現状②
「アリィ、これからのお話があります」
「はい」
「貴女がこれから覚えなくてはいけない事、獣人全般の事、私達獅子獣人特有の事、貴族の事、この世界の一般常識、そして黒毛について」
「黒毛?」
「ええ、チキュウでは有り触れた色でもこちらの世界、獅子の獣人にとって「黒」は特別な色です、サイリを除いて黒を持つ獅子の獣人は二人、貴女と魔法都市を治めている方になります、私達以外の獅子に会った事は?」
「ない」
「獅子の獣人の毛色は基本的に茶か金しか発現しません、大雑把な括りで言えば茶は一般市民層の獅子、金は貴族階級の獅子になります、勿論例外は有りますが」
「それが黒?」
「そうです、黒を持つ獅子はとても強い力を持つと言われていて獣人全体の中でも特別視されています」
「う」
「魔法都市を治めている方は知恵、サイリは戦闘能力に突出しています、アリィは、」
「魔力、かな?」
「貴女の魔力はとても強力です、寝ている時に気を送っていたのですがその魔力には驚きました、それに寄り添っている猫は杖の化身と聞きました」
「うん、おいで神にゃん」
「にゃ」
猫の姿から本来の杖の姿、神龍の瞳となる神にゃん。
「その杖はアリィあなたが・・・、いえ私が言うまでもないですね?」
「うん、欲しがる人多いんだよね」
王国の騎士団、騎士団長、多分魔法都市の人間でも欲しい人は多そうだ。
「これまでは隠蔽したり逃げたりと後手後手の対応になっていたようですが、これからは違います」
「え?」
「この神龍の瞳はアリィ、貴女の物であると公表します、勿論その時には貴女の立場も明確に国内外に発信する事になりますが」
「でも、そんな事をしたら・・・」
「余計な者達に目を付けられるでしょう、ですがそれだけです、アリィ何故貴女が狙われるか分かりますか?」
「私の見た目と杖の性能?」
「それもあります、杖の莫大な魔力、そしてアリィの見た目はとても愛らしい反面、対外的には脅しが効きません、つまり舐められています、こんなに小さい女の子なら簡単に杖を取り上げられる、ついでに女の子も貰おうか?そう思われています」
「うん・・・」
グレゴリのような身長2m超えのゴリゴリの武闘派な見た目の人間と、身長150cm以下の細身の女の子、どちらを強盗するか?と聞かれてグレゴリを狙う愚か者は居ない。
「ですがアリィの立場を明確に示す事でほぼこの問題は解決します」
「そうなの?」
「ええ、仮に神龍の瞳をアリィではなく、国が国王が所有しているとします、欲しいと思っても狙いますか?」
「狙わない、かな、ずっと国や騎士団から追われるのも面倒だし・・・」
「そう、国が相手だから、その人の背景にある立場が守ります、だから公表します、アリィが異界還りでルナリア公爵家の娘アリエット・ルナリアであると、神龍の瞳の所有者であると」
「大丈夫かな?」
「最初は面倒です、ですが今後の事を考えると概ね敵の炙り出しにもなりますし、直接的な手段は無くなるでしょう、アリィ私達を信じて任せて?」
「うん・・・」
「アリィ、貴女は頭が良い、既に考えに至っていると思いますが瞬君達はアリィを置いて旅に出るでしょう」
「うん、身体が不自由、魔法も使えない、そして何よりも私が異界還りによってお母さん達と出会い、獣人化した事」
「そうです、アリィはそれでも付いて行きますか?」
首を横に振る灯、それはダメだと知っている。
「行かない、行けないよ・・・、一番に私が狙われるのに一番の足でまといが私じゃ迷惑しか掛けない・・・」
泣きそうな灯をリリスは優しく撫でる
「アリィ、元々あなた達は魔法都市に異界還りの事を調べに来た、誰がそれを調べるつもりで来たの?」
「私・・・、唯一魔法の解析、構築、改良が出来るから・・・」
「資料は膨大です、少なくとも一週間や二週間で終わる内容ではありません」
「ん」
「なら、その解析の間は瞬君達は手が空きますね?」
「あ・・・」
「アリィが解析している間、瞬君達はそれぞれ家族を、己のルーツを探しますが、最終的には貴女の報告を確認する為に魔法都市に帰って来ます、大丈夫、また会えるから」
「うん、ありがとうお母さん」
「良いのよ、厳しい事を言ってごめんね」
「んーん、嬉しい、ありがとう」
「いい子・・・」
リリスは灯を胸に引き込み、優しく背中を撫でる
灯の肩は震えている、理屈で納得しても感情的には離れたくないのだろう・・・
「これからは忙しくなるからね」
「うん、頑張る」
その後異界還りの事に明るい医師に診察して貰った所
体内の気が乱れている為に体調の急変が起きている事が分かった、異界還りから種族が変わった者は総じて身体の安定に時間が掛かるらしい。
灯もそれらに類する症状で時間が解決してくれるから心配しなくても大丈夫との事だ。
急激な眠気、五感の変調、違和感はこれからも突発的に起きるが家族から気を貰い、近くに居る限りは直ぐに治まる、よく食べて、よく寝て、ゆっくり過ごすように言って医師は帰って行った。




