休養日③
陸と鈴は純粋にデートしていた、王都では果てまで転移された灯の事もあったので中々そんな気分にもなれず、合流してからも瞬と灯の手前気が引けたので遠慮していた。
灯と瞬がくっ付いたので、自分達も付き合っていると明かしてから初めてのプライベート、故郷を失い、戦い、追われて、やっと落ち着き気持ちにも余裕が生まれ始めていた。
「久しぶりだね」
「そうね・・・」
手を繋いで街を歩く二人、特に目的は無くゆっくりと散策していた。
「これ、どうかしら?」
「ん、似合うよ、買う?」
「うーん、もう少し見て回りましょ」
「うん」
あっちへふらふら、こっちへふらふら、こんなに穏やかな日は本当に久し振りで、服やアクセサリを見たり、日常品や装備を物色したり、屋台で串焼きやスイーツを食べたりと極々普通にデートを楽しむ。
「灯、頑張ってるかな」
「多分ね、エルちゃんも居るし、リリスさんとサイリさんにも随分懐いていたから大丈夫よ」
「俺、てっきり瞬は残ると思っていたけど」
「瞬が仮に残っても出来る事は少なかったし、灯は灯でこれからやるべき事が沢山あるからこれで良いと思う」
「まあ、ね、灯は貴族の勉強に、獣人としての勉強と鍛錬、これだけでも大変なのに俺達の為に転移魔法と異界還りの事についても調べてくれるんだから帰ったらお礼しなきゃ」
「一口に貴族の勉強と言っても、知識を得る勉強、マナー、歩き方から手や足、身体全体の所作、ダンスに、お茶会、夜会について、刺繍、楽器、これらが最低限みたいだから・・・」
「そんなに?」
「それだけじゃないわ、獣人に関しても固有の文化と格闘術、身体能力の把握、エトセトラエトセトラ・・・」
「灯に聞いたの?」
「うん」
聞き返した陸の顔は引き攣っていた、あまりにも詰め込み教育過ぎないかと不安になる
「大丈夫かな・・・」
「その点はリリスさん達も無理はさせないでしょ、灯を大事にしているって事に関しては間違いないでしょうし」
「そうだね、でもそんなに忙しいなら魔法と異界に関しては頼まない方が良かったかな」
「まあ家族全員が見ているし、調べ物に関しては灯本人が調べる必要もないからセバスさん辺りが手配するわよ」
「うん、でも灯が遠い存在になった気がするなあ・・・」
「大丈夫よ、あの子は何も変わらないわ、獣人になって変わった部分はあるけど、立場が変わったからって態度を変える子じゃないのは知ってるでしょ?」
「うん」
「あの子が私達に変わらず接してくれるなら、私達も気にせず幼馴染で居て良いのよ、サイリさんもリリスさんもそれを許しているのだしね」
「そう、だね、うん・・・」
陸はいつも淡々としているが実は誰よりも幼馴染四人の集まりを大事にしている、特に一番年下の灯を本当の妹のように可愛がっていたのは鈴も知っていた。
瞬の様に恋心と妹を想う気持ちを混ぜた気持ちではなく、純粋に妹分を想っていた。
「陸って結構シスコンよね」
「ん、うん、俺は灯が好きなんだ」
少なくとも灯を虐めたあの女がこちらに来た時、真っ先に始末してやろうとする位には大事に想っている
「ふーん?」
鈴の何処か面白くなさそうな様子が感じ取れた陸は慌てて言い募る
「いや、この場合の好きは・・・」
「分かってるわよ、そんなに慌てなくても」
にやりと笑う鈴、どうやら担がれたみたいで陸はホッとした。
そうして歩いていると、先程まで雲ひとつ無かった空からぽつぽつと雨が降ってきた
取り敢えず近くの軒先へと移動する
「天気雨かな?」
「の割には勢いが・・・」
と、話をしている内に本降りとなり、空は雲に覆われてしまった
ザアアアアーーーッ
「デートも終わり、かな?」
「一先ず宿に帰りましょ、雨避けの結界張るわ」
「うん、ありがとう」
宿へと戻る、まだグレゴリさんも瞬も帰ってないようだ
「陸、ちょっと良い?」
「ん?うん」
陸は手を引かれ鈴の部屋へと入る、宿自体あまり大きな所ではない部屋の中も大きくないので並んでベッドに座る
「陸、私ね灯の事見くびってたわ」
鈴が握る手に力が入る、灯を見くびっていたと言う鈴に顔を向ける陸
「何、どういうこ」
ちゅ、と突然唇に温かく柔らかい感触、鈴がキスをして来たのだ。
「と・・・」
「・・・こういう事、」
耳を赤くして言う鈴、平時の彼女は強気で優しく灯と瞬についてアレコレ言っていたが肝心の本人はあまり積極的に行動出来ていなかった。
「・・・どういう事?」
「いじわる、分かってる癖に」
「ごめん、つい・・・
灯があんな風に行動するとは思わなかった?」
「うん、私も灯に見習おうと思って、陸、空から落ちた時本当に心配したんだから・・・」
「アレは二度とやらないから・・・」
「私も灯と一緒よ、後悔したくないから出来るだけ伝えたいと思ったの」
「出来るだけ?」
「そ、出来るだけ、灯程大胆にはなれないわよ」
「ベッドに二人きりでも十分大胆だと思うけど?」
陸は鈴を引き寄せ抱き締めた、鈴も応えるように手を背中に回す
「ん・・・」
「俺、正直こっちの親と会う必要性あまり感じて無いんだよね」
「そうなの?」
「うん、灯と瞬が仲良く、グレさんが元気に、隣に鈴が居れば十分」
「そう、言われるとそうかもね、私もそんな感じかも」
「でも生活してる所にあっちからあーだこーだ干渉されるのも面倒だからね」
「身辺整理ね・・・」
「だね」
「その後は?」
「ん?んー、冒険者なんていつまでも続けられないし、何処かで適当に働いて過ごす?」
「それは私も誘っているの?」
「勿論、鈴好きだよ、傍に居て欲しい」
「はい・・・」
突然のプロポーズだが断る理由はなかった、そっと唇を交わす二人。
その後、半刻程寄り添ってキスをしたり、膝枕をしたりされたりとイチャイチャしていると、外から騒々しく人が宿へと来たのが聞こえてくる
ドカドカ、びちゃびちゃと雨の中を走って来たようで、
「ぐあー、びしょびしょだ・・・、陸?居るなら火を貸してくれ」
グレゴリが帰って来たようだった、男三人が広い部屋、鈴が個室の部屋で、男部屋は広く、テーブルや椅子、暖炉と諸々揃っていた。
「帰って来たね」
「ふふ、行って服乾かさなきゃね」
「うん、鈴もう1回・・・」
「ん・・・」
名残惜しくキスをして男部屋へと二人共向かった、今後親が見つかるかは分からないが、その結果に関わらず一緒に過ごすと言う明確なビジョンは心の中に支えとして、ひとつ筋が通ったのだった。




