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親。

こちらの世界では「異界還り」と呼ばれる現象がある。

文字通り異界へと行き、帰って来る現象で、地球で言う神隠しと似た様なものである事。


14年前、サイリとリリスの間に生まれた子供は双子で片方がエル、そしてもう片方が灯であると言うのだが・・・

「待って下さい、灯は獣人じゃ有りませんよ?それに、その・・・」

「君達の世界にも両親は居た、かな?」

異世界から来た、そう言い当てられてギョッとする

「これは神の御業と言われていて、誰にも説明出来ない、でも事実として起きている事だ」


双子を出産、金髪の子と黒髪の子が居て、黒髪の子が神隠しに遭った、なんと目の前で忽然と消えたそうだ。

「魔法で攫われた可能性は?」

「この屋敷は特別製だ、付与と魔術的な設計で外部からの干渉は難しい」


消えた子供は異界へと行き、帰って来る時もあれば帰って来ない時もある、そしてこちらに帰って来た場合だが、父と母はその子に会えば必ず()()と言う事。

「理屈じゃない、会えば我が子だと何故かは確信するんだ、事実リリスもだし、私も一目見て理解したよ」

「そんな無茶苦茶な、言ったもの勝ちになるじゃないですか」

「それは、そうだね・・・、信じて貰うしかないよ、でもね、これから確たる証拠が現れる」

「証拠?」

「異界を渡った子はその世界に適応する、君達の世界には獣人は居ないのではないかな?」

「はい、人型の種族は人間だけです、エルフも魔人も獣人も居ませんが・・・」

「アリィ・・・、灯さんは今から獣人になるよ」

「え!?」

「私が獣人!?」

「アルから簡単に聞いたが、身体に異変が現れているのだろう?それは変化の前兆だよ、変われば分かるとしか言えないけどね、いや正確に言えば元に戻る、だが」

「そんな・・・」

灯も瞬達もあまりの話についていけない、瞬達にとっては灯は幼馴染である事に変わりはなく、獣人であろうがエルフであろうが灯は灯だと思っているが、本人はどうであろうか?


「私、ネコ・・・、獅子の獣人なの?」

「ええ、私達の子供だから勿論よ」

「エルちゃんとは姉妹?」

「一応、双子の、という事になるわ」

「・・・エルちゃん?」

「灯が嬉しいなら私も嬉しいよ、仲良くなった友達が実は妹だなんて素敵」

不安そうな表情でいたがエルの言葉を聞いてパァーっと明るい笑顔になる灯

「うん、良いかも・・・」


なんか、大丈夫そうだ・・・

「灯、猫好きだもんね・・・」

「だな・・・」

「心配して損した・・・」

自分が異世界出身で、人間でもなく獣人だと知っても気にしていないようで、皆ホッとする。


「無視してないか、俺も兄なんだが?」

「えぇ・・・」

「そんな嫌そうな顔するなよ!」

「だって、突然、」

「待て待て!今その話はするな!後で頼む!」

「何かしたのね、アル?」

「ええ、それは後程・・・」

「エクスは早速アリィに嫌われているのか・・・、相変わらずドジ踏んだんだろう・・・」

「うぐ」


「すまないが俺の話も聞いてもらいたい」

グレゴリがサイリとリリスの話も総合して確信したと話し始めた。

「皆、知っての通り俺達は異世界から来た、そして瞬、お前は見たな?地球で少なくとも陸、鈴、灯の存在が無くなっていた事を」

「間違い無いです、みんな居た痕跡も、いや生まれた事も無い事になっていた」

「恐らくこちらに来た瞬もそうなったし、俺もそうなっていると思われる、だがこちらの世界で灯の家族が居た、ここまではいいな?」

「うん」

「ええ」

「瞬の話を聞いてから考えていたのだが、俺達は地球では存在していない事になった、なら俺達は()から生まれた?」

「え」

「父さん母さんじゃ・・・」

「存在は無くなっている、行方不明や消失とは違って、地球では存在していない人間だから・・・」

「灯の事を受けて思ったのだが、俺達にもこっちの世界に生みの親が居るのでは無いか、と」

「・・・」

「そんな・・・」

言葉を失う瞬、陸、鈴


そんな中サイリが話す。

「それは有りうる事だと思うよ」

「あなた?」

「君達はアリィと一緒にこちらに来たのだろう?経緯が同じなら、君達も異界還りの可能性はあると思う、流石に四、五人同時の異界還りは聞いた事が無いけどね、魔図書館に記録があるから調べてみよう、必要なら皆さんに関連禁書の閲覧も許可しよう」

「父上、それはっ!」

エクスが咎めるように言う

「エクス、アリィの大切な人達だ、なら私達は力を貸すべきだと思うよ、その方がアリィも喜ぶ、違うかい?」

「いや、それは・・・」

「ありがとうございます・・・」

お礼を言うと少し悲しそうな様子で灯を撫でるサイリ

「敬語もその内無くなると嬉しいな」

「そうね、出来ればお父さんお母さんて呼んでくれると・・・」

「あ、あの、、その、ごめんなさい・・・」

申し訳なさそうに灯が謝る

「良いんだ、突然父母を名乗っても抵抗はあるし、気持ちの整理は付けたいだろう」

「ええ、いつか、で良いから、ね?」

優しく撫でて来る新たな父母の目は穏やかで嬉しそうだ。

「はい・・・」


「灯!大丈夫よ、お父さんもお母さんも優しいし、セバスも頼りになるからね、身体の事もあるしゆっくり考えれば良いのよ」

「うん、ありがとうエルちゃん」

「エルで良いよ、家の事もあるし、これからはアリィって呼ぶね」

「うん、エル」

「よろしくね、アリィ」

「私達はこれまで通り灯って呼ぶわね」

「うん、どっちの呼び方も嬉しいな・・・」

どうやら新たな両親とも姉妹とも上手くやれそうだった。

「そう言えばどっちが姉で、どっちが妹なの?」

「エルが先よ」

「私お姉ちゃんなんだ!えへへー」

「エルお姉ちゃん?」

「ああっ、それも嬉しいけどアリィは友達でもあるし、うー・・・、エルでお願い!」

「俺は?」

「エクス・・・」

「お兄ちゃんって・・・」

「イヤ・・・」

エクスの扱いは兎も角、こうしてエルと灯が話している様は正に姉妹といった感じだ、えへへと笑う辺りもそっくり。


「こうして見るとアリィは数年前のエルにそっくりね」

「ああ、本当に」

サイリとリリスが目を細める

「え、そう?」

「ええ、セバス写真を・・・」

「はい、こちらに」

セバスすげーっ!どういう予測をしたらそんな準備出来るのか。

分厚いアルバムを囲み、皆で覗き込む

「九歳辺りかしら?」

「そうだね、九か十位が一番近いと思う」

パラパラと捲り開くとそこには・・・

「そっくり!」

「二卵性かと思ったけど、一卵性か」

「え、似てる?」

「ええ、エルは私に似て金の髪、アリィはサイリに似て黒の髪だから違って見えるけど、ほら」

リリスがサラリと灯の髪を撫でると髪の色が金色に変わる、変化の魔法を掛けたようで

「ほら、そっくり・・・」

思う所があるのか、リリスは泣きそうな顔で膝の上の灯を抱きしめる。

「逆もいいんじゃないか?」

サイリが灯を黒髪に戻し、今度はエルの髪を黒くする

「うん、ほら可愛い・・・」

「待ってよサイリ!エルもアリィも金が似合うわよ」

「いや、黒の方が似合ってるよ」

そう言いながら黒髪のサイリと金髪のリリスが喧嘩を始めてしまった、それを見てエルと灯は顔を見合わせクスクスと笑った。

「私も数年後にはエルみたいに大きくなれるのかな」

現在の姿は数歳離れた姉妹としか見えない程、体格に差がある二人。

「それはどうだろうね・・・、人間として生きてきた14年が無かった事になる訳じゃないからね、アリィは灯でもあるし、アリィでもあると思うよ」

「これまでの私が無かった事にはならないんだ・・・」

「勿論よ」

しみじみと呟く灯、優しくリリスは肯定する。

「なんか良いな、それっ!」

「っ!」

ニコっと笑った灯を見てサイリとリリスが息を飲んだ

「ああ、こんなに良い子に育って、あちらの御両親に感謝しなきゃ」

「アリィ!」

何が引き金になったのか分からないが、やはり居なくなった娘の帰りが嬉しいのだろう、二人に挟まれて抱き締められる灯。


良い人達で良かった、王国に目を付けられた上に、魔法都市の特権階級、しかも灯の父母にさえも敵対されたら面倒な事この上ない、この調子ならば灯を利用するような人では無いだろうとグレゴリは安心した。



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