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01 最初の街 オリジン


《最初の街オリジン》。


 オリジンの中央広場にある噴水前に降り立ったオレは、早速と冒険者ギルドを目指す。

 異世界転生系のファンタジー小説ではありがちな施設だが、このGWOの世界でプレイヤーが利用すると、クエストが受けられるというのはもちろんの事、モンスター討伐数に応じて特別報酬が貰えたりする。

 おまけにギルドにある情報なんかも参照出来るので、初心者ならギルドに登録しておいて損はない。


 まあ、βテスターとして知識があるオレは、単に討伐報酬が目的なだけだが。

 登録しないよりは登録してた方がいいからな。


「……にしても、βテストの時のデザインそのままか。多分、利用出来る施設は増えてるだろうけど……まあ、その時に考えるか」


 オリジンの街並みを眺めながら独りごちる。

 それから、ふと思い至ってメニューを呼び出し、ステータスと装備、インベントリを確認する。



【基本情報】

 名前:ゼロ

 レベル:1

 種族:人族

 メインジョブ:換装士Lv1

 サブジョブ:隠密Lv1

 STR:16

 VIT:15

 INT:14

 MND:13

 DEX:17

 AGI:18


【称号】

 なし


【戦闘系】

 剣術Lv1 短剣術Lv1 銃撃術Lv1

 格闘術Lv1 刀術Lv1 投擲術Lv1


【魔法系】

 治癒魔法Lv1


【特殊系】

 気配感知:Lv1 敵意感知Lv1 魔力感知Lv1

 鑑定Lv1 暗視Lv2 隠形Lv1 気配遮断Lv1

 速読術Lv1 高速理解Lv1 換装Lv--


 お金:5000コール



 なるほど、正式リリース版でもβテスト版とそう変わりはないらしい。

 初期スキルの他にいくつか生えてるスキルは、確か隠密の職業初期スキルだったはずだ。暗視スキルは統合されてレベルが上がってる。


 とりあえず、ルーキーシリーズからの脱却が優先かな。


 それから、視界の左上には3本のゲージ。

 一番上が、緑色のHPゲージ。全損で死亡。

 次が青色のMPゲージ。なくなると魔法使用不可。

 最後が赤色のAPゲージ。なくなるとアーツ使用不可だ。

 視界のAR表示には他にもミニマップがあったりする。他にも、状態次第で表示されるものは増える。


 ちなみに、アーツとはスキルレベルが一定に達する毎に修得出来る技の事。ゲームによってはこれ自体をスキルと呼ぶ事もある。

 スキルレベルの上げ方にはいくつかあり

 1.対応した武器で戦闘を繰り返す

 2.書物を読み、スキルへの理解を深める

 3.アーツを使いまくる

 などがある。ぶっちゃけ1と3はあんまり変わらない。


「――お、着いたな」


 色々と確認していると、冒険者ギルドの前までやって来ていた。

 早速中に入り、そのまま受付カウンターまで歩を進める。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドオリジン支部へようこそ。本日はどのようなご用向きでしょうか?」


 ダークブラウンのショートヘアの受付嬢が、オレがカウンターの真ん前に来るとそんな言葉をかけてきた。

 文言自体はβテスト時代と変わらない。まあ、ギルドのマニュアルに沿ってるって事なんだろう。


「登録しにきたんだ」


「畏まりました。では、こちらの水晶に手を」


 受付嬢は会釈すると、カウンターの下から透明の水晶を取り出した。

 この水晶に手を乗せれば、誰に情報を見られる事もなく、登録が完了する――というわけである。便利なもんだ。


 水晶に手を乗せると、一瞬水晶が光り、何事もなかったかのように透明な水晶に戻る。

 簡単だが、これにて登録は終了だ。


「はい。これで登録が完了致しました。こちらはゼロ様のギルドカードとなります。万が一紛失した場合は1万5000コールで再発行を受け付けておりますので、頭の片隅にでも置いておいてください」


「了解した」


「その他、何か質問等ありましたらどうぞお気軽にお尋ねください」


「いや、今は特にない。ありがとう。また来るよ」


「はい。良き冒険者ライフをお楽しみください」


 最後にそう言ってにっこりと笑う受付嬢にこちらも笑みを返して、差し出されたギルドカード――銀のクレジットカードみたいなやつ――を取って、そのままギルドを後にする。


 次に向かうのはオリジン図書館。

 このオリジンの街がある国の事や他国の事を記した書物はもちろん、スキルの詳細が書かれたスキル書や、絵本、小説の類もあったりする、情報収集にも娯楽にも使える施設だ。

 書物の貸し出しは基本的になく、写本にして持ち出すのは可能である。


「――オリジン図書館へようこそ、異邦人の方」


 オリジン図書館に足を踏み入れると、フレームレスの楕円眼鏡をかけた女性司書が話し掛けてくる。

 彼女の言った『異邦人』とは、すなわちプレイヤーの事だ。逆に、彼女やギルドの受付嬢みたいなNPCはプレイヤーに『住人』と呼ばれている。


「どうも」


「本日はどのような本をお探しですか?」


「スキルに関するものを。なるべく多く、詳細に書かれたものがいい。それから、魔導書も一通り。属性を網羅したい」


「畏まりました。そうしたら、ここから真っ直ぐ行って、手前から3つ目の角を右に。しばらく真っ直ぐ行って、奥から2つ目を左に行くとスキル書や魔導書の棚となります」


「ありがとう、行ってくるよ。利用料は100コールだったよな?」


「はい、その通りです。……以前にもご利用なさった事が?」


「いいや、人に聞いただけだ。――ほい、100コール」


 懐から、10円玉より2回り大きく厚い銅貨を10枚取り出して司書の女性に渡す。

 彼女はそれを「確かに」と言って受け取ると、にこやかに「ごゆっくり」と言ってくれた。

 正直長居をする予定はないのだが、とりあえず笑みを返して返事としておく。


 女性司書がいるカウンターを離れて、案内の通りの道順を辿り、本棚に到着。

 びっしりと本棚に並んだ本は、半分がスキル書、半分が魔導書らしかった。


「……よし、始めるか」


 そう呟いてから、本を片っ端から読んでいく。

 スキル《速読術》と《高速理解》のおかげで、読む速度は速く、しかし内容はしっかりと頭に入ってくる。


 今オレが何をしているのかと言えば、早い話が『スキルを生やしている』のである。


 元々この手法は公式に発表があったわけではなく、βテスト終了1週間前に偶然見つけたものだ。

 それまでスキルの習得と言えば、そのスキルに対応した武器を使うとか、関連した作業(鍛冶スキルなら鍛冶、調合スキルなら調合)をした場合にのみ習得出来るものだと思われていた。

 少なくとも現地人の間ではその認識が普通であり、異邦人たるプレイヤー達もその例に漏れなかったのだ。


 そんなβテスト中のある日の事。

 どうせ正式リリースするのだから、せっかくなら知識だけでも詰め込んでおこう――という事でやって来たこのオリジン図書館で、スキル書や魔導書を読んで内容を理解するとスキルを習得出来る、という事実に気が付いたのである。

 今回は特別だが、普段はオレがゼロである事を隠すためにソロプレイ専門で、なおかつフレンドも作らなかったので、これを知っているのは今のところはオレだけだ。



「……ふぅ。なかなか疲れるな」


《速読術》と《高速理解》の力によって、1時間もする頃には既に本棚の6割を読破していた。

 おかげで色々とスキルが増え、レベルが上がった。《速読術》や《高速理解》も例外ではない。

 そして、1時間半が経過する頃には、全てのスキル書、魔導書を読破していた。


「……とりあえずはこれでいい。次は……レベリングだな」


 オリジンから伸びる東西南北の道の先には、それぞれ推奨レベルの違うフィールドが広がっている。


 始めたばかりの初心者なら南のフォーライズ平原がオススメ。モンスターのレベルが3~4と程よく、ソロでも十分に狩りが出来る。

 少しレベルが上がったら、西のレインズ森林。モンスターレベルは5~6で、少しでもGWOに慣れてないとキツい。

 レベルが5を超えたら東のマルファ湿原へ。モンスターレベルは8~10。ソロでやるには慣れてないと厳しい。湿原だから足場が悪いのも難易度が高い。

 レベルが10になったなら、いよいよ北のグリンズ荒野へ。モンスターレベルは13~15。ここまで来たら装備はそれなりなので、回復役を含めた4人くらいのパーティで行くと良い。ソロはお察し。


 オレはβテストの時の経験も知識もあるし、検証してみた結果、GWOでは自分のレベル+5までは頑張れば狩れるので、経験値の美味しいレインズ森林に早速乗り込もう。


「そうと決まれば急ぐか。ポーションをいくらか買って……食料や水も必要だな」


 幸いオレにはスキル書と魔導書で得たスキル郡があるし、スキルの使い方は理解している。


 というわけで、女性司書にお礼を言ってから図書館を後にし、今度は雑貨屋を目指した。

 店売りのポーションは開発側で設定された数値の効果しかないが、序盤はそれで十分だ。ある程度レベルが上がってお金が稼げるようになったなら、自分で作るか、あるいはプレイヤーショップのプレイヤー製ポーションを買い求めてもいい。

 どのみち、NPCショップのポーションではいずれ頭打ちになるので、早めに金策するか《調合》や《錬金》を習得した方がいいのである。


 そんなわけでやって来た雑貨屋。

 店には人の良さそうな男性が1人だけで、他に人の姿はない。


「やあ、いらっしゃい」


「どうも。HPポーションとMPポーション、それと干し肉と水袋を貰えますか」


「どのくらい必要なんだい? ちなみに、HPポーションは50コール、MPポーションは80コールだ。水袋は1つ250コール。干し肉は……バラ売りはしてなくてね、袋売りになる。一袋500コールだよ」


「ふむふむ。……そしたら、HPポーションを15本、MPポーションを10本。水袋は……まあ、あまり水は飲まないだろうし2つかな。干し肉は――そういえば、干し肉は一袋あたりどれくらいの量なんだ?」


「一袋は大体1kg半ってとこだね。試食してみるかい?」


「可能なら」


「可能さ。……はい、どうぞ」


 雑貨屋の店主は袋の中から干し肉を1つ取り出すと、こちらに渡してくれた。

 干し肉は長さが大体オレの手と同じくらい。厚さは5ミリ程度だろう。それを早速口に入れ、咀嚼する。


「……ん。美味いな。自家製か?」


「ああ、そうだよ。口に合ったようで何よりだ」


「この美味さで500コールか……。よし、わかった」


「ん?」


「干し肉一袋850出す。これにはその価値があるからな」


「……いいのかい?」


「ああ。今回はとりあえずそれだけ頼む」


「わかった。それじゃあ、合計で2900コールだ」


 店主に規定の金額を支払い、諸々を受け取ってインベントリにぶち込み、ソート。


 ちなみに、何故食料や水袋(つまり水筒)を買ったのかだが。

 このGWOには満腹度や渇きのシステムが実装されていて、満腹度は赤褐色、渇きは水色のゲージで表示される。

 ゲージが満タンなら飢えはなく渇きもない状態だが、時間が経過すると徐々にゲージが減っていき、満腹度ゲージが空になると空腹で動けなくなり、渇きゲージが空になると脱水症状でHPがゴリゴリ減っていき死亡してしまう。

 どちらも死に直結するため、定期的な補給のために食料と水を買ったのである。


 それから、料理には強化(バフ)を付与する効果があり、例えば肉料理ならSTRやVIT、魚料理ならINTやDEXなど、その料理のメインとなっている食材で効果は変わってくる。

 干し肉は食後180分間のSTR微増効果。


 ちなみに、GWOの料理はユーザーが作る場合を除いては大体どれも美味いので、バフそっちのけで美味いものを巡る冒険に出るのもいい。

 フルダイブ型で五感全てが再現されているからこそ望めるプレイだ。


「ありがとうね、割増で買ってもらっちゃって」


「いやぁ、こんな美味い干し肉なんだから自信持って欲しいね」


「ははは。今日はこれから外かい?」


「ああ。ちょっと狩りにね」


「どこに出るんだい?」


「西門からレインズ森林に行くつもりだ。もし何かあれば、請け負うけど?」


「うーん……それじゃあ、頼めるかな? レインズ森林のバレットラビットを10匹ほど、納品して欲しい。もちろん報酬は出すし、ラビットは買い取りという形になる。どうかな?」


 店主がそう言うと同時に、視界にウインドウが現れる。


 ――クエスト:バレットラビットの納品を受けますか? Yes / No


 報酬は1500コールか。

 バレットラビットは買い取りの形になるみたいだし、結構美味しいクエストだな。という事でYesを選択。


「ありがとう。あ、そうそう。10匹を超えてもその分買い取らせて貰うからね。夕方までに持ってきてくれるかい?」


「ああ、了解した。……ちなみに、なんでバレットラビットなんだ?」


「えっ? いや、それは……ええと……笑わないかい……?」


「笑わないさ」


「……その、好きなんだよ。バレットラビットの肉が」


 バレットラビットはレインズ森林に湧くレベル6のモンスターだ。

 臆病で、敵を見つけると弾丸のように一目散に逃げていくのが特長。体長は大体65センチくらい。

 焼いてもいいし煮てもいい、燻製もアリだし干し肉としてもポピュラーで、なんでも来いの万能選手である。


「なるほどな。わかった、狩ってくるよ。期待して待っててくれ」


 店主にそう言って雑貨屋を後にする。


 さーて、レベリングも兼ねて金稼ぎだ。

 バレットラビットはギルドでも買い取りやってるし、もしアレならそっちにも売るか。

 ……よし、狩りまくるぞ。


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