終わりと始まり。
「ジョーさん!火がーっ!」
「おっといけねえ、青い春に見入っちまったよ、火ーって言ってねえで消せや!」
にやにやしていたジョーさんが素に戻り、拠点へと走って行く。
「そうだ、灯!火消せる?」
「まだ終わってないんだ」
「消せるけど、何でこんな所を拠点にしてるの?第二区画は?」
「城と騎士の奴らが閉じこもって使えないんだ、だから・・・」
「え!?ゴリさん!」
「ああ、外門は逃がさない為、か・・・」
王都へ入る前に見た事を伝えると、瞬達は唖然となる
「補給も治療もさせない、援護もなく、退路も潰す」
「戦争を見据えての出し渋り?」
「それもあるけど、勇者と聖女のお披露目もするつもりじゃないかな?」
「戦争?勇者と聖女って、前の町でも聞いたけど何?鈴姉」
「それは・・・」
言葉に詰まる鈴に、瞬が代わる
「俺から話す、灯落ち着いて聞け」
王都では今後戦争の話がある事、戦争と言ってもただの侵略、そしてそれに絡めた勇者と聖女の召喚。
「総合すると騎士団は出し渋り、冒険者は孤立無援で自力で何とかするしかない、勇者と聖女、騎士団が援護に来るとしても最後の最後で美味しい所だけ、か」
「何それズルい!」
「灯、俺達で話し合って戦争の話を聞いた時から決めていたんだが、この国を出ようと思っている、早急に」
「あ、うん・・・、それは良いけど・・・」
灯は周囲を見渡す、火災、傷を負っている冒険者、先程声を掛けてきた人・・・
「瞬兄達、お世話になったんだよね、さっきのジョーさんって人とか、他の冒険者にも・・・」
「それは・・・」
そうだ、特にジョーさんには世話になったどころか恩人の中の恩人だ。
「ゴリさん」
「ああ、去るにしても気持ち良く行きたいな」
「ありがとう、ごめんね巻き込んでばかりで・・・」
「俺も明確に目的がある訳じゃない、まだ暫く付き合うさ」
灯とグレゴリの間で話は済んだようで、二人頷く
「灯?」
「やるよ、モンスター全部」
「けど、灯の強化があってもこの劣勢じゃ・・・」
「そうよ、敵の数は多数、対してこちらは怪我人ばかり」
鈴と陸の意見は最もである、いくらLvが高いと言ってもこちらは五人、モンスターは未だ1000は越えているであろう状況、市街地の為にオークコロニーを潰した時の様に大規模攻撃を仕掛ける訳にもいかない。
「灯、出来るのか?」
「出来る、と思う・・・」
「灯、俺、俺達は何をすれば良い」
「瞬っ!?」
驚く鈴に瞬は言った
「鈴、陸、ジョーさんや世話になった人を見捨てて自分達だけさっさと逃げるなんて出来ないだろ?」
それで逃げても凝りが残る、それこそ死なれでもしたら余計に夢見が悪い。
「ん・・・」
「はあー、もう、良いわよ分かった!灯、何すればいいの」
どうやら皆付き合ってくれるようで安堵する灯。
「守って、私を」
「灯を?」
「うん、多分モンスター全部私に向かってくるから・・・」
行動を決めた灯の手は震えていた。
「ゴリさん、行くよ」
「ああ、いつでも来い!」
「みんなも良い?」
「おっけー」
「良いよ」
「行こう!」
グレゴリの肩、左には陸、右には瞬、両手には鈴と灯が載っていた。
神龍の瞳が輝きと同時に空へと打ち上げられる、高さはそれほどでは無い、目的の場所は中央噴水広場のど真ん中にある噴水である。
打ち上げられた力が0になり浮遊感、次の瞬間には落ち始める、灯の魔法により着地は何も問題は無い。
「じゃあ、お願い!」
そう言って灯だけ離脱する、先に噴水前へ着地するグレゴリ、瞬、陸、鈴。
ズドンッ!
即座に、手近に居る周囲のモンスターを切り捨てる
灯はフワリと噴水の上へと降り立つと、魔法を起動し始めた。
「先ずは、消火!」
足元の噴水、水の魔力を乗せて消火の方陣を展開する
その範囲は王都全域、冒険者が消火に追われてモンスターの対処に本腰を入れられなかったからである、また煙や熱気で体力を削られヒールポーションの消費が加速していた。
龍眼からヒヤリとした魔力が一瞬の間に拡がり、火を、煙を全て消し去る、方陣が展開中は範囲内に火は存在し得ない
「すげえ・・・」
「来るよ、モンスター!」
驚き感心する暇は無い、大魔力を展開した灯は虫を引き寄せる光の様なものでモンスターが噴水に向かって集まり始める。
「任せろ!おおおおっ!」
咆哮と共にスキルを放つグレゴリ、それはオークコロニーの時と同じ、灯に集まる敵視以上に自分へと敵視を集める。
「うっわ、多過ぎ・・・」
「話してる暇あるなら一体でも減らして!」
「ああっ!」
殺到するモンスターを片っ端から斬って捨てるが、全然減らない。
「鈴姉!」
「分かってる!」
次に展開するのは回復方陣、範囲内の味方の怪我を癒す方陣、先程の拠点の一部に鈴が使ったものを灯の魔力で方陣を展開、そこへ鈴が全力でヒールを流し王都内冒険者全員を癒す。
柔らかな光が王都を包み込む
「お、おい、傷が・・・」
「ああ、火も無くなった、行くぞ!」
怪我と消火に人数を割いていたが、それらを取り除いた事でモンスター殲滅へと中央噴水広場に人が集まり始める。
だが、更なる魔力放出で灯へ迫るモンスターは増え続けていた。
「多過ぎるっ」
「はああっ!」
「ぬん!」
グレゴリが大半のモンスターを引き受け、陸が飛び回り首を撥ねていく、それらを抜けて来るモンスターを瞬が処理する、後ろからは鈴の回復補助、勿論方陣を展開しながらも灯の強化魔法は効いている。
「最後っ!」
神龍の瞳から追加で大魔力を引き出す、冒険者達が回復して集まりつつあると言っても大半は灯へと迫っている、いくらグレゴリ達でもこのままでは時期に耐えられなくなり瓦解するだろう。
そうならない為の魔法
「万能強化」
この場に居る冒険者全てに強化魔法を施した。
大規模魔法を三連発した灯、自分を中心に敵の赤で染まる索敵、更に外側には味方の青が続々と増えていった、その時
「危ないっ!」
遠距離攻撃出来るモンスターが遠くから放ったのか、火球、風の刃、恐らく毒と思われるドス黒い玉、その多くが灯へと殺到していた
「神の盾!」
自分だけでなく、グレゴリ、瞬達ごと包み込む結界を展開した。
それは揺らぐこと無く全てを受け止める、その光景を茫然と見つめる冒険者
そんな場面にジョーさんがモンスターを殴り飛ばしながら叫ぶ
「お前ら!勝利の女神が味方に付いたんだ負ける事は許さねえぞ!守れ!傷一つ付けさせるな、気合い入れろ!」
「「うおおおおおおおおおっ!!!」」
ジョーさんの煽りを受けて冒険者達が盛り上がる。
「め、女神って・・・」
「ジョーさん・・・」
皆、苦笑いを浮かべる。
後に言われる、中央噴水広場へと向かうと噴水の上に黒髪の聖女が居た、と。
彼女が持つ杖から消火、回復、そして強化魔法が放たれていて王都全域を覆っている事は明白
その力は人には成しえない規模で、等しく傷を癒し、力を与え、全てを守る様は
「真の聖女・・・」
援護は無い、退路も無い、戦い死ぬしか無かった戦場で輝く宝玉・神龍の瞳。
冒険者は崇敬と羨望の念を持って、噴水の上に立つ少女を評した。
灯は気付いていなかった、大魔力を使った時、杖に施した偽装の魔法が消し飛んでいた事に。
そして、閉じられた城門の上からもそれを見つめる青い瞳
「おい、そろそろ行け」
男は近くの騎士に命令する
「はい・・・」
此処に来て騎士団が動き出したのであった。
その後、灯は程なくして意識を手放した
大規模魔法を三連続で使用、更には神の盾の展開、莫大な魔力を使用した負荷が身体の限界を超える。
更に、神の盾で皆を守った事に安心して気が抜けた事を切っ掛けに力尽きたのだった。
灯は見落としていた、意識を失う瞬間城門から漸く出て来た騎士団、己の索敵に映るその騎士団が赤く表示されていた事に・・・




