旅路④
辿り着いた村も外れだった、皆体調に変化は無い。
当たりであれば体調変化に加え、灯の場合は魔法都市に入る直前に頭とお尻を押さえてムズムズすると言っていた、これは獣人の耳と尻尾の位置だったので、種族が変化するなら前兆がある筈だ、獣人なら耳と尻尾、エルフなら耳、魔族なら角が生える辺りに違和感が現れる。
「ほうかい、大変じゃの・・・」
大体の流れは町や村の代表に異界還りの事を言うと、町では好きに見て回りなさいと言われ人と会うことが出来た、規模が小さい村等では皆家族の様なものなのだろうか〇〇と△△さんの家でと、心当たりのある人まで教えてくれた、現代の日本では怪しい奴として警察に突き出されてもおかしくない、フラリと姿を現した旅人なのに有難い事だ。
とある村で大怪鳥の被害に悩まされていると討伐を頼まれた
「子供が連れ去られ、取り返せた物はコレだけだ・・・」
と、見せられた物はボロボロで血塗れの子供服のようなもの。
流石に放っておけないが
「魔法都市への救援は?」
「被害が先日、若い者を都市へ行かせましたが来るまでは・・・」
「数日、か」
「仕方ない・・・」
「分かりました」
見捨てる事も出来ない、そう言って依頼を受けたは良いが・・・
「キィィィィィーーッ」
甲高い怪鳥の鳴き声が一帯に響く、その大きさは翼を広げたならば30m程だろうか
「くっそ」
「手も足も出ないね」
「厄介だな」
怪鳥が全く降りて来ない、剣が届かないのだ。
そして上空からは羽根針が雨あられの如く降り注ぐ
「火炎嵐!」
瞬が空へ向かって魔法を撃つも、距離感が掴めない為に狙い撃ち出来ずに躱されてばかり
他に遠距離攻撃を持っているのは陸の忍術系だが
「あそこまでは届かない」
「だよな、これ割りと詰んでない?」
「まあ、アレだ、ゲームみたいに都合良く飛べる奴が目の前で戦ってくれるなんて有り得ないからな」
「普通は飛びっぱなしで空から攻撃するわね」
「敵の攻撃は届かない、自分の攻撃は届くとなればその距離は死守して当たり前か」
攻撃を受けながらも呑気に話していられるのはそれ程火力が高くないので、グレゴリの大盾を数枚組み合わせて地面に突き刺し櫓の様に組み作戦会議をしていた。
敵のスキル攻撃と言っても元は羽根、質量は大して重くない、大盾にコン ガン コン ガガンと当たり、稀に隙間からストッと地面に刺さる程度だった。
「こんな時・・・」
灯が居たら、と道中に何度も考えていた
「・・・」
「瞬、魔法で撃ち落とせないの?全然当たってないけど」
「空の敵って距離つーか、角度つーか、間合いが掴めないんだよ、動きも速いし、水平撃ちとは全く違うから難しいな」
「空一帯を焼き尽くすとか・・・」
「翼を負傷させて落とすとか・・・」
「灯が居たら魔法強化で出来たな」
「いや、そもそも重力で重くして飛ばしさえしないだろうな・・・」
その場合は煮るなり焼くなり、飛ばない鳥は脅威にはならないだろう。
「居ない人間の力を宛にしても仕方ない、あるものでやるしか無いんだ」
「何か投げるか?」
「瞬が力尽きるまで当たるまで魔法撃つとか」
「いやいや・・・、陸、歩法で空中走れたろ、あれは?」
「高くて辿り着けない、辿り着く前に効果時間が切れて自由落下中に狙い撃ちされそうだし」
「スキルの再使用時間は?」
「ゲーム通りなら分単位、因みに連続使用も一度試したけど、血管とか筋肉切れて動けなくなるからやりたくない・・・」
スキルの連続使用は可能だがスキル自体が自分の体に負荷を掛ける、その負荷は時間と共に抜ける疲労のようなものだった。
「マジで?スキルの連続使用ってそんなんなるの?」
「それぞれのスキル次第だけどね、歩法に関してはそんな感じ・・・」
「アレは酷かったわね、少なくとも一か八かで試す手段じゃないわよ」
鈴は治療して怪我の具合を知っているのか、スキル連続使用を止める。
「近くまで寄ってから歩法スキルならどうだ?」
「翼を斬るくらいならいけるかな」
「よし」
「何か思い付いたんですか?」
グレゴリが何か思い付いた様子だったので話を聞く三人。
「・・・ええー」
作戦を聞いた陸が嫌そうな顔をした
「いや、いけるんじゃない?」
「瞬は出来るか?」
「出来ます」
「陸次第だが、どうする?」
「瞬ミスったら恨むよ?」
「・・・任せろ」
「その間、凄い嫌なんだけど」
「任せろ、失敗なんてしない」
「・・・分かったよ、やる、万が一は」
「私が治療するけど、だからって怪我しないでよね」
「うん」
「さて、行くぞ陸」
「いつでも・・・」
そう言うグレゴリは両手で大盾を持ち投擲の体制
陸は大盾の持ち手にしがみついていた。
その作戦は作戦と言える程の内容では無かった、盾ごと陸を空へと投げ、大怪鳥と距離を詰め、その後陸の歩法で空中を駆けて翼を断つというものだった。
「灯程じゃなくて気休めだけど、炎耐性と衝撃耐性を掛けておくから」
「ありがと、心強いよ」
不安そうな鈴に笑顔で応える陸
そして、陸は投げられた。
「おおおおおおっ!!」
グレゴリ渾身の投擲、怪鳥に向かう大盾
当然、大空を舞う怪鳥に近付くにはまだ遠い、高さが足りない。
まだ上昇し続けている盾だが、数秒後には落下を始めるだろう
「炎爆裂!」
ドゴォォォン!
そこへ瞬の爆発魔法が大盾へと着弾、勢いを増した盾は更に上昇する
「ぐあっちっちっ!!」
陸が少し焦げた・・・
「キィィィィィーーッ!!!」
大怪鳥も何もせずに空中で待っている訳では無い、近付いてくる物体を警戒、羽根針を大量に飛ばすが
質量の小さい羽根針ではその勢いを殺せない、盾に乗る陸に何本か刺さるがそれだけだ
「痛い痛いっ」
露出している顔をガードしても隙間を縫って刺さったりする、こちらのLvが高いと言っても攻撃は痛い、幸い黒龍装備は優秀なので装備で覆っている箇所は何ともないが、痛い・・・
陸が痛い思いをした甲斐があった、大怪鳥が目の前に居る
距離を取ろうと羽ばたくが既にそこは陸の射程距離だった
「遅い!全空間歩法縮地」
乗っていた大盾から陸の姿が消える、全空間歩法の効果により空中さえも足場と為す、そこに縮地の高速移動を加え
「取った!」
ドシュ!
大怪鳥の上を取り、狙うは片翼の付け根!
真下へと駆け抜け斬り落とした。
「よっし!」
「やった!」
喜ぶの一瞬、このままでは歩法の効果時間は切れており地面への激突は避けられない、そこへ
「水球!」
陸の落下軌道上に巨大な水球が団子状に幾つも連なって現れる、瞬の魔法で落下速度を殺す作戦なのだが・・・
バシャン!バシャン!バシャン!と陸が水球に何度も突っ込むが
「意外と減速してねえな・・・」
「ちょっと、もっと水球出しなさいよ!」
「いや、球じゃなくて水柱の方が良くないか?」
「それだ!水柱!」
慌てて水柱を作り出す、地面から高さ30m程までの巨大な水柱が出現
「間に合っ」
ダパァァァァンッ!!!!ザァァァ・・・・・・
「・・・生きてるかな」
思い切り陸が叩き付けられたような音が鳴り響き、水が周囲に降り注いだ。
水柱を解除すると大量の水が形を失い、周囲を押し流して消えた、水柱の有った場所に陸が両手で体を縮こまらせて震えていた
「陸、無事!?怪我は!」
「だ、大丈夫・・・」
「本当に大丈夫か?」
髪は少し焦げ、煤だらけ、羽根が刺さり、濡れ鼠、歯がガタガタと震えていた、あまり大丈夫そうには見えないが・・・
「大丈夫、だけど、灯のサポート無い時以外はもう二度とやらない・・・、熱いし、痛いし、冷たいし、痛いし・・・」
「・・・なんか、すまん」
魔法で出した水は総じて冷たい、凍り付く直前かと思う程冷たいので今陸が震えているのも無理はない。
熱いは、瞬の爆発魔法、痛いは羽根、冷たいは水球と水柱、水面に叩きつけられて痛い、陸にとっては踏んだり蹴ったりの散々な扱いだった。
「ギィエエエエケッ!!」
大怪鳥が地面に転がりもがいている、片翼を失った鳥なら怖くも何ともない
「鈴、陸を頼む、トドメ差してくるわ」
「俺は盾を探して来る」
「ええ、ほら陸タオルで拭いて、治癒」
鈴はヒールを掛けながら魔法鞄からタオルを出して陸の肩にかけた
「ありがとう、ヒールって暖かいんだな・・・」
「そうなの?じゃあ継続回復でも暖かいのかな?」
「暖かい・・・」
「そうなんだ、じゃあ頭だけ拭いて、あとは装備変更で着替えちゃって、このままだと風邪引いちゃう」
ワシワシと陸の頭をタオルで拭く鈴
「ん、ドレスチェンジ」
陸は一瞬で戦闘服から普段着に着替えた
「後で宿に戻ったら服を乾かして、髪も焦げた所だけ切っちゃう?」
「うん、お願い」
「おーい鈴、トドメ差したから浄化を頼む!」
「待ってて、スグ行く!陸、ここで休んで・・・」
「俺も行くよ、大丈夫、怪我は殆ど無いから」
そう言うと陸は鈴の手を握り締め歩き出した、鈴は驚きと共に気恥ずかしくなる、これまで瞬達の前ではそういう雰囲気は出していなかったのだが
「え、ちょ」
「水で冷えたから・・・、暖めてよ鈴」
「もう、仕方ないわね」
振り向かずに言った陸の耳は赤かった、鈴はクスクスと笑って陸の手を握り返し瞬達の所へと歩き出した。




