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国境、そして。

馬車の旅は騎士団一件以外は快適に進む事が出来た、当初から懸念していた灯と鈴の体力、疲労具合も、野宿が多いが馬車の移動の為それ程疲れは見えない。

特に灯はグレゴリと旅をしていた時よりリラックスしている様に見受けられた・・・


御者台にはグレゴリ、瞬、陸が並んで話をしている。

「流石に知らないおじさんと二人旅で、全部気を許すのは灯でも無理」

「だね、グレさんも灯の立場になって考えてみなよ、テント張ってさ、近くに知らない人が居て熟睡出来る?体格的にも年齢的にも無理があるでしょ、父親と一緒に寝るのとは訳が違う」

「む、それは、そうか・・・」

そうなると野宿の時の灯の疲労は、そのまま寝不足になっていたのか?

そう言えば、たま婆さんが野宿での灯の安眠度を指摘していたが、俺に対する配慮もあったのか、今更気付くとは・・・

宿に泊まるようになってからは疲労も溜めず元気でいたのは、しっかり寝れていた事が最大の理由か。


「と言っても、二人旅で結界張ってても距離を離して寝るのは違う意味で懸念もあるし、仕方ないんじゃない?」

「まあ、な」

「知らない人間同士の旅だから、灯もグレゴリさんも大変なのは変わらないだろ、どっちも気を使っていた筈だ」

それはその通りであった、灯は殆ど不満も何も言わなかったし、グレゴリも灯に強く言う事も無く、結果それがお互いのコミュニケーション不足を招いた点はあった。

「ふむ、確かに、遠慮せずに言うべきだったか」

「グレさんも素直だよね、普通グレさんくらいの大人なら、こんな小僧の話は半分も聞かないんじゃないの?」

「それは人による、としか・・・」


「陸!走って!」

三人で話し込んで居ると馬車から灯が出て来て、後ろから陸に抱き着く、頭には神にゃんが乗っている、そしてある方向を指差した、その様子はかなり焦っているようだ

「あっち!急いで!」「にゃっ!」

「灯!?」

「分かった・・・」

どうした事か確認する間も無く陸が御者台から消えた、見回すと灯が指差した方角に豆粒程の大きさの背中が見えた、どうやら灯の強化魔法と陸の歩法で尋常ではない速度になっているようだ。

「早っ」

「鈴、どう言う事だ?」

「分かんない、灯、ウトウトしていたんだけど神にゃんが鳴いて、そしたら飛び起きて・・・」

「行っちゃった、か」

「グレゴリさん!」

「急ぐぞ!」

馬車が速度を上げる、陸と灯の姿はもう地平に近い、見失わない様にしなければ!



その頃陸と灯は、

「灯、どう言う事?」

「ごめん、人がモンスターに襲われているみたいで」

「この先は国境近くの森林だけど・・・」

関所と小さな宿場町が有るだけだ、関所と言っても街道を塞ぐ様になっているだけで、やろうと思えば森を通って国境を抜ける事は可能だ、モンスターさえ問題にしなければ・・・

ここは割と強力なモンスターの居る森だ、関所や宿場町の人間は勿論、この土地を知る人間なら確実に森を突っ切る事は避ける、だからこそ街道に関所を設けているだけで森林内の行き来を制限するような事はしていない。


「二人・・・、ううん三人モンスターに襲われてる、数が多くて劣勢・・・」

「そか、助けるんだね」

「うん、ごめんね本当は相談するべきだよね・・・」

「襲われている人が危ないんだろ?なら、後で言えば良いさ」

「ありがと、陸」

「うん、急ぐよ、っと」

「わっ!?」

走りながらクルリと一回転して後ろから抱き着いていた灯をポンと自分の前に投げる、すぐさま両手でキャッチお姫様抱っこの体勢にする陸、神にゃんは灯の頭から素早く移動、胸に抱かれる。

「こっちの方が速い、飛ばすよ」

すかさず首に手を回して身体を安定させる灯

「ん、敏捷向上(スピード)

「縮地」

更に強化を重ねて先を急ぐ二人、後方へは見失わない様に定期的に10m程の高さに閃光(フラッシュ)を放って行った。

元々敏捷、物理火力に特化している上に強化を重ねられた陸の速さは人の域を軽く超える、灯が陸を最初に掴まえた理由は正にそれであり、それだけ襲われている人の緊急性が高いと思われた、陸はそれを理解したからこそ即座に反応して動き出した。

程なく森へと入る、通常森の行軍は速度が落ちる、モンスターとの突然の会敵、死角からの不意打ちを警戒、木や枝、毒虫等のケアもある為だが、常識外の速度はそれらを無視する、勿論灯の索敵も有っての事ではあるが

全空間歩法(パーフェクトラン)

陸のスキル全空間歩法が障害の多い森でさえも速度を落とすこと無く駆け抜ける事を可能とした。

上下左右前後360°、どの方向へも走り抜けるそのスキルは、レールが無いジェットコースターの如き異次元の走りを実現する。


灯はあまりの速度に目をつぶっていた、多少の障害は二人を覆う神の盾で弾くが、やはり目に入りそうで怖い。

「そのまま真っ直ぐ」

索敵は起動したままなので目をつぶっての誘導にも問題は無かった。

「おっけ」

「あと、400m位で少し開けた場所に出る、敵は8、・・・9!人は1と2に少し離れていて、敵が一人の方に3、残りは二人の方」

「分かった」

「広場に出たら私は適当に放り投げて良いから、危ない方に行って、違う方には私が行く」

「ああ」


ザザザザッ、樹上を抜け灯の言う開けた場所に飛び出す

眼下には紅人狼(レッドウルフマン)、人狼自体優れた種族であるが紅人狼は中でも膂力に優れ、その爪と噛みつきは鉄の鎧さえ容易く砕いてしまう危険なモンスターである。

「なんでこんな所に紅人狼が、しかも多数・・・」

灯も陸も驚きながら、空中で即座に状況を判断する

一人は女の子、左肩から腕に掛けて赤く染まっている、見た所戦闘能力が有るようには見えない

もう二人は男、こちらは二人とも剣を持って牽制している、顔や手足に細かい傷はあるが無事のようだ。

「陸」

「分かってる」

言うが先か行動が先か、空中だが灯を抱き上げていた陸が消える、女の子の方が危険と判断、陸が向かった。

灯は一瞬で浮遊(フロート)を使用、体勢を整え打ち上げ(ロケット)で男二人と人狼の間に割り込んだ。




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