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焦燥。

場所は王都中央噴水広場。

「くそっ!レッドドラゴンなんて聞いてねえ!」

「文句言わないの、火消して!」

「堅っ、熱っ・・・」

各々が動き回る、瞬は魔法で水を出して火を消し、鈴は周囲の冒険者の火傷を治療、陸は火竜に斬り掛かり注意を引く、噴水広場は阿鼻叫喚、火の海となっている。

他のモンスターを処理しつつ、火竜への対処と、火災への対処とで完全に後手後手になり防衛冒険者側は完全に劣勢である。

「俺は散水車じゃないぞ!」

延々と水を撒いている瞬が誰にともなく叫ぶ

「なら、灯みたいに広範囲魔法で何とかしなさいよ!」

「無理に決まってんだろ、俺は浅く広くだ、灯みたいな魔法極振りビルドじゃねえ!」

「なら黙って水撒いてなさい、私だって延々とヒールばかりなんだから」

「熱い・・・、誰か変わって・・・」

汗をダラダラ流しながら陸が言う

「おら!野郎共、ルーキーが踏ん張ってんだ、気合い見せろ!」

後方ではジョーさんが冒険者達の指揮を取っている

そこは野戦病院の如く、怪我人が集められている

通常王都での大規模戦闘時は第二区画が全ての拠点となる筈が、何故市街地にてこの様な有り様なのか

「王城のバカどもが、てめえの手柄欲しさに冒険者全員焼き殺すつもりか」

ジョーさんがボヤく理由は明確、拠点となる第二区画への門が閉じられ、補給も退路も全て絶たれていた。

更には元来王都を守護する騎士団も王城内から出て来ない、主戦力は騎士団、冒険者は協定により王国より協力は求められるが強制ではなく()()の参加なのだが、現在戦場となっている王都で戦っている人間は冒険者のみであった。

「くそが!先の侵略なんざ見据え出し渋って、王都を焼失させるつもりか!」

「ジョーさん!ヒールポーションが尽きる!」

「東区のばあさんの道具屋からありったけ取って来い!緊急時だ気にすんな!ばあさんには後で話をしておく!」

「分かった!おい、お前ら手ぇ貸してくれ!」

野戦病院で手伝いをしている冒険者何人かがヒールポーションを取りに行く。

「ジョーさん、ヒール足りてない人は居る?」

「大丈夫だ、助かるぜ!」

回復方陣(ヒールエリア)組んだから、軽傷の人はあっちに誘導して、重傷者はこっちに回してくれれば治すから」

「ありがとよ!ずっとヒール使い続けてるだろ、無理すんな少し休め」

「ええ、隙を見て一息ついているから、まだ大丈夫」

「ジョーさん!!」

会話中にもジョーさんには声が掛かる、物資が足りない、人が足りない、場所も無い。

物資は全て第二区画、それらを動かす人も第二区画、怪我人を収容するのも第二区画、だがその第二区画は閉じこもり話にならない。


「鈴、ヒール頂戴、疲れた・・・」

煤だらけになった陸が来る、火災で周囲は炎、煙、煤、ダメージは無いが熱気で体力が削られる。

「頑張って陸!アンタが退いたら皆黒焦げよ」

火竜を相手に有効打を撃てないものの、陸は身の軽さと敏捷性の高さを生かして的を絞らせずに動き回る事で足止めに成功していた。

分身で、縮地で、あらゆる手段で走り、火竜の吐息(ブレス)を回避し続ける、出来るだけ空へと仕向けてはいたが火の粉が落ちて来て、やはり火事は起こるし熱風でも十分に火傷を起こす程の熱量だった。

瞬の対火の加護と水、鈴のヒール、黒龍の衣、陸の回避力が無ければとっくの昔に黒焦げである。

「熱い・・・」

「灯、来るなら早く・・・」

「王都全焼なんて洒落にならんな」



時は少し遡り、それは漸く王都の手前まで来た町での話。

「旦那は王都でひと稼ぎかい?丁度瘴気が来るからねえ」

「何だって?」

聞き捨てならない話だ、瘴気と言われれば大規模戦闘が王都で起こる前兆である。

「何だ違うのかい?勇者様と聖女様も召喚なされたし、一旗上げようって王都に冒険者が集まっているよ」

瘴気もだが勇者に聖女?どういう事だ?

「すまない、田舎から来たばかりで何も知らないんだ、良かったら教えてくれないか?」

雑貨屋の主人が言うには、

少し前に異世界から勇者と聖女が召喚された

勇者と聖女は強いらしい

瘴気が確認されたので数日中に戦闘が始まる


勇者?聖女?話が見えない、まあそれは良いのだが

「主人、その瘴気の話、何時の話だ?」

「聞いたのは、ここ一、二日かね?」

「この町から王都まではどれくらいかかる?」

「馬車で三日、馬で駆け抜けたら一日位じゃないか?」

王都からこの町に伝わるのに三日、その話を聞いたのが昨日、一昨日となると、大規模戦闘は今日明日には始まる事になる。

「まずいな、主人ありがとう助かった」

「まいど、ご贔屓に」

支払いを済ませ、足早に店を出て宿へ戻る、灯と相談しなければならない。


宿へと戻ると灯は風呂上がりなのか、ベッドの上に部屋着で薬湯を飲んでいた

「ゴリさんおかえりー、どしたの?怖い顔して」

「灯、話がある、落ち着いて聞いて欲しい」

「何?」

リラックスしていた表情が一変、真面目な気配を感じ真剣な顔になる

「雑貨屋で聞いたのだが、瘴気が確認されたらしい」

「瘴気、って大規模戦闘の?この町?」

「いや、王都だ」

その一言で灯は全てを察したのか、即座に装備変更する

「ゴリさん・・・」

「分かってる、行くのだろう?」

「うん、ごめん」

「謝る事じゃない、幼馴染助けに行かないとな」

「ありがとう、戦闘開始予定は?」

「それなのだが・・・、この話が伝わったのが一日、二日前、此処から王都まで馬車で三日、だそうだ・・・」

「え!じゃあ」

「今日明日には始まる、下手をすればもう始まっている可能性もあるな」

「っ!じゃあスグ行かなきゃ!」

「ああ、だが灯は俺の馬に乗れ」

「何で?」

「馬で駆け抜けても一日掛かる道程だ、一日走り抜けて灯がクタクタでは話にならないだろう?移動は俺に任せて灯は体力の温存に努めるんだ」

「でも、そしたらゴリさんが・・・」

「灯、適材適所だ、俺の体力は知っているだろう?気にするな、その代わり戦闘時は頑張って貰うぞ」

「!、うん、分かったよ」

「さあ、行こうか」


こうして町を飛び出した二人、黒帝号に強化魔法を施して全速力で駆け出した。

最短距離を最速で駆ける漆黒の巨大馬、街道を走るその姿は多くの者に目撃される、後に巨人と黒髪の女の子の話として拡がりを見せる事になる最初の出来事であった。



街道をとある商人が町へと向けて馬車を走らせていた、護衛は二人。

「お?町の方角から土煙?おい!」

「ああ、盗賊にしては町が近すぎる、何だろうな」

ドドドドドド・・・

近付いてくる土煙、見えるは漆黒の馬

「なんだ、王都へ行く冒険者か」

「ご苦労なこって、、って」

距離が迫るにつれて、その姿が、

「おいおいおい・・・」

「なあ、なんかアレ、デカくね?」

「デカすぎんだろ!」

驚いて剣を抜き放つが、巨人の騎馬に勝てる気など全く無い、楽な護衛かと思っていたらとんでもない事になった、と嘆く。

ドドドドドドド・・・

そう思っている内に間近まで来た姿は、死を覚悟する巨大な男、そして馬

「ひぃ」

口からも情けない声が出た、そんな護衛の横を走り抜けていく騎馬


ドドドド・・・、地響きが遠ざかり、ほっとする

「・・・、なあ、なんだありゃあ」

「分からん、が大きいにしても速すぎねえ?あの馬」

「いや、そうじゃなくて、小さい黒髪の女の子が巨人の前に座ってたんだが・・・」

「はあ?女の子?何でだ、今時期王都へ向かうなら瘴気のアレだろ?戦場で子守りでもするかよ・・・」

「分かんねえけど、乗ってたよ結構可愛い感じの」

「巨人の子供か?」

「全然似てなかったけど、まあ一緒に馬に乗るなら親子か主従じゃねえの?」

「あの巨人の顔を考えると、護衛騎士か?なら姫様なんじゃね?どっかの」

「姫を連れて戦場へ?訳分かんねえ・・・」

呆気に取られる護衛、少しの間漆黒の馬が駆け抜けて行った方角を茫然と見ていた・・・



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