07 遭遇戦
へいへいほー、へいへいほー……と。
武器屋で適当なバトルアックスを購入してからレインズ森林に籠ることしばらく。
とりあえず入り口辺りを伐採するのはいかんだろうという事で、ウォレス大森林との境目ギリギリに陣取って伐採をしている。
伐採を始めてすぐに《斧術》と《伐採》のスキルが生えてきて、更にレベルが上がるわ上がるわ。
リアル時間では既に1時間が経過しようとしているが、なんのその。今となっては5分かからずに1本を伐採出来るので、インベントリの木材は既に99本を超えている。
ぶっちゃけこんなに要らん。
まあ、後々プレイヤーズハウスというプレイヤー個人の拠点を得る際には、木材はもちろん石材やら何やらも必要になるし、オレ自身も生産に手を出す予定でもあるのであって損はないはずだ。
とはいえ、流石に伐り過ぎた気がするので、まあ、このあたりで終わっておこう。
「……ふぅ。さーて、あとはこれをアイツのとこに持っていって――」
『――きゃああああああああっ!!』
腰に手をあてて上体を反らすと、劈くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
瞬間、意識が戦闘へと切り替わる。
悲鳴が聞こえてきたのは右手の方向。ここがウォレス大森林との境目ギリギリである事を考えると、もしかしたらかなりマズイ事になっているかも知れない。
「オーガが出てきたか……?」
そうなら最悪だ、と考えながらバトルアックスをインベントリに仕舞い、二挺拳銃を装備し直して、悲鳴の聞こえた方に走る。
走り続けて、やがて見えてきたのは――。
『――ッファイアボール!』
『――速射・二連!』
地面に倒れている2人の男と、魔法使いと弓使いらしき女が目算5メートル超の大型モンスターに魔法とアーツを放つところだった。
放たれた《ファイアボール》の魔法とアーツによる矢は、モンスターの身体に当たるが、しかしダメージは与えられていないようだった。
あの大型モンスターは覚えがある。
βテスト時代、ヤツのレアドロップである《剛力のグローブ》が欲しくて散々狩り殺してきた奴だ。
『ゴアアアアアアアアアッッ!!!』
奴の名は《森の番人オーガ》。
ウォレス大森林のフィールドボスであり、レインズ森林で狩りをしてるようなプレイヤーでは到底倒せない強者だ。
魔法使いと弓使いの2人はルーキー装備。
倒れている男2人もルーキー装備なのを見るに、奥の方もレインズ森林だと思ったか、奥で狩る方が経験値の入りが良いと見て無謀な狩りを敢行した、完全ご新規のプレイヤー達だろう。
あるいは、ウォレス大森林だと理解した上で金と経験値を稼ぎに来たプレイヤーパーティか。
少なくとも住人パーティではない。住人パーティはルーキー装備付けないからな。
「面倒な……インテンスバレット!!」
走りながら、両手の拳銃をスキルによる動作アシストで連謝する。
《インテンスバレット》は《銃撃術Lv20》で習得出来るアーツで、10発の弾丸を対象に撃ち込む。
そして、それがオーガの胸元に吸い込まれ――
「ギャオオオオアアアッ!!?」
突然のダメージに困惑したような声を上げるオーガ。
HPゲージはおよそ1割ほどが削れている。
「誰っ!?」
「誰でもいいだろ! レイズバレット! もひとつ、レイズバレット!」
こちらを向いて誰何してきた弓使いにぞんざいに答え、これまた《銃撃術Lv20》で習得した蘇生系アーツの《レイズバレット》を倒れている男2人に撃つ。
《インテンスバレット》みたいな物理攻撃系ならSTR+DEXでダメージが出るけど、《レイズバレット》や回復系の《ヒールバレット》はMND依存だから、ちょっと使い勝手が悪いんだよな。
それでも、オレのMND値ならHPは2割で復活するだろうし、我慢して欲しい。
そして、どうやら2人の男は予想通り死亡状態だったようで、頭を振りながらむくりと起き上がっていた。
とりあえずはこれで良し。
「起きたならさっさと離脱しろ! 奥には行くんじゃねえぞ、死にたくなければな!」
ルーキー装備の4人にそう呼び掛けながら、繰り出されるオーガの棍棒を避ける。
……くそっ。風圧に身体が持っていかれそうだ。
あの4人もルーキー装備だけど、オレ自身ルーキー一式だから、対オーガ装備としては心許ないんだよなぁ……。
「あなたはどうするんですか!?」
魔法使いの子からそんな声が届く。
どうする、と言われてもな。
現状、《挑発》系のアーツを使われたとしてもあのルーキー4人じゃヘイトは取れないし、仮に取れてもオレが攻撃した瞬間こっちにヘイトが向くに決まっている。
そして、オレも始めたばかりであるが故に帰還系アイテムは持ってない。……いや、持ってたとして使う暇があるかどうか……。
つまり、不本意ではあるが、奴をここで殺すかオレが殺されるかしないと、離脱は出来ない。
「オレの事は気にすんな! お前らは自分がデスペナ喰らわない事だけ考えてろ!」
GWOのデスペナ――つまりデスペナルティは結構シビアだ。
まず、死に戻りが確定した段階で所持コールの3割をロストする。そして死に戻った後から3時間のステータス8割低下。
それから、これは一定のレベルを超えてからの話ではあるが、インベントリの中からランダムに1つ、アイテムを死んだ場所に落とす。
完全なロストではないのでまだ望みはあるが、アイテムのレア度などのパラメータを無視した完全ランダムのロストになるので、最悪、他のプレイヤーの手中に収まる事になる。
まあ、イベント報酬とかの特殊アイテムの類はロストしないようになってるので、その辺りは親切なのかも知れないが。
今のオレで言えば、バトルアックス、木材、水袋、干し肉、HPポーション、MPポーション、調合道具、鍛冶道具、研磨道具、スコップ、鶴嘴の中から1つをランダムで……という事だ。
「ゴアアアアアッ!!」
「チッ……! こいつの相手をするのは明日だと思ってたんだけどな……! エンチャントバレット・AGI!」
ステータスの差でだんだん捕捉され始めてきたので、自分に向けて《エンチャントバレット・AGI》を撃ち、行動速度を上げる。
本来は《付与魔法》の領分だし、そっちのが効果が高いのだが、《エンチャントバレット》は効果が低い代わりに持続時間が長いというメリットがある。
あの4人が逃げる時間を稼ぐなら、《エンチャント》より《エンチャントバレット》の方が適当だ。
「お、俺も手伝うぞ!」
「俺もだ!」
完全に復帰したらしい男2人がそう言ってくる。
が。
「余計な手間かけさせんな、ルーキー! お前らじゃヘイトなんか取れやしないんだから、つべこべ言わずにさっさと逃げてろ! 何のために蘇生させてやったと思ってんだ! ――インテンスバレット!」
身の程知らずを怒鳴りつけつつ、隙を見てオーガに弾丸を撃ち込む。
フィールドボスになっている《森の番人オーガ》の特徴として、ダメージを負う毎に防御力が上がっていく仕様になっている。
だからさっきの《インテンスバレット》では1割ほど削れたHPも、今はせいぜい7分ほどしか削れていない。
だから、こいつを相手にする場合はソロは控えてパーティを組み、一斉攻撃でダメージを与えていくのが正攻法だと言える。
ただまあ、ソロでもやれない事はない。
というのも、《森の番人オーガ》はHPが50%まで削れると、以降は【激昂状態】という状態になり、攻撃力が大幅に上がる代わりに防御力大幅ダウンのハイリスクハイリターンスタイルになるのである。
なので、50%までHPを削れれば、あとはもう楽なものなのだ。
さらに言えば、フィールドボスは基本的にパーティ単位での討伐を想定しているので、人数が増えれば増えただけステータスが強化される。ソロだと……まあ、うん。そういう事だ。
……まあ、悲しいかな魔法防御力は物理防御力ほどにないので、レベル20くらいの魔法使いなら余裕で狩れるんだが。
ちなみに、オレも一応属性魔法のスキルはあるが、大してレベルを上げてないのでダメージはお察しである。
だから普通に銃撃ってる方が強いのだ。
……いや、待てよ? そしたら、レベル上げにちょうどいいのでは?
幸いにしてMPポーションもまた入荷してきたし、オーガはオーガでHPがたんまりある上に魔法には弱いときてる。
……数え役満って言っても間違いないこの状況、ゲーマーなら利用しなくてなんとする。
「ファイアバレット、ウォーターバレット、ストーンバレット、ウィンドバレット、ライト・レイ、ダーク・レイ」
そうと決まれば話は早いもので、早速、全然振ってない45ステータスポイントをINTとMNDに振ってから属性魔法を連射する。
INTは魔法攻撃力、詠唱時間、魔法系アーツのクールタイムに関わってくるステータスだ。上げれば、魔法攻撃力も上がり、詠唱時間は短くなり、クールタイムも短縮される。
オレの場合は《詠唱短縮》と《魔導の心得》があるので、《魔導の心得》で魔法攻撃力とクールタイムが、《詠唱短縮》で詠唱時間が……という風になっている。
ちなみに、MNDは《治癒魔法》の回復や蘇生系のアーツの回復量や蘇生時のHP回復量、詠唱時間、アーツのクールタイムに関わってくる。
《付与魔法》などの補助系魔法もMNDの領分だし、そもそもMNDは魔法防御力や状態異常のレジスト率にも関わるので、上げておいて損はない。
STR……物理攻撃力、HP上昇率など
VIT……物理防御力、HP上昇率など
INT……魔法攻撃力、MP上昇率など
MND……魔法防御力、MP上昇率など
DEX……命中率、調合や錬金の成功率など
AGI……行動速度、アーツの硬直時間など
と、各ステータスはこんな感じに関わってくるので、何か1つに特化させるにしても最低限上げておいた方が損がない。
だからこそオレは《換装士》というジョブを選んだのだか。
閑話休題。
魔法で攻める事を考えたら、オーガ程度は最早射場の的に過ぎない。
悲しいかな、奴は配置される度に新規の個体なので、戦闘経験値というヤツが溜まっていないのである。
逆にオレはβテスト時代からの経験値がまるっと残っているので、ステータスで差がついていても、相手をするくらいはワケないのだ。
流石にあのルーキー4人を守りながらだと難しいが、ヘイトはこちらにしか向かんので楽なものである。
そんなわけで、各属性Lv1で既に習得している魔法を火から闇まで順番に発動していく。
時折エンチャントを切らさないように自分に弾丸を撃ちつつ、《エンチャントバレット・INT》もついでにかけておく。
「……お、レベルがっつり上がるな。フレイムランス、アクエリアランス、ロックランス、ウィンドランス、ライト・レイ、ダーク・レイ」
相変わらず身体を持っていかれそうな風圧を寄越しながら振るわれる棍棒を避けつつ、レベルが上がってちょっと強くなった魔法を撃っていく。
地水火風の4大属性は順当に強くなるけど、光と闇は特殊な魔法も多く習得するから最初のを使い回しだ。
そうして、物理防御力は上がっていけども魔法防御力の変わらないオーガを的にして魔法の練習をしていると――。
「グ、ゥオオオオオオオオオオオッ!!」
ついに、その時が来た。
HPが50%を割り、オーガが雄叫びをあげ、その体躯が赤熱化するように赤く変色していく。
実は他のフィールドでもオーガは出てくるのだが、そのオーガは【激昂状態】になったこいつと同じく赤色で、物理攻撃力も高い。
まあ、オーガの和訳が『鬼』である事を思えば、赤い方が本来のオーガなのかも知れないが。
ともかく、これでようやく、拳銃をまともに運用出来るようになるというわけだ。
物理防御力が上がり続けるのは、流石にルーキー装備では厳しすぎるからな。
さっきから何故か逃げずに戦闘を傍観してる4人の攻撃力が低いせいでオーガにダメージが入ってなかったのも、嬉しい誤算だったな。
そうじゃなきゃ1回目の《インテンスバレット》で1割も削れてなかったはずだ。
その点はこいつがフィールドボスだって事に感謝しておくかね。
「グォラアアアアアアアアッ!!」
「そう何度も叫ぶなよ。ちゃんと相手してやるからさ」
逃げやしないさ。
《剛力のグローブ》をドロップするかも知れないんだからな。
「インテンスバレット! 続けてフレイムランス!」
両手が銃を撃つのに合わせて、魔法を発動する。
杖や魔導書があれば魔法の威力が上がるのだが、残念ながら今はそれはないので、魔法ダメージはそれなりだ。
代わりに、物理防御力が大幅にダウンした事で《インテンスバレット》の通りが良くなっている。
……ただ。
この《森の番人オーガ》は、残りHPが5%以下になるとランダムで上位個体に変異するので、可能であれば5%からは一気に削り切ってしまいたいところだ。
一応オレが確認した中では《森の番人フォレストオーガ》が一番強くなる変異だったので、削り切れなかった場合はそれにならない事を祈るばかりである。
まあ、なんだかんだと言ってはいるが、余程運が悪くなければそもそも変異しないので、この心配が杞憂に終わる事を願うばかりだ。
え? それ自体がフラグ?
…………HAHAHA! そんなまさか!
あるはずないさ、そんな偶然。
【基本情報】
名前:ゼロ
レベル:21
種族:人族
メインジョブ:換装士Lv20
サブジョブ:隠密Lv19
STR:115
VIT:101
INT:100
MND:98
DEX:108
AGI:126
【称号】
なし
【戦闘系】
剣術Lv1 大剣術Lv1 短剣術Lv1
斧術Lv16 槍術Lv1 杖術Lv1 棒術Lv1
鎚術Lv1 銃撃術Lv22 格闘術Lv1
盾術Lv1 投擲術Lv1 武技の心得Lv17
【魔法系】
火魔法Lv1 水魔法Lv1 地魔法Lv1
風魔法Lv1 光魔法Lv1 闇魔法Lv1
治癒魔法Lv1 生活魔法Lv-- 詠唱短縮Lv1
魔導の心得Lv1
【特殊系】
気配感知Lv19 敵意感知Lv18
魔力感知Lv20 生命感知Lv14
鑑定Lv20 暗視Lv2 隠形Lv18 気配遮断Lv18
速読術Lv15 高速理解Lv16 語学Lv12
換装Lv--
【生産系】
採取Lv1 採掘Lv1 伐採Lv17
調合Lv1 錬金Lv1 鍛冶Lv1
生産の心得Lv1
【能力上昇系】
俊足Lv22 整息Lv20 回避Lv23 精密動作Lv20
早撃ちLv16 狙い撃ちLv14
STR上昇Lv15 AGI上昇Lv15
お金:65100コール