森を行く②
「灯!結界ごと魔法で薙ぎ払うぞ!」
「うん、良いよ」
結界に群がるモンスターがやたらと増えて手が足りない!一匹ずつ片付けても構わないが、グレゴリさんの方が手を焼いているようだ、堅いからと言って広範囲に敵視を蒔いた為に群がられていた。
「竜巻!」「浮遊」
瞬が竜巻を唱えたと同時に灯が浮遊で周囲の石や木を浮かせた、切り裂く風と共に巻き上げられたそれらはモンスターをボロボロの無惨な姿に変えた。
「灯!」
「ゴリさんの方へ行って、こっちは大丈夫」
「ああ!任せた」
グレゴリが小回り効かないのは肩に乗ってサポートしていた灯が一番知っていた、瞬はグレゴリの元へと走る。
「アルさん、ちょっと周囲警戒お願い、鈴姉!こっち来て!」
「はい!エクス様も自分の身くらいは守って下さい、次はエクス様を見捨てますからね」
「俺の扱い酷くね!?」
「この状況も元を辿ればお兄ちゃんのせいだからでしょ?」
「うう・・・」
灯は同時に魔法展開するのを控えていた、先の見通せない状況で倒れる訳には行かない。
検証の結果、大規模魔法を二発でクタクタ、三発でほどなく意識を失う、四発で即気絶した、同時展開しない場合はその限りでは無かったが。
「何、灯」
「浄化お願い、拡大化で全部やろう、敵が多すぎてどんどん周りから集まって来てる!」
索敵にはこの場を中心にして続々赤い点が見えていた
「分かった」
「行くよ、1、2の3!」
灯の強化支援魔法で鈴の浄化がより強力に、より広範囲に展開された、真っ白な光がモンスターの血肉は即座に清め、生きていた者もその身を焼かれ消失する。
「凄い・・・、本当に戦乙女なんだ」
「これは、エクス様では有りませんが欲しくなるのも分かります」
「ダメだよアル、灯は私の友達なんだからね!」
「分かってますよ、そもそも私にはどう考えても分不相応な力ですから」
「なら良いわ、アルのそういう所お兄ちゃんも見習って欲しいわね」
「いや俺はっ」
「聞きたくない、あんな最低なプロポーズした人なんかと口も聞きたくないから!」
「お、う・・・」
ガクリと凹むエクス、灯に振られた時より辛そうにしている、どうやら妹だけは別格らしい。
「ふう、助かったぞ灯」
「こっちこそごめんね、開幕で鈴姉と一緒に浄化した方が早かったかも」
「いや、あの時は敵との距離が近すぎた、無詠唱の灯は兎も角、鈴は危なかったし、アルさん達も居たからな、結果オーライだ」
「うん!」
「もう一生分の首落とした気がする・・・」
「それを言うなら私は一生分の浄化をした気分よ」
「俺、良いところ無かったなー」
陸、鈴、瞬も口々に言い始めたが、紅人狼や森狼はその力をして筋力が半端では無い、並の武器では刃が立たないと言うのにステーキを切るみたいにサクサク首を落として行く陸もおかしい、そして強さに比例して浄化も効きにくくなるのにそれらを焼き払った鈴もおかしいし、結界に群がったモンスターを魔法で一蹴しながらも剣を振るって戦っていた瞬も並の魔法剣士では無かった、普通の魔法剣士は大抵魔法が強いが剣は護身で持っているか、魔法を牽制に軽く使って剣を主眼にして戦うかのどちらかである、どちらも一流のそれはおかしい・・・
瞬の魔法にもビクともしない防御魔法と浄化を強化広範囲化した灯も勿論おかしい。
そして、少しだけ顔に泥の着いたグレゴリが平然と歩いて来た、それを見てアル達は呆然とする
「ね、あの人モンスターに揉みくちゃにされていたよね・・・」
「ああ・・・」
「信じられませんね、紅人狼も森狼もヤワな力ではないのですが・・・」
「灯、皆さん強いのね・・・」
呆れ半分、驚き半分で素直に感想を言うエル
「うん、みんな強いよねえ、私も頑張らなきゃ」
「え、いや、うん・・・」
皆さんには灯も入っているのだが、まあいいか・・・
「もう、此処で一晩過ごすか、灯!周辺は?」
「ん、鈴姉の浄化のせいか一帯丸々ポッカリとモンスター来ないね、半径500m位は安全」
「ごひゃっ!?」
浄化をその規模で使用するのもだが、索敵の範囲もおかしい、ついていけなくなるエル、アル、エクスの三人。
「なら此処で野営しようか、疲れたし、下手に移動して浄化と結界じゃあ二度手間だしな」
「はーい、じゃ結界張るね、えい」
バキンッ!と周囲に結界を張り、それぞれ野宿の準備を始めるグレゴリ達、テントを張る場所を均し、テントを張り、火を起して、料理を始める。
「あ、灯、手伝う」
皆、手際良く作業している所にエルは早速手を貸す
「エルちゃん料理出来るの?」
地位の有りそうなエクスとエルが料理をするとは思えない、護衛を付けて旅に出るくらいだから恐らく貴族以上の生活をしているのは容易に想像出来たので確認する。
「うん、偶にね、火はあまり触るの許されないから、切るの手伝うね」
「うん、ありがとう、じゃあこっちお願い」
「任せて!」
お互いニコニコしながら料理をする灯とエル
「ふむ、エル様は本当に楽しそうですね、エクス様もイキナリ婚姻を申し込まずに仲良くなる所から始めたら良かったのに・・・」
「ぐ、」
言いながらアルは瞬達を手伝いに行ってしまう、エクスは仲良く料理をしている二人を見て思う。
「エルがあそこまで心を許すのは初めてだな・・・」
エクスもエルも孤立しがちだ、立場に寄り付く人間が多過ぎる為に特定の懇意の者をつくるのははばかれたからだったが・・・
「先入観が無い、からこそか」
実はエルにとって灯が先入観を持っていなかったように、灯にとってもエルは先入観が無かった
地球では瞬達が近くに居た事で何かと誤解が有り、灯は友達が少なかった、理解ある友達は一人か二人程で後はクラスメート、顔見知り程度の関係が多かったのだ。
更には灯の元々の性格も影響していた、実は灯は結構人見知りする、日常生活や今回の旅のように必要と迫られる場合は何ともないのが、いざ自分の友達を作るとなると尻込みしてしまい上手く話せないのだが、エルに関しては何故か自然に振る舞えた。
その理由は後に判明するのだが、今は誰も気付いて居なかった・・・
ガシ
「ひ」
「ボケっと立ってないでお前も手伝うんだよ・・・」
肩をグレゴリに掴まれて言われるエクス
「はい!すいません兄貴!」
「兄貴も止めろ・・・」
人が増えた事で野営の準備もすぐに終わり、程なく食事が出来た。
「美味しいね」
「えへへ、おかわりもあるからね」
「うん、ありがとう」
灯とエルは食事が始まってもピッタリ寄り添っていた
「マジで仲良いな・・・」
「ええ、流石に驚いています・・・」
「アルさん達も?」
「も、という事は鈴様達もですか?」
「ええ、まあ」
「珍しいよね、灯があそこまで気を許しているの俺達以外には居ないんじゃない?ね、瞬」
「ああ、なんか本当に姉妹みたいだな」
「そう言えば少し顔つき似てない?」
「似てないだろ!それなら俺はっ」
「妹の面影を持つ女性にプロポーズした事になりますね」
「わ、それはキモイ・・・」
「流石に引くね・・・」
「違うっ!」
「聞いてみるか?灯!随分と仲良さそうだが何かあったのか?」
「「え?」」
グレゴリが理由を問うと、灯とエルは話を止めて同時に視線をグレゴリに送り、またお互いを見合わせて首を傾げる、ここまで完全にシンクロしたかのような同じ動きだ。
(動きピッタリね?)
(な、双子みたいだ)
(そこまでは似てないのでは)
(いや、よく見ると雰囲気と顔の系統は似ているぞ、髪の色が金と黒、身長に差があるからそうは見えにくいが・・・)
(そう言われると確かに・・・)
「うーん、何だろエルちゃん」
「何だろうね?」
「なんか、分からないけど一緒に居るのが自然な感じと言うか・・・」
「触れ合っていると温かいよね?」
「あ、そうだね、何だろ?落ち着くと言うか、ぽかぽかする?」
「うんうん、お母様に抱き締められて居るような感じかも」
「言われてみればそうだね!お母さんに抱き締められた時の温かさ?」
「ふむ?お互いがお互いを居心地良く感じて居ると・・・」
「「うん」」
返事が被り、また顔を見合わせ笑い合う姿はとても微笑ましい。
「・・・」
アルが難しい顔をして考え込む
「おい、アル、まさか」
「エクス様、確証は有りませんが、奥様に会って頂いた方が宜しいのでは?」
「嘘だろ?灯が?」
「ええ、会えば全て分かりますから」
何か心当たりがあるのかエクスとアルが二人で話し込んでいた
「何かあるのか?」
「あ、いえ、まだ確信を得られないので話せません、すいません、ただ・・・」
「ただ?」
「今回の事で御礼をしたいのでエクス様の邸宅まで来て頂けませんか?」
話が変わり、突然家に招くと言われ警戒するグレゴリ達
「何か企んでいるのか?言っておくが・・・」
「ああ!いえいえ違います、全く何も無いとは言いませんが、決して皆様の不利益になる事では無いと誓います」
「そもそも俺達は王都で兄貴達の戦いを観測していたからな、勝てない相手を敵に回す程馬鹿じゃないぜ兄貴!」
「・・・なら良いが」
「すいません、行けば分かりますから・・・」
何とも言えない雰囲気になり食事は終わった。




