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勢い。

セバスは考える、勢いというものは存外馬鹿に出来ないものだと。

戦場で戦略も何も無く、ただただ士気が高いだけの突撃で勝つ事もある、即断即決で上手く行く話も少なくない、勿論時間と熟考が必要な場合もあるのだが、今回は勢いのままに行動が正解だとセバスは確信していた。



「ほら、アリィ!」

「!、あ、えと、その・・・」

周囲の勢いに乗って飛び出して来たものの何も考えていなかったのか灯はモジモジと考え込んだ、それを急かすエルだが業を煮やしたのか灯の耳元でエルが囁いた

「良いわアリィ、私が先に言うから、安心してファーストキスは奪わないからね!」

「ファッ!」

ファーストキス!?と顔を赤くする灯をおいてエルがスタスタと瞬に近付く

「エルちゃんと灯が俺に話があるって?」

「はい!()()()()聞いて下さい」

「お、おう・・・」

何やら鼻息の荒いエルに少し引く瞬、鈴と陸、グレゴリも怪訝な表情で様子を伺っていたのだが、次の瞬間呆気に取られる事になる

「瞬兄さん、私あなたの事好きみたい、結婚して!」










「は?」

「へ?」

「ん?」

「結婚?」

その場で獣人以外の全員がポカーンとなった、いち早く鈴がハッと正気に戻り灯を心配して見ると

「ううー・・・」

「え?」

顔を赤くしてエルと瞬を見守っているのだが、その様子は拒絶や焦りと言った表情ではない

(どういうこと?)

状況が読めない、瞬も我に返ったのか

「結婚って、なんで?」

至極当然の疑問、何故なのか・・・

「瞬兄さん私の事嫌い?」

首を傾げるエル、金色の毛に猫耳尻尾、灯を少し大人にしたような容姿に、スタイルはとても良い、そんな美人に嫌いと言える男がどれだけいるだろうか・・・

「いや、嫌いではない、けど」

そこで瞬の負けは確定した、獣人は何かとストレートな表現を好む、思い立ったら即行動が基本で、今の瞬みたいに日本人のような灰色の回答はあまり理解されない。

「じゃあ好きなのね!これからよろしくお願いします瞬兄さん?」

そう言って瞬に思い切り抱きつき頬にキスをするエル、勿論確信犯であった。


「ちょっ、はっ?えっ!?」

「アリィも幸せにしないと嫌よ?」

そう言って耳朶を甘噛みして離れて行くエル、有無を言わせないその行動にセバスは感動している

「見事ですエリューシア様・・・」

「うふふっ、さ、アリィ、今みたいに思ったままに行動すれば良いのよ?最期の別れになったら後悔するでしょ?」

「思ったままに・・・」

灯は決心したのか顔付きが変わった

「お父さん・・・」

寝室から飛び出して来た為、灯は裸足であったのでサイリに声を掛ける

「ああ・・・、瞬君、アリィは裸足でね地面を歩かせる訳にもいかない、頼むよ」

「あ、は、はい」

サイリはとても複雑な顔をしているが敵に考える時間は与えないのだ、攻めるなら攻める!と瞬を少し睨みつけながら言った

「ありがと、瞬兄」

「お、おおお、おう・・・」

動揺は当然の如く収まっていない、何故だか彼女に二股現場を押さえられた気分の瞬である

灯は瞬に抱きかかえられた体勢で瞬の両頬に手を添えた

「灯?んっっ!?」

「ちゅ、ん・・・」

突然灯は瞬にキスをする、頬や額にする親愛の挨拶ではない、口と口、愛を乞うキスである。

「は、あかっ」

「好き・・・」

ちゅ、一度唇を離すも、直ぐにキスをして瞬の口を塞ぐ

「好きなの、瞬兄、好き、大好き、ずっと前から好き・・・」

ちゅ、ちゅ、ちゅ、好きと言う度にキスを重ねる

瞬は灯を抱えている為に手は使えない、抵抗するには離すしかないのだが素足の灯を地面に下ろすのも気が引ける。

なんとか離れようと首を反らしたのだが、灯は頬に添えた両手を瞬の首の後ろに回しキスを続ける

「瞬兄、愛してる、ごめんねずるくて、好きなの、好き、大好き・・・」


灯をここまでの行動に駆り立てたのには理由があった

リリスが言った通り、父と母にもっと好きだと伝えたい、別れの挨拶が出来ればと、もう後悔はしたくなかったのだが、獣人化して起きた当初は強く誓った想いも少しずつ慣れてきて、毎日の生活を享受していた。

だが()()()()()()がまた来る保証などどこにも無い、瞬達は旅立って行く、モンスターの居るこの世界で必ずまた会うという事は言いきれない、地球よりは危険が多いのだ。

リリスから言われて夢の中で誓った想いを思い出した灯は、瞬にこれまで胸の内に溜め込んでいた気持ちを全て伝えようと心に誓ったのだった。


「ちゅ、んん」

「は、灯、待っ」

「待たない!私我慢したもん・・・、夏祭りの花火の時も、瞬兄に好きって言ったのに!」

「えっ!?」

夏祭りの時、確かに言われた「好き」は瞬は友情や兄妹の様な感覚だと勝手に思っていたが、今になって気付く

アレは自分に対する告白だったのだと

「嫌いなら嫌いって言ってよ、諦めるから、違う人を好きになるから・・・」

最期の方には灯は泣いていた、抱き着かれそのまま泣かれている瞬は必至に考えていた。


灯が自分を好きな事、元々好かれている意識はあったがまさか恋愛感情とは思っていなかった瞬は衝撃を受けていた

瞬は元々運動も勉強も人一倍出来たので性格も相まって学校で何回も告白されていたのだが、告白してくる人間の話は

「カッコイイから」

「優しいから」

との理由で「試しに付き合って下さい」と言われる事が多かった。

個人的にはよく知りもしない相手と恋人になるのは違うと思っていたし、相手がこちらを見る視線がなんとも気になってそんな気になれなかった、鈴と灯が見てくる視線と違うのだ・・・

鈴は男友達が見るような視線、まあ腐れ縁のようなものだ

灯は・・・、灯はどうだろう?

これまで灯が自分を見ていた視線、それが好きという感情ならばいつからそう見られていたか・・・


記憶の中の灯は常に笑っている、あの夏の日以外は

灯と声を掛ければ必ず笑顔で俺を見ていた

夏祭り、服を買いに行った時、卒業式、ホワイトデー、バレンタインデー、元旦、年越し、クリスマス、誕生日、学芸会、運動会、学校生活、プールに海、山、夏休み、ゴールデンウィーク、花見に入学式、春休み・・・

昔へと遡って思い出しても灯の俺を見る目は変わらない

となるとずっと昔から・・・、それに気付いた瞬は顔が熱くなるのが分かった。


いや俺どんだけ鈍いんだよっ、灯はあんなに分かり易かっただろ!

俺を見る目が特別だって事に、本当に今更だ!

告白、しかも少なくとも二度目の告白でキスまでされて気付くなんて馬鹿だ俺は。

瞬は本当に今更自覚した、灯の想いに。


いや待てよ、そうなると事ある事に鈴も陸が

「で、どう思う?」

「何か思う事は?」

と聞いてきたのは、そういうことか・・・

くそっ、俺だけか知らなかったのは・・・

だからか、やたらと二人で出掛けるのを勧めたり、鈴と陸が途中で居なくなったのは、と合点がいく瞬。

もう立つ瀬が無かった



大事な事は今現在だ、過去の失態はどうにもならない

俺は灯が好きなのか?

好きか嫌いかで言えば好きと胸を張って言えるだろう、だがそれは灯の欲しい「好き」でない事くらい分かる。

だけど灯は言った、嫌いと言えば諦めて他の人を好きになるから、と・・・

他の誰かが灯と付き合う?

手を繋ぎ、抱き締めて、そして・・・

それは嫌だ、誰にも渡したくない

許せるなら陸くらいだが、少なくとも陸は灯をそういう目で見てないだろう。


「瞬兄?ごめんなさい・・・、キス無理やりして嫌だったよね・・・」

瞬が黙り込んだ事で嫌われたと思ったのか、灯は謝った。


いやキスは嫌じゃない、寧ろもっとしたい位なのだが、

ってそうか、俺は・・・


「灯、ごめん」

瞬の言葉にビクリと体を硬直させる灯、ふられると思ったのかイヤイヤと首を振りながら抱きついてくる。

「やだ、聞きたくない・・・」

さっきは返事を聞きたいと言っていたのに今度は聞きたくないと言う、矛盾だらけだがとても微笑ましく、瞬には愛おしく感じられた、それだけ自分の事を想ってくれているのだろう。

優しく言い聞かせるように瞬が言う

「灯、違うんだ聞いてくれ」

「瞬兄?」

「これまでごめん、俺が鈍いせいで辛い思いをさせた」

「え・・・?」


「灯、俺も灯が好きだ」

「っ!」

「今度は違うぞ、好きだ灯」

「瞬兄!私も好き、大好き」

「ああ・・・」

瞬が愛を伝えると灯が泣き顔から一転、笑顔になった

この顔が見たいんだ俺は・・・

「泣かせてごめんな、もう泣かせないから・・・」

「うん、うんっ!」

ボロボロと涙を流し出す灯、まいったな、笑った顔が見たいのに早速泣かせてしまった

「灯、泣くな、笑っていて欲しいんだ」

「ごめ、なさい、嬉しくて」

歓喜の涙か、なら良いかと背中を撫でつける

ひっく、ひっく、と泣いている灯だが先程の必至の涙とは別物だ。


少しすると灯も落ち着いて来た、近くの切り株に腰を下ろし灯を膝の上に乗せると尻尾が首にクルリと巻き付いて来た、離れたくないと言っているかのように

「あっ」

やはりまだコントロール出来ないのか、本心がそのまま尻尾の行動に現れているのが知られて恥ずかしがっている。

「くすぐったい・・・」

「ご、ごめんなさい・・・」

「ぷっ」

「ふふっ」

おかしくなってクスクスと二人で笑い合う、ああ、そうだ灯はその顔で笑っていて欲しい、安心するし、とても満たされる、と瞬は暖かい気持ちになっていた。


「ねえ、瞬兄・・・」

「ん?」

「あの、ね・・・」

「なんだ、なんでも言えよ俺達は恋人だからな、灯の言うことなら何でも聞くぞ」

「じゃあ、、、・・・キスして」

「えっ」

「瞬兄からキスして欲しい・・・」

「・・・」

何でもなんて言うもんじゃない、早速瞬は後悔したが

「やっぱり、イヤ?」

不安そうな灯に言われてしまえば、俺の羞恥心など吹けば飛ぶ埃のようなものだ、男に二言は無い!

「分かった・・・」

ちゅ、と唇に瞬から触れると

「ん、瞬兄、もっと」

そう言って灯は先程のように自分からキスをし始めた

「ちゅ、む、灯・・・」

「瞬兄・・・」



何度もキスをしていると、唇を合わせるだけのキスに瞬はふと物足りなさを感じたので舌をゆっくり差し入れた

「っ!何、今の」

ビクリと信じられない事をされたと灯は口を押さえて身を引く

そうか知らないのか、いや保健体育の話もあったし知らないのも無理はない

「舌を入れたんだが・・・」

「し、舌っ!??」

灯はドン引きしているようだった

「あー、あのな灯、舌を、そのー、・・・キスはな、本当に愛してる人とするキスなんだ」

自分でも何を言っているんだと思ったが、恥はもう今更だ構うもんかとやけっぱちに近い瞬だった。

「瞬兄は、したいの・・・?」

「お、おお、勿論灯とならしたいなー、なんて・・・」

「・・・」

「あ、灯、無理にとは・・・」

「いいよ・・・」

「え?」

「瞬兄がしたいなら何でもして良いよ、教えて?」

「うっ!」

これはいけない、恋人に成り立てで「何でもして良いよ、教えて」なんて健全な17歳には酷なセリフだった。

「灯、そんな事、簡単に言っちゃダメだぞ・・・」

「?、瞬兄にしか言わないよ?」

「ぐっ」

何を当たり前の事を?とばかりに言う、無垢なのも考えものだ、なんて破壊力だ灯・・・

「瞬兄?」

「何でもない、じゃあ教えるぞ」

「うん・・・」

「口、少し開けてて」

「うん、、ん」

唇を重ねてゆっくりと舌を伸ばす、最初灯は驚いていた、怖がらせないように優しく優しく・・・

「んんー」

やはり気持ち的になのか生理的になのか、体を強ばらせて引いてしまう灯

「灯、舌を絡めて・・・」

「うん・・・」

言われた通り素直に従う灯、ぬるりと柔らかいものが触れ合う、全ての神経が舌に集まっているような錯覚に陥る

「ん、はあ、ん・・・」

苦手意識があると言うのに一生懸命舌を伸ばしてくる灯が愛しくて堪らなくなった瞬は少し暴走してしまった

「灯っ」

「んぐ、じゅる、、しゅん、に」

ぐちゅぐちゅと舌を乱暴に絡める、味は無いのだがどこか甘さを感じる快感にドロドロと理性が溶けていく瞬、それは灯も同じなようで、キスも勢いを増していった。


そうしてお互いキスに夢中になっていたのだが

ふと、しまった!と気付く瞬、全員に見られてる!?

しかもサイリさんも居たので、サーッと背筋が凍り付く

やっべー!と周囲を見ると誰も居なかった。


「・・・」

いや、そりゃそうだ!俺が外野でも気を遣うわ・・・

ホッとして膝に乗せた灯を改めて確認する瞬

「はあ、はあ、はあ・・・」

呼吸が荒く、髪を乱して涙をうっすら浮かべている灯が目に入った、顔は赤く少しだけ汗ばんでいるのだが汗の匂いさえ扇情的に感じられた

「っっ!!」

くたりと手足を投げ出し瞬に身体を任せている、羽織っていた男物の上着がはだけ、深く長くキスをしたので酸素を取り込もうと胸が上下しているが、よく見ると灯が着ていたのはワンピースでは無く下着、ネグリジェ、ベビードールと呼ばれる代物ではないのか!?と瞬は動揺する、肩紐が外れ、胸元が大きく見えそうになっていて身体のラインが見える、灯って意外と・・・

いやいや、何考えてるんだ俺は!落ち着け・・・

「はあ、はあ、しゅんにい?」

「う!」

そんな姿の灯に甘い声で名前を呼ばれる、健全な男子高校生には目に毒な光景だ、グッとくるものを粉々だった理性を掻き集め必至に耐え切った瞬は立派だった。


さり気なく肩紐を掛け直し、優しく唇に触れるキスをした

「ん、ふふ、瞬兄愛してる・・・」

ゴロゴロと喉を鳴らす灯は知っている人間の灯ではない、だが獣人になっても笑顔は昔から知っているまま変わらなかった。

瞬は灯を強く抱きしめて猫耳を撫でる

「灯、好きだ、昔の灯も獣人になった灯も、この耳も尻尾も・・・」

「にゃ、ん」

静かに寄り添う二人は幸せに浸り、いつまでも抱きしめ合っていた。





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