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貴族⑤

城の中へ入ると焦茶色の髪で騎士姿の若い女性エルフと濃紺色な髪色の壮年人族男性が待ち構えていた。

「お持ちしておりましたサイリ様」

「や、ルーク久し振り、クインも元気そうだね」

「お久しぶりですサイリ様」

恭しく礼をするルークとクイン、サイリを捉えていた視線が灯へと向けられる

「サイリ様、そちらの方が・・・」

「うん、私の娘アリエット」

ポンと背中を押されたので一歩前に出て挨拶をする

「初めまして、アリエット・ルナリアです」

「初めまして、私はルーク、国王の補佐をしています」

「クインよ、魔法騎士団副団長をしているわ」

ルークは孫を見る様な柔らかい眼差しで笑顔を返す

「・・・」

ジッと見られてる・・・、対してのクインは食い入る様に灯を凝視している。

サイリはそんなクインに苦笑しながらも先を促す

「さ、行こう」

「はい、こちらへ」

「・・・ジッ」

「・・・」

凄い見られてる!むしろ口で「ジッ」とか言ってる!

突っ込んだら負けな気もするし、サイリもスルーしているからなんでもないのか、なんなのか・・・

気にしながらも後について行く



先頭はルーク、続いてサイリと灯、一番後ろをクインが歩く

城は広い、左に曲がり右に曲がり、上って下って、

うん!道もう分かんない!と考える事を止めた灯

そんな灯を見透かしたかのようにルークが口を開く

「道、分かりにくいですよね」

「あ、そう、ですね、もう帰り道分かりません」

「奥に行けば行くほど簡単な道になるのですよ」

「こんな混んだ造りにしなくても良いと思うのだけどね、当時の王は何を考えているんだか・・・」

「改築の話も出ているのですよ、分かりにくい、と苦情も多いので、ですが歴史ある物を壊す訳にもいかず」

「まあ、慣れろ!で済む話でもあるし、わざわざ時間と予算、労力を掛けたくないのもわかるけどね、アリィ迷うから離れないようにね」

「うん、絶対離れない」

迷ったら終わる、多分一人では戻れない

そんな話をしながら進んで行くが、後ろからはずっと突き刺さる視線があった。

一言も発しないクイン、私何かした?初対面だし挨拶しかしてないよね?と困惑する灯。


十分程歩いただろうか、王の居る場所まで徒歩十分、広い・・・、とある部屋の前まで来ると

「こちらへどうぞアリエット様」

「え?」

「アリィ、先に王と私が話すから待っていておくれ、いいかい?()()()()()について行ってはいけないよ?必ず私が迎えに来るから、それまではこの部屋に居るように、何かあったらクインの指示に従うようにね」

「うん」

何か起こるのか、そんな念の推した言い様に嫌な予感がする。

不安に思いながらも部屋に入るとクインが漸く口を開いた

「こちらへ」

上座へと勧められる、特に何も考えず示されたソファーに座る灯。

「ありがとうございます」

「いえ・・・」

御礼を言ってもフイとそっぽを向いて素っ気ない態度のクイン、そのまま扉の横に直立不動となる。

気まずい、何か話した方が良いのか、黙っていていいのか、通常の貴族なら何も気にしないのだが、これまで庶民だった灯は色々と考えてしまう

そんな所にトントントンとノックが響く

「なんだ」

「お茶で御座います・・・」

「・・・入れ」

侍女が一礼してポットテーブルを押して部屋に入る、慣れた手付きでお茶の準備を始めた。

あ、あのお茶葉好きなんだよね、よく家でも容れてくれるお茶で全然渋味が無いの、他のお茶葉だと多少なりとも渋味というか喉に引っ掛かるものが有ってミルクティーにしてもらうんだけど、アレだけはスっと飲めるから本当に好き。

ジャムもある、砂糖でも良いけどやっぱりジャムだよね!

ウキウキして待っていると

「お茶、好きなんですか?」

突然クインさんに声を掛けられて驚く

「え?あ、はい、あのお茶葉飲みやすくて好きです」

何故分かったのか、そんな疑問が顔に出たのを察したのか

「お尻尾、揺れてますから」

「う!」

指摘されて尻尾を見ると機嫌良さげにフリフリと勝手に左右に動いている

成程これはモロバレだ・・・

クインさんがクスリと笑う、エルフってみんな美形で笑顔になると凄い威力だよね、凛とした冷たい感じだったのにそんな印象ふっ飛ばしちゃう美人さんだ。

「美味しいけど高いですよね、アールン地方のグレイティー」

「は、はい・・・」

ごめんなさい、何処産とか銘柄とか値段とか全くもって知りません、そんな高級品なのか、ごくごく飲んでいたけど・・・

「ストレート?それともミルクティー?」

クインさんはお茶が好きなのか意外と話が弾む

「ストレートも好きですけど、一番はジャムが、酸味が強めの物が好きです」

「ああ、良いですね、何も付けないクラッカーやスコーンに合いますからね」

「そうなんです、逆に甘いお菓子の時はストレートで」

「分かります、お茶に癖がないから何にでも合いますよね」

「はい!」


先程までの難しそうな顔と素っ気ない態度は何だったのか、見た目で判断してごめんなさい、いい人かも?

ニコニコと談笑をしている内にお茶の準備が終わり、目の前にお茶とお菓子が並べられた、侍女も聴いていたのかジャムも近くに置いてくれる。

「どうぞ」

侍女は一通り並べ笑顔で勧める


わーい、お茶の味は知っているけどお城でどんなお菓子を出すのかは興味あるよね!

嬉嬉としてカップを持ち飲もうと香りを楽しむ

「・・・あれ?」

なんか、変な匂いが混じっていたような・・・

いつもと違うような・・・

違うお茶葉だった?やー、でも同じ物だと思ったんだけどな、もしかして茶葉をブレンドしてたりするのかな、産地とかブランドの茶葉を混ぜたりするかな普通、・・・しないよね?

そういうのって家の中で個人の好みを追求して飲むならアリだけど、外のお客に出すっていうのは無い、よね?多分。


嬉しそうにカップを手にした灯が中々紅茶を飲もうとしないので疑問に思ったのか、怪訝な表情になるクイン

「どうかしましたか?」

「え!?あ、」

果たして言って良いものか、ともすれば城のお茶にケチを付けた事になるのでは、でも一度違和感があると気になるし、うーん・・・

あ、でもお母さんが言ってたっけ

「知識、経験を積んで判断する事もあるけど、最終的には本能に従いなさいアリィ、獣人の勘は理屈を超えます、知識経験で迷う事もあるけど、目、鼻、耳、感じた事を、自分の感覚を信じなさい」

今まさにその時だよね、と母の言葉に従う事にした。


「お茶に何か混ぜてるのかなー、なんて・・・」

遠慮がちに言った瞬間、クインの目付きが鋭くなり侍女は凍り付いた

「失礼、よろしいですか?」

「は、はい」

手に持つカップをクインに渡す、鼻を近付け匂いを嗅ぐクインだが

「・・・」

分からない、獣人とエルフでは当然獣人の方が五感に優れている、即座に解析の魔法をこっそりと起動、早さを重視して魔法を使ったので細かい解析は出来ないが確かにお茶以外に何か入っているのは確認出来た、それで十分。

悟られないように取り繕う

「失礼しました、恐らく古い茶葉が混ざっていたようです、城では一度に大量に仕入れますので」

「あ、そうなんですか、じゃあ大丈夫ですね」

「いえ、お客様に失礼な事は出来ません、新しく容れさせますので」

「え、気にしませんけど・・・」

「王の客人ですから、どうか」

気にしないと言ってもそれぞれに立場と言うものもあるんだ、あまり頑張っても迷惑かなと灯も引いた

「ではお願いします」

「ありがとうございます、新しいお茶が来るまで先にお菓子をどうぞ」

お菓子の方もサッと解析済で安全は確認している、客の、しかも子供の前で何か入っていると犯人探しをするなど無様を晒すようなものだ、わざわざ気分を害する必要も無いとクインは機転を利かせていた。

当然だがサイリには報告しなければならない

チラっと侍女に視線を送り釘を差す、それを理解したのか

「申し訳ございません、こちらの手違いで」

「いえ、大丈夫ですから」

頭を下げて部屋を出て行くタイミングでクインも扉の外に控えている二人の騎士の内一人にひそひそと指示を飛ばす、聞いた騎士は顔を引き締め音もなく何処かへと走って行った。

灯はお菓子に夢中で特に気にしてはいなかったが、王の客として招かれたサイリ・ルナリア公爵とその娘に起きた事としては大事だ、異物の入ったお茶が出るなど有り得ない事である。


暫くして先程とは違う侍女が新しいお茶を容れた。

「お待たせ致しました」

「いえ、ありがとうございます」

特に気にした様子もなく、お茶を口にして嬉しそうに尻尾を振っている灯を見てホッとしたクインであった。




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