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旅路⑤

ガンッ!ゴッ!

木刀で打ち合う瞬と陸、対人戦の稽古と対サイリを想定しての模擬戦を毎日こなしていた。

旅の最初の頃はグレゴリと陸二人対瞬で手合わせをしていたのだが、硬すぎるグレゴリに手こずり、その隙を陸が高速移動で突くという形を崩せず戦いにならなかったので、ひとまず瞬と陸の一騎打ちに変更した。

理由としては陸の戦闘スタイルがサイリに近い事が挙げられる、陸はステータスを物理火力と速度に特化させている、それにスキルを合わせて戦うのだが、サイリも似た様なスタイルの戦闘方法だった。

但し、サイリの戦闘は身体能力に任せた圧倒的な力と速さのゴリ押し戦法、その身体能力はスキルを使わずに生身で分身している様に見える速度と、力だけであれば随一のグレゴリの一撃を片手で止めてしまう馬鹿力だ。


ルナリア公爵邸の訓練所で手合わせしていた時も

「はははっ!陸君速いねぇ!」

と言って、陸の速さ+スキル移動を追い越し


「グレゴリさんは丈夫で力強いね!」

と言って、褒めた割には一撃でグレゴリを倒し


「瞬君は何でも出来るね!」

と言って、剣を止め、魔法を素手で迎撃


どう考えてもチートの塊だ、取り敢えずは自分より速い陸に慣れようと瞬は陸と一騎打ちする事にした。

「じゃあ、行くよ?」

「おう」

じゃり・・・、低く構えた陸が脚に力を込めスキルを使った

「縮地」

視界から消える陸、ドンと背中に衝撃が走る、陸の一撃だった。

「っ、全然見えねえ」

「どんどん行くよ」

「ああ!」

目で追えない速度という意味ではサイリも陸も同じだ、格上の速度に慣れる、その為の陸との一騎打ちの第一段階。

何回も縮地を見ていると法則性が分かる、速いが歩法のひとつ、地面を蹴っているので足音と土、砂の動きで大雑把な位置は掴める


ザリ・・・、左から地面を踏み締める音が聞こえた

「ふっ!」

音を頼りに左へ木刀を振る、位置が分かった時点で振らないと迎撃に間に合わない。

「残念」

手応えは無く、頭にこつんと木刀が当てられた

「音がしたと言っても、その方向から来るとは限らないよ、今のは跳躍」

「次だ!」

地面をよく観察しないとダメだ、土の動きを極限まで見極めれば対象に向かったのか、跳躍したのかは判断出来る、そう反省して模擬戦を再開する。

何度も何度も諦めずに剣を振るが・・・

「はあっ、はあっ、当たんね・・・」

「思うんだけど、そもそも相手の得意分野に付き合ったら無理じゃない?身体能力で超えないと勝てないって分かりきってるし、目的は一本取る事でしょ?」

「確かにそうだな、どちらかと言えば相手の想定していない手を出した方が有効か?」

「うん、あと瞬、もう一本!数秒限定だけど擬似サイリさんやるから」

「あ?ああ・・・」

「行くよ?」

そうして陸が繰り出したのは、視界内に捉えているだけで五人の分身と完全歩法、空中から襲い掛かるは三人全員が縦横無尽に、正面から左右二人が距離を詰めて来た。

ギョッとして身体を硬直させる瞬に、更に陸は

「縮地」

縮地を重ね、完全に目に追えない速度で四方八方から瞬を打った。

「ぐお」

殴られた感触で、後方にも何人か分身が居て殴り掛かって来たことが分かる。


「痛っつつ、今、分身、完全歩法、縮地を組み合わせたんだけど、サイリさんの動きってこんな感じだったよね?」

スキルの同時使用で身体に負担が掛かったのか、その場にしゃがみ込んだ陸が言った。

「改めて思うわ、サイリさんおかしくね?」

「陸がスキルを重ねて使って、やっとサイリさんの身体能力を再現、か」

「つー、こんな痛い思いして再現してもサイリさんの本気じゃないからね・・・」

「中々難儀な宿題だな、鈴を呼んで来よう、陸そのまま座っておけ」

「ありがとう」


「どうするかな・・・」

「まあ時間は無い訳ではないし、スピードに慣れる事と他の手を考えないとね」

「だな、灯とエルの為にも頑張らないと」

「ふふ」

「ん?何だよ陸」

「いや、あの鈍感が服を着ているような瞬が女の子の為に頑張る姿を見られるなんて思って無かったからね」

「う、うるせえ・・・」

「好きなんだもんね、頑張らなきゃ」

「ああ」


瞬は旅に出てからずっと灯とエルの事を考えていた

(離れたく無かったな・・・、もっと一緒に居て、手を繋いで、抱き締めて、そんで、、)

「あー、っくそ!もっと灯に触っておけば良かった・・・」

「ええ・・・、何突然、引くわ・・・」

「いや、なんつーか、感触と言うか存在を感じていたいと言うか、隣に居ないと落ち着かないって言うか、」

瞬に独占欲が目覚めたのかと内心にやにやする陸

「灯、獣人になって余計可愛くなったからね」

「そこだよ!何だよアレ!あんなケモ耳と尻尾、反則だろ!あのままフラフラ歩いていたらマジで攫われんぞ!」

「まあサイリさんとリリスさんも解ってるだろうから、手は打つでしょ、寧ろサイリさんを突破出来る奴を見てみたい」

「最強の護衛だもんな、居るだけで虫除けだ・・・、その点は安心なんだけど、学校とか行ったら変な野郎とか、灯に触れたら殺す・・・」

「いや、ある程度社会性認めないと灯も窮屈でしょ、籠の鳥にでもするつもり?」

「そんな事しねーけど、常に手元に置いておきたい・・・」

「瞬もサイリさんみたいな事言うね、つうか灯学校行くの?」

「ん?そりゃあ行くだろ?貴族になったし、勉強は必要・・・」

「聖女の件、復讐?してスッキリした感出してるけど、根本的には解決して無いでしょ」

「あー・・・、そう言えば制服着て玄関に立つと震えて動けなくなるって、」

「言ってたよね?」

今現在、灯の精神状況がどうなっているかは分からない、もしかしたらケロっと学校へ行けるかも知れないし、やはり虐められた記憶から動けなくなるかも知れない・・・

「やっぱり残れば良かったかな」

「今更だし、助けたいのは解るけど、あまり過保護になっても灯に良くないよ?」

「解ってるよ、でもせめて一度学校に行けるか見届けてからでも良かったかな、って」

「まあまあ、エルちゃんが手を引いてスっと行きそうな気もするけどね?」

「そうだなエルはエルで良い感じに無邪気だし、灯とバランスは取れそうな気はするな」

考える前に即行動のエル、決心してしまえば走り抜けるが、それまでは中々踏ん切りのつかない灯、根本的には似ている様で対称的、しかしふとした時に似ていると思う双子だ。

「その言い方だとエルちゃんが何も考えてないように聞こえるけど・・・」

「いや他意は無いけど、そもそもエルは結構計算高いし・・・」

告白、逆プロポーズか、嫌いとはっきり言えない瞬に迫り強引にキス、ちゃっかり灯と一緒に恋人になってしまったエル、少なくとも何も考えていない人間があんなやり口はしないだろう。

「貴族が簡単に唇を許すと思うんですか?」

とキスをした後に言っていたのは、裏を返せば

「もう唇を許したからよろしくね?」

だった。


「待たせたな」

そんな話をしている所へグレゴリが鈴を連れて来た。

「何考えてるか察したわ、でもね瞬、嫌いな人間にあんな熱烈にキスなんか出来る訳無いでしょ、灯の想いを否定するつもりは無いけど、積み重ねた時間が関係なく一目惚れだってあるのよ、それこそエルちゃんも根っこの方では灯とそっくりなんだから瞬に惹かれても不思議じゃないし」

「鈴・・・」

「それにもう逃げられないわ、灯とエルちゃんの婚約者に正式になったのだし」

「ん?」

「え?」

「・・・婚約者?」

「なんでそこで疑問系なの、書類に血判押していたじゃない」

「あれ婚約書類なのか!?」

「ええっ!?知らないで血判押したの!?」

「セバスさんには、貴族との御付き合いの際には必ず署名頂くものなのでお願いします、としか・・・」

「嘘は言ってないな?」

「交際(婚約)」

「うぉぉぉ、マジか・・・」

「何?結婚する気も無いのにあんなイチャコラしてたの?」

「いや、そんなつもりは・・・、結婚までは考えて無かったと言うか・・・」

「したくないの?」

「新妻灯と新妻エル」


言われて瞬は思い浮かべる

「おかえりなさい、アナタ」

「おかえり、瞬」

そう言って二人が自分の帰宅を迎える生活、すげーいいと思う・・・


「・・・したい、つか他の奴に渡したくない・・・」

「結婚式は呼んでね」

「早くね?」

「もう血判押してるのに早いも遅いもないでしょ!」

「俺17になったばかりなんだけど、いや灯達14歳なんだが!?」

「貴族ならセーフ?」

「まあ、今更だな、それにエル辺りならこう言うだろう」


「あーだこーだ言ってないで、好きなの?嫌いなの?ハッキリしてよね!好きなの?じゃあ何も問題ないじゃない、結婚しよう!」


「で、灯なら、」


「私は瞬兄が良いなら・・・、無理にとは・・・」

「だな」

「あー、脳内再生余裕ね・・・」

「そもそも、エルちゃんに押し切られた時点で瞬に選択肢は無いのよ、結婚に関してもエルちゃんと結婚決まったのに灯とは結婚しない、なんて通ると思うの?」

逆も然り、無論通るはずが無く、灯とエルに逆プロポーズされて瞬が受け入れ、書類に血判を押した時点で全てが決定されていた。


あの時のセバスの言葉が聴こえてきた気がした


「何か行き当たりばったりかと思ったら色々計算されていたんですね」

「ほほ、貴族の行動が表に出た時には結果は決まっているのですよ」


こ れ か !全部決まっていた・・・

「・・・」

「頑張って精進しなさいよ」

「ガンバル・・・」

今後の事が色々と頭を過る瞬、貴族の家に婿入りなら貴族の事や礼節は勉強しないといけない、あとは?

貴族って何しているんだ?から始まる瞬には、何が問題かさえも分からなくなって来て混乱していた。


「あんな可愛い恋人、どちらも瞬にベタ惚れ、大貴族、しかも二人だ、相応の苦労と努力は仕方あるまいな、羨ましい」

「あれ?グレさん結婚願望有るの?」

意外そうに陸が聞く

「それはあるさ、俺だって家族を持って幸せにとな、だが体格的にどうかな・・・」

グレゴリの身長2.3m、それに見合う相手となると中々・・・と思うのも無理は無かった。

「そこは出会い次第で、熊の獣人とか突然出会ったり?」

「2mくらいの女性か?」

「ファンタジー魔法世界だし、普通に居そうね」

「ははは、まあそんな都合良く出会ってお互い惹かれ合うなんてそうそう無いだろう」

「グレさん、それフラグだよ・・・?」

「そんな事より、さっさと設営して食事を作ろう、多少明るく出来ると言っても暗くなると手元が怪しくなるからな」

「はーい」

「はい、陸これでどう?痛い所は?」

「治ったよ、ありがと」



そうして遠くない未来、グレゴリに出会いがあるのはまた別のお話・・・




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