旅路。
グレゴリ達は一先ず魔法国内の町や村を回る事にしていた、異界還りの故郷探しは地道にするしかない、何処で誰が生まれたかなど分かるはずもなく、しらみつぶしに旅をするしか無いのだ。
ガタゴトガタゴト・・・
馬車の中は静まりかえっている、その原因は主に
「・・・」
「灯、体調悪いって行ってたけど今日は元気そうだったね」
「あー・・・」
「セバスさんも常識外の人だったね、まさか全く歯が立たないとは思わなかった」
「あー・・・」
「灯の髪、綺麗だったね、いつもリリスさんがセットしていたらしいけど、今日は飛び出して来たって言ってたし、そのまま下ろしてたよね」
「そうね、髪の毛が昔と同じ、いえ、昔より伸びていたかしら」
「そうだね、中学二年生までは伸ばしてたもんね」
「あー・・・」
「なんで切ったんだろ、似合ってたし灯も大切にしていたよね」
「それなんだけど、」
「あー・・・」
「・・・」
「・・・」
瞬が何を言っても上の空なのだ、会話を振る陸と鈴も返ってくるのが「あー・・・」だけでは仕舞いに黙るのも仕方ない。
瞬は灯とエル、二人とのやり取りを思い出していた
灯があんな風に告白してくるなんて・・・
唇柔らかかったな・・・
一生懸命キスも応えて可愛いし、俺も灯の事がこんなに好きだとは思っていなかったな・・・
将来エルみたいに成長するのかな、エルはイタズラ好きって感じだったけど、時折垣間見える表情や感情の変化は灯と同じだ、強気だけど内面は臆病で・・・
でもキスは積極的で・・・
あんな可愛い二人と恋人になるなんて人生分からないな・・・
「・・・可愛い」
「灯が?」
「ああ」
「エルちゃんもでしょ?」
「ああ」
「瞬、灯を大事にしなよ?」
「あー・・・」
「エルちゃんも大事にしなよ?」
「・・・分かってる」
瞬、灯、エルが付き合う事になったがその事に関して陸達は何も言うつもりは無い、これは三人の問題だし、やっと灯が瞬と想いを通じ合わせた事に水を差したくなかった。
そもそも灯本人もエルと一緒に瞬と付き合う事を望んでいた為、瞬がしっかりしている分には何も問題無い。
「でも、獣人の感覚は分からないわ・・・」
「ま、ね」
「俺は灯が望むならそれで良いと思うし、エルも押し切られた感はあるけど大事にしたいと思った、だから・・・」
「瞬、超鈍感で灯を悩ませたけど、そういう開き直れる所は尊敬するわ、私は一人だけでいい」
「俺も」
地球の現代人の感覚では「二股」だ、だけどセバスに色々と教わったがこの世界では複数婚は普通にあるらしい、獣人に限らず、人の貴族でも相手が複数居るし、忌避されるものではないとの事。
「お相手と体と財力が許すなら、それで良いのです」
つまり甲斐性があるなら特に問題にはならないそうだ。
「でも瞬、あなた試しに付き合ってみる類の告白は必ず断っていたわよね、なんでエルちゃんはOKなの?」
「それが分かんないんだ、でも灯と同じで抱きしめたら離しがたくて・・・」
「一目惚れ?」
「ケモナー?」
「お前な・・・、ん?そう言えば、鈴も陸も一人で良いって好きな人居るのか?」
「・・・」
「・・・」
「おい、何故黙る」
「居るわ恋人」
「マジかよ!!」
「瞬、俺も居るよ恋人」
「なに!?」
陸と鈴がそっと手を繋ぐ
「・・・は?」
ポカーンと口を開け言葉を失う瞬
「何時から?」
「夏祭りから」
「なんで言わねえんだよ」
「あのね、灯が大変な時に、しかも告白スルーされた時期に、私達付き合ってますなんて言う訳ないでしょ・・・」
「今になって言ったのは?」
「瞬と灯が付き合ったから」
「・・・なんか、すまん」
「私達は別に良いのよ、灯とエルちゃんを幸せにしなさいよね」
「分かってるさ」
「ちょっと良いか?」
黙っていたグレゴリが口を開く
「セバスさんに聞いたんだが、恐らく俺達も「変化」が始まっている」
「え!?」
まさか灯のように種族が変化したり、とか
「獣人化や変化の条件は以前聞いた通り、肉親に会う、生まれた土地を訪れる等が挙げられるが、俺達も灯と同じ様に異界還りの存在だとするとだ、この世界に来た時点で「故郷に帰って来た」と広義に含まれるのではないかと思ってな、それに便宜上「変化」と言っているがそれは俺達の主観であって、正しくは「元に戻る」なのでは無いか?」
「つまり俺達は少しずつこの世界に最適化して、いや、この世界の元の身体に戻ろうとしていると?」
「まあ、そんなところだ」
「でも今、瞬の話をしていたよね?何か関係あるの?」
「瞬がエルを受け入れた事についても、この世界の常識と言うものが無意識下に入って来ているのではないかと思ってな、瞬はこれまで試しにとか、ちょっと良いなと思った程度では告白を受け入れて来なかったのだろう?」
「まあ、そうね・・・」
「更にダメ押しは灯の獣人化だ、身体自体の変化も大きかったが、性格や行動理念、対人の距離感、その他もだが大きく変化しただろう?
正直俺は灯がああいった告白をするとは思っていなかったからな、付き合いの長いお前達なら余計に違和感はあるんじゃないか?」
「そう、だね・・・」
瞬も陸も鈴も口にはしなかったが、灯の変わりようには困惑していた、それこそグレゴリさんが言った通り、人前で瞬に告白して何度もキスをするなど以前の灯を思えば考えられない行動だった。
「でも私は、灯は変わったけど変わってないと思う」
「鈴?」
「あの子が瞬を好きな事は変わらないし、ただ胸に秘めていた想いを外に出す様になっただけよ、そもそも何度も何度も言うけどね、単純に瞬の鈍感が灯をあそこまでの行動をさせるまでに追い込んだのよ!」
「う、すまん・・・」
そう、瞬が夏祭りの告白を正しく理解していれば灯もあそこまで大胆な行動には移らなかっただろう、実際行動したのは獣人化による心身の変化が影響しているが、「好き」という感情は元々持っていたのだ。
「まあ、付き合いの短い俺でもひと目で灯は瞬に惚れてると分かったからな、芯と言う意味では何も変わらんか」
「そうだね」
「これから瞬は一先ずサイリさんに勝てる様にならないとね」
「ありゃ無理だろ・・・」
「スキル無しの素の体術で分身してたしね」
「ハードルたけぇ・・・」
「食後に特訓するか?付き合うぞ」
「お願いします・・・」
「俺も手伝うよ、せめて二対一で圧勝する位にはならないと話にならないでしょ」
「仕方ないから治癒待機してあげる」
「怪我する前提かよ」
「俺達が全力で戦ってもカスリもしないんだから、それくらいやらないと特訓にならないでしょ」
「うげえ」
その日から瞬の特訓が始まった、瞬は万能型の魔法戦士と言っても固さならグレゴリが速度なら陸が上なので、一部のステータスでも格上と戦うには都合が良かった。




