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貴族②

「アリエットお嬢様、こちらを」

「は、はい、ありがとうございます・・・」

「いいえ」

他人にかしずかれ、身の回りの世話をされる事など経験の無い灯は困惑していた、しかし慣れるしかないと言われてしまえば受け入れるしかない。

朝おはようから、夜おやすみまで何をするにも誰かの手を借りる、違和感しかなかったが

「アリィ、皆の仕事なのよ、こうしてお給金を貰うのだから、自分で全部やると仕事が無くなって困るのよ」

とリリスに言われたので、雇用を守る為だと無理矢理納得している。


心持ちはそう決めても、どうにもこうにも慣れない事があった。


着替え


先ず、裸で寝るのはもう良い、気持ち良く寝れるし、今では服を着て寝る事が逆に違和感がある程だ、尻尾の開放感が全く違う。

朝、侍女に起こされる、今日はエルの寝室で一緒に寝ていた

「おはようございます」

寝室に入って来たのはキジトラの猫の獣人侍女、その胸にはネームプレートでリトラと書かれている

暫定的にこのリトラが灯の専属侍女となっている、リトラは16歳と14歳の灯に歳が近い事、そして16歳と言っても侍女歴10年を数えるベテランである事が最大の理由だった。

十年前、リトラの母が当時公爵邸で働いて居た事が縁でそれからずっと仕えている、そして現在リトラの母はサイリの母に仕えている。

母娘の長きに渡る信頼もあったので灯専属とセバスに指名された。


サロンで自己紹介はしたが、灯の事を皆が覚えるのは簡単でも、灯が数十人を一気に覚えるのは中々大変だということでセバスからの発案で

「一定期間皆にネームプレートを付けましょう、アリエット様が大変でしょうから」

灯にとっては本当に有難かったし、使用人側としても効率的なものだったので受け入れられた。


「おはようございます、リトラさん・・・」

目を擦りながら視界がぼやけたまま挨拶を返す、エルは未だ眠っている

リトラはニコリと笑顔で返す

「エリューシア様が起きる前に先にお召し物を整えましょうか」

「はい、お願いします」

「敬語でなくて結構ですよ」

「あ、はい、、いえ、お願い」

「はい、かしこまりました」


準備されている下着だけは自分で最初に着用する、直ぐリトラに紐を結び直されたりするのだが、裸で他人に下着まで着けられるのとは訳が違うので、ここだけは死守した。

この際「失礼します」と下着の中に手を入れられ、胸を触られたりするのは気にしない事にする

「下着をしっかり着用するとドレスのシルエットが美しくなりますから」

と正論を言われればそれまでだった。


ドレスを着せられ、次は髪だ。

「髪はどう致しましょう?」

「あ、えっと、お任せしても良いですか?」

元々髪が長かった時でさえ、基本は何もせずに流すかポニーテール、大きい三つ編み、気分を変えてサイドポニー程度だった灯に選択肢は余り多くない。

リリスには編み上げられたりしていたが自分で出来る訳でもなく、上記の髪型にしてもドレスに合うものではなかったので侍女に任せるしかなかった。

「光栄です」

リトラは微笑むと嬉しそうに灯の髪を触り始めた、ブラシで髪を梳きながら

「アリエット様の髪はとても綺麗でやり甲斐があります」

「あ、ありがとう・・・、髪は、嬉しいです・・・」

地球の母にも、こちらの母にも褒められた髪を灯は大事にしていた、二度と切られたくはない・・・


「リリス様は編み上げていたようですが」

「はい、あ、うん、でもすぐ解けたりして大変で、」

「これだけサラサラですと中々難しいですね」

解くと癖も付かずにストンと下に落ちる黒髪は、美しくも有り、また髪を整える人にとっては泣かせるものでもあった。

リトラが髪を持ち上げてもスルスルと手の中を抜けていく

難しいと言いながらも手際良く編み込み、あっという間に髪型を作り上げたリトラ

「わ・・・」

立ち上がり等身大の三面鏡の前でクルクルと回り髪型を見る、解ける様子も無ければ、強く編まれて痛い訳でもない、ドレスもフワリと裾が広がる

「可愛い・・・」

「お気に召したようで何よりです、本当に可愛らしいですよアリエット様」

髪とドレスに対して言ったのだが、自画自賛していると取られたようで恥ずかしくなる

「あ、いえ、そのドレスと髪型が・・・」

「いいえ、アリエット様()可愛いのですよ」

「あ、う・・・、ありがとう、リトラ」

はっきり可愛いと言われる事があまり無いので照れる灯

そんな灯を微笑ましく思い、クスクスと笑うリトラ

そんな所へカチャリともう一人侍女が入って来た

「おはようございますアリエットお嬢様」

「おはようございます、マイラさ・・・、マイラ」

茶トラの猫獣人マイラ、エリューシアの専属侍女22歳

「アリエット様は寝起きがとても良いですね、エリューシア様は・・・」

「すー、すー、アリィ・・・、んふふ、」

未だに爆睡中のエル、寝起きが得意では無かった。

「・・・寝てますね」

「はあ、もう・・・」

ため息を吐く侍女二人、毎度起こす時にエルの寝相の悪さから回し蹴りが飛んで来たりするので苦労している

「あ、私が起こし、すよ、」

敬語が抜けないので変な言葉使いになるが気にしない

「申し訳ございません、アリエットお嬢様・・・」

「ううん、私が一緒の時は寝てる時も起こす時も大人しいから知らなかったけど、あんなに寝相悪いとは思わなかったし良いよ、ほらエル起きて?」

侍女達が起こそうとすると暴れるエルだが、何故か灯が傍に居ると大人しく起きる、それに気付いてからは大抵エルを起こすのは灯の仕事となっていた。

優しく肩を掴んで揺するとスグに起きたエル

「ん、んー?アリィ?おはよー、朝ぁ?」

「うん、ほら着替えてご飯食べよ」

「んー・・・、抱っこ・・・」

「もー仕方ないな」

エルが寝惚けながら灯に甘えてくる、首に手を回して来たので灯はやれやれといった様子でエルの膝裏と背中に手を差し込みヒョイと持ち上げた。

仲良しの二人を見て口許を緩めていたマイラとリトラはギョッとする、小柄で華奢な灯を初めて見た時から庇護の対象と思っていたのに、自分より大きいであろうエルを軽々と持ち上げ重さを感じる様子も無く運び、近くの椅子に座らせたのだから。

そこで思い出す、幼く見え小柄と言っても力に優れる獅子の獣人、しかもサイリの黒を継ぐ者なので殊更に特別だということに。


「アリエット様は、とても力強いのですね・・・」

「え?」

「いえ、エリューシア様を普通に持ち上げたので」

「あ、そう言えばそうだね、まだ自分の事も獣人の力も何も把握してないから言われて見れば、でもお母さんが言うにはまだ獣人になりきってないって・・・」

最近は突然眠くなったり体調不良になる頻度は減りつつあるが、まだまだ身体は不安定なままで完全に獣人として成り立った訳では無い、なのにそんな力を発揮しているのかと改めて気を引き締めた。

目の前の子は獅子であると・・・


気を取り直し身嗜みを整える

「アリエット様こちらへ、耳と尾のブラッシングをしても大丈夫ですか?」

「多分・・・」

「多分とは?」

「お父さんとお母さん、エルにしかされた事無いから」

「そうですか、ではゆっくり先端から致しますので、何かあれば遠慮無く仰って下さい」

「は・・・、うん」

シュッ シュッ・・・、優しくブラシで毛並みを整えるリトラ

その手つきは壊れ物を扱うかの様に丁寧に尻尾にブラシを入れていった。

シュッ シュッ

「ん、ん、・・・」

「・・・」

シュッ シュッ

「ん、」

「・・・」

ブラシを通す度にピクピクと反応する灯、リトラは努めて冷静にブラッシングを続ける

尻尾の中程をブラッシングしていると

「あ、あの、リトラ、」

「はい、何かありましたか?」

「根本の方、敏感だから、優しくしてね・・・?」

「は、はい」

顔を赤くして言う灯にリトラも引っ張られてしまい何故か恥ずかしい気持ちになってしまう

先程もかなり気を使って優しくしていたのだが、更に柔らかな手つきを心掛けて根本の方にブラシを通した。

「あんっ!」

手に尻尾の動きが伝わって来る、ビクビクとして尻尾の毛がブワリと総毛立っている

「あ、アリエット様?」

「・・・やっぱり、ダメ、」

「っ!?」

涙目で振り向く灯にリトラが怯む、ソフトタッチのただのひと撫ででこんなに敏感なら普通に撫でたらどうなってしまうのだろうか・・・

庇護感があったのに、いじわるしてみたいような試してみたいような、いやいや仕える方にそんな事は出来ないと邪念を振り払う。

「そ、そんなに繊細でしたら、手ぐしでは如何でしょうか?」

「・・・」

「アリエット様・・・?」

「試しに・・・」

「はい、では失礼しますね」

そっと尻尾の根元に手を伸ばし、ソフトタッチどころかフェザータッチにまで加減して触れる、それでも感じてしまうのか一瞬ピクリと動くが

「・・・っ!」

「・・・どう、でしょうか?」

「大丈夫・・・、手ぐしなら・・・」

ホッとして、ふわりふわりと尻尾の根元を整える、それでも

「っ!」

ピクンピクンと尻尾の反応が伝わって来るので相当敏感なのだと理解した。


「ごめんなさい、なんか敏感みたいで、その内落ち着くとは言われてるんだけど」

「大丈夫ですよ、黒の獅子は何かと優れているとの事なので恐らく感覚が未だ追い付いてないのでしょう」

「うん、ありがとう」


その後どうにか身支度を整えたリトラは、ホッとひと息吐いたのだった。


「アリィ行こう」

「うん」

手を繋いで先を歩く主達、金色の尾と黒色の尾が後ろでクルリと絡み合っている光景は本当に、

「可愛い・・・」

「堪らないわね・・・」

リトラとマイラは姉妹の微笑ましい姿に笑顔になっていた。



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