集結。
黒帝号の元々の速さと灯の強化魔法の力で、四時間程で王都へと辿り着く灯とグレゴリ。
「一日掛りと言っても、丸々一日と日中だけでも一日って言う事有るよね」
「ああ、後者のようだったな、だがこれはどういう事だ」
「門が・・・」
王都の門が閉じられていた、中からは戦闘の音が聞こえてくる
「通常、門閉じないよね?あと焦げ臭いし、煙上がってたよね」
「閉じないな、冒険者の退路確保、モンスターも逃げ出す奴が居るからな・・・、火、火事か、人にもモンスターにも退路の無い火事・・・、まずいな」
「だよね、外壁の上に門番居るみたいだけど、おーい!開けてー!」
門番に向けて声を張り上げるが、門番はチラっとこちらを確認しただけで動く気配が全く無かった。
「何アレ、感じ悪い!」
「嫌な予感がするな」
「嫌な予感?」
「ああ、俺達のように後から参戦する者も少なからず居るのにモンスターごと閉じ込めている、灯の索敵によれば他の門
も閉じられているのだろう?」
「うん・・・、完全に王都を締め切ってる、戦闘は中央噴水広場、敵が多くて真っ赤に・・・」
灯の索敵は雪山の一件以来、改善を重ねて三次元的に把握できる様になっていた
「城も退路が無くなると言うのに・・・」
「強行突破する?」
「まあ、それしかあるまい、だが門を破るのもまずい気はする」
騎士団による何らかの作戦も考えられた、例えば一網打尽にする策、閉じ込めるだけの何らかのメリットが
「じゃ、空からだね」
「空か・・・」
グレゴリは渋い顔をする、オークコロニー討伐の一件で突然打ち上げれた苦い記憶が蘇る、そもそも高いところがあまり得意ではなかったのだが
「行くよ!」
「待、」
止める間も無く上空へと飛ばされる、以前感じた速度、高度の比ではない、無詠唱も相まって不意打ちに近いジェットコースターである。
ゴオオオオオ・・・、強風に晒されながら耐えるのも一瞬
フワリと浮遊感に包まれる
「う、浮いてる・・・」
「杖のお陰で出力上がったからね、ゴリさんも浮かせられるよ」
「灯・・・、次からは・・・」
「ゴリさん、あれ!」
グレゴリの言葉は途中で遮られ、灯が指差す王都の様子を確認する
「やはり火事、しかもアレは火竜か?」
中央噴水広場にモンスターが集まっているのが見える、遠目にも分かるその中心には火竜、市街地には火が拡がりを見せている。
「家が・・・」
「灯?」
灯が一点を見つめて呟く、そこは王都西区、特に火の回りが早く、かなりの火災焼失がみてとれた、灯の視線の先には赤い屋根の家が火に包まれている。
「家か?」
「・・・」
問い返すも灯から返事は無い
「灯?」
「・・・さない」
灯が何かを呟いたかと思った瞬間、身体を支えていた浮遊感が消える、いや中央噴水広場へと向かって加速し始めた。
「おおおっ?灯、落ち、落ち着いて、落ちてる!」
「許さない!私の家っ」
グレゴリの必死の叫びは、怒りに染まる灯には届かなかった。
グレゴリは考える、人は飛べないのだ
まして数百mの高さから落ちて無事で居る人間など存在しない、いやスカイダイブして生きていたがアレは灯のサポートがあればこそ無事でいられた話である
グレゴリは落ちている、幸い垂直落下でない分、地面へ着いた時のダメージは少ないのでは無かろうか、そう思うも即時に否定する
垂直落下であろうが、水平方向に落下であろうが関係ない高さだ。
肩には超高高度スカイダイビング時に助けてくれた灯が居る、しかし今回助けは期待出来そうにない、
「私の家っ!みんなのっ!」
目に涙を浮かべつつも、その感情は怒りだ
無理も無い、ゲーム世界が現実になったと思われる状況で、唯一心の拠り所にして旅をしてきた。
しかし幼馴染との大切な場所が燃えたのだ、怒るのは当然であった、それは理解出来た、空から落下でなければ・・・
グレゴリは考える、人は飛べない、落ちるのみだ。
「絶対に許さない!」
地面が近付く、恐らく着地点は戦場のど真ん中中央噴水広場、火竜の真正面辺りだろうか。
吐息は特に問題ではない、多少の熱さはあるだろうが黒精霊銀の鎧に包まれたグレゴリには問題にならない
無事に着地出来れば。
そんな諦めの境地に入り始めるグレゴリがまたも浮遊感に包まれる
「お」
流石に忘れられてなかったかと一安心、肩から温もりが無くなる
「は?」
目が点になるグレゴリ
「はあああっ!」
灯は速度はそのままに、杖を手に単騎火竜へと突っ込んで行った。
何重にも強化を繰り返す、対象は体力や力ではない
1を2倍にしても2、更に倍にしても4、効率が悪過ぎる
怒りに染まっても自分の力は百も承知、素手で殴り掛かるほど己を見失ってはいない。
かと言って、いつもの様にサポートするのも腹の虫が治まらない、せめてひとあわ吹かせたい。
強化対象は魔力と精神、魔力上昇、精神上昇、そして多重付与化、三重詠唱、三倍加、以前のスカイダイビング時とは杖が違う、瞬時に全ての魔法式を組み上げ全力で魔力を流し込み発動させた。
王国の戦力筆頭、騎士団団長でLv20そこそこ、異世界召喚された勇者でLv30程が強いと言われる世界で、灯達は全員Lv100のカンスト、瞬以外のそれぞれが各ステータス最強を誇る。
その中でも魔法特化の灯が、最高の杖を使い、全力の強化、魔力は青天井で跳ね上がっていった。
目の前には火竜、振りかざすは神龍の瞳、倒すつもりは無い、だけど家の事は許せない半ば八つ当たり的に魔法を放つ
「重力!!」




