交渉?
王都からかなり離れた、周囲も町や村はおろか人ひとりさえ居ない草原のど真ん中、騎士団が遂に仕掛けて来た。
「瞬兄」
馬車の中で寄り添っていた灯が手を握って来た
「どうした?」
「騎士が、来た・・・」
その瞬間、皆ため息を吐く
「あー・・・」
「来ちゃったか・・・」
「折角の旅が台無し」
口々に「あーあ・・・」といった様子で脱力した、かく言う俺も正直面倒臭い・・・
「まあ、事前に決めていた通りで良いな?」
「ん」
「異議なし」
「おっけーよ」
「善人だと言いが、な・・・」
「止めてよゴリさん、それ完全にフラグだよ?」
「すまない・・・」
皆、緊迫した様子は無い、こうなる前にあらゆる可能性を話し合っている。
このまま着けられるが接触は無い場合
町で接触された場合
そして、何も無い所で仕掛けられた場合
騎士団の動きは筒抜けだ、遠距離は灯の索敵で後方に位置している本隊さえも。
つまり追われては居るが先手は此方が取れる、逃げるも良し、隠れるも良し、迎撃するも良し。
だが、瞬達の選択は「待つ」事、索敵に赤く表示されている以上、敵には間違いないのだが、一度話して相手の意思は確認したいと思っていたのだ。
騎士団が100名以上居ると言っても騎士団長のレベルは20前後、ならば騎士達はそれ程でも無いだろうとの予測の元の作戦である。
待ち構えるにしても何もしていない訳ではなく、魔法や仕掛けは施してあった。
「さて、どう来るかな?」
「まさかイキナリ抜剣はして来ないよね?」
「まあ、騎士団の体面もあるだろうから、最初は交渉から入ると信じたいな」
「ゴリさん、何か引っ掛かる事言うね、何か思う所ある?」
「ん?ああ、そうだな、大人は汚い手を使う奴はトコトン汚いぞ、少なくとも奴隷を許容している国の騎士団だ、人権無視は普通にやって来そうでな・・・」
「うへえ・・・」
つまりグレゴリの言う事を要約すると、最悪奴隷にして捕らえてしまえば問題ない、そしてその手段を相手は躊躇無く使って来るだろう、との読みだ。
「どうなの?騎士団長って、瞬兄達は一度会った事有るんだよね?」
「うーん、会ったと言ってもなあ、大して接点は無いし聖女のお守りをしていた人、って事くらいか?」
「うん、そうね」
「そんな感じだけど、ただ俺らが去る時も追手差し向けたし、ねっとり見てたよね」
陸が気になる事を言う
「え、何それ!追手は知ってたけど、ねっとりって?」
「俺も気付かなかったな、どういう事だ陸」
「あくまで俺が受けた印象だけど、吟味?していると言うか、測っていたと言うか・・・」
「観察していた、か?」
「あ、そう、かな?うん・・・」
「これは瞬達の話と、これまでの騎士団の動きからの想像だがな、平気で何でもやりそうな人物に思える」
「えー、じゃあやり合うの決まり?」
「まあ、そうなる、かな?」
あー・・・、と全員嘆息する、政治利用も堪ったものでは無いが、奴隷化もそうだ、ただでさえ居場所を探している迷い人の様なものなのに国の、はては騎士団に狙われるのは良い気分では無い。
「もう、灯エグい魔法仕掛けておいたら?やり合わないならそれでよし、やり合うなら徹底的に潰して居た方が良いんじゃないの?」
割と鈴は過激な事を言う、瞬も陸もだが子供故になのか手加減が大雑把過ぎて恐ろしい、労働災害と言うものがあってだな?細かいミスの積み重ねで大事故が起きるんだぞ?
慌てて止めるグレゴリ。
「待て待て、お前らもう少し慎重に行け、仮に騎士一人でも殺したらアチラは大義名分を得て、「こいつらは騎士殺しの犯罪者だ」と来るぞ、仕掛けるなら騎士団が口外出来ない方法でやるか、皆殺しだ、皆人殺しは嫌だろう?」
「人殺しは嫌だけど、口外出来ない方法って?」
「沼に沈めて、みんな首だけ出して固める?沼作って重力掛けたら多分逃げられないよ」
灯、お前もか?
灯が容赦無く言い放つ、火竜を圧殺までした重力だ、まずまともには動けない、そして埋まったその姿は確かに恥ずかしくて口外出来ないが・・・
「埋まった騎士を誰が助けるんだ?」
「あ」
周囲は草原、人は居ない、埋めて放置、モンスターに襲われたら首の無い大量の死体の出来上がりだ。
「数人残して埋める?」
「いや、その前に埋める事を止めような?」
「むー」
「いや、そうだな埋めようか!」
「瞬兄?」
何やら名案があるようで瞬が埋める事を推奨する、リーダーの瞬が言い出すと大体止まらなくなるこの幼馴染達、南無・・・、騎士達よ覚悟を決めるが良い・・・
そうして一時間程、その場で待ち構えた一行、騎士団は子供達四人と体格の大きい大人一人だけが相手と、完全に獲物を前に舌舐めずりした様子が見て取れた。
先頭の騎馬には団長らしき者が
「瞬、あいつか?騎士団長は」
「うん、あいつ、どう?グレゴリさんから見た印象は・・・」
「最悪、だな・・・」
内面の汚さがそのまま目に現れている、経験を積んで来たのだろう子供には隠せるだろうが同じ大人から見れば一目瞭然、恐らく人を使う事に慣れ過ぎて人を人とも思っていない、特権階級、しかも最悪な部類の・・・
「そんなに?俺達はそんな気はして無かったけど、」
そんな事を話している内に、団長が近付いてきて言った
「お前ら国に仕えろ、食事だけは保証してやろう、特にそこの女だ、来い、杖を出せ」
灯を指差して、馬から下りずに言い放つその姿は言う事を聞いて当然といった立ち居振る舞いだ。
馬上から交渉では無く命令する大人が怖いのか、隣に居た瞬の後ろに隠れる
「灯?」
「・・・、あの人の目、気持ち悪い・・・、アヤちゃんみたい・・・」
灯は虐められた事から悪意ある視線などに過敏になっているのだろう、瞬の袖を握っていた。
それにしても気持ち悪いとは・・・
「おい、女来い、杖と共に俺が使ってやる、なんなら夜も相手してやろう」
周囲の騎士もヘラヘラ笑っている
「あー、そういう、ね・・・」
灯は一目で見抜いたのだろう、欲に塗れた目で見られている事に。
グレゴリ、瞬、陸、鈴、全員の目が据わる、もう容赦は必要無い事が分かったが、
「聞きたいことがある、何故この娘を狙う、ただの少女だぞ」
何故狙うのか、目的は、そう問えば何をそんな事、といった様子で嘲笑いながら答えてくれた
「何を?何を、と言ったか、あの戦いで発揮したその女の膨大な魔力、今王都で何と言われているか知ってるか?神が遣わした奇跡の戦乙女と言われているんだ、国の、王の為に使うのは当たり前だろう?
そして、あの杖だ!龍の瞳だろ、女も杖も俺が有効活用してやると言っている、それだけだ」
ああ、今なら解る、これは化け物だ、瘴気を集めて出来るモンスターよりも更におぞましい存在、決まりだな、情けなど不要!
「灯、やるぞ」
小さく言うと、瞬の陰に隠れていた灯が頷く、肩にはいつの間にか神にゃんが乗って魔力を纏っていた。
「しゃー」
威嚇する神にゃん、同時に騎士達の足元が沈む、騎馬ごと沈む。
何人かの騎士は馬を捨てるが無駄だ、一歩二歩で抜けられる沼の広さではない
「おら!」
「じゃあね」
瞬と陸が未だに馬に跨っている騎士を沼へと蹴り落としていく
「がっ」
「げ」
どぷんと騎士達を捉える沼、俺が術者なら全員沈めて二度と浮かばない様にするのだが、灯はそんな事をしないだろう・・・




