排除、そして。
「やべえ・・・」
瞬が茫然と呟く、火竜が灼熱の吐息を放たんと予備動作に入る、それはまだ良い、これまで上手く被害が拡がらないように対象を逸らして来た、だが今回の吐息の射線上にはジョーさん達が拠点としている場所があった。
「陸!」
「ごめん手が回らないっ」
これまで火竜の気を逸らし続けて来た陸は、新たに現れた翼竜の対処に追われていた。
火竜も脅威だが、翼竜も見過ごせない、頭を通り越し空から拠点へ逃せば被害が大きくなる、治療中の冒険者が多数居るのでひとたまりもない。
そして、治療拠点には鈴が居る
吐息は止めねばならない、だが完全に手が足りなかった
瞬は水撒きを中断、剣を手に火竜へと向かうが行く手をモンスターに阻まれる、無視すればこいつらも拠点へと行くだろう、だか相手をしていては火竜の所へは間に合わない
「皆、逃げろー!!」
叫ぶ、火竜は今にも吐き出すだろう灼熱、ダメだっ
「重力!!!」
空から聞き覚えのある声、勿論間違うはずも無い妹分の声だった。
ド、ズンッ、火竜が地面に這いつくばる
「ゴッ、グアアアアッ!!」
生物の頂点に立つ竜種のプライドか、地に伏す事を良しとせず力づくで立ち上がろうとするも、重力が強いのかどんどん石畳へとめり込んで行く、先程灼熱を吐き出そうとしていた口は完全に閉じられている
「グ、ゲエ、、、ッゴ」
口の端からブクブクと泡を吹き出し、苦しそうな火竜、まだ抵抗をしているがそこへ
「重力!」
「ゲ、、・・・グ」
「絶対許さないんだから!家の仇!」
杖の宝玉がより力強く光輝き更に重力を上乗せされる、強靭な竜の身体からミシミシゴキゴキと潰れ砕ける音が聞こえてくる、流石の火竜も耐え切れなくなったのか微動だにしなくなり、辛うじて呼吸をしていたのも止まり、目の輝きが失われた。
普段の灯とは思えない行動にどうしたのかと思ったが、そうか家が燃えたのかと納得する。
空からゆっくり降りて来て火竜の前に立つ灯
「灯?」
モンスターを片付け、立ち尽くす灯に声を掛ける瞬、ピクリと肩を動かし振り向く
「瞬兄?どうしてここに・・・」
「俺も来たんだ、言っただろずっと一緒に居るって、っと!」
言い終わるのが先か、瞬に抱き着く灯
「ぅぅぅ・・・、瞬兄ぃ、会いたかった、家が・・・」
瞬の胸に顔を埋め肩を震わせる灯、再会が嬉しいのか、家が燃えたのが悲しいのか、ぐちゃぐちゃの感情で泣き始める
「大丈夫さ、家はまた建てられる」
「う、うー・・・」
納得いかないのか、いやいやと首を振りながら抱き着く力は強くなる、ぐずる灯をなんとかして落ち着かせたい
「大丈夫、また建てよう二人でさ、な?」
優しく抱き締め頭を撫でる、また頑張ろうと言う瞬だが「二人で」の意味は深く考えてはいない。
灯は顔を上げると泣き笑いになり、何度も頷いた
「うん、うん!」
「ほら、涙拭いて」
その笑顔に安堵、ハンカチを取り出し涙を拭う
それを近くで見守る二人、陸と鈴
「見てよアレ、まーた無自覚に期待させて本当に灯可哀想」
「まあ、いいんじゃない、取り敢えず灯は泣き止んだし・・・」
やっと幼馴染全員が揃ったと、安堵する陸と鈴、抱き合う二人。
未だグレゴリはシャボン玉に包まれて、30m程の高さでゆっくり落ちて来ていた・・・
「灯、俺の事、今度は完全に忘れているな・・・」
「瞬、お前らが待ってたツレはこの娘か、こりゃまた見た目に似合わないすげえ娘だな、火竜を圧殺かよ、女神の化身か?」
ジョーさんが話し掛けてくる、
「め、女神!?」
照れる灯、だがジョーさんが言う意味も分かる
空から突然降って来て、無詠唱で魔法を使い、火竜を封殺する程の力を発揮した灯。
以前見せてもらった杖が近くに浮いている・・・
「灯、この杖って」
「あ、これは神龍の瞳、色々あって使える様になったの、凄い力だよね」
えへへ、と笑いながら答える灯
(いや、凄いのはそれを振るうお前だよ)
皆同様のツッコミをしていた。
「それより灯!ちょっと、この火を・・・」
パチンッ、ドズンッ!!
言いかけて、何かが破れるような音が聞こえたかと思ったら、空から今度は巨人が降って来た。
「おいおい、女神が降りて来たと思ったら今度は巨人かよ、神話の再現か?」
次から次へと信じられない事が起こり、流石のジョーさんもため息混じりに呆れている
「あ、ごめんゴリさん、忘れてた・・・」
瞬からサッと離れて、降りて来た巨人の元へ走り寄る灯
「気にするな家が燃やされたら誰だって怒る、着地を忘れてなかっただけで十分だ」
「うん、ごめんね」
優しく灯の頭を撫でる巨人、灯もバツが悪そうにしながら、黙ってされるがままにしているのを見てムッとする瞬
(何だ、ムッて・・・、俺は何にイラついたんだ?)
「灯、その人は?」
若干イラつきが出たかも知れない、棘のある口調になった瞬に気付いたのは灯を除くその場に居る全員
「ははーん?」
何も知らない筈が瞬時に理解したのは歳を重ねた故か、ジョーさんがニヤニヤして見ている。
「バカ・・・」
「瞬・・・」
瞬に呆れ、灯を憐れむように見ているのは陸と鈴。
「ん?」
一瞬何事かと思うも、これが話に聞く「瞬兄」とやらか、と灯から聞いていた話も総合して察する大人グレゴリ。
「え?」
周りの空気が変わった事は分かったものの、何故なのか理解出来ずに首を傾げる灯。
「ん、ごほんっ、すまない名乗り遅れたグレゴリ・ラインハルトと言う、この娘灯と一緒に飛ばされて旅に同行していた者だ」
何とも言えない空気を無視して話すグレゴリ
「貴方がグレゴリさん、初めまして鈴です」
「漸く会えたね、灯の事ありがとう、陸です」
陸と鈴がダンジョンにて会話していたので口火を切って挨拶する。
「君達が陸と鈴か、宜しく頼む、やっと顔を合わせられたな」
「・・・瞬です、灯がお世話になりました」
どうにか取り繕って挨拶する瞬、隠し切れていないのが微笑ましい
「何、俺だって世話になりっぱなしだった、瞬、君の事は灯からよく聞いているよ」
大人気ないグレゴリの意地悪に、瞬がピクリとなる
ジョーさんはずっとにやにやしていた。




