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休養日①

結構大きな街だ、魔法都市首都には負けるが国の中では上から数えた方が早いくらいには大きい。

瞬は村や街を通る度に灯とエルにお土産を買い込んでいた、食べ物でも魔法鞄に入れておけば劣化は進まないので安心して色々と物色している。


ふと瞬は気付いた、貴族に地方の土産物はどうなんだろう?

庶民過ぎて鼻で笑われないだろうか?

きっと灯は大丈夫、問題はエルだ

「何も知らねえ・・・」

その土地土地の食べ物は、まあ話の種で良いがそれだけでは公爵家の娘の土産としては些かどころか役不足な気がしてきた。

「服は無理だな、アクセサリーなら、まあ行けるか?」

灯の黒髪とエルの金髪に似合う何か、しかし初めて出来た恋人が姉妹で婚約者で貴族、ハードル高くね?

改めて女の子に贈り物なんてまともにしたことも無い瞬

「店員に相談するしかねえ・・・」

とぼとぼと歩きながら色々と考える、指輪はダメだ意味深過ぎるし多分二人で、いや三人で選ぶ物だと思う。

ネックレスも似たようなものだし、イヤリング、髪飾り辺りだろうか?

獣耳も繊細という話だからイヤリングも外した方がいいか?

一先ず、街で一番立派な建物の装飾品の店へと入るのだった。




「いらっしゃいませ」

店員は反射的に挨拶を口にして居たが内心驚いていた、店に入って来たのは青年、恐らく冒険者と思われる。

この店、実は装飾品に関しては魔法国最高峰の店、魔法都市からでさえ買付けに来るような店で、貴族、王族、富裕層が主な対象となる格式の高さを誇る。

勿論魔法都市にも支店はあるが、こちらの店が本店となっていた。

そんな店にフラリと冒険者が入って来た、驚くのも無理は無かった


「あー、すいません、贈り物で相談したいんですが」

「はい、ではこちらへどうぞ」

表情には出さず、いつも通りの対応を心掛ける

見た目や地位でお客様を判断するなど愚かな事だ、昔とある宝飾店で庶民の格好をしてお忍びで来た王族に無礼を働いた事など語られる事は意外と多い、それに青年の姿は冒険者と分かる格好ではあるものの、とても上質な装備であると一目で分かったし、第一印象は「誠実そう」な印象だった。

別室へ案内する、立ち話など失礼は出来ないし、お客様の情報を広めてしまうような事は控えなければ、そういう意図を持って青年、瞬を案内する店員。



「どうぞ」

「ありがとうございます、初めまして瞬です」

「申し遅れました、私、ジュリと申します、それで瞬様贈り物のご相談とは?」

「あー、その、婚、約者、に贈り物したいんですけど、色々とあって旅に出て来まして、次会う時に贈りたいなと・・・」

婚約者に贈り物!青年はとても若く見える、14、5程に見えるのだが、その年齢で婚約者となると立場のある人なのかもしれないと当たりを付けるジュリ。

何処へ行っても日本人は若く見られやすい、灯などは10歳あるかないかに見られている。

「そうで御座いましたか、差し支え無ければお相手の事を伺っても宜しいでしょうか、勿論ここで聞いた事は誰にも漏らすことは御座いませんので御安心を」

「はい、貴族で、」

貴族!?いや、この店に来る位だ、それなりの物を求めているのは予想が付いていたが貴族と冒険者か、とまたも驚く。

「貴族の方に贈る物ですと、かなりお値段が・・・

失礼ですが御予算は如何程?」

ジュリは相手を見下す意図を持って予算を聞いた訳では無い、より良い品を相応しく提供する為、ましてや貴族に贈るとなれば下手なものは贈れないし、ひいては店の信用にも関わる為、気を引き締める。

「あー、そうですね、ちょっと初めて贈るので相場が分からないんですけど、いくら位が良いんですか?」

素直に瞬は聞いた、見栄を張っても仕方ないのだ、1から10まで教えてもらうしかない。

「一概には言えません、爵位やその方のお立場、種族、年齢、用途別、色々とありますから」

「あ、爵位は公爵で双子の姉妹、種族は獅子の獣人で、年齢は14です、用途は普段使い、かな?ドレスコードとかは都度必要な時になるだろうし・・・」

「・・・」

何かとんでもない話を聞いた気がしたジュリ、ゆっくりと心の中で噛み砕き消化する、表情は意地でも崩さないのだ。


公爵の娘で獅子の獣人、年齢が14・・・

心当たりはある、魔法都市にも支店がありこちらの本店と取り引きの情報のやり取りも綿密にしているし、国内の貴族や主要な富裕層は全部記憶していた。

そもそも面識もある、想像通りの人であるならば、であるが。


「失礼ですが、その方、魔法都市に住んでたり、します?」

「あ、はい、そうです」

魔法都市で獅子の獣人で公爵の娘で14歳、一人しか居ない・・・

双子、は当てはまらないが、いやしかし・・・

「あの?」

「そ、そうですね、公爵家の方に贈り物となると最低500万から・・・」

決してぼったくるつもりは無い、本当に公爵家に贈るならばギリギリ最低限のラインでの金額だった。

果たして、この青年はそれだけの予算を、

「分かりました、じゃあ一人1000万で二人分お願いします」

あるの!?お金!!二人分!?提示予算二倍の二人分!?



「わ、かりました、えー、獅子の獣人で装飾品、年頃の方にと、容姿、髪の色は?」

「黒と金です」

「・・・」

ええ、金は分かります、見事な輝きを放つ金の獅子のお方ですものね?

黒?

獅子で黒と言えばご当主しか記憶に無いのだけど、娘・・・

黒の?獅子?、娘、嘘でしょ・・・?

え、まさか14年前のあの話って本当なの?

ルナリア公爵家の娘出産の際の異界還りの話は有名だ、当時奥様であるリリス様が意気消沈して社交界から遠ざかっていた事から流れた噂だったが、リリス様がエリューシア様の子育てに専念しているだけで心無いものが流した悪意ある噂だという事が大勢の見方だったのだが・・・


獅子の「黒」の意味も当然把握しているジュリ、黒は特別も特別、現ルナリア公爵家当主サイリ様はおひとりで魔法騎士団全てを圧倒する程の戦闘能力を有している、最初はただ噂が大袈裟に言われているだけだと思っていたジュリだが、一度だけサイリの戦闘を見た事があり、その時からサイリの話は噂でも足りていない事を知っていた。


遠目からではあったが黒の獅子は一人しか居ない為、サイリしか有り得ない。

はぐれ竜種の首を素手でもぎ取っていた姿は一生忘れないだろう・・・


いや、そもそも双子の婚約者ってどういう事!?

姉妹を娶るの!?訳わかんない!

かと言って青年が嘘を言ったり、からかっている様子でもない。

ええい!瞬様の話を全て信じるしかない!そもそも贈ると言っているのだから、聞いた話を信じて物を提示するしかないわ!

と腹を括ったジュリ、信じられない話だが信じるしかない・・・

殆どヤケクソな心情で接客対応をする。


「獅子の獣人となりますと、首輪・・・、チョーカーや、後は御髪に合わせたバレッタ、髪飾り、他には装飾品では無いのですが毛繕い用のブラシなどは如何でしょうか」

「チョーカー、バレッタ・・・、毛繕いのブラシって言うのは?」

「瞬様は人族ですよね?獅子の、と言うより獣人の方全般に言える事なのですが、獣人にとって毛繕いはとても大切な触れ合いです、家族、恋人、必要不可欠なスキンシップで獣人同士ですと特に気にしないのですが、やはり異種間婚姻の場合ですと人族が毛繕いに抵抗がある方が多いのです、失礼ですが瞬様はお相手の獣耳と尻尾、毛繕い出来ますか?」

「やった事ないので分かりませんが、多分抵抗はあるかも知れません」

飾ること無く正直に言う瞬にジュリはニコリと笑顔で続ける

「異種間婚姻とはそういうものです、それぞれの文化、性質を擦り合わせていかなければなりません、ですが獣人には毛繕い用のブラシを贈り合う風習があります」

「ブラシを贈り合う?」

「はい、本来は獣人同士でブラシを贈り合うのですが、女性が男性に女性物のブラシを、男性が女性に男性物のブラシを贈ります、これはお互いに毛繕いを許し伴侶と認めますよ、と言った意味合いの事で、それだけ獣人にとって耳と尻尾を触れさせる毛繕いは特別な事なんですよ」

「あ・・・」

だからか、灯に尻尾と耳を触らせて貰った時に「恥ずかしいけど良いよ」と言ったのは、と瞬は納得した。


「人族が贈ってもブラシは使えますでしょう?そして、獣人の女の子からはきっと女性物のブラシを贈られると思います」

「成程・・・、じゃあブラシを二つと、」

「装飾品ですね?チョーカーは曾祖母世代では「貴方に全て捧げます」と言って贈っていたのですが、王国の奴隷制度もあって今ではあまり良く取られない可能性が御座います、勿論家や個人の考え次第ですが判断が付かないのであればバレッタの方がよろしいかと」

ジュリは可能な限りの情報を開示する、選ぶのは瞬だが結果は出来るだけ幸せなものにしたいと思っている。


「うん、ありがとうございますジュリさん、髪飾りを下さい、二人共髪長いので」

「承りました、年齢、金と黒に合う色合い、御予算に合わせたものを揃えて参りますので少々お待ち下さい」

「はい、お願いします」


こうして瞬は灯とエルへ贈る髪飾りを手に入れた


その後、

「アンリ!私を魔法都市の支店に異動させて!」

ジュリは社長アンリに異動を申し出たのだ

「なんだ藪から棒に、何かあったのかジュリ」

「へへへー、お客様に関わるから秘密!でもこれから凄い事起こるから、ね!良いでしょ」

満面の笑みで言うジュリ、言い出したら聞かない事はよく知っていたアンリ、ため息を吐き

「分かった俺も行くぞ、良い機会だし本店と支店入れ替えるか」

「良いの?」

「ああ、前々から考えていたんだ、おいでジュリ」

アンリがブラシを手にソファーに座り手招きすると、ジュリはぴょんと膝の上に乗った

「んふふ」

髪を解きヘッドドレスを外すと、そこから出てきたのは茶トラの獣耳、そうジュリは猫の獣人だった。

優しくブラシで毛繕いするアンリは人族、ジュリが瞬にあそこまで丁寧かつ詳しく提示出来た理由がそこにはあった。

「で、何かあったのか?」

ゴロゴロと喉を鳴らす妻に改めて理由を問う

「だめー、アンリでも言えない!でも、そうだね、年頃の女の子用にお祝い品を準備しておいた方が良いかもね、二対、若しくはお揃いで、金と黒に似合う様な」

理由は明かさない、だがやたらと具体的な指定と確信しているかのようなジュリに首を傾げるアンリ。

以後、魔法都市に拠点を移すが程なく魔法都市を駆け巡った大ニュースの報を聞き納得する事になるアンリである。



大貴族ルナリア公爵家に異界還りで戻って来た娘が居て、それは「黒」を持つと・・・




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