決意。
「灯は?」
陸が帰って来たのは夜も更けてからだった
「寝てるよ、鈴が付いてる」
「そう・・・、で、やる?いつでもやれるよ?」
陸が無表情で言う
「止めろ」
灯が泣きながら帰って来てもずっと黙っていたグレゴリが口を挟む
「どうして?まさかやられっ放しでいろとでも?」
「俺は他人だから言える事だがな、瞬、陸、お前ら仮にやったとして今後灯が死ぬまでの数十年、それを隠し通せるのか?灯の前で心から笑えるのか?それが出来ないならやるべきじゃない、灯に知られたら灯が潰れるぞ」
「っく、だからと言って!」
解っている、突然「聖女」が死んだら大々的に報じられる、そして状況からしても灯は察する。
俺達の誰かが手を掛けたと、優しい灯は気に病む、今後絶対笑わなくなるだろう、そんな灯を前に俺達も笑えなくなる、そういう事だとグレゴリは指摘する。
仮に灯が気付かなかったとしよう、数十年も隠し通せるか、無理だ、いつか必ず灯は気付くだろう。
ならば灯の前から姿を消すか?ダメだ灯は絶対に探す、強力な魔力を持つ灯から逃げ切るなど不可能に近い、そして聞かれるだろう
「どうして居なくなったの?」
「・・・」
「分かっているのも解っている、その上で言う、無視しろ、恨みなんぞ何の足しにもならん」
「くそっ、我慢しろって!?」
「あんな灯を見て、耐えろって言うのかグレゴリさんは」
「ああ、そうだ、それに灯の事は灯が決める、お前らも仲がいいと言っても所詮他人だ、灯に任せろ」
「俺達は何もするな、って?」
「いや、そう言うつもりは毛頭ない、灯が協力を求めて来たら手伝うさ、俺もな、だが人の生き死に手を貸すつもりは無いぞ」
「何が言いたいのグレさんは」
「灯に任せろ、灯自身の事だ、それともお前らはずっと灯の傍に居てやれるのか?これからもずっと、隣に、傍に居て助けるのか?出来ないなら灯の成長を妨げるな、お前らがやっているのは危ないからと言って子供の手から刃物を取り上げているだけだ、この先も灯の世話をし続けるつもりか?」
「うっ」
「・・・」
「頭を冷やせ、人を殺して幸せになど誰もなれない」
言うべき事は言ったのか、グレゴリも自分の部屋へと戻って行く
「なあ陸」
「何・・・、納得した訳じゃないけど、取り敢えずやらないよ」
「違ぇよ、まあそれは棚上げだ」
ムスリと怒った口調で陸が答える
「当事者って、誰だ」
「何?灯とあの女でしょ・・・」
「だよな、で、俺らは外野だ」
「瞬も、他人事の様に言うのか?灯が・・・」
「落ち着け、そういう意味で言ったつもりはねえよ、俺が言いたいのは、又聞きで聞いた俺達でさえこんなにイラついてるのに当事者の灯が何も思わないのかな、って・・・」
「そりゃあ、灯だって多少憎くは・・・、・・・いや」
「気付いたか?」
「そうだ、そうだよ、俺達でさえ許せないんだ、灯だって・・・」
「まあ普通はやり返したい、もしくは「超常的な力」を手に入れたら痛い目に合わせてやりたいと思うよな、さっきの俺達のように・・・」
「・・・うん」
「陸、灯があの女を殺したいって言ったら手伝うか?」
「は?灯がそんな事言う訳ないし、絶対に止めるよ、人殺しなんてさせられない」
「それだよ、多分グレゴリさんはそれを伝えたかった」
「え?」
「俺らがあの女を殺しに行くとして灯はきっと止める、同じだよ、お互い人なんて殺して欲しく無いんだ・・・」
「・・・でも」
「分かってる、このままで済ませる気はサラサラないが、やるのは無しだ、灯の考えを聞いてそれからだ」
「分かったよ・・・、やらない、良く考えたら、何の得にもならないし・・・」
「だな、多分やってもスッキリしねえ」
「うん」
「グレゴリさんに感謝だな・・・」
「ん、勢いでやってたかも知れなかったしね・・・」
「まあ、やらないにしてもボコボコに殴りには行ってたかもな」
「ははっ、確かに!」
以前、勇者と聖女の事で地位と力を手に入れて勘違いしたんじゃないか?と評していたが、知らず知らずの内に自分達も力に飲まれようとしていた事に気付く。
「人の振り見て我が振り直せ、か・・・」
「意外と気付かないものだね」
「だな、気を付けよう」
「うん」
その頃灯は・・・
泣きながら帰って来て、そのまま寝てしまった
赤く腫れ上がった目蓋に濡らしたタオルをあてがう鈴
もう外は暗くなっている。
「ん・・・」
「灯?」
「・・・」
ぼーっとして周りを見渡し、ゆっくりと起き上がる灯
「灯、大丈夫?」
「大丈夫・・・、えへへ、突然でびっくりしちゃった・・・、あっちに居た頃はずっと考えていたのに、こっちに来てからは殆ど忘れていたんだよ・・・」
灯の様子は平静を保っているように見えるが、当然平常通りとは言えない
「ごめん、言ってた方が良かったね・・・」
「知ってたんだね、だから」
聖女と勇者から露骨に遠ざけられていた
「ごめん・・・」
「ううん、良いんだ、私が同じ立場でもそうしたと思う・・・」
弱々しく笑う灯、鈴は灯が寝ている間に考え決めていた
決意を込めて口にする。
「灯、あいつ、どうしたい?」
真剣な顔、そこには怒りが滲み出ている
それが分からない灯ではない、だから・・・
「鈴姉、聞いて欲しいんだ、出来れば手伝って欲しいの、ずっと・・・、ずっと考えて来たんだけど・・・」




