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04 クエスト報告


 昼食を終えて再びGWOの世界に降り立ったオレは、早速冒険者ギルドに向かった。

 何故雑貨屋でなくギルドに来たのかと言えば、単に討伐報酬を貰うためである。


 とはいえ、どのモンスターでも討伐報酬を貰えるというわけじゃない。

 そもそもこの『討伐報酬』というのは、冒険者ギルドの常設クエストとして出されているものをクリアした時に支払われる報酬だ。

 例えばこのオリジンの街なら、東西南北のレインズ森林やマルファ湿原といった、街を出て道なりに行ったところにある最初のフィールドのモンスターだけが討伐対象になる。なので、それを狩れば簡単にお金が手に入るというわけだ。


 ちなみに。レインズ森林で言えば、ブラックウルフは200コール、フォレストフォックスは250コール。そしてなんと、バレットラビットは550コールとなっている。

 これは1匹あたりの報酬なので、今回のオレの場合、ラビットだけでも、報酬は550×54で29700コールとなる。

 序盤のモンスターにしては破格だが、バレットラビットはその特性から討伐がかなり難しいので、それも考慮してこの値段になっていると思われる。

 βテスト時代も同じ金額だったし。


 というわけで、早速報酬の受け取りだ。


「いらっしゃいませ。――あら、ゼロ様ですね。どうされましたか?」


「レインズ森林方面の常設クエストの報酬を貰いたい。確認してくれ」


 そう言ってギルドカードを提出すると、受付嬢は「失礼致します」と言ってからギルドカードの裏面を確認し、やがて大量の袋に入った金貨を差し出してきた。

 実は、このギルドカードにはクエストを受ければその達成状況が、モンスターを討伐すればそのモンスターの名前と討伐数が表示される機能があるので、彼女はそれを確認したのである。


「お疲れ様でした。バレットラビット54匹、ブラックウルフ67匹、フォレストフォックス48匹で55100コールとなります」


 ……なんだか無性に肉まんが食べたくなってきた。

 まあ、それはともかく確認しよう。


 という事で、金貨袋に《鑑定》をかける。



 【金貨袋】

 クエストの報酬として貰った金貨袋

 総額55100コール



 うん。きっちりした仕事ぶりで好感が持てるな。

 まあ、ゲームだからシステムの通りにしてるだけと言えばその通りなんだけど。


「それから、ギルドカードもお返し致します」


「ありがとう。――また来る」


「はい。いつでもいらっしゃって下さいね」


 ギルドカードと金貨袋をインベントリに回収して礼を言うと、受付嬢はにっこりと笑ってそう言った。


 βテストでの経験から、このGWOのNPCにはそれぞれに対プレイヤーへの好感度が設定されている事がわかっている。

 これはGWOという世界の作り込みはもちろんの事、高性能なAIが現実の人間と遜色ない言動や行動をさせるせいでもある。

 だからこの世界には物流があるし、NPCショップだからと言ってポーションを99個買うとかは出来ない。

 ついでに言えば、NPCを他のゲームのNPCと同じに扱って横柄な態度を取ったりすると、出禁という形でNPCショップの利用が出来なくなったりする。


 GWOの開発会社には感服するばかりである。

 ともあれ、何が言いたいのかと言えば、円滑で円満な人間関係を築く事が、GWO世界では重要になる――という事だ。


 さて、そんな円満で円満なNPCとの人間関係のために、次に行くのは雑貨屋だ。

 あの店主にバレットラビットの肉を全部買い取って貰おう。



「やあ、少しぶりだね。物資の補充かい?」


 雑貨屋に行くと、人の良さそうな店主がにこやかに話し掛けてくる。


「いいや。まあ、買い物もあるけど、依頼を達成したんでその報告にな」


「……えっ」


「依頼内容はバレットラビット10匹の納品。……間違いなかったよな?」


「あ、ああ、うん。そうだよ」


「うん。……あー。肉と皮と骨と別々になってるんだが、どれをご所望かな?」


「うん? ああ、そうか。君は異邦人なんだね。そしたら、肉と毛皮を10ずつ頼むよ。その分、基本報酬を3500に引き上げよう。追加分はあるかい?」


「ああ。現状、54匹分のバレットラビットの肉、毛皮、骨がある。どうだ?」


「そんなに!? よく狩れたね!?」


「《隠形》持ってるからな。得物がこれだし、楽なもんだったよ」


 そう言いながら太腿のホルスターの拳銃を叩いて示すと、店主はそれを見て納得したように大きく頷いた。


「なるほど。身を隠しての遠距離攻撃か。……よし。そしたら……ええと、うん。この、袋に、肉と毛皮とを分けて入れて貰えるかな? 肉と毛皮で合わせて、1匹分あたり350で買い取るよ」


 店主がそう言いながら出してきた大袋に、それぞれ肉と毛皮を入れていく。


 それにしても……。

 肉と毛皮合わせて350はちょっとなぁ。

 ギルドですら1匹あたり500はくれるってのに、流石に150も差があるのはナイだろ。

 交渉のしどころだな。


「350? もうちょっと……もう一声! せめて400にならないか?」


「400かぁ……うーん……」


「考えてもみてくれ。オレは1時間半でバレットラビットを54匹狩った。普通ならそんなには狩れないはずだ。そうだろ?」


「……うん、そうだね。普通は逃げられるしね」


「だろう? それを54匹狩って、依頼の10匹分はともかく、残り全部をアンタにやろうってんだ。ギルドにも売ってないんだぜ?」


「うぅん……」


「バレットラビットの希少性を考えたら、400だって安いはずだ。違うか?」


「そうだね。……けどなぁ」


「……わかった。わかったよ、店主。オレはこれから色々手を出す予定なんだけど、そこの鍛冶道具と調合道具、それからスコップと鶴嘴を買おう。……どうだ?」


「……ふふ。うん、いいよ。それなら400で買おう」


「よし。商談成立だな。ところで、オレの知り合いの異邦人にもここを紹介しようかと思うんだけど――」


 そう言うと、いよいよ店主は苦笑を浮かべて両手を挙げた。

 つまり、『降伏宣言』である。


「参ったよ。今回だけ、2割引きにしてあげよう」


「よっし。ありがとう店主。……そういえば、名前は? オレは『レイ(・・)』だ」


「僕はアレンだ。さてと、基本報酬と合わせて21100コールだけど……ここから支払いに充てるかい?」


「ああ。いくらになる?」


「そうだね……。鍛冶道具と調合道具、スコップと鶴嘴って事だから、これらを差し引くと……14000コールだね」


「……結構するな?」


「まあね。……まあ、おかげであんまり売れなかったんだけど」


「おい」


「ははは。冗談、冗談だよ。……そうだ。研磨道具はどうだい? 鍛冶の後の砥石から、宝石の原石の研磨道具なんかもセットになってるよ」


 ……ふむ、研磨道具か。

 確か、βテスト時代になんとかいうユーザーが、宝石に魔法をストックしておけるなんて仕様を発見してたな。

 あれは……確か、研磨した宝石に《付与魔法》で魔法を付与するんだったか。アイテム名は『マギ・ジェム』とか言ったっけな。

 マギ・ジェムはアイテムだからMPが切れても使えるってのも利点だったよな……。


 よし。


「じゃあ、それも頼む」


 マギ・ジェムを自分で生産出来るかも知れないのはかなりのメリットだしな。

 それに、マギ・ジェムを売りに出せば第2陣が来た時にも一財産を築けるはずだ。

 躊躇いはない。


「わかった。そうすると……8500コールだね」


「随分減ったな……。まあいいか」


 最初の報酬金額から考えるとずいぶんと減額してしまったが、元々オレは環境を整えるためには金に厭目(いとめ)をつけないタイプなので、これくらいなんて事はない。

 それでなくても、ついさっき序盤にしては多額の報酬を貰ってきたばっかりだしな。βテスト時代も序盤に50000コールも稼いだ奴はいなかったし、それを思えばかなりのスタートダッシュを決めている現状でとりあえずは満足だ。


 あとはここから生産にも手を付けて、自分の装備は自分で賄うようにしつつ狩りをしっかりやって、堅実に稼いでいけばいい。

 どうせ狩り場は自分のレベル+5の場所にするんだから、レベルも素材も金も稼げようってものだ。……まあ、『ゼロ』である事のプライドがあるって事も否めないけども。

『ゼロ』も最初からトッププレイヤーだったってわけじゃないし、多少なら遊んでてもいいんだろうけど……まあ、そこはなぁ……。


 ともあれ、依頼の報酬と購入したものを全て受け取って、アレンに別れを告げて雑貨屋を後にする。

 オレの予想が正しければ、そろそろキャラクタークリエイトを終えてあの2人が来てるだろうしな。


「おっと、その前に……」


 課金ショップのマーケット画面を開いて、データ偽装系のアイテムを検索。

 その中から、名前だけを偽装出来るものを購入する。


「えーと……これか」



 【偽装のフード付きマント(名前)】

 ユーザーネームを設定した名前に書き換えるマント

 装飾品カテゴリに装備でき、効果は装備中のみ発動される

 3000円



 序盤から課金し過ぎな感じもするが……まあ、ゼロだとバレるよりはマシだ。

 陽斗には、まだ幻想を抱いていて欲しいしな。


「インベントリから装備して……あ、名前か」


 マントを装備すると『名前を設定してください』というウインドウが現れた。

 ここに偽装後の名前を入力すればそれが適用されて、周りのプレイヤーには偽装後の名前が表示されるという事か。


 ちなみにマントの色は黒。

 カラーリングを選べる親切設計だった。

 ありがとう運営。


 さて……金も出来たし偽装もやれてる。

 となれば、早速あの2人を迎えに行くとしましょうかね。

 昼メシの時に言ってた通りなら、陽斗は剣士で桜子は魔法使いだけど……このゲーム、ジョブって結構多いからなぁ。別のものになってる可能性もあるよな。

 ビルドに関して助言出来るジョブなら良いんだがな……。忠告聞かずに換装士とかやってたらぶん殴ってやろう。




   ◆




 という事で、初ログインのユーザーが最初に降り立つ場所――最初の街オリジンの中央広場にある噴水まで移動すると、見覚えがあるような顔が2つ。


 片方は腰に直剣を佩いたルーキー装備の男。

 顔といい髪型といい身長といい、陽斗にそっくりだ。

 これで名前が『ハル』とか『ソル』とかだったら陽斗で確定。あいつ、名付けは単純だからな。


 もう片方は、いかにもなローブと長杖(ロッド)姿の女。

 顔は桜子に似ているが瞳の色が紅になっていて、髪は長い銀髪のストレート。身長は桜子のものより少し高いくらいだ。

 桜子の場合はキャラクターの名前はそのキャラクターのイメージに合わせたものにするから、仮にあれが桜子のアバターなら……名前は『ルナ』とかだろう。


 2人とも、言っておいた通りに待ってるみたいだな。

 あんまり留まらせて妙に注目されても可哀想だし、そろそろ行くか。


「よう、そこのお2人さん。待ち合わせかい?」


「あ、はい、そうで……って、レイじゃねえか!」


「まったく。いたずら心は抜けないみたいだな……」


「はっはっは。ま、それはともかく、フレンド飛ばすな」


 メニューから2人にフレンド申請を飛ばすと、すぐに承認された。

 えーと……? 片方はルナで、片方はハルか。


「予想通りで安心したわ」


「……何の話?」


「名前の話。お前らの傾向を考えて名前を予想してたんだけど、その通りになったなーって」


「それを言ったら、レイもそのままじゃないかい?」


「オレの名前は西洋風って言っても通じるしな。……さて。そしたらまずはギルドに行こうか」


「ギルドって……冒険者ギルドか? 何のために?」


「ギルドに登録しておけばギルドのクエストが受けられるし、モンスターを倒せば討伐数に応じて報酬も出る。……ま、常設クエストになってるヤツだけだけどな」


「つまり……序盤の金策に有利になる、という事だね?」


「ああ。ま、そういう情報はまたリアルで話そう。まずはギルドに登録して、それからだ。……ところで、最初に聞いておきたいんだけど、下から順番にやるのと中間くらいから一気にやるの、どっちがいい?」


「……? 質問の意味がわからないけれど……」


「中間から!」


「ハルは中間からな。ルナは?」


「うーん……じゃあ、私も中間から……かな」


 ハルに引っ張られる形ではあったが、ルナも中間からか。

 そうすると……マルファ湿原じゃ足踏みだな。どのみち、オレがレベル8だから、想定狩り場はグリンズ荒野だ。

 グリンズ荒野のモンスターは群れてる奴はいないけど、密度が結構あるからなー……。さっさと倒さないと休まる暇がない。とはいえ、火力が足りるかどうか……。


 うーん……まあ、グリンズまでなら平気か。

 ウォレス大森林のオーガクラスの相手だと流石に火力足りないけど、グリンズ荒野までならギリギリ火力は足りてるはずだ。

 ……うん、大丈夫。


「わかった。そしたらまずはギルドで登録するか。登録したらすぐにフィールドにレベリングしに行くからな」


「レベリングか……わかった!」


「ふふ。MMORPGらしい響きだね」


 期待たっぷりといった顔のハルとルナ。


 すまん……連れて行こうとしてるのがレベル1にとっては地獄のような場所ですまん……。

 けどまあ、βテスト時代に試した事もあるし、多分大丈夫だろう。多分な。


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