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旅路②

「索敵代わって・・・」

目頭を指で解しながら言う鈴は疲労困憊といった様子だ。

「キツいか?」

「うん・・・」

「半径何mでやってるの鈴」

「100前後・・・」

「50位にしたら?俺スキル併用で40から50位でやってるけど、そこまで疲れないよ」

「俺もそんなもんだな、つうかそれ以上拡げられないわ」

「そうする、次灯に会ったら謝らなくちゃ・・・」

「灯は気にしてないと思うけど」

「ダメよ、あの子の性分だって言ったって、こんなのを毎日毎日起動しっ放しで負担を誰にも気付かせないなんて、私、あの子が私達に甘えている様なつもりだったけど真逆じゃない、甘えていたのは私達の方よ・・・」

索敵を皆で覚えて負担を分散させる所までは良かった、だが旅路は一日二日で終わるものではなく、当然草原のような見晴らしの良い所なら兎も角、死角の多い森や山、谷となるとモンスター襲撃の警戒の為に毎日毎日索敵を継続する事になるのだが・・・


一日目はまだ良かった、索敵魔法に慣れる為にという目的で見晴らしの良い草原でも索敵を行っていたのだが、皆疲労を覚えつつも交代で索敵をこなしていた。

それが二日、三日、そして一週間と続くとズシリと身体が重くなり魔法の精度もガタッと落ちたのだった

「セバスさん達が言っていた、索敵や偵察は専任させる、って意味、今になって本当に知るとはな」

「俺思うんだけど、セバスさん達はこうなると分かってたような気が・・・」

「まあ、するわな」

「身をもって知れ、といった所か」

「でも、これを灯は誰にも言われた訳でもなく、文句を言うでもなくずっと続けていたのよね、しかも私達とは比較にならない範囲と精度で・・・」

「灯は何m範囲でやってたっけ?」

「2km位じゃない?森でアルさん達助けた時の移動距離考えると・・・」

「その計算で行くと()()2kmの索敵になるな」

「・・・俺も謝るわ」

「同じく」

「いくら支援魔法の適性が高いと言っても、俺達がたった数日でこうなると思えば、灯の負担はかなりのものだったろうな・・・」

「そりゃあサイリさんもセバスも言いたくなるね、パーティーの負担に差があり過ぎるって」

更に言うならば、普段から索敵したまま強化魔法に弱体魔法、魔法待機に消費の大きいオリジナル魔法、戦時となれは大規模魔法と、神龍の瞳から魔力を引き出していると言ってもその強力な魔力は灯を通して発動している、倒れもするし、眠る、食事も増えて当たり前の負担と消費だった。


「所でさ、獣人化ってどれ位痛いんだろうな」

「まあ獣人化とも限らないけどね、エルフ、魔族、ほぼ変化のない人族の可能性もあるし」

「灯が悶絶していたから、どんな感じか聞いたけど・・・」


「身体の内側から骨と肉と皮が剥がされているみたいな・・・」


「骨・・・」

「肉・・・」

「は、剥がされて?」

ゴクリと皆唾を呑む

「そんな痛いのか・・・」

「セバスさんが言うには、人族から遠い種族ほど変化の度合いが大きく負担も大きいらしいわ」

「人から遠い種族って?」

「魔族と獣人が根本的に人族とは違うらしくて、エルフは人に近いって」

「となると、人かエルフならあまり痛くない、魔族と獣人なら超痛い?」

「獣人ってそんな違うのか・・・」

「曰く、「ご安心下さい、異種間でも子供は生まれますよ」だって」

「「「・・・」」」

そこ!?いや人によっては朗報、か?

それが一番に出る話なんだ・・・

と、皆無言になった。


「ごほん、まあそういう事だ、俺達も少しずつこちらの世界の存在に戻りつつある、変化自体は家族に会うか生まれた土地に行けば、だな」

「でも・・・」

「待って、モンスターが」

「多いな・・・」

現在は森の中で野営中だった、鈴が結界を張り、瞬と陸が料理、グレゴリが近くの木を一本切り倒し魔法で乾燥させ薪の確保。

元々は灯と鈴が料理を担当していたのだが、セバスとの特訓の中で

「この人が居ないと成り立たないというのは極力少なくした方が宜しいかと、下手でも覚える事です、索敵はそのひとつに過ぎません、戦闘の役割は固定しても構いませんが」

と、セバスさんには戦闘、戦闘前準備、野営の指南、日常生活と片っ端から叩き込まれた。


ガルルルル・・・

森狼の群れが姿を現す、匂い、だな。

結界を張ってモンスターを防いではいても空気を遮断している訳では無い、匂いは漏れるのでモンスターは寄ってくる。

「匂い探知系は遭遇率高いね」

「ちょっと、思うんだけど・・・」

「取り敢えずモンスター片そうぜ、話はそれから」

「鈴は結界の維持、皆遊撃で各個撃破、危なくなったら結界に戻る、以上だ」

「了解」

「お先に!」

陸が先鋒を務める、速度に優れる陸が森の中の乱戦でも一番力を発揮出来るからだ。

「ふっ!」

「ギャンッ!」

二刀を持って森狼の群れに突っ込む、これまでは一頭一頭首を撥ねていたのだが今は違う、脚を斬り付け移動の自由を奪っては次の標的へと即座に移動、トドメは後で差せばよいのだ、森で小回りの利かないグレゴリは動きの鈍くなったモンスターを片手剣でトドメを差していく。

石礫(ストーンブレット)!」

瞬は中衛で陸の死角のフォローと魔法での援護、これも一撃でダメージを与えようとするのでは無く、牽制目的で戦場のコントロールをしていく。

「ワオーーン!」

「お」

遠吠えが周囲に響くと陸が森狼に囲まれた、どうやら統率する個体が混じっているようだ。

「ぬん!」

それを見たグレゴリが後方から威圧と挑発で敵視(ヘイト)を稼ぎ、モンスターの視線を集めた

モンスターも囲いの外から強力な外敵を察知するとそちらを警戒せざるを得ない、ビクリと足が止まりグレゴリの方へと頭を向けた、陸はその隙を見逃さずに

「分身!からの…闇討ち(アサッシン)

数人に分身、足の止まった森狼を数頭スキルで斬り伏せた

「陸、離脱しろ!」

「はいよ」

一瞬の内に数頭が倒れ、どちらを狙うか迷ったのか森狼の動きが鈍い、どうやら統率個体を今ので倒せたようだ。

そこへ瞬が中規模魔法で一気に薙ぎ払う

氷槍陣(アイスネイル)!」

「ギャウウッ」

地面から氷の槍が無数に飛び出て残った森狼を串刺しにする。

「ふう!」

「お疲れ」

「まだ油断するなよ、生きてる奴にしっかりトドメを差すんだ」

範囲魔法は大雑把な攻撃だ、複数のモンスターの急所を狙えるものでは無いので串刺しにされながらも息のある者もいる、警戒を怠らずしっかり処理を済ませる。

「鈴、浄化頼む」

「やってるわー」

死体を放置して、その血が新たにモンスターを引き寄せても面倒だ、それもきっちり対処して野営に戻った。

戦い方もまだ慣れないながらも戦況を見極め、前衛の配置や連携を考えながら戦うようになっていた、これまでは盾役は最前線固定、モンスターを一手に引き受けて火力担当が削っていくというやり方だったが、それにも限界がある為、適宜最善になる様に皆話し合いながら戦い方を決めている。


「で?鈴なにか言おうとしていたな」

「モンスターとの遭遇率なんだけど・・・」

「多いよなー、モンスター増えてる?」

「多分違うな・・・」

「・・・灯、二重に結界張ってたかも」

「・・・」

「・・・」

鈴の一言に瞬と陸が固まる、グレゴリは予想していたのか特に驚いた様子はない。

グレゴリはこの世界が現実となって、灯と一番長く旅をしていたので心当たりがあったのだろう

灯と大陸の果てから旅をして野宿を何度も行っていた、雪山で灯が大怪我をして、たま婆さんに指摘されてからは可能な限り宿に泊まってはいたがそれでも野宿が無かった訳では無い。

元々灯のナビゲーションでモンスターとの遭遇率はかなり低かった、しかし野宿となればこちらは動かない、灯のナビゲーションが無くなったのと同じ事なので相対的に遭遇率は上がるハズなのだが、出会うものは小型の獣ばかり、狐、狸、イタチ、小鳥、大きくても精々猪程度、正直ここまでモンスターに遭遇しないのは灯の極振り運のステータスによるものか、とさえ思い込んでいた程だ。


だが、いざ灯の離脱、そしてグレゴリ、瞬、陸、鈴の旅路となって野営時のモンスターとの遭遇率が高い事高い事。

移動中は大して差は無かった、皆で索敵を行っていたので範囲の差こそあれモンスターを回避出来た

問題は野営時の遭遇率だ、流石に運で片付けるのは無理のある遭遇率であった。


恐らくは身の回りの周囲の結界、更に外側に結界を張って二重にする事で見える範囲にはモンスターが入り込まないよう閉め出していたと思われる。

結界一枚だけでは目に見える所にモンスターが来てしまう、結界が破られないにしても寝る場所の周りをモンスターがウロウロしているのは精神的に宜しくない為に戦って処理するのだが・・・




「索敵の事もあるし、黙ってやっていた事が他にもあって然るべきだな」

「でも結界二枚なんて見える範囲には無かったけど」

「見えない距離に二重にしたか、外側は偽装していたか」

「普通、そこまでするか・・・」

「もうあの子ったら、変なところで遠慮して、瞬、次に会ったら存分に甘えさせなさいよね」

「いや、俺の前にリリスさん達が何とかしそうな気もするけど」

「家族との団欒と恋人との逢瀬が同じな訳無いでしょ、瞬は瞬で灯を幸せの泉に沈めなさいよ、何でもかんでも一人でやろうとして抱え込むなんて」

「なんだよ幸せの泉って・・・」

「言葉のあやよ、この際、溺愛でも何でも良いのよ、一番に頼られる人になりなさいって事」

「まあ、頑張るよ・・・」

鈴の勢いに押されながらも、灯を幸せにする事には文句は無い。

結局の話は灯が俺達を頼ってくれなかった事が悔しかった、皆同じ境遇で故郷失っていたので自分の気持ちの整理でいっぱいだったし、灯はそれさえも慮って余計な負担を掛けたくないと誰にも言わずに行動していた可能性もある、それも今更の話だった・・・

幸いにも灯はこちらの世界で家族の元に辿り着けたし、関係も良かったのは救いだった、灯は寂しがったが一時的なこの別れは現在の最善だと思う。

周囲の皆を思いやる程余裕が無かった・・・、灯は気を回していたと言うのに情けない限りだ

「あー、早く大人にならないとな・・・」

瞬が呟くと、グレゴリがフッと笑いグシャグシャと瞬の頭を撫でた

「うお、グレゴリさんっ!?」

「急ぐな、誰にでも余裕の無い時はある、余裕の無い者は誰も助けられんしミスも重なるぞ、気付いたなら改善して、次に繋げるしかないんだ、そこに大人も子供もない」

「・・・はい」

灯、帰るまで待っててくれよ、恩は返すし幸せにしてやるから・・・

瞬はそう誓い、魔法都市に残った灯想う。





「へぷちっ!」

就寝前のリリスの寝室で思い切りクシャミをする灯

「風邪?身体は冷やしちゃダメよ、まだ体力は落ちているんだから、ほら暖めてあげるから来なさいアリィ」

「うん!」

ベッドの上の裸のリリスに飛び付く灯、勿論灯も一糸纏わぬ姿で抱き合った。

優しく灯を抱き寄せ、足を絡ませるリリス

灯は既に裸で寝る事に抵抗は無く、今では服を着ると不快感が強くて中々眠れない程だ

「少し冷えてるわ」

「あったかい・・・」

「お母さん、アリィ、私もー!」

最近はエルもベッドに加わり眠る事が多い、三人で身体を寄せ合うとエルと灯はすぐ様眠りに就く、そんな二人に挟まれてリリスは慈愛に満ちた笑顔を浮かべる

「おやすみなさい、愛しい子供達」

満たされて眠るのはエルと灯だけでなく、リリスもまた幸せに満たされて眠りに就いたのだった。




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