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06 装備更新に先駆けて


「ツインスラッシュ!」


「――ファイアバレット」


 ロックワームの身体に刻まれる連続した2本の斬り傷。そして、それを放ったハルのフォローをするように、炎の槍が射出され、着弾する。


 最初のロック鳥狩りから、もう3時間が経過している。

 あれからロック鳥には出会う事はなく、飛来するハーピィを狩り、奇襲してくるロックワームを狩り……としている間にオレはレベル17へ、2人はレベル12へと上がっていた。

 レベル10になってから2人を戦闘に投入したが、すぐにGWOの戦闘にも慣れ、今となってはなかなか優秀なフェンサーとマジックユーザーである。


 まあ、2人は学生ではあるけど他のVRゲームにも手を出してたみたいだから、そっちで培った感覚がモノを言ってるんだろう。

 GWOみたいなファンタジー系のVRMMORPGも珍しくはないからな。


 レベル的にも2人で十分やれるからオレは後ろで観戦と警戒をしていたんだが、ハルとルナのビルドが大体見えてきた。


 まずハルだが、メインジョブ剣士、サブジョブ格闘士の回避アタッカーだ。

 得物は片手剣なので、スキルは《剣術》《格闘術》が確定。動きを見るに《敵意感知》があって、アーツ硬直が通常より短いから《武技の心得》がある。

 戦闘スタイル的に《回避》もあるだろうな。

 キョロキョロと辺りを見回しては凝視を繰り返してもいたので、《鑑定》は確定。

 あとの4つは……ちょっとわからないな。でも、《採取》と《採掘》は取ってるかも。


 ルナの方はメインジョブ魔法使いなのはわかったけど、サブジョブがちょっと絞れない。多分神官だとは思うが。

 得物は長杖だから《杖術》は確定。人のオススメには素直な性格なので《格闘術》もあるだろう。

 使ってる魔法から《火魔法》《風魔法》《闇魔法》が確定。《鑑定》もあるだろうし、《魔導の心得》と《生活魔法》も取ってるかな?

 あとは《採取》と《採掘》で、その他のはジョブの初期スキルが生えてるだろう。


「ピギィイイイイイイ!!?」


 そんな事を考えていると、ハルとルナの2人がロックワームを倒したらしく、断末魔が響いた。


 ……ふむ。

 そろそろルーキーシリーズから抜ける時期か。

 オレも成り行きでルーキー一式を使ってはいるけど、流石にそろそろ変えないと、奥のフィールドじゃ戦えないからなぁ。

 βテスト時代に交流があった生産ジョブの連中もいるだろうし、そろそろ顔合わせがてら依頼に行くとするか。


「2人とも、ちょっといいか?」


「ん? どうした、レイ?」


「何かあったのかい?」


「まあ、あったっちゃあ、あったな」


「……敵かい?」


「感知スキルには反応はないぞ……?」


 少しぼかして答えると、途端にキョロキョロと辺りを警戒し始める2人。

 ……いや、そういう事じゃなくてな?


「いやいや、敵じゃなくてな。そろそろ装備更新しないかって話だ」


「あー……装備か……」


「そうだね……。私はあまりピンと来ないけれど、レイがそう言うって事は、ここから先のフィールドでルーキー装備では難しいって事なんだね?」


 ルナの問い掛けに頷きを返す。


 今はまだ適正レベルの2人だが、この後、レベル15からはグリンズ荒野では効率が悪くなってしまう。

 課金して経験値ブーストしてるとかならともかく、素の状態では経験値がしょっぱくなってしまうからな。

 そして、レベル15からの適正狩り場であるクレベラ高原では、ルーキー装備のままだと火力が足りないわ防御力が足りないわで痛い目を見る事になるのだ。


 ……まあ、よっぽどプレイングスキルが上のプレイヤーなら問題なく狩りをするんだろうが、残念ながら今の2人にそれは無い。

 悲しいかな。まだまだ戦い方が最適化されてないのだ。

 故に、手っ取り早く強くなるための方法として、装備の更新が必要なのである。


「ってわけだから、一旦オリジンに帰ろう。オレもそろそろルーキー装備は卒業だしな」


「んだな。じゃ、帰るか」


「そうだね。ありがとうね、レイ」


「なんのなんの」


 律儀に礼を言ってくるルナに手を振って気にしないように伝える。


 ……さて。

 あいつらは、ちゃんとあの場所にいるかな?




   ◆




 さて、そうしてやって来たのはオリジンの街は生産ギルド。

 生産ギルドは、生産系ジョブを持っているNPC、プレイヤー、または生産系ジョブではないが生産をやりたい人間が集う場所である。

 皮革や宝石や布の加工、鍛冶、調合、錬金の場所の提供はもちろん、ノウハウの教授、取引上での諸々などを教えてくれたりもする。


 ちなみに、冒険者ギルドも同じように戦い方や武器、盾の扱いなんかを教えてくれたりする。

 ギルドでそういったチュートリアルをやると、その時使ったスキルレベルが上がったりするので、じっくりやりたいならば、そちらを選んでもいいだろう。

 ……まあ、大抵どのプレイヤーもすぐにフィールドに出てしまうのだが。


 早い話が、GWOのギルドで教えている事というのは、なるべくプレイヤー間の格差を無くそうとしている運営の粋な計らいという事である。

 実際、βテスターと完全新規では知識量に差があるので、これは必要な措置だと言える。


 ともかく、目当ての人物がいてくれればいいんだが……どうかな?


「なあ、レイ。こんなとこに何の用なんだ? もしかして、俺らの装備をレイが作ってくれるとかか?」


「まあ、ゆくゆくはそれでも良いけど、今はロクにスキルレベル上げてないから、専門の奴にな」


 鍛冶場をうろつきながら視線をさまよわせると、鍛冶場の一番奥にある炉を、その人物は使っていた。


「いたいた。おーい、姉御」


「あん?」


「よう、オレだ」


 ちょうど作業はしていなかったようで、その人物はすぐに反応を返してくれた。

 手を挙げて挨拶をすると、その人は一瞬視線をオレの頭上にやってから「……なるほど」と言った。


今は(・・)その名前なんだね、レイ」


「ま、諸事情あってな。……βぶりだな、アシュア」


「そうだね。そっちの2人はどちら様だい?」


「リアル幼馴染さ。こっちの男がハル、女がルナだ」


「よろしくな!」


「よろしく頼むよ」


「ああ、よろしく。アタシはアシュア。βテスト時代は、こいつの専属鍛冶師をやってたモンさ」


 作業の邪魔にならないようにか真紅の髪を纏めていたヒモを外して、アシュアはニカッと笑った。


「それで、今回はどうしたんだい?」


「また専属やってくれ。素材は持ち込むから、可能な限り要求は飲んで欲しいな」


「……イヤだ、って言ったら?」


「そいつは困るな。惚れてるんだ、お前に。誰かのものになられるのは、困る」


 アシュアはβテスト時代、トップの鍛冶師プレイヤーだった女性だ。

 そんな彼女を射止めて専属鍛冶師をやってもらっていたのは、相当に運の向きが良かったという事に他ならない。

 まあ、本人が話してくれないだけで何か特別に理由があるのかも知れないけど、何はともあれ、彼女を得られないのは痛い。

 だから、どうしても欲しいんだが……。


「……しょうがない子だね。アタシもアンタに惚れたクチだからね。仕方ないから今回も専属でやってあげるよ」


「本当か!? いやぁ、助かるよ。お前が受けてくれなかったら、また新規開拓しなきゃならなかったからな……」


「はいはい。それで? 今回は何を作って欲しいのさ?」


「ハルの装備一式と、オレの直剣、短剣2本……かな」


「直剣と短剣2本? アンタ、ジョブは?」


「換装士だ。サブは隠密」


「…………なるほど、あの理論は完成してたんだね?」


「当然だろ。だからこそオレは――いや、これは話せないな。ともかく、頼めるか」


「材料は?」


「とりあえず奥のフィールドで狩れればいいから……まあ、鉄だな。胴はハーフで、籠手や脚も前だけ鉄でいい」


「……じゃあ、革のアイツと話す必要があるね。ついてきな」


 アシュアはそう言って立ち上がるとスタスタと歩き始め、鍛冶場を出て、革職人や裁縫師といったジョブを持つプレイヤー達のいる方へと歩いていく。

 やがて、目当ての人物を見付けたらしいアシュアは、ずんずんとその人物に近付いていった。


「景気はどうだい、紅蓮?」


「……アシュアか。まあ、まだ始まったばかりなのでな。悪くはないが良くもない」


「そうかい。じゃ、アタシから……というか、アタシらの惚れた男から仕事の依頼だよ」


「なに……?」


「よっ、紅蓮。βぶりだ」


 ひょっこりと、アシュアの後ろから顔を覗かせてやると、今まで気付いていなかったのか褐色肌にくすんだ赤い髪の男――紅蓮――は、驚いたように目を見開いた。

 この紅蓮という男も、やはりβテスト時代はトップの革職人プレイヤーだった。アシュアと紅蓮と、他にもそれぞれの分野のトップ生産職が、オレの専属として動いてくれていたものである。


「お前、ゼ――レイ。なるほど……我らがギルドマスターからの依頼というわけか」


「そんなとこだ。頼めるか、紅蓮?」


「当たり前だ。俺達は、お前の専属なんだぞ」


「助かるよ。β時代同様に材料は持ち込みだ」


「わかっている。それより、その2人を紹介してもらえるか?」


「ああ……剣士のハルと魔法使いのルナだ。リアルの知り合いでな。新規勢だから、多少面倒を見てる」


「なるほど。それで、何を?」


「アシュアと合同でハルの装備一式を。ハーフ系装備を頼みたい。それから、オレの装備も頼む。シャツとコート、あとブーツだな」


「シャツとコートはヤツとの合同になるな。……まさか、あの時のメンバーをもう一度集めるつもりか?」


 まさか本当に? という様子の紅蓮の言葉に頷きを返す。

 元々オレの専属で、オレのギルドのメンバーだったプレイヤー達だ。もう一度オレがギルドを立ち上げると言えば、話くらいは聞いてくれるだろう。


 ちなみに、ここで言う『ギルド』とはプレイヤーズギルドの事であって、冒険者ギルドみたいなシステム的なものではない。

 MMOには、ほら、ギルド単位で参加するイベントとかあるじゃん? ああいうのだよ、ああいうの。

 ギルドの中ではオレは実働部隊だった。マスターにして実働部隊。1人だったけど。

 主な仕事は狩り。狩りをして、ギルドの生産職に素材投げて、加工してプレイヤーに売って稼ぐ。そんなギルドだった。


 まあ、βテスト時代の話だけど。


「まあ、流石にもうギルドはやらないけどな。専属でやってくれるなら、オレは嬉しいよ」


「よく言う。手放す気などないくせに」


「あー……ははっ。まあ、換装士を選んだ時点でオレの1人勝ちみたいなもんだし?」


「ホントにねぇ……。アンタほどそのジョブを使いこなせる人間もいないだろうさ」


「まったくだ。……ふむ。ともあれ、了解した。ヤツにはオレの方から言っておこう。素材は?」


「ブラックウルフ、フォレストフォックス、バレットラビット、ロック鳥、ロックワーム……どれがいい?」


「全部よこせ。試作もしたい」


「わかったわかった。あ、それからな。ルナにも装備を頼む。魔法使い用のを一式。杖もな」


「あいよ。そうなると、あっちにも声かけないとね。……アンタは、今回は生産やらないのかい?」


「んー……まあ、そのうちな。とりあえずカンストまでレベリングが最優先だわ」


 βテスト時代に交流を持ったプレイヤーには、オレがゼロであるという事は隠さず告げてある。

 様々なゲームのランキングトップに君臨し続けているゲームプレイヤー『ゼロ』は、ことMMORPGにおいても『やれる事は全部やる』がモットーのプレイヤーだ。

 戦闘も生産も、農業が出来るなら農業だってやる。

 そうして、全てのプレイヤーの頂点に立つキャラクターを作り上げるのが、オレのプレイスタイルなのである。


 だが、誰だって生まれる時は赤ん坊であるように、『ゼロ』も最初から最強で最高のプレイヤーというわけではない。

 積み重ねたノウハウ、研ぎ澄ましたセンス、より世界に没入していた時間を積み上げた先に、『ゼロ』という至高のプレイヤーがいる。


 だから――。


「お前らもわかるだろ。オレはまだ、それを名乗れないんだ。それを名乗るには、何もかも足りないからな」


「……そうだね。それじゃ、仕事の話に戻ろうか。アタシは鉄鉱石、紅蓮は毛皮で……あとは?」


「布はともかく、木材は卸せないか? そっちの魔法使いの杖を作るには必要だろう」


「あー……。伐採って、なんかスキル要るっけ?」


「《斧術》じゃなかったかい?」


「いや、普通に《伐採》だ。まあ、適当に木を伐れば勝手に生えてくるから、それでいいだろう」


「オレ二挺拳銃なんだけど」


「なんでそんなイロモノ装備にしたんだ!」


「仕方ないだろ、カッコ良かったんだよ!!」


 カッコ良さは大切だ。

 まあ、残念ながらルーキー装備の二挺拳銃はフリントロック式なので、あまりカッコ良くはないが。

 これが長銃タイプでマスケット銃的な感じだったら、まだカッコ良かったかも知れない。

 ……まあ、フリントロックがダサいとは言わないけど。


「じゃあ、NPCショップで斧とか買うか。木、伐ってきたらどうしたらいい?」


「受付で呼び出せばいいだろう。名前は変わってないからな」


「そいつは重畳。じゃあ、行ってくるわ」


 とりあえずハルとルナにはまたグリンズ荒野で狩りをして貰う事にして、オレはNPCショップの武器屋に行ってからレインズ森林に行く事に。


 ちなみに、材料が揃えば明日の昼までには全部やっておくそうだ。

 生産職は伊達じゃない。


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