決断。
「アリィ、おはよう!」
「エル、おはよう?」
突然元気に寝室に来たエルに困惑する灯
続けて言われた言葉に更に困惑の度合いを深める。
「アリィ、私瞬さんと結婚するわ!」
「ほあっ!?」
「私好きみたい!」
「!?!?」
言葉が足りて無ければ配慮も足りてないエル、灯は大混乱だ。
「え、エルが瞬兄と・・・、」
顔色が良かった灯が真っ青になる、エルと瞬兄が・・・
私・・・、でもエルならきっと瞬兄とお似合いだ・・・
でも・・・!
そこにリリスが来た
「エル待ちなさい、もう!アリィが困っているでしょ!」
「え?あっ!ごめんアリィ違うの!私とアリィ一緒に瞬さんと結婚しよう?」
「ええっ!?」
「だから言葉が足りないのよエル!黙ってなさい!」
エルを黙らせ、リリスが事の次第を説明する、そして
「私とエルが・・・?」
「ええ」
「でも瞬兄がどう思うのか・・・」
「あら、エルとアリィは双子よ片方だけなんてズルいじゃない」
「で、でも・・・」
「それにアリィ、あなたエルと離れられるの?」
「え?」
「それぞれ違う人の所へお嫁さんに行ったら中々会えなくなるわよ」
「あ、ヤダ・・・、一緒に居たい」
「私もよアリィ、離れたくない」
ぎゅっと抱き合う二人、
「あとアリィ、あなた気を抜いちゃダメよ」
「気を抜く?」
「瞬君が旅先で番を見つける事もあるし、もしかしたら死ぬかもしれない事だってあるの、アリィあなたは獣人化して私に言ったわよね、後悔したくないから思いは伝えるって、瞬君は違うの?「次」が必ず来るなんて保証はないのよ」
「やだ・・・、私何も言ってない伝わってない・・・」
「なら今為すべき事は分かるわね?」
「うん!でも瞬兄達、もう行っちゃった・・・」
「大丈夫、貴女の願いは私達が叶えるわ」
カチャリ、と部屋に入って来るサイリとセバス、その姿はいつもの貴族服と執事服ではなく冒険者の装いだった。
「お父さん?セバスさん?」
「またこれを着るとはね・・・」
「偶には良いでしょう、サイリ様」
「まあね、さあエル、アリィ、私達が瞬君達の所へ運ぶよ」
「運ぶ?」
見合わせるエルと灯
「たかだか馬車の二、三時間の移動なんて知れてる、私達なら10分で追い付くよ、アリィ行くだろ?」
ニコリと優しく灯に微笑むサイリ
「あ、ありがとう!お父さん」
「本当は連れて行きたくないけど、娘の為だ・・・」
「お父さん?」
ボソリと呟いた言葉は誰にも聞こえなかったがサイリの本心だった。
「エリューシア様は私が運びます」
「お願いねセバス」
「あ、セバスこれ・・・、頼むわよ?私だって見たいんだから」
「はい、かしこまりました」
リリスがセバスに水晶玉を渡した、セバスは受け取り魔法鞄に仕舞う。
「では行こうか」
「はい」
「ゴー!」
「うん・・・」
サイリは灯を、セバスはエルをお姫様抱っこで持ち上げ、そのまま部屋のバルコニーから飛び出した。
リリスはその背中を見送っていたが、あっという間にみえなくなった
ガラガラ・・・、ゴトゴト・・・
「あー、やっぱり灯置いてきたの失敗だったかな・・・」
ボヤくのは瞬、出発してからずっとこの調子だった
「残りたいなら残れば良いじゃない」
「そんな事出来ないだろ・・・」
「ならグダグダ言わないで、灯だって本心を言えば納得してないのに聞いてくれたんでしょ?私達だってずっと一緒に居れる訳じゃないんだから、自分で決めた灯を見習いなさいよ」
「今の灯は戦闘どころか旅に耐えられる体じゃないからね、あそこから動けないのは決定事項、だから瞬が心配なら残るしかないじゃん」
「そうだな、瞬、良い機会だ少しは今後の事、灯の事も考えるんだ、鈴の言う通りずっと一緒に居れる訳じゃないんだ」
「いや、それは・・・」
ぐ、と言葉が続かないのか瞬は黙り込んだ
「あれ?」
「どうした鈴」
「いえ、索敵に・・・」
「モンスターか?」
「の割に、高速接近、て、グレゴリさん馬車止めて!」
この旅に向けて色々とセバスから指南を受けていた瞬達、その内のひとつ「索敵」は皆ある程度使える様になっていた、セバスに
「索敵はとても重要な役割です、索敵のみの役割を担う人物を専任で雇う事もある程のものです、聞くところによると皆様の中では陸様とアリエット様がその役割を担っていると」
「はい」
「陸様は前衛ですので運用としては最適です、逆にアリエット様は魔法の同時使用が常だったと」
「ええ、支援魔法と索敵、魔法待機と」
「素晴らしい才能です、ですが同時使用は負担がとても大きい為にかなり無理を重ねていたと思われます、意識の喪失、心身の不調、食事量が増えた、突然眠ってしまった、等の事があったのではないですか?」
「あ・・・」
「む・・・」
「そう言えば・・・」
「心当たりがある様ですね、わたくし共が見た所、アリエット様の御性格はこちらの屋敷に来て頂いてからの短い期間ではありますが、お優しく努力家で、そして遠慮がちです」
セバスさんは口にしなかったが、パーティー内の負担の差がある、灯の魔法に頼り切りでは無いのか?
そう言われた気がした。
だからこそ皆、灯には及ばないまでも索敵の習得をしたのだった
「しかしながらアリエット様の行動にも問題があります、献身と自己犠牲は違います、言わなければ分からない事も多いものですから」
「あの、セバスさん」
「分かっております、勿論サイリ様もリリス様も理解しておられますので、今後アリエット様の教育にも配慮していきますので御安心を」
そうして索敵を覚えたのだが、やはり魔法の素養が高い方が精度と範囲は上がるらしく鈴が一番覚えが良かった
だが、鈴曰く
「こんなの一日中起動して支援もやってたの・・・?灯には呆れるわ、私だったら直ぐにシンドいから代わってって言うわよ」
とゲンナリしていた、それでも灯の索敵範囲精度には叶わないレベルなので、どれだけ負担を強いていたのか皆反省しきりだった。
そんな鈴の索敵に何かが掛かったようで、その逼迫した様子から馬車を止めた瞬間、ザザザザザーッと進路上に人が立ち塞がった
警戒して剣と盾を出そうとしたグレゴリに
「やあ、グレゴリさん、先程振り」
「ゴリさんおはよう・・・」
「は?」
サイリさんと抱きかかえられた灯が姿を現した
「ほほ、鈍りましたねサイリ様」
「アレで鈍ったの?少しお父さんの事見直したかも・・・」
次いでセバスさんとエルちゃんも現れる、馬車で三時間程移動した筈だが走って来た様子で
「いやあ少し鍛え直さないとダメだねぇ」
「お嬢様を抱えていると言っても10分で追い付けないとは、私がお手伝いしましょう」
「え、いやセバスは良いよ・・・」
などと話していた、10分やそこらで追いついたのか!?
少なくとも20kmか30kmはある距離を人を抱えて・・・、と呆れるグレゴリ。
「どうしたのグレさん」
「え?灯!?」
「サイリさん達も、どうして?」
ぞろぞろと馬車から降りて来て驚く瞬達
「いやあ、皆さん先程振りだね!エルとアリィが瞬君に話があるみたいでね、走って来たよ!」
「ええー・・・」
呆れると共に、なんとも言えない非常識加減と言うかアホさ加減、この人やっぱりエクスと親子だわ、と認識したのだった。




