道程。
魔法都市へは西へ西へ、灯とグレゴリは東の果てから旅して来たので大陸横断の旅になる、灯が狙われていると言っても未だ追手の影も形も無いのでゆっくり旅を満喫していた。
灯達が転移魔法陣でハジッコ町から王都へと向かった時は、かなりの急ぎ足で灯には相当な負担になったのだが、今回は特に急ぐことも無く負担になる事は無かった。
灯自身への負担は特に索敵に神経を削られてしまった事が大半であった、これは特に森や山と言った死角の多い土地を最短距離で抜けて来た事が起因していた。
今は近・中距離の索敵に適した陸も居て、尚且つ道程は草原を行く事で見渡す限りの視界を確保していた為、灯に負担は無かった。
「陸、どうだ?」
「んー、特に何も・・・」
馬車の幌の上に乗って陸が周囲を見渡すが、異常は無かった。
「あ、鈴姉、それ取って」
「はい」
「んー、もう少しかな、どう?」
「これくらいで良いんじゃない?」
「分かった、じゃあこれで」
「にゃー」
火の近くでは鈴と灯が食事の準備を進めていた、足下を神にゃんがうろうろして食べ物をねだっている
「うん、幸せな光景だ・・・」
グレゴリが眩しい物を見るかのように目を細めている
「グレさん、ああいうの好きなの?」
「グレゴリさん意外と所帯染みてるよね」
音も無く降ってくる陸と瞬が話し掛ける
「ん?ああ、この歳に・・・、いや、何でもない」
この歳になると幸せな家庭というものに何かと思う所はある、と言い掛け既の所で堪える、まだ歳ではない!
変な意地を張るグレゴリ。
「何さ、歳気にしてんの?」
「34だと灯の・・・」
「俺は父ではない・・・、今時晩婚化が当然の御時世、灯の両親が早すぎるだけだ」
「いや、うちらの両親も二十歳辺りで俺らを産んでるから」
「・・・」
「そんな顔しないでよグレさん、人それぞれだって!結婚しない人も多いし」
「うちらの住んでた所は子供とか若い夫婦に補助金が手厚いから、早い内に結婚出産が多かったんだよ」
何気に失礼な事を言い放つ陸、瞬も微妙にフォローになっていないフォローをする。
「ご飯出来たよー、食べよ!」
笑顔で手を振る灯、テーブルに並ぶものは野宿で食べるとは思えない料理が並んでいた。
「お前達、」
「ん?」
「何?」
テーブルに向かう前にグレゴリが呼び止める、突然真面目な顔で瞬と陸に言う
「大事にしろよ、いつまでも手の届く所に欲しいものがあると思うな?」
突然態度の変わったグレゴリに驚く二人だが
「分かってるよ」
「ありがとう、身に染みて体験してるからね・・・」
素直に言葉を受け取る瞬と陸、二人共この世界へ囚われる際に家族を失っているし、瞬に至っては一度その目で陸、鈴、灯が失われた事実を確認し、しかも己の選択で親と妹より陸達を選んだ、更に思う所はあったのだろう。
「ほら、冷めるよ!」
テーブルの近くで笑顔の二人、鈴と灯も同様であるが家族を失った事を気にする素振りも無い。
いや、思う所はある、きっと表に出していないだけだ
(強い子供達だ、俺がしっかりしなければ・・・)
その視線は完全に保護者、父性の現れだった。
皆、長椅子に座り食事を始める
「いただきます!」
「いただきます」
「ん、うま」
「ん、おいし」
「今日は灯が担当よ」
「えへへ、好みとか味の濃い薄い思った事を言ってね、出来るだけ配慮するから」
「いやいや、大したものだ」
「うん、コレに文句言ったらバチが当たるよ、ね、瞬」
「ああ、本当に美味しい、味付けも丁度いいし、そう言えば昔も偶に灯の手料理食べたけど、上手くなったよなぁ・・・」
料理の感想を言う周りの様子を伺っていた灯、瞬の感想を聞いては目を輝かせて喜び食事を再開していた、なんでこんな分かりやすい態度で瞬にはわからないのか・・・
「にゃー、はぐ、はぐ」
神にゃんも満足そうに食していた。
「灯、食事の後で良いから索敵お願い、俺だと遠くのは分からないから」
「ん、おっけ」
基本的に索敵は交代して行っていた、索敵はMPや体力の消耗は微々たるものだが精神的にかなりの疲労を覚える、通常の人間には無い感覚を拡張して捉えている為である。
「にゃー」
因みに神にゃんもサポートをしているらしく、灯曰く
「神にゃんも丸々肩代わりしてくれて、何かあると教えてくれるんだよ」
との事で、どうやら索敵魔法を使えるらしいが疑問がある
「神にゃんは杖・神龍の瞳を猫の姿にしているだけだよな?使い魔でも何でもないのに、どういう原理なんだ?」
と聞けば
「んー、分かんない、なんか勝手にやってくれる」
持ち主の灯でさえ分からない原理で動いているらしい、そもそも杖なのに食事を摂っている時点で謎の存在だ・・・
後片付けは、その時料理担当の人間以外で担当すると決めていたので皆率先して洗い物を片付ける
「瞬そこで水宜しく」
「ほい」
瞬が水を出して、陸が洗う、鈴が拭きあげて魔法鞄に収納、グレゴリは火の始末と家具類の片付け。
「神にゃんおいで」
「にゃー」
灯は一つ小さな椅子を取り出すとそこに座り、神にゃんが身軽に灯の頭へとよじ登った
「お願いね」
「にゃん」
灯のお願いに応えて神にゃんが薄く光り出す、本当に索敵魔法を使っているようだ、本当にどういった存在なんだ・・・
しっぽを右へ左へふわふわ振って、明確な意思と知性がその瞳から感じられる
灯は集中しているのか目をつぶっているが
「にゃ」
神にゃんがひと声、それを合図に神にゃんが纏っていた薄い光に灯も包まれる。
「ん」
以前、灯に索敵魔法について聞いた事がある。
元来、索敵魔法は戦闘中に使うものでは無く、これはこれ専門で使うのが最適らしい、集中力、魔法に対してどれだけ没頭するかで精度が段違いになる。
ゲームだと視界情報として簡易マップがあったから気にしていなかったが、現実として使うと中々難しいとの事。
「・・・ふう」
纏っていた光が消える、索敵が終わったようだ
「何か居たか?」
「うん、いつもの・・・」
「また、か?決まりだな」
「うん、どうしようね」
いつものとは、灯の索敵に引っ掛かる存在が遠くに常に張り付いて居るらしい、同じ距離を保って追跡されている。
グレゴリ達には分からないが、灯の魔法上で赤く映っているそれは明確な敵である、灯が遠見の魔法で確認して、姿は旅人と商人に偽装しているが皆筋骨隆々で「お前のような商人が居るか!」といった様子らしい。
しかも、その商隊を装った数人の更に後方に100人ほどの集団も控えている。
「どうしようね、王都から離れたからそろそろ来ると思わない?」
「来るだろうな、あまり手荒な事はしたくないが」
「何?やっぱり着けてきてるの?」
「うん」
「倒した方が早くない?」
「待て待て陸、俺らは何もしていない、ここで手出したらあっちに大義名分を与えるぞ」
「うーん」
「説得するつもりなら、すぐに追い掛けてきて話するだろう」
「王都から距離が離れるまで黙って着けてきた、つまり説得、交渉は無いと言うのですかグレゴリさんは」
「状況からしてな、決め手は灯の索敵でもある」
「私?」
「ああ、灯の索敵上では赤いままなのだろう?黄色表示ならまだ交渉の余地があった、あっちも警戒しているで済む話だからな、だが」
「王都の時から、今の今まで騎士団は赤く映る、つまり」
「明確な敵、ね」




