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05 グリンズ荒野


「最初に言っておきたいんだけど……お前らはクソプレイヤーにはなるな」


 ギルド登録を終えてグリンズ荒野に向かう道中、オレは2人にそう言った。


 ここで言うクソプレイヤーとは、少し調べればわかる事を調べず、ヘルプ機能も使わず、掲示板も見ず、そのくせ『どうしたらいいの?』と質問だけは一人前な無自覚害悪プレイヤーの事だ。


 オンラインゲームの攻略情報ってのは、まず公式サイト、攻略サイト、ゲーム内掲示板からいくらでも拾って来られるものだ。

 だのに、それをせずに他人に質問するばかり一人前で、どうすればどうすればって右往左往して、挙げ句の果てにめちゃくちゃなビルドをしたりする。


 ソロならまだいい。ソロでも、攻略の最前線にいなけりゃ、それはただのクソビルドのいちプレイヤーでしかない。

 だが、これが攻略最前線組だったり、パーティプレイをメインにしてたりしてみろ。

 最前線にいるくせに攻略情報は他人任せ、あるいはクソビルドでパーティの足を引っ張るゴミクズの出来上がりだ。


 早い話が、自分1人が迷惑を被ってるだけならともかく、それを周囲に波及させるんじゃねえ――という話である。

 掲示板での質問はまだ赦そう。それは真面目に攻略しようという姿勢に見えるからな。

 だが、『自分は興味がない』とかいうクソ身勝手な理由で勝手に縛りプレイをした挙げ句、それを周りにも強制して足を引っ張るようなプレイヤーは絶対に赦さん。


 だから、ハルにもルナにも、そういうプレイヤーにはなって欲しくない。

 公式サイトから、攻略サイトから、wikiから、掲示板から、ゲームヘルプから情報を拾って、活用するプレイヤーになって欲しい。

 それがオンラインゲームで最低限周囲に迷惑をかけないやり方ってもので、自分もまたそれで救われるのだから。


「……というわけでな。まあ、最初から完璧にやれとは言わん。序盤のうちはオレも助言出来るから、何でも訊いてくれていい。ただ、そういう自助努力を忘れないでくれ」


「……わかった」


「うん、肝に銘じるよ。……そうだね。自分のためでもあるし、他のプレイヤーのためでもある。うん。……ちなみに、これから行く狩り場というのは?」


「あ、やっぱ気になる?」


 出来れば完全に到着するまでは黙ってたかったんだけども……まあ、もうすぐ着くし、話してしまっても問題ないか。


「これから行くのはグリンズ荒野ってフィールドだ。オリジンの北門からずーっと行ったとこにある。推奨レベルは10~の狩り場だ」


「……は?」


「え……?」


「最初はお前らは戦わなくていい。オレは現状レベル8あるから、グリンズが美味いってだけなんだよ。しばらく狩って……まあ、お前らがレベル10になったら戦って貰おうかな」


「……その、大丈夫なのか?」


「グリンズまでは最序盤だからな。βテスト時代に研究はしてあるし、モンスターの動きは頭に入ってるし、何より致命傷システムもあるから、雑魚を狩るだけなら楽なもんだよ」


「いや……正式リリースで変わっていたりはしないのか?」


「まあ、それはあるだろ。ただ、午前中にレインズでレベリングした時は問題無かったからな。色々とスキルも取ってあるし、やってやれない事は――おっと」


「ど、どうしたんだ……?」


 ピタリと足を止めると、ハルが恐る恐るといった様子で訊いてきた。


「……ハル。ここからは、オレが許可するまで絶対に前に出るな」


「わ、わかった……!」


 そこは、見渡す限りの荒野。

 青と茶のツートンカラーに、砂、土、石、岩、そして山のオンパレード。

 足場は別に不安定というわけではないけれど、それでも小さな石が結構ゴロゴロしていて不安は拭えない。

 ここはグリンズ荒野。最序盤の難関フィールドである。


 このグリンズ荒野にポップするモンスターは3種類。そのうち2種類が飛行モンスターだ。


 1つはロック鳥。レベル15の飛行系モンスターで、空から風属性の魔法を撃ってきたり、そこら辺の岩を足で掴んで爆撃めいた攻撃をしてくる。

 他にも、こちらを空の旅行&フリーフォールに案内してくれたり、可愛いお口で軽く(ついば)んで来たりする。ダメージは可愛くない。致命傷にもなる。


 もう1つはハーピィ。こちらはレベル13。

 ロック鳥と同じく空の旅行&フリーフォールのコンボをしてきたりするが、基本は低空飛行で、ロック鳥とは違って地上付近から離れる事はあまりない。

 基本攻撃は足の爪によるひっかき攻撃だが、風属性魔法も使ってくる。ただ、スキルレベルはロック鳥より低いので、単体攻撃が基本になる。

 対処を間違えなければ取るに足らない雑魚だ。


 そして、グリンズ荒野に棲む最後のモンスターはロックワームである。レベルは14。

 そこらに転がる岩や岩盤を食事として生き、そこで得た岩を吐き出して攻撃してくる、地中を進む巨大な虫だ。

 丸呑み、口からロックブラスト、土属性魔法の3種類の攻撃方法があり、基本的に地中に潜っているので奇襲されやすく、また、こちらからの攻撃は通り難い。

 ロック鳥のエサとしてもあるので、運が良ければ死に際のロックワームを倒せるかも知れない。


 さて。

 それらを総括して何か言うとすれば――

『前衛職は、絶対に前に出ないでくれ』である。


 前衛は近接攻撃の手段しかない。

 特に、このグリンズ荒野を狩り場にするプレイヤーはそうだろう。

 故に前衛職はグリンズ荒野においてはパーティプレイが絶対条件となり、ついでに言えば、大剣を担いでたり盾を構えたりするような動かないタイプの前衛より、回避に主軸を置いたいわゆる回避タンクみたいなタイプの前衛が望ましい。


 ……まあ、要するに、だ。

 どんなビルドにする予定で、どんなスキルを取っているのかは知らないが、ハルは現状、レベルも含めて足手纏いにしかならないのである。

 ……悲しいね。


 まあ、パーティであれば、別に一撃入れる必要があるとかではなく普通に経験値が分配されるので、オレとしては、後ろの2人が拐われる事以外は心配事はない。


「……おっ。いきなりお出ましか」


「えっ? お出ましって……?」


「……どうやら、さっき話してくれたロック鳥というヤツらしいよ、ハル。上だ」


 ルナがそう言い終わるや否や、突然影が落ちた。

 そんな異常に上を見上げてみれば、巨大な鳥が上空を悠然と翔んでいる。



 【ロック鳥】 レベル15

 グリンズ荒野の岩山に棲む巨大な鳥。

 風属性魔法を得意とし、普段はロックワームを狩って生活をしている。

 ロック鳥の巣には運ばれたロックワームの体内から出てきた鉱石や宝石の原石があるので、運が良ければ採れるかも知れない。



 早速鑑定してみると、そんなインフォメーションウインドウが開いた。

 伝説のファフニールやあるいはカラスほどではないにせよ、意外とそういう価値あるものを集めるのが好きなのかも知れない。


「キェエエエエエアアア!!!」


 上空のロック鳥が鳴き声をあげた。


 ロック鳥というモンスターは、基本的に鳴き声をあげたりはしない。

 ただ1つだけ例外があり、それは――。


「な、なあ、レイ。ロック鳥って鳴くのか?」


「基本は鳴かない。アレはハンターだからな。ハンターが自ら音を立てると、獲物に逃げられるだろ? ほら、魚を素手で獲る時だって、なるべく水音を立てずに移動するじゃないか」


「……じゃあ、鳴く時ってのは?」


「そりゃもちろん――」


 上空を旋回していたロック鳥がその軌道を変え、こちらに向かって突っ込んでくる。


 ロック鳥が鳴く時。それすなわち――。


「間違いなく確実に狩れる獲物を見つけた時だ」


「迎撃しろよ!?」


「わかってるよ」


 焦るハルと不安げなルナを尻目に太腿のホルスターから拳銃を抜き、メニューからステータス画面を開いて、7レベル分が残っているステータスポイントのうち19ポイントをAGIに振る。

《銃撃術》スキルがレベル5になると《クイックドロウ》というアーツを習得するのだが、AGI70あるとそのアーツのインターバルが0.1秒になるのだ。

 そして、火力を補うために残りのステータスポイントを全てSTRに振る。

 STRは物理攻撃力に直結するので、なるべく上げておいた方がいい。


 それから、25ポイント残っているスキルポイントを使い、《早撃ち》と《狙い撃ち》のスキルを取っておく。

《早撃ち》は《銃撃術》のアーツの硬直時間を軽減するスキルで、《狙い撃ち》は銃系武器の命中率が上がるスキルである。


 それらの準備が整ったら、ロック鳥に照準を合わせて、引き金を引く。


「――クイックドロウ」


 アーツ《クイックドロウ》はその名に恥じない、《銃撃術》最速最効率のアーツだ。

 ダメージは通常攻撃ダメージ×0.9と少し低いが、AGIステータスが70あり、なおかつ二挺拳銃装備であれば、片手ずつ《クイックドロウ》を使えるので、自然とDPS(秒間ダメージ)が増える。

 二挺拳銃を使うのは通常ならガンナーというジョブなのだが、攻撃力に乏しいガンナーでもダメージディーラーの真似事が出来るという素晴らしいアーツなのだ。


「――!? キュアアアアアッ!?」


 パァン! という乾いた音と同時に撃ち出された弾丸がロック鳥の身体に命中し、ロック鳥が困惑の鳴き声をあげる。

 空の支配者たる彼……彼? 彼女? には、己を傷付けるような存在など、慮外のものだったのだろう。


「クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ、クイックドロウ」


 だが、狙われているのはこちらも同じだ。

 なので、右手の銃でロック鳥の頭部を、左手の銃でロック鳥の大きな翼を狙って、《クイックドロウ》を連発していく。

 ちなみに、《クイックドロウ》は1発につきAPを5消費する。レベル8の今、オレのAPは750を記録しているので、《クイックドロウ》を150発撃てる計算になる。


「キュ、キェエエエエエアアアッ!?」


《クイックドロウ》を連射すること十数発。

 翼が許容出来るダメージを超えたのか、もう目と鼻の先ほどの距離ではあったが、砂煙を巻き上げてロック鳥が墜落した。


「ははは。どうだ、ロック鳥。地を這うお前の獲物と同じ目線になった気分は?」


「キュアアアアアッ!!!」


「何言ってんのかわかんねえなぁ……クイックドロウ」


 恨みや怒りの籠った視線をこちらにくれ怒りの鳴き声をあげるロック鳥に、容赦なく弾丸を浴びせかける。

 70になったAGIとスキル《早撃ち》のおかげで硬直時間やスキルインターバルを極限まで減らした状態で撃つ《クイックドロウ》は、オレからしてもまさに『弾丸の雨』だ。

 10発、20発、30発……やがて撃った弾丸の数が100発に届こうかという頃になって、ようやく――。


「……終わったか」


 降り注ぐ弾丸の雨に、痛がるだけで身をのたうっていたロック鳥は、その全身を光の粒子に変えて消えていった。

 そして流れるインフォメーション。



 ――《レイ》のレベルが11に上昇しました。

 ――《換装士》のレベルが12に上昇しました。

 ――《隠密》のレベルが12に上昇しました。


 ――スキル《銃撃術》のレベルが17に上昇しました。

 ――スキル《精密動作》のレベルが16に上昇しました。

 ――スキル《早撃ち》のレベルが9に上昇しました。

 ――スキル《狙い撃ち》のレベルが8に上昇しました。


 ――アーツ《ヒールバレット》を習得しました。

 ――アーツ《クリアバレット》を習得しました。

 ――アーツ《エンチャントバレット・STR》を習得しました。

 ――アーツ《エンチャントバレット・VIT》を習得しました。

 ――アーツ《エンチャントバレット・INT》を習得しました。

 ――アーツ《エンチャントバレット・MND》を習得しました。

 ――アーツ《エンチャントバレット・DEX》を習得しました。

 ――アーツ《エンチャントバレット・AGI》を習得しました。



 ……うん。やっぱり美味いな、経験値。

 銃もかなり撃ったから《銃撃術》を始めとして銃に関するスキルが軒並みレベルアップしてる。


 それからこのアーツ群は……確か、《銃撃術》がレベル15になると習得するんだったかな?

《ヒールバレット》はHP回復アーツで、《クリアバレット》は状態異常の回復だったな。

《エンチャントバレット》は文字通りエンチャントをするアーツ……だけど、この辺の《銃撃術》ツリーのサポートアーツって、銃口向けるとビビられるんだよなぁ……。

 まあ、自分で使うか、辻ヒール辻エンチャで使うかくらいしかないな。


「さて。ハル、ルナ。レベル上がったか?」


「あ、ああ、上がった……」


「うん。レベル8になったよ。ジョブレベルも同じくらいだね」


「ほー。レベル1でロック鳥が相手だとそんなに上がるのか。ま、オレも8から11になったし、似たようなもんだな」


 ロック鳥が1体でこれなら、あと2体か3体狩ればハルでも前に出られるくらいのステータスになるかな?

 残念ながらこのやり方ではスキルレベルが一切上がらないから戦闘面に関してはガバガバなんだが、手っ取り早くレベルだけ上げたい時はいいやり方なんだよな。


 まあ、スキルレベルについてはプレイヤーレベルやジョブレベルより遥かに楽に上げられるし、あんまり気にする必要もないか。

 とりあえず、レベル10くらいを境目として考えて、そこからはハルとルナにも戦闘に参加して貰おうか。

 それまではオレが《クイックドロウ》で狩って行けばいいだろう。


「じゃあ、また適当に狩りしようか。レベル10超えるくらいになったら2人にも戦ってもらうから、そのつもりでな」


「おう!」


「わかったよ」


 2人の確かな返事を聞いてから、グリンズ荒野を先へと歩き出す。


 ……フフフ。

 このままずるずるとトッププレイヤーの集団に巻き込んでやるからな……!


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