口を開いた。
この子は4人の中でも冷静に話が出来そうだから好みだ。感情より理性が先立つ人間は好きだぞ。
「まず謝罪する。勝手ながらお前らを《鑑定》させてもらった。これはGWOでは明確なマナー違反だ。申し訳ない」
そう言って頭を下げる。
どんな理由があれマナー違反をやらかしたのはオレだ。それは謝罪しておかなければならない。
「あの、そんな……気にしないでください!」
「……赦してもらえるか?」
「もちろんです!」
「ありがとう、赦してくれて」
お赦しも出たので、早速頭を上げる。
……さて。問題はここからだ。
「ところで、なんでこんな場所にいたんだ? ここから少し先に行くと、推奨レベル15~のウォレス大森林ってフィールドなんだが……」
「推奨レベル15!?」
「ちなみにさっき討伐したヤツは、レベル25のフィールドボスな。ワールドアナウンスあったから知ってると思うけど」
「レベル25!!?」
「だから危ないって言ったのよ。あんたのせいよ、アキラ」
「だ、だって、早くレベル上げたいってレイカが言ったんじゃねーかよ!」
「だからレインズ森林に来たんでしょ? ここの推奨レベルは5~って聞いたけど」
「でも経験値美味かったろ!」
口喧嘩を始めるアキラとレイカ。
額に手をあてて『やれやれ』といった様子のコウスケ。
口喧嘩する2人に挟まれてオロオロするユウナ。
……なるほどな。
アキラはよくいるリーダーやりたがるタイプの人間か。で、レイカはリーダーはやりたがらないけど当たりがキツいタイプ。
ユウナは、多分争いとかそういうのは苦手なタイプなんだろうな。だからサブがテイマーなのかね?
コウスケは最終的な纏め役。このパーティの実質的なリーダーだと言える。ジョブは最前線のくせに対人関係は一歩引いて冷静に見るタイプだな。
「コウスケ。どうしてここまで来たんだ?」
「……元々は、レイカが効率よくレベル上げしたいって言ったのが始まりです。それでレインズ森林に来て狩りをしてて――」
「ふむふむ……」
「そしたらアキラが、この先のウォレス大森林はもっと経験値が美味いからそっちに行こう、って言い始めたんです。僕とユウナとレイカは反対だったんですが、アキラが1人でも行くって言うんで、仕方なく……」
「なるほど。それで、この場所まで来たところでオーガに会ったわけか」
「はい。フィールド的にはまだレインズ森林だったんで、僕達でも倒せるはずだってアキラが。僕達もそう思ったんで攻撃してみたんですけど……」
「タンクとアタッカーのコウスケとアキラが早々に退場。残されたユウナとレイカが戦ってるところにオレが来た……というわけか」
「そうです」
……なんともまあ、悲惨な偶然もあったものだ。
まあ、話は通じるようだし、もう1度注意をしておくか。
「さっきのフィールドボス……《森の番人オーガ》って言うんだけどな。あいつ、ウォレス大森林に配置されてるくせに、時々こっちの方までやって来るんだわ」
「あー……。じゃあ、僕達は運が悪かったという事ですか?」
「そうなる。普段はウォレス大森林から出てこないから、この辺も一応安全っちゃ安全なんだけどな。まあ、犬に噛まれたんだと思って、今後は注意してみてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「いやいや。なんか説教みたいになっちゃってごめんな」
「大丈夫です。……でも、そういう仕様を知ってるって事は……?」
「ああ。オレ、βテスターなんだわ。本リリースで新しく出るとことか、仕様変更されてないとこは大体わかるよ」
「あ、じゃあ、僕達の適正狩り場とか教えてもらっていいですか?」
おお……コウスケくん、意外とグイグイ来るな。
良いぞ。そういう貪欲さはゲームが上手くなる第一歩だ。なんか嬉しくなるな。
「そうだな……。コウスケ達のパーティにはヒーラー役がいないよな? だから、とりあえずはレインズで狩ってた方がいいな。ヒーラーがいれば東のマルファを勧めるんだが……アテはあるか?」
「アテ……ですか」
「うん。見たとこ、仲良し4人組でゲームやってるんだろ? だから、他に仲の良い奴で、GWOやってて、ヒーラーやってる奴を誘ってみるとか」
「なるほど……。やっぱり、ヒーラーがいると変わるものですか?」
「もちろん。ヒーラーのMPが切れるまでは戦闘に集中出来るし、自分で回復しなくていいしな。まあ、万が一の時はポーション使わなきゃならないが」
「ふむふむ……」
「あと、単純に心に余裕が出来るんだよ。……そうだ。よかったら、オレがヒーラー役やるから、ちょっと狩りしてみるか?」
「え……いいんですか?」
「ああ。レベル差あるからパーティには入れんけど、辻ヒールみたいな感じで良ければ」
「ぜひお願いします!」
「お、おう。まあ、そんじゃ、やってみようか」
そういう事になった。
それにしても、コウスケくんは意外に熱いタイプなのかな?
冷静なツッコミ役、みたいな感じに見えたんだが……熱くなると周りが見えないタイプか……?
……ま、なんにせよだ。
ヒーラー役、頑張りますかね。
【基本情報】
名前:ゼロ
レベル:23
種族:人族
メインジョブ:換装士Lv22
サブジョブ:隠密Lv21
STR:138
VIT:124
INT:122
MND:121
DEX:133
AGI:142
【称号】
始まりの者 緋き守護者
【戦闘系】
剣術Lv1 大剣術Lv1 短剣術Lv1
斧術Lv16 槍術Lv1 杖術Lv1 棒術Lv1
鎚術Lv1 銃撃術Lv23 格闘術Lv1
盾術Lv1 投擲術Lv1 武技の心得Lv21
【魔法系】
火魔法Lv16 水魔法Lv15 地魔法Lv15
風魔法Lv15 光魔法Lv16 闇魔法Lv16
治癒魔法Lv1 生活魔法Lv-- 詠唱短縮Lv17
魔導の心得Lv17
【特殊系】
気配感知Lv21 敵意感知Lv22
魔力感知Lv21 生命感知Lv16
鑑定Lv20 暗視Lv2 隠形Lv20 気配遮断Lv20
速読術Lv15 高速理解Lv16 語学Lv12
換装Lv--
【生産系】
採取Lv1 採掘Lv1 伐採Lv17
調合Lv1 錬金Lv1 鍛冶Lv1
生産の心得Lv1
【能力上昇系】
俊足Lv22 整息Lv20 回避Lv24 精密動作Lv21
早撃ちLv20 狙い撃ちLv14
STR上昇Lv15 AGI上昇Lv15
お金:65100コール