家。
「お聞きしたいのですが、ルナリア家はどういった・・・」
「これは失礼を、私はサイリウス・ルナリア、公爵位を賜っています」
「リリスフルール・ルナリア、サイリの妻です」
エクスの態度でそれなりに高い地位の家と思っていたが、まさか公爵とは・・・
そうなると自動的に灯も公爵家の一員か。
「皆さん一緒に食事にしましょう、今後考える事もあるでしょうし、離れを皆さんの拠点にどうぞ」
それぞれ自己紹介をするとサイリがそう言った。
灯の知り合いと言っても突然来た身も知らない者に、離れとはいえ敷地内の家を貸すとは柔らかい物腰の割には豪胆だ。
「一応、人を見る目には自信がありますから、そうだろう?アル」
「ええ、皆様には当然叛意はありません、元より命の恩人ですから御礼もしなければなりません」
「うん、何か気になる言葉があったけど後で聞こうかなエクス?」
「う、はい・・・」
ガクリと肩を落とすエクス、しっかり絞られてこい。
「灯、体調は大丈夫?」
「あ、そう言えば、此処に来てから調子良いかも、視界もハッキリしているし」
「アル、どこまで進行している?」
「第一期の終わりまでです、間も無く第二期に入る辺りまでは来ているかと」
「ふむ、ギリギリだったね、もう少し遅かったら危なかった」
「あのサイリさん、それって灯の獣人化の話ですよね?アルさんからは命に別状は無く、体調不良と体の変化も元に戻ると言われていたのですが今の話を聞く限り何か危ない事があるような話ぶりで・・・」
「アル、説明は?」
「していません、異界還りとは思っていましたがアリエット様と確信した訳では無かったので」
「なら、この場で説明しよう、まず根本的に獣人と人間は違う生物だ、人が獣人になると言うのは生半可な変化ではない、ここまでは良いね?」
「はい」
「アリィの全ての症状は獣人になる前の身体の準備をしているのだが、大きく分けて三つの段階があってね、第一期は瞬君達も見て来たように倦怠感や昼夜逆転、感覚器の鋭敏化が主な症状になる、これらは大体平均的に数日、長くても一週間程で終わる、そして第二期に入るのだが・・・」
「だが?」
「この第二期が問題でね、第一期にはエルと一緒に居て落ち着いて居ただろう?」
「はい、それが分かってからはずっと一緒に・・・」
「第二期は劇化、つまり大きく変化が有るんだけど、これがとても」
「いたい・・・」
「そう、痛、、・・・アリィ!?」
「灯!」
「ぅぅぅ」
見ると灯は頭を抱えて唸っている、顔色が悪くとても苦しそうだ。
「痛い、、痛い痛いっ!」
「サイリ!始まったわ!」
「セバス!」
「奥様の部屋を準備してあります」
「リリス任せた、私は説明を続けるから、エルも着いて行っておやり」
「ええ」
「うん」
「痛い・・・、痛いよ・・・」
リリスはサイリに言われると膝の上の灯をひょいと持ち上げてサロンを出て行った、とても細身に見えるのだが獅子の獣人だけあって身体能力は優れているようだ、後にエルも着いて出て行った。
「どういう事ですか!命に問題は無いって言ったじゃないですか、アルさん!」
あの苦しみ方は尋常じゃない、頭を、全身を掻き毟るように暴れて
「落ち着いて、本当に命に危険は無いんだ、ただひたすらに痛いんだよ」
「え?」
「第二期は身体の獣人化が本格的に始まる、けど人間と獣人、元々全く違う種族なのに変わるから負荷が掛かるんだ」
「私、ヒール使えますけど!」
「ダメなんだ、魔法も薬も効かない」
「そんな・・・」
あんなに苦しんでいる灯を見ている事しか出来ないと宣告され歯噛みする。
「言っただろう、間に合ったって、説明が途中になったけどエルと居ると落ち着いていたのは偶然じゃない、この第二期の劇化に唯一効果のある手段があってね、肉親の気を貰う事で苦痛を和らげることが出来るらしい」
「あ、だからエルちゃんと一緒に居ると・・・」
「そういう事、そして気は素肌が触れ合っている時が最も効率良く伝えられる、だから」
「裸か!」
皆、思い至ったが言わなかったのに、エクスがあまりにもあんまりな発言を平然とした・・・
「・・・エクス、後で私の部屋に来なさい」
「なんでっ」
「デリカシーゼロだからですよ・・・、エクス様」
「部屋でアルから報告も一緒に聞こう」
「げえっ」
「ん、こほん、バカものは置いといてだな、気を送るだけなら私でも構わないのだけどね、血が近ければ近い程苦しみは和らぐとの研究報告が挙がっている、だから、母のリリスと双子のエルに任せた」
「そういう事だったんですか、すいませんアルさん早とちりしました・・・」
「いいえ、私も言葉が足りませんでしたし、灯様をどれだけ大事にしているかは短い旅路の中でも分かりましたから」
それから三日、灯はリリスさんの部屋から出て来なかった
その間、リリスさんとエルちゃんにも会っていない。
獣人化に掛かる時間は個人差が大きく、数時間で終わる人
も居れば数日掛かる人も居るとの事、灯は泣きながら眠っているらしいので、恐らく二人の気を貰って緩和出来ていると言っても痛みは有るのだろう。
らしいと言うのは、貴族夫人のリリスさんの部屋に男ではサイリさん以外は入る事が出来ない為、鈴に見に行って貰い様子を聞いているからだ。
因みにアルさんからの報告で、サイリさんによるエクスの説教も三日続いた・・・




