二人。
「良いなあ、私もあんな熱いキスされたい」
「ほっほっ、エリューシア様も行っては?」
「やだセバス、あの場面に割り込む程野暮じゃないよ」
「ほっほっ、それはそれは、ならばアリエット様が終わったら行くのがよろしいでしょう」
「そうね、楽しみ!」
「やってらんないわ・・・」
「そだね・・・」
「そもそも上手く行かない筈が無いのよ、あの二人」
「瞬があんな普段からベッタリしておいてフルのは有り得ないよね・・・」
「それにしても灯があそこまで大胆な行動取るとは思わなかったな」
「そうですね、アレには私達も驚きました、でも全部瞬が悪いんですよ、灯の告白スルーしたりするからあそこまで溜め込んじゃうんです、あの子限界まで我慢するから気持ちが圧縮されちゃって止まり方分からなくなったんですよ、きっと」
「ね、あの場面は酷かったよね、グレさんも見たら瞬の鈍さに引くよ」
「毎度も聞くが、夏祭りのデートで告白されてスルーするのが信じられないんだが・・・」
「本当ですよ、顔真っ赤にして言ってるのに、あのアホは友達に言われたみたいな返事して」
ちっ、と吐き捨てる鈴、思い出すだけでこの様子では余程酷かったのだろう。
各々話していたが、そこにサイリの姿はない
灯が最初から大胆にもキスをした瞬間飛び出しそうになっていたサイリを、セバスが反応、締め落として馬車に寝かせていたのだ。
半刻程経っただろうか、エルの耳がピクピクと動き
「ん、アリィが呼んでるからちょっと行ってきます」
「え?終わったのかな?」
「んー、アリィの方は済んだみたい」
「みんなで行く?」
「アリィ、どうする?」
獣人同士なら姿は見えずとも音を拾えるのだろうか、会話しているようだ
「分かった、今行くー」
「なんて?」
「私だけ来て欲しいって!終わったらこっちに来るから!」
「あ、うん・・・」
そう言ってエルちゃんも瞬と灯の方へと歩いて行った。
「アリィお待たせ、上手くいった?」
「うん・・・、ありがとうエル」
「良いのアリィの為だもんね、私も良い?」
「良いよエルなら」
「灯?」
「瞬兄、エルも幸せにしてね」
「なんっ!?」
何かを言う前にエルに口を塞がれる瞬、こちらはリリスからきっちり教育されているのだろうか最初から舌を絡めて来た
「ん、」
「ま、、んぐ」
エルと瞬のキスを見ている灯は
「わあ、自分とそっくりなエルが瞬兄とキスしてるの変な感じ・・・」
とのんきに言っている、灯は恋人じゃないのか助けてくれ!
「はぁはぁ・・・、待ってエルちゃん、アレは灯を焚き付けるフリじゃ・・・」
「フリじゃないです、好きだって言ったじゃないですか」
「いや、軽いから!」
「軽くても重くても、貴族の娘が冗談で好きと言って唇許すと思うんですか?」
「う、いや・・・」
「それとも、私は嫌いですか・・・」
強気だったエルちゃんが突然耳と尻尾を萎えさせてそんな事を言った、いやいや灯が何年後かに成長したような同じ顔でそれは卑怯だろ、と瞬はなす術なしだ。
「嫌い、ではない、けど、」
「じゃあ好きなんですね!」
と、冒頭のやり取りを繰り返してしまう瞬、分かっていても嫌いとは言えない辺りが巧妙なエルのやり口だった。
「いや、その、俺灯の恋人だから」
「アリィは良いって言ってますよ」
「ぐ」
「瞬兄、ダメ?」
「いや、二人と付き合うなんて・・・」
「私達は獣人よ、一夫多妻も認められてるわ」
「灯?」
「瞬兄とエル一緒に居られたら嬉しいな・・・」
「本当に良いんだな?」
「うん」
「はあー、分かったよエル、灯の願いだ、君も俺の恋人だ」
「ありがとう瞬兄さん、本当に好きなのよ私」
真剣な瞳で言われた、その目はよく知る灯と同じで嘘ではないと理解出来た。
「っ!その顔で言うのは本当に卑怯だろ・・・」
「あら、ふふ嬉しい、半身のアリィと同じって事ね」
「ありがとう瞬兄」
「それより瞬兄さん、私にもキス、して欲しいな・・・」
「ぐ、聴いてたな?エル」
明らかに灯と同じ事を言ってキスを強請るエル、獣人の聴力なら可能だが・・・
「え?何が?」
「ん?灯と俺のやり取り聴いてたんじゃ・・・」
「瞬兄さん酷い、私そんな野暮はしない」
「じゃあ、今の・・・」
「ふふ、エル、私と同じ事言ったから瞬兄が驚いたの、瞬兄からキスしてくれないもんね」
「そうなの?アリィからも言ったんだ、じゃあ同じ事してくれないとズルい!」
「いや、ズルいって・・・」
灯が二人に増えたような感覚だ、何を言っても二人には敵わない気がしてきた
「ん」
「ちゅ、はあ・・・」
膝の上に灯を乗せたまま、灯の姉のエルとキスをする
背徳的な気持ちがあるのだが、それが獣人の世界、この世界では問題無いと言うなら従うしかない、考えるのもやめつつある瞬。
「ちゅ、瞬兄さんからアリィの味がする・・・」
「なんだって?」
「え、そうなの?瞬兄私も!」
「あか、んん」
「ふ、、んちゅ、ホントだ、エルと瞬兄の味・・・」
「ただいま・・・」
と、瞬だけ真っ赤な顔で馬車に顔を出した。
灯の様子は辛そうな必至の形相ではなく、とても幸せそうに瞬に抱き着いて喉を鳴らしている
「灯、上手くいったのね?行かなかったら殺すわ、瞬を」
「俺かよ・・・」
「うるさい、全部瞬が悪い、何年灯が想っていたと思うの?灯をここまでの行動にまで追い詰めたのはアンタなんだからね、どれだけ溜め込んだと思ってるのよ、殺すわ」
「ぐ、それは、すまん・・・」
「鈴姉良いの、私がハッキリしなかったのが悪いんだし」
「何言ってるのよ灯、夏祭りに告白したじゃない!アレがハッキリじゃないなら何がハッキリになるのよ、全部瞬が悪い」
「え!?なんで知ってるの!」
「見てたもの、陰から」
「お前らマジかよ!あの時居たのか!」
「瞬に批難される覚えは無いわ、何度も何度も気を使ったのにアンタがスルーするからでしょ」
「う・・・」
今回、灯の事に関しては瞬は何も言えなかった、灯の告白を正しく理解しなかったのでグウの音も出ない。
「所で、「それ」どういう事?」
鈴の言う「それ」とはエルの事で、瞬の片腕に抱き着いてピッタリ寄り添っている、喉をゴロゴロ鳴らして幸せそうな様子は金色のもう一人の灯といった感じだ。
「あ、いやこれは、その・・・」
「やっぱり良いわ、何があったか知らないけど何があったか何となくわかるから・・・」
「え?瞬二股!?」
「なんと、これが性の乱れか・・・」
「待て待て!二股じゃない!ただ・・・」
「ただ・・・?」
「二人と付き合う事になっただけだ・・・」
「二股じゃん!」
「鈍感力を発揮していたかと思えば、今度はたらしこみか瞬、後で説教だ・・・」
「いや、待ってグレゴリさん・・・、灯、エル助けてくれ・・・」
これは二股と思われている自分が何を言っても無駄だと思い、当事者の二人に助けを求める瞬
「ん?アリィを大事にしてね瞬兄さん」
「エルも幸せにしてあげてね瞬兄、大事な半身、お姉ちゃんだから」
「恋人、まさかの公認!?」
「セバスさん!?」
「おや?リリス様は了承していますのでお気になさらず、獣人は一夫多妻を許されていますから」
今リリス様はって言った!
確かに普段の溺愛具合からしてサイリさんが許すとも思えないけど・・・
「いや、瞬は人族なんだけど、瞬と結婚したら問題が・・・」
「瞬様にエリューシア様とアリエット様が嫁げばそうですね、ですが」
「ま、まさか・・・」
「ええ、獣人の家に瞬様が婿入りなされば何の問題も御座いません」
これはダメだ、セバスさんもあっちの味方だ
頼みの綱、サイリならば止められるのだが
「サ、サイリさん!」
「・・・」
完全に落とされていた、起きる気配は無い。
「皆様何が問題なのですか?」
「いや、だって二股・・・」
「二股と言う表現が私には理解出来ません、エリューシア様とアリエット様が幸せで良いではありませんか」
「人族の感覚だとちょっと・・・」
「異種族間の婚姻とはそういうものですよ、都合の良い方の種族ルールを使えば良いのです、私達獣人には問題は無い事です、逆に人族では問題に思わない事も獣人にとっては問題となる事もありますが」
「ええ・・・、だからって・・・」
ちらりと瞬の様子を確認すると灯とエルちゃんに絡まれている、二人は幸せそうなのだが瞬の顔は全力で引き攣っていた。
「瞬が困惑しているんですけど・・・」
「おや、慣れていただきましょう、エリューシア様とアリエット様の幸せの為です」
「セバスさん、なんかエルちゃんと灯に甘いと言うか瞬に厳しくない?」
「私はルナリア公爵家、サイリ様に仕える身です、サイリ様リリス様の幸せ、ひいてはその御子様の幸せが優先されるのは当然でしょう?」
「そのサイリさんは反対しそうな気がするんですが・・・」
しかも、そのセバスさんがサイリさんを締め落としたし・・・
「主が間違いそうになったら止めるのも使用人の務め、それにサイリ様はきっと許してくれます」
「何か考えがあるんですか?」
「サイリ様が娘を嫁がせたくない理由、分かりますか?」
「え、それは、愛している娘を余所の男に取られたくないから?」
「半分正解です」
「半分?」
「はい、単純に外に嫁がれると娘に会えなくなるのが嫌なのですよ」
「ええー、でもいつかは、」
「そうです、いつかはそんな日が来ます、しかし瞬様が婿養子になる事で解決します、婿が家に入る訳ですからエリューシア様もアリエット様も公爵家に残りますので、これで半分は解決します」
「娘と離れたくないと言うのは解決するとして、余所の男に取られたくないって言うのは・・・」
「瞬様に強くなっていただきましょう、頑張って下さい」
「雑!」
「おや、強くなるだけで愛する者と一緒になれるのですよ、シンプルで良いではないですか、それにエリューシア様は兎も角、アリエット様はこれから大変です、黒を持つ者は引く手数多ですので方々から求婚されるでしょうね」
「でも、公爵家なら」
「確かに公爵家ならば大抵の求婚を蹴飛ばせます、しかし上には上が居るのですよ」
「上、と言うと王族?」
「はい、流石に王族から婚約を求められれば簡単に断る訳にはいきませんから、それが他国となれば尚更です」
「そんな・・・」
「御安心下さい、まだアリエット様は正式にルナリア公爵家に登録されておりません、本人の立ち会いが必要なのですが体調不良で先延ばしにしておりましたからね」
「えっと、つまり?」
「公爵家の登録申請と同時に瞬様とエリューシア様、アリエット様の婚約の手続きも済ませます、王族と言えど他家の婚約には手も口も出せませんから」
「ええ・・・、瞬の結婚確定・・・」
「更に言えば瞬様は貴族でなく冒険者なので何かと文句を付けて来る者も居ます、しかしSランク冒険者は相応の社会的地位が有りますし、サイリ様が認める程の強さになって頂ければ誰も何も言えません、獣人には力が物を言う風潮は未だに残っていますから」
「あ、だから強くなってと・・・」
「はい」
「何か行き当たりばったりかと思ったら色々計算されていたんですね」
「ほほ、貴族の行動が表に出た時には結果は決まっているのですよ」
「怖すぎるな、貴族・・・」
「そうね」
「うん・・・」
そんな世界に生粋の庶民である瞬と灯は大丈夫なのか不安に思う三人であった。




