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戦闘。

行きが問題無かったから帰りもそうだと決め付けた、思えばこれは完全な油断であった、魔法都市から王都へ瘴気現象をこの目で確認する為に関所を通らずに森を抜けた、強力なモンスターが居るとの話であった、護衛騎士のアルは言った。

「素直に関所を通りましょうエクス様、貴方の立場は確かに面倒なものではありますが、これは避けられるリスクですよ」

そう忠告されたが聞かずに森を抜けた、何も無かった。

途中、妹のエルがこそこそと着いてきているのに気付く

「アル・・・」

「分かってます・・・」

バレずについて行けてると思っているのか、何か期待しているのか、丸見えだ、尻尾が・・・

木の陰からフワフワと尻尾が上機嫌に動いているのが見える。

「エル様!ついて来て居る事は分かっています、出て来なさい!」

護衛のアルが尻尾に向かって声を張った、エルの尻尾がピーン!となって驚いている、バレないとでも思うのかアレで・・・

「バレちゃった・・・」

と、見つかった事さえ嬉しいのか、笑顔で木陰から出て来たエル。

いつもなら帰れと言う所だが、此処はモンスターの蔓延る森、戦う力の無いエルを放り出す事は出来ないので一緒に王都に行った。



王都の瘴気との闘いは激しいものだった、まさか火竜が出現するとは・・・

遠くから観測していたが、他国とは言え民の財産が燃えていく様はとても心苦しい思いだった、騎士団は何をしているのか、劣勢の戦場で歯噛みしながらも観測に徹していたその時

「エクス様・・」

「何あれ?」

アルとエルが呆然とある一区画を指差す、その辺りには火竜が居た筈だが?

「・・・、ん?火竜は、死んでる・・・?」

何が起こったと言うのか、炎を撒き散らし王都を飲み込まんとしていた火災の元凶火竜が地面に伏していた。


「見て無かったの?お兄ちゃん」

「あ、ああ、どうしたんだ」

エル曰く、少女が空から降って来て火竜を倒したとの事だ、エルだけ言うなら信じられなかったが護衛のアルも見たと言う、その少女を探す

「あそこ、噴水の上に居る子」

「あの娘が火竜を倒したと?」

嘘だろう?半信半疑で観察を続けていると、そこからは有り得ない光景の連続だった。


王都中の火災を一瞬で消し去り、怪我人の治療、そして、大人数に施される強化魔法、あっと言う間に戦況をひっくり返して去ってしまった。


その後王都内であの少女は、黒髪の戦乙女と呼ばれ噂は持ち切りだった。

事前に得た情報で勇者と聖女やらを楽しみにしていたのだが、国民の危機に戦わない者の事など気に掛ける者は殆ど居なかった、奇跡を齎した、神の御使いとさえ称された娘が未だ王都に居ると言う話はあったので、一度話してみたいと思っていたが行方は全く掴めなかった。

それはそうだ、アレだけの力を有する者だ、その気になれば誰の目に止まる事も無くするのも容易いだろうと思われる、残念ながら魔法都市へと帰る日程も迫っていたので王都を後にした・・・


帰り道は

「エクス様、エル様も居るので関所を通りましょう」

と、アルが提案して来たが、そもそも不法入国に近い方法で王国に入った訳で色々と面倒だ

「アル、お前が居るから大丈夫だろ?」

「いいえ、そこそこ、本当にそこそこですが、戦えるエクス様と私だけの場合と、戦えないエル様を含めて行く場合とは訳が違います、お手数にはなりますがどうか街道を」

「いや、不法入国したから面倒だし森を行く、行きも何も無かっただろ、大丈夫だ」



大丈夫では無かった、エルは傷付き、アルも俺を守るのに手一杯、俺は歯が立たない

紅人狼が九体では騎士団が必要なレベルだ

「アル!俺の事は良いからエルを守りに行け!」

「聞けません、エクス様とエル様では命の価値が違います」

「っ」

アルは正しい、後継者の血筋でも男と女では意味が変わる、つまりエルを見捨てると言う事になる、自分の愚かさの責任を妹の命で支払う事なると言うのか、数刻前の己を恥じる

「誰かっ」

誰でもいいエルとアルを助けてくれ!

無慈悲にもエルに紅人狼が三体襲い掛かる、こちらは六体、助ける余裕などかけらも無い、諦めたその時視界からエルが消えた。

「な、に?」

何が起きたのか分からない

「エクス様!」

今度は何か、前を向くと少女が紅人狼の前に立ち塞がっていた、人狼の前では格好の獲物だ、何故こんな所に少女が?

状況が目まぐるしく変化して思考が追い付かない、そこへ襲い掛かってくる紅人狼

「逃げっ」

神の盾(アイギス)

少女が短く言うと目の前に薄く光る膜が展開され、紅人狼の猛攻を完全に防ぎ切る、鉄さえものともしない爪に全く揺るぎないその結界は、噴水広場で見た・・・

「黒髪の戦乙女・・・」

「えっ!?違います!そんな大層なものじゃないです!」

灯は振り返ってポツリと呟いたエクスの言葉を否定する、王都で奇跡を起こした時に見ていたので遠目から容姿は知っていたが、あれだけの力を持っているようには思えない程

「可憐だ・・・」

「へ?」

「エクス様?」


艶やかな黒髪、幼げながらも将来性のある容姿、守ってあげたい程華奢な体躯なのに強大な魔力を持つ少女

「好きだ、乙女よ俺と結婚してくれ」

エクスは灯の手を取り、両手で包み込んでプロポーズをした。


「嫌ですけど?」

手を振り解き、無表情に断る。

好意はおろか嫌悪も無い無感情な言葉にエクスは呆けた

「は?」


結界の外はエクス達を食い殺そうと躍起になっている紅人狼

結界の内はプロポーズした男と断った女、そして護衛

その場は混沌としていた。




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