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貴族④

「アリィこっちへ」

「えっ?」

返事をする間もなく灯はサイリの膝の上へと乗せられた

「お父さん?」

「アリィ達の馬車、見せてもらったけどあれは特別製だね、あの馬車ほど快適じゃないし、普通の馬車はとても揺れるから、ね?」

確かに、乗り込んで走り出したら結構ガタガタと揺れが強い


ガツンッ!


石を踏んだりしているのか今も突き上げられたりと乗り心地が良くなかった。

かと言って膝の上に座るのもどうなのだと、照れながらお礼を言う

「ありがとう・・・」

「良いんだよ、私も役得だ、姫を抱きしめられるのだから」

サイリは上機嫌に膝の上の灯を撫でている、そもそも灯の前で不機嫌な姿は一度も見せていないので、いつも通りのサイリなのだが。


「本当に似合っているよ、リリスかい?そのドレス」

「あ、うん、お母さんが似合うからって・・・」

「うん、流石だなリリスは、アリィを分かっている」

「本当に似合う?」

「本当だとも、似合わない格好でアリィを外に出して恥なんかかかせられないからね、可愛い、いや愛らしいと言うべきか」

「えへへ・・・」

寧ろ似合いすぎて外に出したくない

獣人は大柄な体格の者が多く小柄な灯は特に獣人特有の庇護欲を刺激する存在だ、それが今着飾っている

赤いドレスに尻尾にリボン、脚を白く透けたストッキング

に包み、靴は艶のある黒いヒール。

少女趣味に近い格好だが同じ歳の平均的な体格のエルと比べて、成長の遅れている灯には十分に似合っている、人族で言えば14歳相応でも獣人から見たら10歳前後に見える容姿。

膝の上にちょこんと大人しく座っている姿は

絵本から飛び出して来たヒロインの少女の様だ


サイリの視線を受け、灯が見上げて首を傾げる

「ん?」

なあに?と瞳で訴え掛けてくる娘に、父であるサイリでさえもあまりの愛らしさにグッと来る

(これは本当にまずいな・・・、ずっと屋敷に、腕の中に閉じ込めておきたくなる)

獣人の強い庇護欲と父としての父性愛が重なり、ついついギュッと抱き締めてしまう

灯は大人しく抱かれゴロゴロと喉を鳴らす

サイリの耳に喉を鳴らす音が聴こえてきて余計離し難い思いに突き動かされそうになるが、これ以上強く抱きしめるとドレスが皺になるし髪も崩れてしまう、本能を必至に堪えてなんとか離し、優しく獣耳を撫でた。


以前リリスが今の灯が外を歩いていたらナンパされたり、攫われたりすると言っていたが、それは邪な者達に限っての話、普通の貴族や庶民なら見蕩れる位だろう、という意図であったが

今の姿では貴族にさえ目を付けられてしまいそうで心配なサイリだった。



「そう言えば魔法国って王制なの?」

「いや、一応王制と議会制の複合だね」

「複合?」

「基本的には議会で諮って、王の名の元に実行される、議会にも責任があるが最終的な国としての責任は王が背負う、といったところだね」

「そうなんだ、完全な王制にはしないの?」

「ほら、愚かな者が王になった時、王が絶対的な権力を持っていたら国が揺れるだろう?民の為に王でさえも法の下でないとね、王=法では要らぬ争いを起こしかねない」

「あ、そうだね、生まれてくる王様が全て賢いなんて保証は無いもんね」

「そういうこと、まあ今代の王は頭だけは良いから大丈夫だけど」

「へえー」

頭だけは、とはどういう意味であろうか

捉え方によってはまるで人格に問題があると言っているようにも聞こえる言い方だった。


そんなこんな、色々と話している内に城へと到着する

大きな門を潜り、門番も居たが停る事なく場内へと進む

「何か検査とか入城手続きって無いの?」

「馬車にルナリア公爵家の家紋が入っているからね、何か緊急時でない限りはそのまま素通りだよ、事前に面会の連絡もしてあるしね」

「歩いて来たら?」

「貴族は徒歩移動あまりしないからね、どうだろう・・・

私は多分通れるけど、アリィは顔を覚えてもらわないとね」

「覚えられる程お城に来るのかな・・・」

「うーん、どうかな?まあ来る時は誰かと一緒だから何も無いと思うよ」

話している内に馬車が止まり扉が外から開けられる

「さ、行こうか」

「うん」


近くには警備の騎士だろうか、左右に一人ずつ立っている

片方は獣人、もう片方は人族のようだ

サイリが先に馬車から出て灯をエスコートした、手を伸ばし掴まるよう促す

「アリィ、手を」

「ありが、きゃっ」

低いと言ってもヒールのある靴に慣れていない灯は足下を踏み外した、灯の肩に乗っていた神にゃんは驚き飛び降りて行った

「おっと、」

ポスっとサイリの腕の中に収まる、馬車は結構高さがあり、踏み台の幅もそう大きくはないのでこういう時の為のエスコートだ、そっと地面に下ろす

「大丈夫かいアリィ、足は捻ってない?」

「あ、うん、大丈夫、ありがとうお父さん」

「私の姫に怪我がなくて良かった」

そっと手を取って指にキスをするサイリ

「なんかいつもよりキザじゃない?」

「そうかな?いつもはリリスが一緒に居る事が多いからね、偶には私に独り占めさせておくれ」

「あはは、よろしくお願いします」


ふと周りを見ると、左右の騎士が落ちた灯を受け止めるつもりだったのか、近くに居て両手を伸ばして中腰の体勢で止まっていた

獣人騎士の手には神にゃんが乗っている。

「あ、えっと、お騒がせしました、ありがとうございます」

ズッコケた所を見られて恥ずかしかったので笑って誤魔化しつつ、獣人騎士の方へと近寄り手を差し出したが未だ固まっている

「?、あの?」

「あ、はい!ご無事で何よりです、どうぞ」

ハッとして獣人騎士は神にゃんを灯に手渡した

「ありがとう」

「いえ!お気になさらず!」

ビシっと直立して答える獣人騎士、サイリは察したのか呆れた口調で言った

「アリィ、早いよ・・・」

「え!?」

「いや、なんでもない行こう」

「え?え?」

「カミィ、おいで」

サイリは状況が飲み込めない灯の手を握り神にゃんを自分の肩に誘導した、ローヒールとは言え履き慣れていない子の手を塞ぐのは危ないとのサイリの心遣い。

そのまま城の中へと二人は歩いて行った・・・



「・・・良い」

獣人騎士はポツリと呟き、サイリと灯が入って行った城の方をずっと見つめていた。



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