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仲直り。

灯はここ数日、特に具合が悪いらしい、何度も眠りに付いたり体調不良を繰り返し瞬も中々謝る事が出来ないでいる、そうして過ごしている内に旅に出ると決めていた日が明日と迫っていた。


「瞬さん、アリィが話したいって言ってます」

夜、エルちゃんがそう言って離れに居た瞬達に会いに来た

「話せるの?」

「あまり良くはないんですけど、明日出立するなら今しかないからって」

「分かった、行くよ」

「瞬、私からは「行ってきます、元気になってね」って言っておいて」

「じゃあ俺からも「行ってきます、瞬のことは任せて」って」

「は?お前ら会いに行かないの?」

「灯は具合悪いんだから大勢で行っても負担になるでしょ、話も散らかるし、良いから瞬一人で行きなさいよ」

「そういうこと」

「なら、俺からも「瞬達はきっちり守ってみせる、安心して待ってろ」だな」

「グレゴリさんまで・・・」

「いいから、行ってこい」

「分かったよ・・・」


そうして皆から気を遣われ灯の寝ている部屋に向かった

寝室に入ると天蓋付きの豪奢なベッドで灯は待っていた、部屋は暗く、背中にクッションを挟み、何とか上半身を起こしているような状態で


「瞬兄、ごめんね・・・、見送り、明日したかったんだけど、ダメそう」

そんな事を言った灯の顔は真っ白だ、どこから見ても病人のそれで人の心配をしている余裕はないのに・・・

瞬は枕元の横にある椅子に座り話し始める

「いや、気にするなよ、それより尻尾の事なんだけどごめんな、知らなかったとは言え悪い事をした」

「んーん、ビックリしただけだから、怒ってないよ・・・」

「そうか・・・」

「また触りたいなら言ってね、瞬兄なら良いよ」

「お、おう・・・、良いのか?」

「良いよ、でも他の人の触っちゃイヤだからね」

「分かった、灯以外のは触らない」

「うん」

瞬は気付いていなかったが、これは獣人なりの「月が綺麗ですね」の意味だった。

通常尻尾は家族か恋人婚約者にしか触らせない、あなたにだけは許します、他の子はダメよ

これに対して答えた、あなた以外の尻尾は触りません、つまりはそういう事であった、勿論灯もそういう意味で言ったつもりは無いのだが・・・

マナーで男女の完全な同室は禁じられている為に寝室の扉はある程度開け放たれている、そして扉の前にはエルが控えていた、獣人であるエルには当然この距離の会話は聞こえている

(きゃー!アリィったら大胆!瞬さんも、もう!!)


「あ、そうだ、みんな押し掛けたら灯の負担になるからって伝言だけ」

みんなからの伝言を伝えると灯は微笑み

「そっか」

と短く答えただけであった、どうやら話しているだけでもかなり辛そうだ・・・

あまり長居もしない方がいいだろう、そう思い引き上げようとした所

「あか・・・」

「瞬兄、」

「ん?」

「気を付けてね・・・、帰って来るよね?」

ふと灯と目が合う、その瞳は焦点があっていない、どうやらまた目の不調もあるようだった

気心の知れた人間が居なくなり、必ず落ち着くと言われていても何度も体や目がおかしくなれば不安にもなるだろう

瞬は灯の手を握り締めた。

「あ・・・」

「大丈夫、必ず戻るから、魔法の調べ物は任せたぞ?」

「うん、頑張る・・・」

「・・・」

「・・・」


沈黙が部屋を包み込む、何か、

「瞬兄・・・」

「なんだ?」

「ちょっと近寄って・・・」

「お、おお・・・」

この間頬にキスされた事を思い出し、ぎこちなくベッドの縁に座って体を寄せる瞬に灯は抱きついた。

「灯っ!?」

「ん・・・」

背中に両手を回し首元に顔を埋める灯、瞬は右手を背中に回し、空いている片手で頭を撫で始める

(耳は、大丈夫だよな?)

尻尾の件が頭を過ったが、構わずに撫でた

耳もとても触り心地が良くてずっと触っていたい


「寂しいよ・・・」

「・・・リリスさんもエルちゃんも居るだろ?」

「うん・・・」

「サイリさんも頼れるし」

「うん・・・」

ぎゅうっと抱きついていた力が強くなる、大丈夫、大丈夫と背中を優しく撫で続けた。

そう言えば灯が獣人になってからこういう触れ合うスキンシップ増えたなと、撫でながらぼんやり考えていると

「すんすん・・・」

「灯?」

今、匂いを嗅がれたような・・・

「スー・・・、、瞬兄の、匂い・・・」

「あ、あの、灯さん?」

流石に匂いを嗅がれるのは恥ずかしい瞬だが灯は止まらなかった。

「んー、スー・・・、はあ、瞬兄、好き・・・、匂い、堪らないの・・・」

抱きついたまま灯が身体もスリスリと擦り寄せて、息も荒くなって吐息がこそばゆい

「ちょっ!灯!」

「はあはあ、好き、好きなの、瞬兄・・・、」

匂い!?匂いだよな!?

スリスリと擦り寄っていたのが今ではガッチリ抱き締められてグリグリと押し付けられていた、色々とマズイ!

ベッドで寝ていただけあって、着ているものは薄かった、いや暗くて分からなかったけど透けていたような・・・

体温と感触が直に伝わってくる。

「瞬兄・・・」

灯の顔が近付いて来た、おやすみのキスを思い出してドキリとする瞬だが、唇を通り過ぎて頬と頬をサラリと合わせただけだった。

ホッとするのも束の間、喉をゴロゴロ鳴らして延々と頬擦りと共に体も擦り付けてくる灯。

「あああ灯!落ち着け!な!」

ぐいぐいとベッドに引き込まれた、顔を真っ赤にして何とか止めたい瞬だが、密着されては中々引き剥がせない、かと言って力づくでやろうとしてもどこに触れていいのかも分からなかった、獣人になった為なのかかなり力が強く本気で押しのけないと逃げられない程である。


バーン!!

その時寝室の扉が勢い良く開いた

「アリィ!!」

「おおお、エルちゃん!助けて!マジで俺からは何もしてない!」

その時現れたエル、瞬には救いの黄金の天使に見えたのだった。

「アリィ、ほら離れて、どうしたの?」

「んー?エルだ!えへへへー」

「わっ!?アリィ?」

灯は瞬から顔を上げると今度はエルに抱きついた、その顔は部屋に来た当初の真っ白な顔ではなく、ピンク色になって血色がとても良い。

「エル、んふー、エルの匂いも好きー、」

ゴロゴロ喉を鳴らしてエルに絡み付く姿は人間大の猫だった。

「エルゥ・・・、ゴロゴロ・・・、好き、ん、はむはむ」

「ちょっとアリィ、待っ、んふ、やん!」

灯は抱きついた勢いのままエルの毛繕いを始めた

「アリィ、人前で毛繕いはダメよ、ね?」

「はあい、ゴロゴロ・・・、」

聞き分けは良いらしく、灯はエルに抱きついたまま大人しくなった

どうやら人前での毛繕いはマナー違反らしい、もう何がどうなのか全くわからん!

完全にエルを標的に定めたのか抱きついて離れない

「エル暖かい・・・」

「もう、どうしたのアリィ」

「わかんないー、瞬兄が良い匂いしたから、気持ち良くなっちゃったー」

「瞬さん、あの申し訳ないですけど、セバス、ううん、お母さん呼んで下さい!部屋の外に侍女が居るのでアリィの様子がおかしいと」

「あ、うん、分かった・・・」

そっと寝室を出て廊下へ出る前に深呼吸、顔が熱い・・・

「すー、はー・・・」

瞬も健全な(元)高校生、妹みたいに思っている灯とは言え薄着の女の子に思い切り抱き着かれ、全身を擦り付けられて何も思わない筈がなかった・・・

「ふー・・・、大丈夫・・・」

少しだけリリスを呼ぶのが遅くなったが、誰も責められないだろう。



「これはマタタビね、酔ってるわ」

「またたび!?」

「でも俺マタタビなんて・・・」

「瞬、アレじゃない?訓練所でセバスさんに吹き飛ばされて干し草?みたいなものに突っ込んだやつ」

「訓練所の干し草?それって隅に置いてある?」

「そうです」

「アレは干し草じゃなくて、マタタビ草を発酵させたものよ」

「えっと、それは?」

「強烈なお酒、と言えばいいかしら」

「なんでそんなものが訓練所に・・・」

「あら、猫系獣人の分かりやすい弱点よ、弱点をそのままにしておけないから、ある程度耐えられるように訓練しないと大変じゃない」

「な、なるほど・・・」

確かにマタタビでベロベロに酔うような護衛や使用人、当主では暗殺し放題だ、耐性を付けるために訓練所にあっても不思議ではないが、それって完全に

「猫じゃん?」

「猫ね」

「猫だな・・・」

どうやら訓練中に体に付着したマタタビに灯が反応したらしい

「それにしたって俺風呂入ったぞ?」

「多分ですけど、現在のアリィは感覚過敏な所もあるので嗅ぎとったのでは?そして体が弱っている所にまたたびでは微量でも効いてしまいますよ」

「そ、そうか・・・」

「お風呂入る前に触った所とか、部屋に漂っていたマタタビが付いていたのかも」

「でもエル、アリィはマタタビで元気になったの?」

「なったなった!瞬さん来た時点では真っ白な顔だったのに、止めに入った時は顔色も良かったもん」

「確かに顔色悪かったのに抱き着かれて匂い嗅いだら突然力強くなったし、上機嫌でしたよ・・・」

「へえ・・・、ちょっと今後の過ごし方の参考になるかも知れないわね」

「そうで御座いますな、貴重な情報かと」

「改めて、灯の事宜しくお願いします」

「もちろんよ、任せて」


変なハプニングが起きたが灯とも話せたので何とか安心して旅に出られそうだった。


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