戦闘②
陸は事前に話していた通り灯をおいて危険な女の子の方へと助けに入った。
女の子を抱き上げて樹上へと立つ、あまりの速度に紅人狼は対象を完全に見失ってキョロキョロ周りを見渡していた
「あ、あれ?」
女の子も何が起こったのか理解出来ず、何故陸に抱き上げられているのかも分からない。
「これ、飲んで、此処で待ってて、すぐ終わる」
「あ、はい・・・」
陸は呆気に取られている女の子にヒールポーションを渡し、太い枝にそっと下ろしてすぐさま紅人狼と戦闘に入った。
と言っても陸の力と灯の強化魔法により戦闘と呼べるものでは無かった、人狼は気付けば首を落とされている、そして他の人狼がそれを茫然と見て己の状況を理解する前に、人狼三体の首が落ちていた。
「次は、灯の方か」
見ると灯は結界を展開して人狼の攻撃を完全に遮断していた、だからと言って人狼をそのままにはしておけない、全速を持って排除する!
「縮地」
消えた陸がひと息の間に首を落としていく、1、2、3、4・・・
残りは二体。
「ワオオオオオッ!」
一体が反応、もう一体も結界を無視してこちらを見た
「棘拘束」
陸に気を取られた人狼を見逃さずに全身を拘束する灯、以前見た棘拘束より棘が長く鋭い様な・・・、と陸が考えた瞬間
「刺ッ!」
バシュッ!!
人狼を拘束していた蔦の棘が爆発的に伸びて、全身を串刺しにした、しかも棘の向きからして体内からも棘が分枝して刺し貫いているような・・・
勿論生きている理由は無く、人狼は絶命していた。
「ふう・・・」
「灯、何か容赦ない魔法だね・・・」
「あ、陸お疲れ様ー、神龍の瞳のせいで蔦がニョロニョロ伸びる筈が棘がニョロニョロ伸びちゃうんだよね」
ニョロニョロという勢いを遥かに越えている気もする
「ほぼ攻撃魔法じゃない?これ」
「うん、他のもちょっと出力上がっちゃってさ、コントロールに気を遣うよ・・・」
実際はちょっと所の騒ぎでは無いのだが、灯も陸もゲームの感覚がまだ抜け切らず、自分達がどれだけ非常識か理解していない。
「へえ、じゃあサポートに加えて攻撃も事実上出来る訳だ」
「かな?」
「俺らのパーティーは攻撃魔法の使い手は瞬しか居ないから、バランス取れて良いかもね」
「ね!とっておきもあるんだよ、今度見せてあげる」
本当に取っておきなのだろう、灯は自信満々に言った。
「ところで、さ、それどうしたの?」
「あ、これ?」
二人の言う「それ」と「これ」とは、近くの木に蔦でぐるぐる巻きに縛り付けられている金髪の獅子獣人
「ぐ、はがく、はぐぜ、ぐれものっ!」
傍らに護衛のような格好をした獣人も居るが助ける様子は無い。
「なんかイキナリ結婚しろって言ってきて、コッチの話も全く聞かないし、何度も手を握って来て邪魔だから縛った」
そう言う灯の目は冷ややかだ、鈴が偶にああいう目をしているが灯には珍しい事だ
「何かあったの?」
「何も、ただ結婚してくれって言われただけ」
「結婚?なんで??初めて会ったんだよね」
「知らない・・・、ただ初対面で結婚って言われても気持ち悪いだけだよね」
「まあ、頭を疑うね・・・」
「申し訳ございません戦乙女、貴女に対する無礼は私が代わって謝罪致します、どうかお許し下さい、こいつはバカなんです・・・」
またも戦乙女呼ばわりされて慌てる灯、居心地が悪い
「あの、獣人、さん?あの落ち着いて下さい、私、普通の人間です」
何を持って普通と言うのか、少なくとも灯は普通ではないが普段ツッコミを入れるグレゴリも鈴も未だ追い付いていない。
瞬達が追い付くまでに簡単にお互いの状況を説明をする、常識人らしき護衛アルさんと樹上のエルさん、木に縛り付けた相手はエルさんの兄らしいが、また勝手な事を言い出しそうなのでそのまま放置した。
「ごめんなさい灯さん、兄が失礼を致しました代わりに謝罪します」
丁寧に頭を下げるエル、兄と違って一般的な感覚を持っていたようだ、護衛のアルさんも同じく頭を下げている。
「すいません、兄はバカなんです、会った人に突然求婚するなんて非常識ですよね、バカなんです」
二度言った、多分本当にバカなんだろうなと納得する灯。
「取り敢えず私は大丈夫ですから、えと拘束解いても大丈夫ですかね?」
「何かしようものなら私が責任を持ってシメますので」
力強く頷くアルさんとエルさん、まあ二人が大丈夫なら大丈夫、かな?と魔法を解く、と同時に
「お前!俺が誰か知っているのか!無礼だぞ!」
叫び出すバカもといエクス、
「バカ・・・」
「バカですね」
アルさん達も呆れている
「誰かも知らないし無礼なのはあなただし助けられてお礼言わないのは礼節が無いとは言わないのかなそもそもアルさんとエルさんを危険に晒したのは自分の癖に二人に謝罪が無いのもどうなの人としてしかもあんな窮地に巻き込んだ本人が初対面の人間に求婚とか人格を疑うよね」
「そうだね」
ボソリと灯は言った、隣に居た陸に辛うじて聞こえる程の声量だったのだが獣人の耳には届いたようで、エクスは顔を真っ赤にして言葉を失っていた。
普段の灯からするとかなりの辛口だが、あんな危機に陥りながら初対面の人に求婚するのも信じられない、そもそも危機に陥ったのも当の本人のせいなのだから呆れてしまう、好感度はマイナスに近い。
アルとエルの耳にも聞こえたようでクスクス笑っている
「ダサ」
「偶には反省して頂きたいものです」
「くっ、おまえらはどっちの味方なんだ!」
「少なくともお兄ちゃんの味方ではないわ」
「そうですね、少なくともエクス様は悪いです」
「何故だ、俺と結婚出来るのだぞ、幸せだろう?」
「「「「は?」」」」
四人全員目が点になる「何言ってんだコイツ」と
「好きでも無い奴の所へ嫁いで幸せに思う訳ないじゃん」
「はあー、情けない」
「灯、こういう人にも近付いちゃダメだよ、あの騎士団長と同じだからね」
「あ、これが鈴姉の言う「変態ロリコン」って奴!?」
「ぶはっ、エクス様、変態っ」
「お兄ちゃんロリコンは止めて欲しいな・・・」
「何言ってんだ、俺は17だぞ!そんなに年齢差無いだろ?」
皆の視線が灯に集まる
「14だけど・・・」
「灯さん私と同じ歳!?」
「エルさん同じなの!?」
「・・・」
「・・・」
「灯」
「エルちゃん」
「よろしくね!」
「よろしく!」
キャーッ!と抱き合う二人、何か通じるものがあったのかあっと言う間に仲良くなった。
「私こんな可愛い妹欲しかったのよ」
「エルちゃん、あのお願いが・・・」
灯は小柄かつ童顔で小学生とまではいかないが中学生成り立てくらいの印象、エルは獣人の性質なのか体付き顔付きからして10代後半位には見える、そんな二人が仲良く話している様は、とても仲のいい姉妹の様でアルは温かく微笑む。
「妹のエル様と同じ年齢の子では十分ロリコンでは・・・」
「17の兄が14の妹の友達を嫁にした、って言うと犯罪的な感じしますね?」
「そもそも灯様はエル様より幼く見えますから余計に・・・、やっぱり問題ですね、御父上には報告させていただきます、今回の事全て」
「げ、いやいや待て待てアル!俺にも考えがあって求婚したんだが!?」
「ほう、一応聞いておきましょうか?」
「可愛くて一目惚れしたし!ほら灯は、あの戦乙女だぞ、アレだけの魔力と活躍は絶対に使えるし俺の血と混ざれば家の面目も・・・」
慌てて求婚の理由をもって説得しようとするエクスだが、それを聞くアルとエルの目はどんどん厳しく冷たくなっていく事に気付いていない
「最低・・・」
そう言いながら灯の頭をぎゅっと抱きしめて、エクスの言葉を聞かせないようにするエル
「エルちゃん?」
「何でもないのよ灯、ほら尻尾良いわよ」
「わ、ありがとう!」
灯はエルにモフるのをお願いしたのか、エルは灯を抱き締めたまま快く尻尾を目の前に差し出した。
「わー、ふわふわ、お日様の匂い・・・」
「灯も艶やかな髪いい匂い」
美少女二人がお互いをモフる平和な光景の中、エクスは絶体絶命の危機に陥っていた。
「誰が誰に求婚して、血を混ぜるって?」
「そりゃあ、そこの灯に決まっ、て・・・」
エクスの背後には巨人、否、グレゴリが立っていたのだ。




