閑話 獣人騎士
俺は魔法国サリアの騎士ジョン、今日も平和だが警備の手を抜くつもりは無い、「何か」があってからでは遅いのだ。
相方は人族のカイト、必ず騎士は二人一組で何事にも取り掛かる、こいつは器用な奴で剣でも槍でも弓でも使えて、更には初級魔法も習得している、対して俺は一応騎士と名乗る手前、剣を持っては居るが蹴り主体の格闘専門だった。
まあ、バランスの取れた組み合わせだと思う
「なあ、今日公爵様来るけど何かあるのかな?」
「さあな、まあ珍しい事ではあるよな、あまり城には寄り付かない人だし、それよりこの前美味い酒場見つけたんだが行くか?」
「あ?獣人は底無しだからな、手加減してくれよ」
「潰れるまで飲むぞ?」
「いやなんでだよ、程々にしとけよ・・・」
「はは、冗談だ、他の奴も誘って行くぞ」
「ああ」
まだ午前の早い時間から仕事終わりの話をする二人、まあ今日も何も無いだろうと思う程には平和が続いていた。
「そういやエクセリオン様、まだ居るのか?」
「居るな、アルフレッド様も一緒に」
「珍しいよな、大体はサイリ様が稽古付けてるイメージなんだけど」
「まあな、なんてったって最強の公爵様だからな、わざわざ騎士団で鍛えているのって何かあるのかね」
「忙しいんだろ、あ、今日は迎えに来たのか?」
「いや、そんな子供じゃないんだしエクセリオン様もアルフレッド様も普通に帰るだろ・・・」
「じゃあ何しに来るんだ?」
「・・・、騎士団の稽古を付けに?」
「げえ、俺パス!お前獣人なんだから受けて来いよ、強くなれるぞ」
「馬鹿言うな、あの人手加減下手だから死ぬ、この前の稽古だって、」
「言うな・・・、俺は気付いたら稽古終わってて記憶無い・・・」
「記憶無い程度がなんだ、俺なんて片手で頭掴まれて投げ飛ばされたり、デコピンで脳震盪起こしたり・・・、獣人の頑丈さを初めて恨んだぜ・・・」
「・・・マジ?」
「マジだ、お付きのセバス様も人外だったし」
サイリは手加減が上手くない、何度か騎士団長、魔導師団長が手加減について直訴をしたが
「強くなれば強くなる、弱いからキツイんだよ」
などと、力こそパワー、のような脳筋発言をして聞き入れて貰えなかった背景があった。
セバスもセバスでギリギリ限界を超える稽古を施すので阿鼻叫喚な稽古であったという・・・
サイリ、セバス共にその実力から定期的に騎士団を鍛えていた。
「そりゃ、アンタが一番強いんだから・・・」
「な、マジで手加減覚えてくれ、それ以外は味方である以上素晴らしい人なんだけどな・・・」
地獄を思い出しゲンナリする獣人ジョンと人族カイト
「っと、来たぞ」
「ああ」
そこに当の本人、サイリウス・ルナリア公爵の馬車が来た
姿勢を正し、顔を引き締める、魔法国サリアにおいて筆頭貴族にして最高戦力の到着に、先程の馬鹿話をして気を抜いていた二人の姿はもう無い。
王と議会を除けば単独で最高権力を持つ存在、当然いち騎士が無礼を働けば首など軽く飛ぶ、職務的にも物理的にも
。
と言ってもサイリの人となりは広く知られている、圧倒的力を持ちながらもその性格は穏やか紳士的、力加減が下手と言っても騎士とよく手合わせをして鍛える姿を知っている為、騎士団でサイリを悪く思う人は居ない
「強くなれば生き残れる、生き残れるなら沢山の民を救える、その為の力をつけよう」
そんな強くて優しい存在を誰が嫌うと言うのだろう。
余程の事がない限りは彼を怒らせる事も無い、そう、余程でない限りは・・・
馬車の扉が開きサイリが出て来た、タイミングを合わせ敬礼する。
サイリはそんな二人を見て労うかの様に小さく頷いた
「アリィ、手を」
アリィ?連れが居るのか、誰だ?
疑問に思うも間も無く続けて馬車から少女が出てきた、肩には一匹の猫
「!?」
先ず目に飛び込んで来たのは明るい赤色のドレスと黒髪の獣人という事、黒い尻尾にはピンクのリボンが結ばれていて少女の持つ可愛らしさとマッチしている。
(獅子の!?いや黒は特別だ、猫の獣人か?、だがサイリ様がエスコートするという事はそれなりの・・・)
黒獅子は陛下を除けばサイリしか存在していないが公爵家の馬車に乗って来た、獅子の獣人だと思うが黒髪が疑問、誰だ?
ドレスの仕立て、靴の造り、身に付けている物は安物では無い、手の込んだ職人による立派な物だとひと目で分かる。
と考え込んでいたが、出て来た猫少女は履き慣れていない靴なのか足下が少し怪しかった、念の為にいつでも動ける様に身構えるジョンとカイト。
「ありが、きゃっ」「にゃっ」
案の定踏み外した、
「危ない!」
受け止め支えようとして落下点に入ろうとした時、視界内に居るサイリ様の姿がブレて見えた。
ポフ・・・、落ちかけた少女はサイリ様の腕の中に収まる
ギリギリ把握出来た程度だが、少女が踏み外した瞬間に背中と膝裏に手を差し入れて抱きあげ、そのまま地面に着地と言った所か、多分・・・
受け止めようとした手の中には、少女の肩に乗っていた猫が飛び降りて来て乗っていた。
「・・・」
間抜けにも受け止めようとしたのはカイトも同じなようで、互いに中腰で手を伸ばした体勢のまま固まっていたのが見えた。
サイリ様がエスコートしてて怪我など有り得ないが、だからと言って怪我するかもしれない状況で棒立ちも出来ない・・・
「ありがとうお父さん」
・・・、何か信じられない言葉が聴こえた気がする
少女は周りの状況に気付いたのか、お騒がせしました、と礼を言った、頬を少し赤く染めた笑顔は可愛らしく、目が離せない。
ふと、少女はこちらに手を出して立っていた
「?」
あ、猫か、と一瞬反応が遅れた
「?、あの?」
「あ、はい!ご無事で何よりです、どうぞ」
猫を手渡すと黒髪の猫(?)獣人の少女は笑顔で御礼を言って、サイリ様と共に城の中へと歩いて行った。
何を答えたか覚えていない、変な事は言ってないと思うがフワフワと足下が浮ついている気がする
「・・・良い」
この手の中に居て欲しい、守りたい、そんな想いを感じた。
「おい、・・・おいっ!ジョン!」
いつまでもボケーっとしている相方に声を掛けるカイト
「ん、なんだ?」
「なんだ、じゃねえよ、どうしたボーっとして」
「あ、いや、あの娘、良いなあと思って・・・」
「確かに可愛かったけど、お前少女趣味だったのか」
「いや違う!その、手元に置いておきたいと言うか、守りたい対象だ!」
「違うったって、手元におきたいって発言の時点でやべー奴なんだが・・・」
ジョンの発言に引くカイト、ともすれば誘拐したいとも取れる発言だった。
「だから違うって、獣人の本能ド真ん中な存在と言うかなんというか・・・」
「あー・・・、それか、獣人本当に子供好きな?他所の子供にさえそんな調子になるもんな・・・」
「仕方ないだろ、子供を守り、慈しむのは獣人の本能そのものだ、あんな小さくて華奢な可愛い子なんて余計に刺激されるんだよ」
「獣人街での子育ては近くに居る大人全てが行うんだっけか?人族からしたら信じらんねーけど・・・」
「そういう文化であり獣人の性だ、子は宝、父性愛、母性愛が強いんだよ」
「そういや第二部隊のマックスだったか?狼の、あいつ踏み込んだ現場で子供を殴る賊を見て半殺しにしたらしいな」
「当たり前だな、殺されなかっただけ感謝してもらわないと」
「こえーよ、お前ら・・・」
「ならカイト、お前は自分の子供が誰かに殴られて我慢出来るのか?」
「独身だし俺、まあ我が子と考えれば仕方無いのか?でも自分と関係ない子供までそういう対象になるかと言われれば、ちょっと・・・」
「獣人はそうなんだよ、だから決して少女趣味では無い」
「ふーん、まあ良いけど、で?あの子の匂いはどうだった?」
「優しくて甘い良い匂いだったな、抱き締めて寝たいくらいだ・・・、、、って、いや、違うぞ?」
「お前やっぱり、」
「違う!嵌めたなカイト、匂いこそ本当に抑えられない本能そのものだ、嗅ぐ嗅がないでなくて、感じてしまうんだよ!」
「へー、ほーん?そう言えば俺、飲みたい酒有ったんだよなー、あれ?ジョンくん!君のお勧めの酒場有るんだっけー?」
ニタニタと言うカイトは完全な確信犯だった。
「てめえ・・・」
「雑貨屋のリルちゃん」
「っ!!」
グルルと唸るジョンだったが、ボソリと言われた名前を聞き固まる、最近やっとの事で話すようになり仲良くなった娘の名だ。
「飲みたいなー、酒飲めば口固くなるかも?」
普通酒が入ると口は軽くなるだろ、そう思いながらもジョンに選択肢は無い。
「今日はサシな・・・」
「ゴチそうになります!ジョン君」
ガックリと脱力する獣人騎士ジョン、決して少女趣味では無い・・・
「まあ冗談はさておき、あの子、アリィって呼ばれていたけど何だと思う?」
「つうか、サイリ様の事を「お父さん」って言ってたよな」
「そういうプレイか?宗旨替え?」
「バッカ!あの人がリリス様以外に靡くかよ!」
「だよなぁ」
サイリの愛妻家ぶりは有名だ、誰にも靡かないし妻リリスを愛している、伴侶のリリスもまたそうであり、獣人が対多数の結婚も可能と言われていても全く隙の無い夫婦として誰もが知っている。
「と、なると普通に娘?」
「公爵家の娘はエリューシア様だけだろ?他に居るなんて聞いた事ないぞ」
「じゃあ養子?」
「男女一人ずつ子供が居るのに?」
「・・・うんん?」
「つうかあの子、獅子、だよな?」
「やっぱりカイトもそう思うか?」
「でも、黒髪だしなぁ・・・」
「獅子の家に黒猫の獣人、ねえよな」
「ないない!イジメかよ・・・」
灯の存在は一般的な視点で言えば不審なものだった
隠し子はサイリとリリスの仲では有り得ない
養子にしてもイマイチ納得出来る理由も無い
何か不幸があって引き取る事も考えられるが、それなら公爵の本家ではなく他に相応しい家を探し出すだろう
後継ぎが居ない場合の養子案、そもそも後継ぎは居る
そして、恐らくは獅子の獣人と思われるのだが
特別な意味を持つ「黒髪」
現在サイリしか居ないとされている存在
ルナリア公爵家の異界還りの話を知らない一般の者には謎だらけの存在。
頭を悩ます二人だったが答えは出ない
数日後、王からの発表で仰天する事になるのを今は予想だにしていなかった。




