貴族①
「アリィ、今日は屋敷の皆を紹介します」
「あ、やっぱり他に人が居たんだ?」
「まあ、流石に使用人無しで屋敷維持出来ないからね」
「なんか気配と言うか、視線と言うか、そういうのは感じていたけど・・・」
リリスとサイリは家の中に家族以外の人間が居ると灯が落ち着かないと思い、使用人に陰から仕事をする様にと厳命していたが、屋敷自体にはある程度馴染んで落ち着いて来た灯を見て使用人を紹介する事にした。
「朝食後サロンで皆にアリィも紹介しますからね?」
「う、はい・・・」
人前か、と灯は少し気が引けた、これだけの広大な屋敷を維持する使用人は数人では利かないだろう、十人?二十人?
表情を固くする灯を見てリリスとエルは言葉を掛けた
「アリィ大丈夫、皆貴女に会いたくて楽しみにしていたのよ?」
「え?」
「そうだよ、それにアリィ、私達は雇う側!気にしなくても良いんだよ?」
突然人を雇う側なのが寧ろ問題なのだが、生粋の貴族エルと庶民の灯で感覚の違いは仕方無かった、それを見透かしたようにリリスが言う
「アリィ、こればかりは慣れるしかないわ、私達は貴族だし相手は使用人、でもね何も変わらないのよ」
「?、変わらない?」
「ええ、使用人も人間、どの世界でも人間関係は変わらないわ、アリィが優しく接するなら相手も同じく返してくれる、だから相手が優しく接して来たなら同じく返してあげる、それだけよ」
「あ、うん、頑張る」
「ふふふ、いい子」
そっと獣耳を撫でるリリス、灯は目を細めて気持ち良く撫でられていた。
「お母さん私も!」
「あらあら、エルは卒業したんじゃなかったの?」
「う、アリィが撫でられているなら私も撫でられたいの!」
「はいはい、いい子ね・・・」
リリスがエルも同じ様に優しく撫でる、リリスの左右からごろごろと幸せの音が響いた。
朝食時、いつもはセバスが全て配膳していたが今日は顔出し解禁の為か数人侍女が配膳していた、少し落ち着かない
・・・
テーブルマナーも最近は慣れてきたとはいえ、未だたどたどしい所もあるのは灯本人も自覚していたので緊張していた。
味がイマイチ分からず、いつの間にか朝食後も済み食後のお茶を飲んでいると
「アリィ、今からサロンに行くけど大丈夫かい?」
「だ、大丈夫・・・、ドキドキしてるけど」
緊張している灯を見てフッと笑うサイリとリリス
「アリィ大丈夫だって!みんな優しいから、ね!」
「うん・・・」
返事はしてもイマイチな反応の灯をエルは抱きしめた
「えい!」
「え?エル?」
「ほら、アリィ聴いて?私の心臓の音、落ち着くよ」
「ん・・・」
されるがままにエルの鼓動に耳を傾ける
トクン トクン トクン と一定のリズムが響く
エルの温かさも相まって今までの何とも言えない不安が解けて消える、心地よくてついつい眠気が・・・
「アリィ、寝ちゃダメだよ?」
「あっ、うん、ありがとうエル」
「良いの、アリィの不安伝わって来たし、お母さんとお父さんにもして貰うと良いよ」
「う、うん・・・」
そう言われて灯はサイリとリリスをジッと見つめる
「「・・・」」
二人はお互い見合わせると笑顔で両手を広げた
「ほらアリィ!」
ピコっと耳を立てると嬉しそうに二人に抱きつく灯、それを受け止めサイリとリリスは灯を挟んで抱き締めた
緊張で萎えて固まっていた尻尾もフリフリと動き出し、解れた事が目に見えた。
壁際に控えていたセバスと侍女数人は微笑ましい光景に口元を緩め、静かに見守った。
そしてサロンへと向かう、灯の手は変わらずエルが引く
カチャ・・・
サロンの扉を開き中へと入る
中に居る使用人を見て灯は驚く、十数人程と思っていた使用人がざっと見ても4、50人は居たのだ、皆獣人のようで各々の獣耳と視線が灯の目に写った。
多い!一瞬怯むがギュッと握られたエルの体温が頼もしく感じられて、何とか平常を保つ
「皆、よく集まってくれた、今日は前にも話したように私達の娘、エリューシアの双子の妹アリエットの紹介をする、アリエットは異界から帰って来た為に何かとこちらの事に不慣れだ、良くしてくれ」
「さ、アリィ」
サイリの挨拶、そしてリリスに促されて一歩前に出る
「・・・初めまして、アリエット・ルナリア、です、お父さんの言った通り色々と分からない事が多いので助けて貰えると嬉しいです、よろしくお願いします」
おずおずと挨拶をして、ぺこりと頭を下げる。
貴族はそうそう頭を下げたりしない、頭を下げた灯を見て内心皆驚くが、その行為自体灯が不慣れな証明だったので本当に異界から来たのだと理解した。
いくらサイリによる事前の説明があっても中々納得出来るものでは無かったが、貴族が頭を下げる事の事態の重さは皆認識している
そして、漆黒の髪に同じく漆黒の獅子獣耳と尻尾、当主サイリの子であると信じざるを得ない事実がそこにはあった。
(ていうか、この子可愛い過ぎ・・・)
(少し前の幼いエリューシア様だ・・・)
(黒だ、マジもんの黒が二人も・・・)
(萌え・・・)
獣人は庇護欲がとても強い、エルと双子と言っても幼く華奢な灯は当然その獣人の本能を思い切り刺激している
使用人達は正直飛び掛って抱き締めたいと思っていたのだがサイリとリリスの手前、必死に堪えていた
中にはハァハァと息を殺す者も居た
そこへサイリが笑顔で灯の頭を撫でながら片手で抱き上げた
「アリィ良く挨拶出来たわね」
リリスも灯を撫でる
「うん!」
緊張で強ばっていた灯が破顔して頬をスリスリと合わせるサイリ、リリスと灯、尻尾もひと仕事を終えて安心したのか、感情に合わせてふわふわと動いた、その様子を余さず見ていた使用人は
(うっ!破壊力高過ぎっ!)
(これは・・・)
((((この子は私達が守る!))))
皆の心が顔合わせにしてひとつになった瞬間だった。
「皆、頼むぞ」
「「「はい!!!」」」
「お、おう」
やたらと気合いの入った返事に驚くも、ヤル気がある分には良いかとサイリは深くは考えなかった。




