最悪の。
冒険者が騎士団に残りのモンスターを擦り付けて離脱した後、どうやら勇者と聖女も出て来たらしい。
勇者はトロルキングを単騎でなんとか倒し力を披露、聖女は回復魔法をお披露目に来たようだが、直前に灯と鈴の回復方陣で怪我人はほぼ快癒、その後の戦闘でも軽傷者のみ、しかも冒険者は完全に離脱後で活躍の場は少なかったようだと報告があがった。
「やっぱりお披露目の舞台に使ったんだな」
「ああ」
予想通り、戦争を見据えた騎士団の温存と異世界召喚者の力を示す場として、冒険者が利用された事は明らかになった。
「灯は?」
「まだ寝てる」
「そうか、まああれだけの魔法を立て続けに使えば仕方ないか」
「凄かったわね、神龍の瞳と灯・・・」
「ああ、そして余計なものが目を付けたな」
「ちょっと!」
「事実だ、だがアレが無かったら王都も無くなってた可能性もあった」
あの戦闘から丸一日経っていた、家は全焼してしまったのでジョーさんの言葉に甘えさせて貰い、ギルド職員寮を間借りしていた。
「ホント強欲、手を抜いていた癖に、それを打開するものが現れたら欲しがるなんて」
「絶対に渡さない・・・」
「当然」
「行くなら魔法都市か?」
「一応その予定ではあったけど・・・」
「灯が寝てるからな」
「起きたら、」
ガチャリ、奥の寝室から当の灯が起きて来た
「おはよお・・・」
乱れた部屋着、下着もチラチラと、普段見えない肌も、色々と際どい格好に鈴の表情が一変
「ちょっと!男共出てって!」
「ちょっ、」
「・・・」
「忍!」
鈴に怒鳴られて瞬が追い出される、グレゴリは旅で繰り返されたのかスっと立ち上がり無言で、陸は瞬時に消えた。
「もう!灯しっかり起きて、ほら!」
「んー?鈴姉おはよー」
「はいはい、おはよう!良いから顔洗って着替えて!」
「お腹空いた・・・」
「分かったから、着替えて、ね!」
「うん・・・」
鈴に言われてのそのそと寝室に戻る灯がピタリと止まる
「・・・?」
「灯?」
「今、瞬兄、居た?」
「・・・、居たわ」
「っきゃあああーっ!!」
バンッ!寝室に入り、勢い良く扉が閉められた・・・
「どうしたっ!今灯の叫びが!」
バンッ!今度は部屋に勢い良く入って来る瞬
「・・・、良いからっ、入って来んな!乙女には準備ってもんがあるのよっ!」
ビタンッ!会心のビンタを戴く瞬、首がゴキリとなった気がした。
「おはよう灯」
頬に紅葉を咲かせて瞬が言う
「・・・おはよう」
鈴の陰から小さな声で挨拶する灯
「ほら灯、取り敢えずご飯食べるんでしょ!」
「うん・・・、瞬兄・・・」
モジモジと鈴の陰から出て来て瞬に話し掛ける灯に、瞬は嬉しそうに答える
「お、おう、どうしたっ!灯」
「・・・見た?」
「・・・」
何故俺だ?陸も居たし、グレゴリさんも居た、何故俺に聞く・・・
「見たの・・・?」
赤面して上目遣いに見てくる灯は可愛い、って違う!
えっと、えーっと・・・
「・・・何のことだ?俺は何も見ていない、ぞ」
嘘だ、思い切り見た、白い肌、薄ピンクの下着・・・
「・・・ホント?」
首を傾げながら見上げてくる灯も本当に可愛い・・・、いやいや・・・
「ほ、本当だ、鈴が直ぐに追い出したからな、な!陸!」
陸へと振る、陸は一瞬ギョッとするも即表情を立て直して言う
「うん、見てないよ俺は」
何だその奥歯に物が引っかかった言い方はっ
「グレゴリさんも、」
「ゴリさんは別に良いの!お父さん(と同じ年齢)だもん!」
「おとっ、!?」
グレゴリさんに振ろうとしたら、何か違う所で被害が大きくなっている気がする。
ガクリと片膝を着くグレゴリ、肩にポンと手を置いて陸がフォローする
「お父さん」
「ぐうぅ!?」
違う、トドメを刺していた。
「ミテナイヨ、ナニモ」
「・・・そう?」
「アア」
「なら良いんだ!行こ瞬兄!」
先程の態度からは変わり、笑顔で瞬の手を握って歩き出す灯
「嘘吐き・・・」
ボソリと鈴が呟いていたが俺にはなんの事だか分からない、分からないったら分からない。
先を歩く灯の耳は真っ赤だった・・・
食事を済ませ、話をまとめる
瞬の方の情報も灯とグレゴリに伝えた
「そっか・・・」
と、寂しそうに小さく答えただけだった、後からグレゴリさんからは「元々その可能性は示唆して話し合っていたんだ・・・」と言われて納得した、親が自分の事を認識していない消えた存在と聞いて、泣くかと思っていたから・・・
グレゴリさんも覚悟していたのか、小さくため息を吐いただけだった。
そして、これからの事
王都を出る、これは確定事項である
行く先は魔法都市が第一候補
今後王国とは関わらない方向で行く
「ねえ、そう言えば勇者と聖女の事、詳しく聞いてないけど」
「っ」
言葉を失う鈴、ピクリとなる陸、瞬は何とかポーカーフェイスで堪える、グレゴリは流石の大人か平常通りを装う。
事前にグレゴリには灯が寝ている間に勇者と聖女の話、予想される可能性を話してある。
「城で異世界からそれぞれ呼び出したそうだ」
「異世界?私達みたいな?」
「らしいぞ」
こういう時、平然として居られるグレゴリの存在は本当に有難かった。
「もしかして私達と同じ世界からだったり?」
灯の指摘に瞬、陸、鈴がギクリとするも平然とグレゴリは続ける
「かもな、まあ王様と同じ立場らしいから会う事も無いだろう」
「あ、そうなんだ、会えたら何か聞けたかもなのにね」
「まあ仕方あるまい、それより魔法都市で調べた方が可能性はあるんじゃないか?」
「そだね、魔法系なら任せてよ、でも望み薄なんだよね?」
「そうだな・・・、まあ腰を落ち着ける場所を探しながら旅をするつもりでも良いんじゃないか?」
「良いね、これまでドタバタしてたし、ゆっくりするのも」
「ああ・・・」
動じずに違う話題へと逸らすグレゴリ、皆ホッとひと息吐いていた。
だが、最悪の事は予期せず出会うものだ
王都のかなりの民家が焼失、復興には時間が掛かるもの
買い出しに行っていた時だった、瞬、陸、鈴、灯の四人で歩き王都の状況を確認していた。
グレゴリは目立つからとギルドから出ていない、灯が魔法で隠蔽するから大丈夫と言っても何か気だるげに断っていた
「多分、筋肉痛でしんどいんだよ」
と灯は笑っていたが、あの時グレゴリが居たらまた少し違っていたのだろうか?
ザワザワと周囲が騒がしい、何だろう?と近くの顔見知りに話を聞く、思えばこんな事をせずに真っ直ぐギルドへ帰っていれば良かったのだ
「おじさん何か騒がしいけど、どうしたの?」
「お、鈴ちゃん無事だったんだ良かったよ、顔見ないから心配していたんだ」
「ええ、まあちょっと、ね、それよりこれは?」
「何、聖女様が慰問しているそうだよ、家を失った人が多いからね、今そこに馬車が」
その瞬間、三人が凍り付く「しまった」と
「え、聖女?見てみたいな」
灯が無邪気に言って、人集りの方へと歩いて行く
「っ、灯!」
ダメだ、と言うつもりの言葉は続かなかった
「あれ?瞬先輩?」
会ってしまった、アヤと名乗る聖女、灯を虐めたかも知れない存在
瞬はぎこち無く手を振る、その顔は完全に引き攣っている
灯はと言えば、人集りに近付き過ぎたせいか馬車の上に居るアヤからは死角になっている様で見えていないようだった。
少し離れた所に居る瞬達だけしか視界には入ってないようである、が・・・
人集りの近くで灯が完全に固まっている、俯き、服を握り締めている
恐らく「声」は聴こえている筈だ、人集りより遠くに居る瞬達と会話をしているのだから
「聖女様、そろそろ・・・」
「えー、もう?瞬先輩達居たのに・・・、瞬先輩またねー!」
青い目の騎士団長がアヤの傍で促し、直ぐに馬車は行ってしまった。
「灯!」
灯に駆け寄る瞬、ビクリと顔を上げた灯の顔は真っ青になっていた
「瞬、にい・・・」
「っ!」
その瞳には涙と怯え、あの夏の日、光さんに言われて灯の現状を知り、皆で家へと行った時の陰気な様子と完全に重なった。
そんな顔を見ていられなくて力いっぱい抱き締める
「灯!」
灯も応えるように抱き締め返して来た、震えている・・・
確信した、あの聖女アヤが「アヤコ」
灯を虐めた張本人
灯へ贈るクラスの寄せ書きに平然と書き込み、今もまた何食わぬ顔で居る女、そんな女が聖女だと?巫山戯るな。
「灯、あの女だな?」
確認するならこの時をもって他には無いと考え、酷だとは思ったが聞く。
言葉は足りない、だが灯にも十分意味は伝わったようで、腕の中でコクコクと小さく頷いた。
「陸」
「分かってる」
陸も心得たと身を消して馬車を追って行った
「灯・・・」
落ち着かせるように震える灯の背中を優しく撫でる鈴
「ぐ・・・、っひ、、、」
我慢の限界を超えたのか、泣き出した。
(くそっ!)
心の中で毒づく瞬、どうするのが最善だったのか
王都から直ぐに出ていれば、いや事前に灯に可能性として伝えておけば良かったのだ、伝えておけば今回不意打ちの様に出会い衝撃を受ける事も無かった、心の準備をして居ればここまで灯が動揺する事も無かった。
そもそもその可能性を知らせていれば、聖女と聞いて先程の接触も避けていた筈だった、灯を守るつもりが最悪の結果になり己の失敗を責める。
「たられば」を論じても仕方ない、灯が出逢ってしまった結果は変えられない、出来るのは「これから」、前回は何も出来ずに気付けば灯は追い込まれていた、今度はそんな事は絶対にさせない、二度もやられてたまるか!
瞬は誓う、絶対に守ると。




